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第41話 温泉旅館とアルフィノーラの決心

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「いや~、まさかこの世界で温泉旅館を目にすることになるとは。
 ちょっち感激ね!!
 気合入れて畳とふとん、たくさん創っちゃったわ」

 額に浮かんだ汗を拭くマリ姉。
 俺も築城スキルで協力させてもらった。

「変わった建物ですが、どこか暖かい感じがします」

 玄関を中心に二階建ての建物がコの字型に左右に広がる。
 中庭には池が作られ、錦鯉……は無理だったけど色とりどりの魚たちが泳ぐ。
 俺とマリ姉がこだわったのは、屋根の黒瓦。
 わざわざ材料に適した粘土を探して焼いたものだ。

「これが、おんせんりょかん?」

 温泉旅館の建物を、不思議そうな顔で見上げるアル。

「そうだぞ」

 俺はアルの頭を撫でながら説明を続ける。

「1泊銀貨2枚(200センド)で美味しいご飯が食べれて24時間いつでも温泉に入れるという施設だ」

「なにそれさいこう。
 ここは天界なの?」

 目をキラキラさせて興奮するアル。

「さらに。
 今日と明日、この旅館は俺たちの貸し切りだ!!」

「!?!?」

 この温泉旅館では、従業員として他の村から避難してきた人に働いてもらう予定だ。
 もちろんちゃんと給金も出す。
 その研修を兼ねて俺たちヒューバート家がお客さん役をやるわけである。
 ……これくらいの役得、いいよな?

「早く行こう、ジュンヤ!」

 アルが俺の手をぐいぐいと引っ張る。
 この世界に来て初めての(村の中だけど)家族旅行が始まった。


 ***  ***

「こちらが客室でございます」

 接客を担当する村人さんに案内され、2階の客室へ。
 コの字型の端にある最上級客室で、三面を窓に囲まれており眺めがよい。
 中庭を見下ろすことが出来るし、ハジ・マリーノ村を一望できる。

「見たことのない床……ちょっと柔らかい?」

「なんでしょう、このすがすがしい香りは……」

「うおお、畳の部屋だ……!」

「ま、やっぱり日本人なら畳よね!」

 マリ姉の話では、イグサに似た植物を探して数年前から品種改良を繰り返していたらしい。
 ようやくその努力が実を結び、畳を”創造”出来たそうだ。
 相変わらず凄い。

「部屋は広いけど1つなんだね。
 それに、おふとんが5つ?」

「”家族旅行”なんだから、みんな一緒の部屋……だろ?」

「!!!」

 なるほど!
 部屋が一つである意味を理解したアルの表情が見る見るうちに笑顔に変わる。

 かくいう俺も感無量だ。
 あの日、実現できなかった家族旅行。
 その続きを、この世界で叶えることが出来た。

「……さ、ゆっくり温泉に入ろうか」

「? ジュンヤ少し泣いてる?」

「ふふっ、邪魔しちゃダメですよアルちゃん」

 夢見た光景に鼻がツンとした俺は、慌てて部屋に併設された洗面所に退避する。
 この幸せな光景を、いつまでも守っていかなくては。
 改めて俺は決意するのだった。


 ***  ***

「ねえねえ、フェリシアお姉ちゃん!
 これ凄い! 火がパチパチって!」

「な、なんてキレイなんでしょう!
 マリナさんの花火、素晴らしいです。
 アルちゃん、次はこっちを試してみませんか?」

「……ぐるぐる?」

「……うねうね?」

 浴衣を着て、中庭で花火に興じるアルとフェリシアを部屋のバルコニーから眺める。

「マリ姉、ヘビ花火とかマニアックなものを……」

 じゃれ合うふたりは本当の姉妹以上に仲が良い。

「ん~~? 何をたそがれているのかね若者よ!」

 そこに酒のボトルを持ったマリ姉が現れる。
 どうやらヒューバートさんを酔い潰して、次のターゲットを俺に定めたらしい。
 マリ姉もまた酒豪なのだ。

「さあさあ、飲むがよいぞ!」

「いただきます」

 観念してグラスに酒を注いでもらう。
 グイッと煽ると、懐かしい日本酒の味がした。
 ついに醸造に成功したそうだ。

「……いいわね、この光景。
 あの日の続きが出来た気がするわ、ジュンちゃんと一緒に」

 優しい眼差しで中庭の二人を見るマリ姉。

「俺も同じ気持ちだよ」

 マリ姉の言葉に大きく頷く。

 このぬくもりを守るため、魔王をさっさと倒してやろうかな。
 ユーノはランク的に楽勝だと言っていたし。
 温泉旅館の整備が終わったら、本格的に魔王討伐を考えてもいいだろう。

「ほんでほんで、ジュンちゃんはいつ二人をゲットするのぉ?
 この世界では、ヨッメとダンナはふたりまでオッケーよ?」

「あっ、もち、ヒューはあたし一筋だけどねっ!」

「もう、マリ姉……」

 とんでもない事を言い始めたと思ったら、惚気だすマリ姉。
 アルとフェリシア、彼女達が俺を好いてくれている事は確か……だと思う。
 この世界の成人年齢は15歳。
 そういえば、もうすぐアルの誕生日だ。

「ちゃんと答えを出さないと……襲われちゃうぞ☆」

 う……催淫の実の影響があったとはいえ、あの夜のアルを思い出す。
 いつまでも妹扱いじゃダメだよな。
 俺は夜空を見上げ、物思いに沈むのだった。


 ***  ***

 ひと通り花火をやり終え、これがいいのよ!とマルーが太鼓判を押してくれた
 線香花火に移ってしばらく。
 パチパチと爆ぜる火花を眺めていたアルフィノーラが静かに切り出す。

「フェリシアお姉ちゃん、アルね、もうすぐ誕生日なの」

「あら、おめでとうございます」

「15歳で成人でしょ?
 だからアル、ちゃんとジュンヤに告白しようと思うんだ」

「!!」

 アルフィノーラの言葉に、目を見開くフェリシア。
 このかわいい妹分は、愛らしいマスコット扱いになっていることを気にしていた。
 ついに一歩を踏み出すのか。

「……ならば、わたくしの入り込む隙は無くなってしまいそうですね」

 ジュンヤは真面目な性格だ。
 アルフィノーラの告白を正面から受け止め、全力で答えようとするだろう。

 ヒロインポイントで競争していても、やっぱりこの子に譲ってあげないと……そう思うフェリシアだが。

「……ダメ。
 アルがジュンヤをひとりじめは絶対ダメだから。
 ジュンヤがそう言ったらほっぺムニムニして怒る」

「……え?」

「アルが告白しても、”マスコット→気になる女の子”になるだけだから」

「ここからが本当の勝負。
 ”はじめて”は競争だよ?」

「あら」

 どうやらわたくしにもまだチャンスがあるらしい。

「そうですね、ジュンヤさんは魔王を討った英雄となる……わたくしとアルちゃんを受け止める甲斐性くらい持ってもらわないと」

「でしょ?」

「ふ、うふふふっ」

「あはははっ」

 少女たちは花のように笑う。
 家族旅行の夜はこうして更けていくのであった。
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