ふわふわまるまる飛車角

きんちゃん

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16話

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「いや、かえって良かったんじゃねえか?」

 重苦しい雰囲気を打ち破ったのは今井キャプテンの一言だった。
「……どういうことですか?」

 俺には先輩の言葉の意図が見えなかった。

「ほんの数日間だけだけどよ、アイツら部活に出て来なかっただろ?……吉川もそうだと思うけど、もうアイツら来ないんじゃないか?そうなるとサッカー部ヤバいんじゃないか?って散々思ったろ?」

「……はい、そうです」

 異論を挟む余地のない言葉だ。

「で、今日になって急に出てきて、タラタラしたプレーをしてた。……さっきは何とか引き留めなきゃいけないと思ってアイツらを持ち上げてたけどよ、俺は内心ムカついてたよ。……このままアイツらが何日もズルズル同じことを続けていたら、部の雰囲気はもっと悪くなってたと思う。ここでこうしてはっきり決着を付けた方が良いんだよ」

「確かにそれはそうかもしれないですけど……でも俺たち勝てるんですかね?」

 キャプテンの言うことは間違いなく正論だろうが、それでサッカー部を再建するには俺たちが勝つことが不可欠の条件だった。

「いや、もちろんそれは分からん。というか正直言って自信は無い。でもな、負けたら負けたで良いんだよ。……俺はお前ら1年のことも好きだし、それ以上に付き合いの長いアイツらのことが好きだ。でも、それはやっぱり一緒にサッカーをやる仲間としてだ。本気でサッカーやらない人間と本気の関係は築けないよ。……だからもし俺たちが負けたら、もう潔くこのサッカー部は潰しちゃえば良いんだ。それからまたどっかで草サッカーチームを作っても良いし、人数が少なければフットサルでもやれば良いさ。……とにかく、中途半端で余計な気だけを遣うような関係だったらそんなのはもう潰しちゃえば良いんだよ。もし負けたら……アイツらにちょっかいかけられることも実際あるかもしれんが、そんなのはアイツらもすぐに飽きるさ」

「たしかに……その通りですね」

 俺は柄にもなく熱い言葉を吐いたキャプテンに驚いていた。
 今までのキャプテンからこんなに情熱を感じたことは一度もなかった。キャプテンからこんな言葉を引き出せたことだけでも、先輩たちとの対戦は意味のあるものと言えるかもしれない。
 確かに今井キャプテンの言う通りサッカーはどこでも出来るのだ。今のこの弱小サッカー部という体制にこだわる理由はさしてない。

 俺は1年生たちの方を反応を窺った。
 隣のクラスで、MFの安東が口を開いた。安東はこの部活では珍しく小学校からのサッカー経験者だ。小中ずっと補欠だったらしいが、1年の中では一番安定したプレーをしている。

「吉川、それで良いよ。もう決まっちゃたんだから、やるしかないよ」

 安東の言葉に他の1年もなんとなく頷く。
 誰も強い言葉やむき出しの闘志を見せはしなかったが、謝ってでも先輩たちとの対戦を避けようという気配はなかった。
 1年は1年でタラタラやっている先輩たちにムカついていたのかもしれない。やはり皆それなりにサッカーが好きなのだろう。
 皆がそういった意見ならば俺もそれに異論を挟む気はさらさらなかった。

「じゃあ、キャプテン。勝負しましょう。……負けた時のことは負けた時に考えましょう」

 俺としては勝負の決意表明だったが、意外な所からケチを付けられた。


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