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13話
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「あれ?正洋どうしたの?」
後ろから場の空気にそぐわないふわふわした声が聞こえてきた。振り向くとそこに立っていたののは太一だった。
「何だ、太一か……悪い、また明日説明するよ」
なんで太一がこんな時間にこんな場所にいるのだろうか?いつもならとっくに帰宅しておやつでも食べているだろうに、という疑問は頭をかすめたが、流石に今はそれどころではなかった。
「……おい翔!急がねえと女の子たち、待たせちゃうぞ」
太一の登場によって一瞬場の空気が止まったのだが、いち早くそこから抜け出したのは中野先輩だった。
中野先輩に促されて翔先輩もカバンを背負い直し、校門へと歩き出した。
「そういうわけだから、悪いな今井、吉川」
歩きだした二人の様子を見て、ゼロサムチームの4人も着替えを続け出した。
「ねえ正洋、ここの先輩たちって……とっても格好悪いね」
後ろから聞こえてきたのは、いつもと何ら変わらない太一の柔らかい声だった。
……え?今?お前?何て?言った?
何か現実がバグったかのような奇妙さに怖くなり、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにあったのはいつもの太一の微笑みだった。
「あ、格好悪いって言っちゃったけど見た目とかじゃなくて……何て言うんだろう?考え方?生き方?そういうものが格好悪いっていう話ね」
太一の声はいつも通りのか細い声だったが、どういうエアポケットに巻き込まれたのか、よく通りその場にいた全員にはっきりと伝わっていた。
その場の空気の尋常ではない変わり方が何よりの証拠だ。
翔先輩が肩に掛けていたカバンを地面に投げ下ろすと、ツカツカと歩み寄り太一の胸ぐらを掴んだ。
「お前誰だよ。部外者が舐めた口利いてると……殺すぞ」
「ちょ……先輩!コイツ俺のツレなんです!勘弁してやって下さい!」
反射的に俺は二人の間に割って入ろうとするのだが、翔先輩はその手を離そうとしなかった。
「おい太一!翔先輩に謝れって!……なあ!」
俺の今までの人生の中で一番慌てた出来事かもしれなかった。
だが対照的に、胸ぐらを掴まれたままの太一の顔にはいつもと何ら変わらない微笑みが浮かんでいた。
「え?僕が謝るって、何で?僕は間違ったことは何一つ言ってないよ?」
苛立ちを爆発させた今井キャプテンや翔先輩よりも、俺には冷静なままの太一が一番怖かった。
「……どういう意味だよ?テメェ」
太一の言葉に少し興味を持ったのか、翔先輩が胸ぐらを掴んでいた手を離し、太一を睨み付けた。
「あ、すみません」
掴まれていた制服のシャツを軽く直すと、太一は悠々と先輩たち全員を見回した。
「だってそうじゃないですか?どうせ勝てるわけないから勝負から逃げる……しかもその理由が『お前らと一緒にやったって勝てるわけない』ってチームメイトのせいにするなんて、これ以上格好悪いことも中々思い付かないですよ?あ、格好悪いってのは必ずしも見た目とかの意味ではなくてですね……」
「うるせえな!!」
太一の言葉を翔先輩の怒りの声が遮った。
今まではどこか他人事のように消極的に練習の場から逃げ出そうとしていたスマホゲームチームの4人の先輩たちも、太一が自分たちのことをも言及していることを理解し、目の色を変えて太一を睨み付けていた。
(……あれ、太一むしろ生き生きしてねえか?)
挑発された先輩たちの目の色が変わったのはもちろんだが、太一自身の目付きも今まで見たことのない強いものだった。喋り方もいつものふわふわしたものではなく、ハキハキとしていて別人みたいだった。
先輩たち全員の注目を引き付けていることに確信を持ったのか、その目がまた爛々と輝き太一の挑発はさらに加速した。
「だって先輩たち、この歳で負け癖どころか勝負そのものから逃げるなんて、もう死んだも同然じゃないですか。この先、生きていてもずっと負けっぱなしなんじゃないですか?」
太一の口調は、本気で先輩たちの今後の人生を心配しているかのようなものだった。
だから先輩たちは余計に腹が立ったのだろう。
バチン、と大きな音がして太一が後ろによろめく。
手を出したのは中野先輩だった。
「おい!暴力はやめろ!」
今井キャプテンがすぐに間に割って入る。
俺は心配になって太一の様子をうかがったのだが……その顔には微笑みが浮かんでいた。いつもの無邪気な微笑みとは違う、底意地の悪そうな笑顔だった。
(……何なんだ、コイツは?)
俺は太一を殴った中野先輩や、それでも怒りの静まっていなさそうな他の先輩たちよりも、太一の新たな一面に恐怖を覚えた。
後ろから場の空気にそぐわないふわふわした声が聞こえてきた。振り向くとそこに立っていたののは太一だった。
「何だ、太一か……悪い、また明日説明するよ」
なんで太一がこんな時間にこんな場所にいるのだろうか?いつもならとっくに帰宅しておやつでも食べているだろうに、という疑問は頭をかすめたが、流石に今はそれどころではなかった。
「……おい翔!急がねえと女の子たち、待たせちゃうぞ」
太一の登場によって一瞬場の空気が止まったのだが、いち早くそこから抜け出したのは中野先輩だった。
中野先輩に促されて翔先輩もカバンを背負い直し、校門へと歩き出した。
「そういうわけだから、悪いな今井、吉川」
歩きだした二人の様子を見て、ゼロサムチームの4人も着替えを続け出した。
「ねえ正洋、ここの先輩たちって……とっても格好悪いね」
後ろから聞こえてきたのは、いつもと何ら変わらない太一の柔らかい声だった。
……え?今?お前?何て?言った?
何か現実がバグったかのような奇妙さに怖くなり、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにあったのはいつもの太一の微笑みだった。
「あ、格好悪いって言っちゃったけど見た目とかじゃなくて……何て言うんだろう?考え方?生き方?そういうものが格好悪いっていう話ね」
太一の声はいつも通りのか細い声だったが、どういうエアポケットに巻き込まれたのか、よく通りその場にいた全員にはっきりと伝わっていた。
その場の空気の尋常ではない変わり方が何よりの証拠だ。
翔先輩が肩に掛けていたカバンを地面に投げ下ろすと、ツカツカと歩み寄り太一の胸ぐらを掴んだ。
「お前誰だよ。部外者が舐めた口利いてると……殺すぞ」
「ちょ……先輩!コイツ俺のツレなんです!勘弁してやって下さい!」
反射的に俺は二人の間に割って入ろうとするのだが、翔先輩はその手を離そうとしなかった。
「おい太一!翔先輩に謝れって!……なあ!」
俺の今までの人生の中で一番慌てた出来事かもしれなかった。
だが対照的に、胸ぐらを掴まれたままの太一の顔にはいつもと何ら変わらない微笑みが浮かんでいた。
「え?僕が謝るって、何で?僕は間違ったことは何一つ言ってないよ?」
苛立ちを爆発させた今井キャプテンや翔先輩よりも、俺には冷静なままの太一が一番怖かった。
「……どういう意味だよ?テメェ」
太一の言葉に少し興味を持ったのか、翔先輩が胸ぐらを掴んでいた手を離し、太一を睨み付けた。
「あ、すみません」
掴まれていた制服のシャツを軽く直すと、太一は悠々と先輩たち全員を見回した。
「だってそうじゃないですか?どうせ勝てるわけないから勝負から逃げる……しかもその理由が『お前らと一緒にやったって勝てるわけない』ってチームメイトのせいにするなんて、これ以上格好悪いことも中々思い付かないですよ?あ、格好悪いってのは必ずしも見た目とかの意味ではなくてですね……」
「うるせえな!!」
太一の言葉を翔先輩の怒りの声が遮った。
今まではどこか他人事のように消極的に練習の場から逃げ出そうとしていたスマホゲームチームの4人の先輩たちも、太一が自分たちのことをも言及していることを理解し、目の色を変えて太一を睨み付けていた。
(……あれ、太一むしろ生き生きしてねえか?)
挑発された先輩たちの目の色が変わったのはもちろんだが、太一自身の目付きも今まで見たことのない強いものだった。喋り方もいつものふわふわしたものではなく、ハキハキとしていて別人みたいだった。
先輩たち全員の注目を引き付けていることに確信を持ったのか、その目がまた爛々と輝き太一の挑発はさらに加速した。
「だって先輩たち、この歳で負け癖どころか勝負そのものから逃げるなんて、もう死んだも同然じゃないですか。この先、生きていてもずっと負けっぱなしなんじゃないですか?」
太一の口調は、本気で先輩たちの今後の人生を心配しているかのようなものだった。
だから先輩たちは余計に腹が立ったのだろう。
バチン、と大きな音がして太一が後ろによろめく。
手を出したのは中野先輩だった。
「おい!暴力はやめろ!」
今井キャプテンがすぐに間に割って入る。
俺は心配になって太一の様子をうかがったのだが……その顔には微笑みが浮かんでいた。いつもの無邪気な微笑みとは違う、底意地の悪そうな笑顔だった。
(……何なんだ、コイツは?)
俺は太一を殴った中野先輩や、それでも怒りの静まっていなさそうな他の先輩たちよりも、太一の新たな一面に恐怖を覚えた。
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