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19話
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「おい、太一起きろって!サッカー部行くんじゃなかったのか?それとも昨日言っていたのはハッタリだったのか?」
朝は張り切ってサッカーの入門書を読んでいた太一だったが、授業が始まるといつもの太一に逆戻りしていた。
「……うーん、正洋ちょっとだけ待ってよ、寝不足のコンディションでは大事なことは出来ないんだよ。もう少しだけ休んだらすぐに行くからさぁ……先に行ってて良いよ」
「良いから起きろ、このやろ!」
「……うひゃひゃ、やめろって正洋!」
いつもならそんな太一も微笑ましく許してしまうのだが、今日だけはそういうわけにはいかない。脇の下を思いっきりくすぐって、強引に太一の脳を覚醒させる。太一がくすぐりに異常に弱いことは知っている。神経が繊細なのだろう。
先輩たちとの対立が明確になる大事件が昨日あったわけだが、それゆえに1年は団結しようという兆しを見せている。昨日の今日であれだけ先輩たちを煽った太一が来ないでは、全てが茶番になってしまうのだ。1年たちはもう何をモチベーションにすれば良いのか分からなくなるだろう。
練習をしてみて、やはり太一が試合に参加するのは無理だと分かり、明日以降太一が来なくなったとしても仕方ないが、何も試さないうちから太一が参加しないのでは他の一年の部員に示しがつかない。
「……もー、正洋!あんな起こし方しなくっても良いじゃんか……」
「ほら、良いから行くぞ」
まだぶつくさ言っている太一を引っ張り、何とかいつもの校舎裏の着換えスペースに到着した。他の1年たちはまだ来ていなかった。
俺はカバンを下ろしジャージに着替えた。すね当てを付けてスパイクを履いた。
太一も着替え始めたが、専用のジャージはないから体操服に着替え、靴も体育用の運動靴だった。
教室から歩いて着替えている間に、太一のねぼけ眼もすっかり覚めていたようで、昨日見せた勝負師の顔になっていた。……そうだった、いつもの太一からはまったく想像も出来ないが、コイツは中学の頃は将棋の奨励会という場所で、ノイローゼになりかけるくらい真剣な勝負の世界で生きてきたんだった。……少なくともその姿勢から学べるものがきっとあるはずだ。
「ういっす、お疲れ」
「あ、お疲れ様です」
ダルそうな顔をして今井キャプテンが登場した。
「昨日は失礼いたしました。改めまして川田太一です」
太一がキャプテンに向かって深々と頭を下げた。
あまりに丁寧な挨拶に当のキャプテンだけでなく、傍で聞いていた俺も驚いたが、よくよく考えれば太一は将棋という礼節を重んじる世界の人間だった。これくらいの挨拶が本来普通なのかもしれない。
「お、おう、川田君。こっちこそ悪かったな。……昨日家に帰ってから冷静に考えてみたんだけどよ、元はと言えばやる気のないアイツらにキレそうになってたのは俺だったんだよ。なんかサッカー部内のゴタゴタに付き合わせちゃってごめんな」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ首を突っ込んでしまって……」
「キャプテン。とりあえず、練習始めましょうよ」
二人が話している間に他の1年生たちも集まってきていた。
確かに話し合わなければいけないことも色々あるだろうが、まずは身体を動かすことが先決だ。心拍数と共にテンションが上がり、互いの動きも分かった上でコミュニケーションを取った方が有効なものになることが多い。
「そうだな、じゃあいつも通りランニングから始めるぞ~!」
揃ったのは俺と太一も含めた1年生7人と唯一の2年である今井キャプテンの、計8人だ。いつも通りキャプテンの号令に誰も返事もせず、ダラダラとグラウンドに移動を開始した。
朝は張り切ってサッカーの入門書を読んでいた太一だったが、授業が始まるといつもの太一に逆戻りしていた。
「……うーん、正洋ちょっとだけ待ってよ、寝不足のコンディションでは大事なことは出来ないんだよ。もう少しだけ休んだらすぐに行くからさぁ……先に行ってて良いよ」
「良いから起きろ、このやろ!」
「……うひゃひゃ、やめろって正洋!」
いつもならそんな太一も微笑ましく許してしまうのだが、今日だけはそういうわけにはいかない。脇の下を思いっきりくすぐって、強引に太一の脳を覚醒させる。太一がくすぐりに異常に弱いことは知っている。神経が繊細なのだろう。
先輩たちとの対立が明確になる大事件が昨日あったわけだが、それゆえに1年は団結しようという兆しを見せている。昨日の今日であれだけ先輩たちを煽った太一が来ないでは、全てが茶番になってしまうのだ。1年たちはもう何をモチベーションにすれば良いのか分からなくなるだろう。
練習をしてみて、やはり太一が試合に参加するのは無理だと分かり、明日以降太一が来なくなったとしても仕方ないが、何も試さないうちから太一が参加しないのでは他の一年の部員に示しがつかない。
「……もー、正洋!あんな起こし方しなくっても良いじゃんか……」
「ほら、良いから行くぞ」
まだぶつくさ言っている太一を引っ張り、何とかいつもの校舎裏の着換えスペースに到着した。他の1年たちはまだ来ていなかった。
俺はカバンを下ろしジャージに着替えた。すね当てを付けてスパイクを履いた。
太一も着替え始めたが、専用のジャージはないから体操服に着替え、靴も体育用の運動靴だった。
教室から歩いて着替えている間に、太一のねぼけ眼もすっかり覚めていたようで、昨日見せた勝負師の顔になっていた。……そうだった、いつもの太一からはまったく想像も出来ないが、コイツは中学の頃は将棋の奨励会という場所で、ノイローゼになりかけるくらい真剣な勝負の世界で生きてきたんだった。……少なくともその姿勢から学べるものがきっとあるはずだ。
「ういっす、お疲れ」
「あ、お疲れ様です」
ダルそうな顔をして今井キャプテンが登場した。
「昨日は失礼いたしました。改めまして川田太一です」
太一がキャプテンに向かって深々と頭を下げた。
あまりに丁寧な挨拶に当のキャプテンだけでなく、傍で聞いていた俺も驚いたが、よくよく考えれば太一は将棋という礼節を重んじる世界の人間だった。これくらいの挨拶が本来普通なのかもしれない。
「お、おう、川田君。こっちこそ悪かったな。……昨日家に帰ってから冷静に考えてみたんだけどよ、元はと言えばやる気のないアイツらにキレそうになってたのは俺だったんだよ。なんかサッカー部内のゴタゴタに付き合わせちゃってごめんな」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ首を突っ込んでしまって……」
「キャプテン。とりあえず、練習始めましょうよ」
二人が話している間に他の1年生たちも集まってきていた。
確かに話し合わなければいけないことも色々あるだろうが、まずは身体を動かすことが先決だ。心拍数と共にテンションが上がり、互いの動きも分かった上でコミュニケーションを取った方が有効なものになることが多い。
「そうだな、じゃあいつも通りランニングから始めるぞ~!」
揃ったのは俺と太一も含めた1年生7人と唯一の2年である今井キャプテンの、計8人だ。いつも通りキャプテンの号令に誰も返事もせず、ダラダラとグラウンドに移動を開始した。
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