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二十三話

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「って、脱線しちゃったね」

 私たちは作業机に向き直った。



 暇なときにエレンには魔法を教えてあげよう。生活に便利な魔法はもちろんだが、騎士であるエレンが魔法を覚えたら強そうだ。魔法騎士、良い響きじゃん。



「ここまでくればもうちょっと。まずは出がらしをティーバッグに入れる」

 エレンに「やってみる?」と聞けば「やらせてくれ!」と威勢のいい返事が返ってきた。ティーバッグを渡し、出がらしが入ったトレーをエレンの方に寄せる。



「そうそう、良い感じ。あまり力を入れすぎるとティーバッグが破れちゃうからね。気を付けて」

 エレンの力加減に何回かひやひやしながらも、無事に一つ作り上げることができた。エレンは出がらしが入ったティーバッグをしげしげと見つめ、「このちまちまやる感じ、なんだか癖になるな」とつぶやいた。



 その気持ち、めっちゃわかる。



 無性に棚整理とかしちゃうのと同じ感覚。あと数センチ、下の魔本とのズレがぁって考えてると時間が過ぎるあれ。あの繰り返し、案外嫌いになれないんだよね。



 その後、二人で協力して四つの出がらし入りティーバッグを作った。呪文紙、裏・表・背表紙用のそれぞれである。



「じゃあ次はティーバッグと分解した魔本をセットにして麻袋に入れよう」



「承知した」



「呪文紙には一枚ずつ間に、このスポンジを挟んでね」

 エレンに薄い長方形型のスポンジを渡す。これを間に挟むことで隙間が生まれ、すべてのページに出がらしの匂いがいきわたるようになるのだ。

 

 正直、これが中々手間である。ページ分用意しなくちゃいけないのと、取り出す作業がツライのだ。



 エレンにその作業をしてもらっている間に、私は残りのパーツの作業を終わらせる。



 出来上がったティーバッグ入りの麻袋を三つ、工房端に設置してある置台に持っていく。この台は木の格子でできており、一段が二区切りの五段製になっている。最大で十冊、もとい十パーツ置ける仕様だ。



 後は日よけのシートをかけて、しばらく待つ。



「エレンさん、あとどれくらい?」



「そうだな――あと半分くらいだろうか」



「早いね。残りは一緒にやろっか」



 私たちは手早くスポンジを挟み込むと、置台に持っていった。そして日よけシートをかける。



「数日このままにして匂いが落ちていれば、あとはそれぞれを一つにしてお仕事完了だよ」

 エレンはその言葉にうなづくと、凝った体をほぐすように伸びをした。



「さすがに疲れたね。売り場の掃除は後にして、先にご飯にしよっか」

 私は丸メガネを外してエプロンの胸元に引っかけた。そしてこちらも軽く伸びをする。



「承知した。ちょうど私も腹がすていたところなんだ」



「せっかくだし、料理も一緒にやる? 覚えてくれたら分担出来てうれしいなぁ」

 

 私たちは会話を弾ませながら工房の掃除を済ませ、戸締りを確認してから居間に向かった。
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