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第17話 エルフの村
しおりを挟む「ふおぉ……凄いよジュンヤ」
「ああ、綺麗だな……」
転移ゲートをくぐって辿り着いた場所は、地上の楽園だった。
風に乗って、ほのかに甘い香りが漂ってくる。
山々を彩る木々の葉は七色に輝き、まるで宝石箱のよう。
京都嵐山の紅葉を10倍くらいの規模にした光景、と言えば少しは伝わるだろうか。
「フェリシアお姉さん、この葉っぱ持って帰ってもいい?」
アルが足元から拾い上げたのは紅葉のように三つ又に別れた木の葉。
見る角度によって赤、緑、青へと色を変える。
「ふふっ、もちろんです」
「やたっ」
アルは嬉しそうにキラキラの葉っぱをポシェットにしまう。
無邪気な笑顔がとてもかわいい。
「そういえば、この村って転移ゲートを通らないと来れないのか?」
「はい。
いまは人間の皆さんとも交流があり、名産品などの交易も行っていますが。
過去には特別な力を持つ私たちを狙って、魔族と人間双方から狙われた歴史があり……安全のため、魔法的な障壁で村を含む周辺一帯を囲っております」
「なるほど」
フェリシアのほっそりとした指が天空を指さす。
視線を動かすと、はるか上空に薄い膜のようなものが見える。
あの障壁でエルフの里全体を守っているのだろう。
「真に邪悪な者は通れませんので、安心してお過ごしください♪」
故郷に戻ってきて嬉しいのだろう。
スキップするように俺たちを先導するフェリシア。
いつの間にか豪奢な王族服から動きやすそうな若草色のワンピースに着替えており、花の咲くような笑顔を浮かべている。
最初は凛とした気高きお姫様だと思ったけど、やっぱり美人である。
「むっ」
なぜか頬を膨らませ、手をつないできたアルと一緒に、俺はエルフの里の入り口へ向かう。
*** ***
「早くいけ……!
何故寄り道をする!?」
物陰からジュンヤたちの様子をうかがうテンガ。
この後の展開を知っているテンガは先ほどからイライラしっぱなしだ。
モンクエにおけるイベントの流れはこうだ。
里の長《おさ》に謁見している最中に起きる地震。
障壁を監視している見張り役から、障壁を展開する結界にほころびが生じ、モンスターが侵入したとの連絡が入る。
実はこの地震は魔王配下の四天王の一人であるジャイアントオーガーのワンズが仕掛けた物であり、村の戦士たちが村を離れた隙に密かに村に忍び込ませていたモンスターがエルフの秘宝を盗む。
主人公は邪悪な気配を察知し、そのモンスターを倒すことでエルフ達の信頼を得る……という流れである。
「早くしろ……!」
エルフの村での強化イベントはレベルが+5される事と、いくつかの初級魔法を先行して使えるようになるだけなので、正直どうでもいい。
不用意にレベルを上げると出現するモンスターの組み合わせが変わったりするので、RTAにおいては害悪ですらある。
「オレ様はマッドゴーレムをティムしたいだけだ!」
そう、このイベントが起きた後でないと村の外でモンスターが出現しないのだ。
マッドゴーレムをティムできるのはエルフの村での強化イベントの間だけ。
それに、せっかく主人公に抜擢されたのに苦労している様子をモブごときに見られるわけにはいかない。
幼馴染でもいたのか、カフェを営む女と楽しそうに談笑するフェリシア。
いつまでたっても当主の屋敷に向かわないジュンヤたちを、ひたすらイライラして見つめるテンガなのだった。
*** ***
「良く戻ってきましたね、フェリシア」
「メルヴィ当主様……!」
エルフの村の一番奥に位置する大きな屋敷。
その広間で俺たちは、エルフの長だという壮年の女性と対面していた。
(ごくっ)
御年を召してなお、圧倒されるような美貌。
にじみ出る圧迫感……いや感じるカリスマのせいだろう、思わず背筋が伸びてしまう。
「お会いしとうございました」
「……村の立場を守るためとはいえ、貴方に負担を強いている事、当主として申し訳なく思います」
そういえば、フェリシアはオージ王国との政治的な取引としてオージ王の養子になったと聞いた。
豊かな魔法の才能を持つエルフ族の血を入れることで、来るべき魔王の襲撃に備えようとしたのだろう。
「いえ、もったいないお言葉です」
感激の面持ちで首を垂れるフェリシアだが、その横顔に僅かに影が差す。
「……何かありましたか?
オージ王国には救世主が現れたと聞いておりますが」
さすがにエルフを統べる長である。
微妙なフェリシアの変化を感じ取ったようだ。
当主の言う”救世主”とは、テンガさんの事だろう。
「……はい。 救世主殿は才能豊かであり、ティムの魔石を使いこなしモンスターを自在に操ります。我々人間族やエルフ族の攻撃に耐性を持つ、今次魔王には有効かと存じます」
「……ふむ」
急に事務的な口調になったフェリシアに、メルヴィ当主もおかしいと感じられたのだろう。
その金色の瞳が、ちらりと俺の方を向く。
「俺……私の名前はモベ ジュンヤといいます。
大したことはできませんが、自分たちの村をこの手で守っています」
「こんにちは。 アルです」
「あら、可愛い娘さんね」
「ええ、俺的には世界一ですね」
「あうっ!?」
いつものやり取りをする俺たちの様子に、微笑するメルヴィ当主。
「……フェリシア、詳しく説明しなさい」
「……はいっ!」
フェリシアの声に力がこもる。
「先日の魔王ログラースによるハジ・マリーノ村襲撃事件。
おふたりの働きにより、村人からは一人の犠牲者も出ませんでした」
「村人たちを救っただけではなく、村の復興まで……。
わたくしが言うのもおこがましいですが、彼らこそが”救世主”にふさわしいかと」
「メルヴィ当主、我が種族に伝わる開眼の儀を……この方たちに受けさせたいのです!」
(そ、そこまでだろうか?)
フェリシアの称賛に、頬が熱くなってくる。
「よかったねジュンヤ、救世主さんだって」
「アルだって頑張ったろ?」
「えへへ」
「ふふっ」
恥ずかしがる俺たちを見て、嬉しそうなフェリシア。
「……………なるほど、良き心を持った者のようですね」
俺たちの様子を見つめていたメルヴィ当主の金色の目が、すっと細められた。
(……ん?)
ぞわっ
背筋を走る僅かな違和感。
「素晴らしい力をお持ちですね。
一時的とはいえ、魔王の攻撃を凌いだのですから」
「!! そうだったんですね、さすがジュンヤさん!」
あれ?
思わず首をかしげる俺。
なんで当主がその事を?
フェリシアに詳しく話したことは無かったと思う。
当主が特殊な力を持っていて、俺の力を見抜いたということはあり得るが……。
(アル)
(んっ?)
念のためだ。
俺はアルを抱き寄せると、こっそりと戦術リンクを発動させる。
(戦術リンク:ハイパースキャン!)
*** ***
「やれやれ、ようやくか」
屋敷の近くに建つ樹の上から、広間の様子をうかがっているテンガ。
ようやくあのイベントが始まりそうなので、安堵のため息をつく。
「四天王のワンズが送り込んだモンスター……ソイツが当主に化けているとは、馬鹿モブは気付かないだろうな」
ここから先のイベントは、ワンズと当主に化けたモンスターのいわば自作自演。
結界の綻びに、全戦士を引き連れて村の外に向かう当主。
その隙にもう1匹のモンスター (侍従に化けている)が、エルフの秘宝を盗み出すのだ。
正直エルフの村がどうなろうが知った事ではない。
村の外のフィールドにマッドゴーレムが出現することが重要なのだ。
もう大丈夫だ。
テンガは樹の上から飛び降りると、村の外に向かおうとする。
「……なんだ?」
だが、10秒経っても1分経っても結界の綻びを示す地震が発生しない。
何をちんたらしているんだ馬鹿モンスターめ。
「なっ……なんだとっ!?」
こっそりと屋敷の中を覗いたテンガが目撃したのは、驚きの光景だった。
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