君を必ず

みみかき

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二つの世界

6.その日

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 店内のテレビでは、地元ヒーローのアニメ「ゼンダイニンジャー」が悪役を成敗しているシーンが流れていた。

 遅くなって申し訳ございません、と言いながら、店員が申し訳なさそうに注文を取りにきてくれた。
 先輩と私は、飲み物と食べ物を注文した。

「すみません、重たい空気になっちゃいましたね」
 頼んであった漬け物を食べる。よく漬かっている。漬かりすぎてしょっぱすぎる気もするが。

「ドラマの中だけじゃないんだな、そういうことって」

 先輩がそう言い終わるのと同時に、注文していたお酒が届いた。先ほどとうってかわってすぐ持ってきてくれたようだ。

「ほんと、そうですよね。そういうことあるんだなと思いますよね」
「俺はこういうとき、特に女性に対してだが、気を利かせた言葉を言えるタイプの人間じゃねえんだ」
 ぽつりと呟き、お酒を飲む先輩。

「それでも、話を聞くことはできる。幸太が悩んでいれば悩みも聞く。だから、たまには俺を頼れよ」

 真っ直ぐに私の目を見て言ってくれた言葉が、私の胸に刺さった。
 やはり漬物がしょっぱすぎる気がした。


 結局終電近くまで飲んで、その会はお開きになった。

 電車に乗り、自宅を目指す。有線ではないイヤホンを取り出し、音楽を聴く。ふと思い立ち、昔よく聴いていた曲を探す。

 私の一番好きなアーティストであり、大学生の時にはコピーバンドとしてその人達を模していたときもあった。
 そんなことを思い出しながら、そのアーティストの中でも一番好きな曲を流した。

 今更悔やんだところでカナは戻ってはこない。
 なぜあの時、一緒についていかなかったのか。あの時、何かちょっとでも、ほんのわずかでも時間をずらせていれれば。

 そもそも、私と出会っていなければ…。
 そうしたらカナはどこか遠くへ、あるとするならば天国と呼ばれる場所へ行ってしまうこともなかったのではないか。

 カナのことを考えて悔やんだところで、そして、どんなにあがいたところでもはなカナに届くことはない。私はなんて愚かで非力なのか。

 カナを失った当時も、同じようなことを考えていたことを思い出した。


 カナと出会ったのは大学三年の時だった。そもそも私たちは同じ学科だったのだが、それまでカナのことを私は知らなかった。

 初めて声をかけられたのは三年生になって少し経ったころだった。
 所属していた音楽サークルが開催していた、新入生向けのライブでのことだった。

 そのライブは、サークルに入りたてながらも、初めてバンドを組んでライブをする新入生を主役としていた。
 もちろん、新入生ではない二年生以上の人もライブしてオッケーというものであったため、私も友人たちと出演していた。

 私たちのバンドは、オリジナル曲をやるというよりも、自分たちの好きなアーティストをコピーして楽しむことを主体としていた。

 その中の一つとして、私の一番好きなアーティストのコピーをやっており、この時はそのアーティストの曲を5曲ほど演奏した。

 私たちの演奏が終わり、他のバンドを見ていた時にカナに声をかけられた。

「あの、さっき君たちが演奏してた曲とか、そのアーティストとか、好きなんですか?」
「めっちゃ好きですよ」
「私も好きなんです!知ってる曲が演奏されてたから嬉しくなっちゃって。バンド演奏も、あなたの歌もすごく良かったです」

 当時そのバンドにおいて、ギターを弾きながら歌をうたう、いわゆるギターヴォーカルの担当が私だった。

 バンドを組むまでギターの経験もなく、そのうえ、弾きながら歌もうたう。
 テレビの中のアーティストや、ライブで見るアーティストたちは平気でそれをやってのけているように見えるが、たいへんな努力があることを身をもって知った。

 それでもなんとか形になり、音楽を自分たちで奏でて表現することに楽しさを見出してきたときに、まさか自分が褒められるとは思ってもいなかった。

「僕の歌!?それは誠にありがとうございます、たいへん恐縮です」
 照れと恥ずかしさから、言葉が丁寧になった。

「なんで敬語なんですか。私たち同じ学年ですよ」
 笑みを浮かべながら肩を軽くつついてくる。

「学科も同じですよ、覚えてくれてないんですか?」
 私は化学系の学科にいたが、単位が取れればいいや程度の出席率だったため、いつもつるんでいた友人以外はあまり覚えていなかった。

「すみません…僕、友達すくなくて」
「じゃあ今日覚えてください!私、カナって言います。坂木カナです」
「伊崎幸太です、よろしくお願いします」

 出会ったばっかりだったが、カナに言われるがまま連絡先を交換し、その日のライブが終わるまで一緒にいた。

 次の日の講義はサボる予定だったが、サボらず出席するようにと命じる連絡がカナから来たため、大学へと足を運んだ。

「今日は飲み行きましょう!」
 開口一番、カナはそう言った。
「飲みに?なんで?」

 昨日会ったばかりの私と飲みに行っても面白くないのでは、という旨を伝えた。

「話がしたいからです、音楽のこととか」
 少しむくれた顔をして述べたカナを見て察し、あわててイエスの返事をした。ぷぅと膨らましたほっぺがしぼみ、嬉しそうな顔を浮かべる。

「良かった!じゃあ今日の17時くらいから行きましょう。」
「最後の授業が17時過ぎまであるんだけど…」
「大丈夫です、一緒にさぼりましょ!」
 私にサボるなと言っていたことは既に記憶の彼方のようだ。


 ふと目を開けると、自宅の最寄駅まであと一駅のところだった。お酒も入り軽く夢心地だったが、本当に軽く夢を見ていたようだ。

 少し憂鬱な気分になっているのは、明日も仕事があるからなのか、感傷に浸ったからなのか。
 日付を跨ぐ前には布団に入りたかったので、私は家路を急いだ。

 今日はカナの誕生日だった日だ。
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