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第14章 エピローグ

最終話 幸せな日々の始まり

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「……よし、こんなもんかな?」

 僕は家の水回りを確認、火の気が無いことも確認してから玄関と裏口を施錠する。


 からん……


 店の入り口に、「しばらく休業します」と書かれた木札を掛ける。

「ううっ、髪型変じゃないよね? これから着付けしてもらうけど……緊張する……」

 戸締りを終えた僕は、手鏡で自分の顔を確認すると、おろおろしてしまう。
 いざこの日を迎えると緊張するものだなぁ……。


 春の空は青く晴れ渡り……ほのかに桜の香りが漂ってくる。

 そう、今日は僕とポゥの結婚式……そのまま一か月の新婚旅行に出かけるため、お店は一時閉店なのだ。

 僕は一つ深呼吸をすると、結婚式会場となる教会へと向かった。


 ***  ***

 奇跡か女神の気まぐれか……ポーションの精霊であるポゥは、僕の元に戻って来てくれた。

 感激と勢いのまま、”初めて”を済ませた僕たちは、互いに結婚の約束を交わす。

 幸せ絶頂なところにエルたちが乱入し……楽しくにぎやかなお祝いパーティが朝まで続いた。

 そうして、僕たちの生活は再開したのだけれど、歴史上初の人間とアイテム精霊の結婚という事で、色々大変な事もあった。

 でもそこは愛の力で……最後は女神バレスタインの”いいんじゃな~い? あ、ちゃんと子供も作れるようにしておいたから”という、雑な神託により僕たちは晴れて正式に結婚できることになったのだ。

「……ふぅ」

 僕は黒いタキシードを着て、女神の祭壇の前で彼女を待つ。

 教会の座席には、アロイスさん、シャロンさんをはじめ、お世話になった冒険者や商店街の皆さんが僕たちを祝福する為に集まってくれている。


 がちゃ……


 と、正面のドアが開き……柔らかな春の日差しを朱色の瞳にきらめかせながらポゥが入場する。

「!!」

 恥ずかしそうに入ってきたポゥは、朱色の髪をアップに結い上げ、王宮から頂いたティアラを頭にのせている。

 可愛く肩を出した純白のウエディングドレスには、彼女のイメージカラーである朱色のルビーがあしらわれ、キラキラと輝きを放つ。

 ふわりと広がったフレアスカートはひざ上丈で、元気な彼女に良く似合っている。

「うふふ、私渾身のコーディネート……最高ですね」

「うわ! かっわいいドレス! 私も着たいなぁ……おめでとうポゥちゃん! グラス君!」

「ふたりとも、おめでとう!」


 ぱぱっ


 エルとリーゼをエスコート役にして、バージンロードを歩くポゥに、沢山の祝福の言葉とフラワーシャワーが降り注ぐ。

「えへへ、グラス、おまたせ!」

「素敵だよ……なんというか世界一かわいいよ、ポゥ」

 向かい合った僕たちは小声で声をかわす。

「それでは……ふたりの結婚式を始めます」

 神父役のヒューバートさんの声に、背筋を伸ばす僕たち。立会人はエナだ。


「新郎グラス、あなたはポゥを妻とし、病めるときも健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

「はい、誓います!」

 ヒューバートさんの問いに、力強く返事を返す。

「新婦ポゥ、あなたはグラスを夫とし、病めるときも健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

「はいっ、もちろん誓いますっ!」

 元気いっぱい返事を返すポゥ。

 その様子に、思わず頬が緩んでしまう。

「では、指輪を交換し、誓いのキスを」


 僕はポゥの左手薬指に指輪をはめると、そっとベールを上げる。

「えへへ……今日は夫婦になるキスだねっ」

 恥ずかしそうにはにかむポゥに、初めて彼女とキスした日を思い出す。
 あの日から、ずっと彼女に恋してきた。

 このキスは、ふたりがずっと一緒に歩んでいくための証。


「愛してるよ、ポゥ!」

「うんっ、わたしも! グラス、愛してるっ!」


 ちゅっ


「「「おめでとう~!!」」」

 そっと口づけた僕たちを、色とりどりの花吹雪と祝福の声が包んだ。



 ***  ***

「楽しみだね~、世界中の温泉巡り!!」
「全部一緒に入ろうねっ! まずは王都の温泉からっ!」

「よ~しっ! ふたりで楽しもう!!」


 披露宴を終え、旅立ちの準備を整えた僕たち。

 1か月余りの新婚旅行では、世界中の温泉地を巡る予定だ。

 まずは、行き損ねた王都の温泉のゴンドラから……そして各地の温泉宿に泊まって……。
 たっぷりとお金は使ったけど、道中生成されるグランポーションで黒字になるかも……。

 僕は、このかわいい彼女と愛すべき仲間たちと共に、今後も歩んでいくだろう……!


「にひひ、引き出物がポーションの結婚式とか、聞いたことねーな?」

 幸せそうな二人を見て、にひひ笑いをするエル。

 一応、ふたりが留守の間は快復ストア以外のお店は営業することになっているが……。

「あのふたり、結構抜けてるところがあるからな……心配だぜぇ!」
「これわっ、こっそり付いていくしか!」

「ちょ、お待ちなさいエル、ずるいですわっ!」

「はぁ、やれやれ……」

「うふふ、騒がしい道中になりそうですね~」

 穏やかな春の日差しの中、にぎやかな笑い声が響く。

 初級術師グラスと、アイテム娘たちの幸せな生活は、これからも続いていくのでした。


【後書き】
これにて完結となります!
読んで頂いてありがとうございました!

楽しんで頂けたのならうれしいです。
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スパークノークス

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