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小平藍
59話 不思議な子ね……
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レッスン場を出た所にある休憩スペースで私は藍と向かい合った。
彼女とこれだけ近い距離で向き合いその視線を浴びると、私は胸の高鳴りを抑えることが難しかった。
だがそれをつとめて表に出さないように先輩メンバーとして振舞う。
「ね、小平さん……どうして須藤さんに合わせてあげなかったの?」
藍はダンスが上手かった。
オーディションの際ダンス歴があるようなことは言っていなかったはずだが、その動きは間違いなく経験者のものだった。フリを覚えるのも早かったし、周りが見えないほどの余裕がないわけはなかった。
「……どうして?さっき言った通りですが?」
今までもコミュニケーションを取るのが苦手なメンバーは何人もいたが、ここまで素っ気ない返事は初めてだった。
WISHに入る子はたとえコミュニケーションが下手だとしても、大人数での生活が日常でありそこにルールがあることを理解している。むしろコミュニケーションが下手な子ほど自分を抑えて主張が出来なくなってしまう傾向が強かった。
それに対して藍の態度は全然違っていた。
「小平さんの言うことも理解出来なくはないけれど……あの場ではあなたがズレた方が早いし、全体のリズムも合う。それはあなたも分かっていたんじゃないのかな?」
私は慎重に言葉を選びながら聞いてみた。
「え?……あの場を取り繕うことに何の意味があるのですか?以前も言ったと思うのですが、私はWISHのセンターに立つことにしか興味はないですよ?……選抜を想定して行うレッスンだけが意味のあるレッスンだと思っていますが」
自分が誰かに合わせるなど、まるで考えたこともないような言い方だった。
「たしかに、そうだったわね。志が高いことは立派だけど……でも選抜もその時の選抜のメンバーによって雰囲気も全体のダンスも全然違うものになるから、結局は周りに合わせることが出来ないと難しいと思うわよ?」
「そうなのですか……。ではその時の周りの皆さんが私に合わせていただかなくてはなりませんね。私はセンターに立つので、その方が全体の調和は取れると思います」
……まるで彼女とは話が嚙み合いそうもなかった。
仮にもしいつか彼女がセンターに立つ日が来るにしても、それまでに選抜を経験してから立つのが順序だし、ダンスに関してもセンターの人間の動きが必ずしも優先されるわけでもないのだが……それを今イチから説明しても彼女が理解することはなさそうに思えた。
私はふと彼女がオーディションの時に「外国で育ってきた」と言っていたのを思い出した。
もしかしてこれだけ話が嚙み合わないのも、周りのメンバーとコミュニケーションがうまく取れないのも、彼女が外国育ちだということと関係しているのだろうか?
だが彼女は口数自体は多くないものの、話す日本語は日本で育った人間と同じように流暢なものだし、その他の振る舞いにも一般的な日本人と大きく違うような部分は感じられなかった。
そもそも外国ってどこだろう?そういった場合はどこか具体的な国や地域の名前を出すのが普通だし、その方が周りの理解も得られやすいのではないだろうか。
それに……センターというものに彼女がここまで強いこだわりを見せるのも何故だろう?彼女は一度としてその具体的な理由を語っていなかった。
そもそもここまで他人とやっていくのが苦手そうなのにWISHに入ろうと思ったのは何故だろう?WISHは大人数のグループなのだから、加入すれば当然こうしたことになるとは思わなかったのだろうか?
……訊きたいことが幾らでも出て来る気はしたが、あまり関係が出来ていないウチにグイグイいくのも却って彼女の心を閉ざしてしまうような気がして、それは飲み込んだ。
(……まあ、っていうかそんな彼女を無理言ってメンバーにねじ込んだ私が一番どうかしてるよね!)
こんな状況をそもそも作っているのは私自身なのだった。彼女を初めて見た時のことを思い出して私は内心苦笑した。
「あなたは私にとって特別な存在なの!あなたは私なのよ!」と全て藍にぶちまけてしまいたい気持ちもあったが、居心地の悪そうな表情を浮かべこちらに視線も向けない彼女に響くとは思えなかった。
彼女は私のことを何とも思っていないのは間違いなさそうだった。
とにかく今はその時ではない。
彼女がセンターに立ちたいと願うのならば、可能な限りその傍でそれに協力してあげたい。それが私の純粋な願いだった。
その過程の中で彼女と関係性を築いてゆけば、きっと彼女にも変化が表れるはずだ。
WISHというアイドルグループで日々活動してゆくことは、そんなに生易しいものではないのだ。
アイドルとして試行錯誤して成長してゆくことは、必ず人間的な成長にもつながる。……いや、アイドルとしての成長と人間的な成長とはほぼイコールだと思って間違いない。
マネージャーとしてメンバーの成長を近くで見守って身として、それは間違いなく言えることだった。
とにかくまずは孤立してしまった藍を5期生の輪の中に戻し、彼女たちを一つにまとめることだ。
実は私はこの状況をそれほど否定的に捉えてはいなかった。
まだ同じ5期生メンバーとして加入してから1か月半くらい。実質的に活動を共にしてからは1か月も経っていないはずだ。
こんなに短い期間でここまではっきりとした対立が生まれるなんてことは、かなり異例といっていい。
ケンカするほど仲が良い……とよく言うが、これは間違いなく正しくて、愛と一番遠いのは対立ではなく無関心なのだ。これだけ素直に対立出来る彼女たちはきっと仲良くなるし、アイドルとして高め合っていける素晴らしい関係になると、私は確信していた。
……あ、もちろん対立が高まり過ぎて空中分解してしまう可能性もありますけどね。
彼女とこれだけ近い距離で向き合いその視線を浴びると、私は胸の高鳴りを抑えることが難しかった。
だがそれをつとめて表に出さないように先輩メンバーとして振舞う。
「ね、小平さん……どうして須藤さんに合わせてあげなかったの?」
藍はダンスが上手かった。
オーディションの際ダンス歴があるようなことは言っていなかったはずだが、その動きは間違いなく経験者のものだった。フリを覚えるのも早かったし、周りが見えないほどの余裕がないわけはなかった。
「……どうして?さっき言った通りですが?」
今までもコミュニケーションを取るのが苦手なメンバーは何人もいたが、ここまで素っ気ない返事は初めてだった。
WISHに入る子はたとえコミュニケーションが下手だとしても、大人数での生活が日常でありそこにルールがあることを理解している。むしろコミュニケーションが下手な子ほど自分を抑えて主張が出来なくなってしまう傾向が強かった。
それに対して藍の態度は全然違っていた。
「小平さんの言うことも理解出来なくはないけれど……あの場ではあなたがズレた方が早いし、全体のリズムも合う。それはあなたも分かっていたんじゃないのかな?」
私は慎重に言葉を選びながら聞いてみた。
「え?……あの場を取り繕うことに何の意味があるのですか?以前も言ったと思うのですが、私はWISHのセンターに立つことにしか興味はないですよ?……選抜を想定して行うレッスンだけが意味のあるレッスンだと思っていますが」
自分が誰かに合わせるなど、まるで考えたこともないような言い方だった。
「たしかに、そうだったわね。志が高いことは立派だけど……でも選抜もその時の選抜のメンバーによって雰囲気も全体のダンスも全然違うものになるから、結局は周りに合わせることが出来ないと難しいと思うわよ?」
「そうなのですか……。ではその時の周りの皆さんが私に合わせていただかなくてはなりませんね。私はセンターに立つので、その方が全体の調和は取れると思います」
……まるで彼女とは話が嚙み合いそうもなかった。
仮にもしいつか彼女がセンターに立つ日が来るにしても、それまでに選抜を経験してから立つのが順序だし、ダンスに関してもセンターの人間の動きが必ずしも優先されるわけでもないのだが……それを今イチから説明しても彼女が理解することはなさそうに思えた。
私はふと彼女がオーディションの時に「外国で育ってきた」と言っていたのを思い出した。
もしかしてこれだけ話が嚙み合わないのも、周りのメンバーとコミュニケーションがうまく取れないのも、彼女が外国育ちだということと関係しているのだろうか?
だが彼女は口数自体は多くないものの、話す日本語は日本で育った人間と同じように流暢なものだし、その他の振る舞いにも一般的な日本人と大きく違うような部分は感じられなかった。
そもそも外国ってどこだろう?そういった場合はどこか具体的な国や地域の名前を出すのが普通だし、その方が周りの理解も得られやすいのではないだろうか。
それに……センターというものに彼女がここまで強いこだわりを見せるのも何故だろう?彼女は一度としてその具体的な理由を語っていなかった。
そもそもここまで他人とやっていくのが苦手そうなのにWISHに入ろうと思ったのは何故だろう?WISHは大人数のグループなのだから、加入すれば当然こうしたことになるとは思わなかったのだろうか?
……訊きたいことが幾らでも出て来る気はしたが、あまり関係が出来ていないウチにグイグイいくのも却って彼女の心を閉ざしてしまうような気がして、それは飲み込んだ。
(……まあ、っていうかそんな彼女を無理言ってメンバーにねじ込んだ私が一番どうかしてるよね!)
こんな状況をそもそも作っているのは私自身なのだった。彼女を初めて見た時のことを思い出して私は内心苦笑した。
「あなたは私にとって特別な存在なの!あなたは私なのよ!」と全て藍にぶちまけてしまいたい気持ちもあったが、居心地の悪そうな表情を浮かべこちらに視線も向けない彼女に響くとは思えなかった。
彼女は私のことを何とも思っていないのは間違いなさそうだった。
とにかく今はその時ではない。
彼女がセンターに立ちたいと願うのならば、可能な限りその傍でそれに協力してあげたい。それが私の純粋な願いだった。
その過程の中で彼女と関係性を築いてゆけば、きっと彼女にも変化が表れるはずだ。
WISHというアイドルグループで日々活動してゆくことは、そんなに生易しいものではないのだ。
アイドルとして試行錯誤して成長してゆくことは、必ず人間的な成長にもつながる。……いや、アイドルとしての成長と人間的な成長とはほぼイコールだと思って間違いない。
マネージャーとしてメンバーの成長を近くで見守って身として、それは間違いなく言えることだった。
とにかくまずは孤立してしまった藍を5期生の輪の中に戻し、彼女たちを一つにまとめることだ。
実は私はこの状況をそれほど否定的に捉えてはいなかった。
まだ同じ5期生メンバーとして加入してから1か月半くらい。実質的に活動を共にしてからは1か月も経っていないはずだ。
こんなに短い期間でここまではっきりとした対立が生まれるなんてことは、かなり異例といっていい。
ケンカするほど仲が良い……とよく言うが、これは間違いなく正しくて、愛と一番遠いのは対立ではなく無関心なのだ。これだけ素直に対立出来る彼女たちはきっと仲良くなるし、アイドルとして高め合っていける素晴らしい関係になると、私は確信していた。
……あ、もちろん対立が高まり過ぎて空中分解してしまう可能性もありますけどね。
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