転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

文字の大きさ
12 / 85
黒木希

12話 深夜の個人練習

しおりを挟む
「ごめんなさい、小田嶋さん。こんな時間まで付き合ってもらって」

「いえ、そんな!黒木さんが練習なさるなら当然です!」

 俺は社長に言われた通り、全体のダンス練習を動画に収めて黒木希に渡した。
 ここは我らがコスモフラワーエンターテインメント(コスフラ)が保有しているダンススタジオだ。
 新人マネージャーとしてせめて返事だけは……と思い、ハキハキとした声を出したが、気持ちとは裏腹に(……マジで今から練習なんかするの?)という気持ちでいっぱいだった。

 時刻は深夜0時を回っていた。
 黒木希は今日も早朝から稼働していた。雑誌のインタビュー、テレビ収録、ネット動画の撮影が3本。それらの仕事がようやく深夜に終わった。当然明日も朝から仕事だ。今からダンスの練習をするなど果たして正気だろうか?
 本音を言えば俺も疲れていた。慣れないマネージャー業務で精神的にヘトヘトだった。社長から送られてきたスケジュールを黒木希本人に伝えることだけが仕事らしい仕事で、その他はただ現場について行っているだけだったが、それでも疲れていた。とっとと部屋に帰って布団に潜り込みたかった。
 だが当然そんなことはおくびにも出せない。看板である希本人が疲れた素振りを一切見せないのだ。スタッフや関係者といった周囲の目がある場所だけでなく、移動中の二人きりの車の中ですら彼女はにこやかな表情を崩さない。

「あ、じゃあ大体分かったんで一度曲に合わせてみます。私ポジションに着くので、合図を出したら再生ボタンを押してもらえます?」

「はい。わかりました」

 ざっと一通りスマホの動画を見て軽く身体を揺らした程度で、彼女は俺にそう告げた。

(え?あれで大体分かったの?ウソだろ?)

 俺はその言葉を一種のボケかと思った。マネージャー相手にそんな冗談言う必要ないですよ!と言おうかと一瞬迷ったくらいだ。
 でもそれは冗談なんかじゃなかった。言われた通り俺が曲を流すと、一回目で途切れることなく最後まで彼女は踊り切ったのだ。
 


「すごい!本当に一回で出来ちゃうんですね!すごすぎます!」

 キメの静止ポーズが解けた瞬間に思わず俺は拍手をしていた。スターというのはこんなことが出来るのか!まるで人間ではない別の生き物のようにすら感じた。

「……ありがとう。でもまだ全然出来たとは言い難いわ。この曲はライブで何度もやってきた曲だから振り付け自体は覚えてるの。でも移動で迷った部分があったし、今のはただ振り付けをなぞっただけだから……。ライブっていうのは、ただ決められた振り付けを間違えなければ良いってわけじゃなくて、曲の世界観を表現してみせてお客さんを感動させなきゃね」

 少し照れたように彼女はそう呟いた。

(……え、何この人?マジでスゲェな!……っていうか完璧超人プラス努力家なのかよ。しかも何今の照れたような、でもほんのちょっと誇らしげな表情。めちゃくちゃ可愛いんだけど。普段クールでめちゃくちゃ綺麗なだけにちょっととギャップがすげぇな!)

 3日間マネージャーとして黒木希に付いていくうちに、俺はとっくに彼女に心酔し切っていた。惚れるという表現では足りず、尊敬して崇拝に近い感情が芽生えていた。
 彼女が圧倒的な美貌を持っていることは当初から分かっていたが、身近にいてもその感想は変わらない。いつどこから見ても常に完璧な美貌だった。もちろんメイク・スタイリストなど彼女を作り上げるプロの仕事の成果とも言えるわけだが、普段のケアなど彼女自身の努力もあるのだろう。
 それにも増して特筆すべきは彼女の飾らない性格だった。
 彼女は完璧な美の象徴として雑誌などではクールな表情を求められることが多かった。俺もそのイメージが強く、もっと取っ付きにくい人なのだと思っていた。バラエティ番組などでは明るくはしゃいでいる姿も見せていたが、それはテレビ用に求められた役割を演じているだけなのだと思っていた。
 でもそうではなく普段の態度もとてもナチュラルだった。慣れないマネージャーである俺のことをずっと気遣ってくれるし、外部の偉い人やタレントがいる時も移動中の2人きりの時も態度は一切変わらない。本当に裏表のない人だということが分かってきた。
 その上、身内であるメンバーのことをとても好きな様子が伝わってくる。個人での仕事の時はやはりどこか緊張しているのだろう。それに比べメンバーと一緒の仕事になると途端に明るい表情が多くなる。

(……アイドルの裏側ってもっとギスギスのドロドロじゃなかったのかよ!)
 
 女同士の集団は表は仲良く振舞っても裏では足を引っ張り合っている、ましてや人気を競い合う大人数のアイドルグループの内情など悲惨なものだろう……なぜか俺はそう思い込んでいた。単に俺の性格が歪んでいただけなのかもしれない。
 でも実際には違った。黒木希だけでなく、他のメンバーもメンバー同士が一緒になる仕事をとても楽しみにしている様子だった。こうした大規模なライブに向けたリハーサルは内容的にはとても大変ではあるのだが、同時に皆で一つの作品を作れることを楽しんでいるようでもあった。
 
「……どしたの、麻衣ちゃん?ボーっとして?」

 いつの間にか彼女の顔が俺の目の前にあった。
 近い近い近いって!アンタは自分の暴力的な美貌を自覚してくれよ!
 深夜になっても彼女の顔面のコンディションは絶好調だった。どういう仕組みになっているんだろう?疲れとかは出て来ないのだろうか?

「あ、いや見惚れちゃったっていうか……黒木さんって本当にすごいんですね。こんな時間まで働いて、その後にこうして自主練習まで……。本当にプロなんだなって」

 思わずこぼした俺の本音に彼女はクスクスと笑った。

「別に好きだから踊ってるだけよ。私はWISHの曲が好きでライブの場が最高に幸せなの。ファッションのお仕事やテレビのお仕事も嫌いじゃないけど、どこか肩凝っちゃうのよね。私はやっぱりアイドルだから。踊ることはストレス解消なのよ……あ、そろそろもう一回通しで踊りたいから麻衣ちゃん再生してくれる?」

 そう告げると彼女は再びスタジオの中央に戻りスタンバイした。
 その表情はとても生き生きしており、まだ何時間でも踊れそうだった。作り上げられたファッションアイコンとしての彼女よりも、今の表情の方が数段魅力的に見えた。
 彼女のこんな姿を見られただけでも、転生してWISHのマネージャーになった甲斐は充分にあったと言えるだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...