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プロローグ
しおりを挟む暖かい光が窓に差し込み、木の温もりを感じさせ、部屋を照らす。
鳥の囀りが聞こえる穏やかな木漏れ日の中、その家の扉がギィっと開く。
「さぁ今日も頑張りますか!」
腕を天高く上げ伸びをし、クルンクルンと癖毛が跳ねる黒髪の女性の背中が足早に街に溶け込んでいった。
――――
この世界は魔力に満ち溢れている。
自然の恩恵を使う魔法があり、その力を巧みに扱う魔術師や魔女がいる。
火、水、地、風、木、光、闇の七属性があり人々は各々の属性を持っている。
魔力を持たない者は、魔石を利用した魔術具を用いる。
生活に魔法は不可欠であり、国々のライフラインは全て魔術具の稼働で成り立っていた。
ここモルガコックス王国は魔術先進国。
大陸から突き出た国であり、国の周りを広大な海が囲む。
小さな島々も点在しており、そこかしこに古代遺跡や魔術の根源になる貴重な魔術書が埋もれている。
魔石も豊富であり、魔術だけではなく軍事力も誇る為ここ数百年は不可侵の国の代表であった。
その為か、魔術関連の多種多様で幅広い魔術書や研究資料が国に集まり発展を促してきた。
そしてそれら全てを管理し、研究している機関を『魔術図書館』と人々は呼ぶ。
――――
「ロゼッタさん、この文献の資料なんだけど……」
「こちらは、三階Bー四二の棚にあります」
資料を一瞥しピシャリと快活に答えたのは、この図書館に勤めている司書ロゼッタである。
「あ、ありがとう」
足早にかける青年の背を見送ると後ろから声がかかる。
「あちゃ~可哀想に。またロゼッタの犠牲者が出たかぁ」
気の抜けた揶揄の言葉をかけてきたのは同期のマリーだ。
マリーゴールドの花のようなオレンジ色の髪を一つにまとめ三つ編みにしてケラケラと笑っている。
「何が犠牲者よ。マリー変なこと言わないで」
「だってそうじゃない。ロゼッタを狙っている人はたっくさんいるんだからね!!花形の図書館司書、しかも妙齢の淑女で独身。彼氏なし!!まぁ屁が出るほどの真面目で魔術オタクなのを知っているのは身内だけだけどねぇ」
「はいはい、どうせ堅物彼氏なし独身アラサーですよ」
難関の司書試験を同世代で突破したマリーも私の事は言えないオタクなはずだがと思いつつも戯言を聞き流しながら、作業に移る。
同期で同世代。同じ穴の狢(むじな)。
気が合わないわけがない、大の仲良しだ。
図書館司書はこの国では確かに高給取りで狭き門の花形の一つではある。
蔵書管理の他に魔術研究や開発も図書司書が担っている。
いわば研究員だ。
先人たちが、いちいち資料を漁るのが面倒臭くなり魔術書や蔵書を一箇所に集め図書館とし、そこに研究機関を設けた。
なんと大雑把なことでしょう。
ただこれも理にかなっていて研究で必要な資料や文献は国々から集まり見放題、調べ放題。
まさに自他共に認める魔術オタクにとっては天国のような場所であり、図書司書とはまさに天職である。
「それにしても、今月で何人目? 流石にちょっと多くない? 司書長に伝える?」
「別にいいわよ。研究の邪魔になってるわっけじゃないし、もしかしたら運命の出会いってあるかもしれないじゃない」
「運命の出会いを求めてる女だったら、もう少し愛想良くしなさいよ」
「確かに」と二人、目を合わせ笑い合った。
――――
二十五歳独身=彼氏いない歴=処女である。
別段不細工なわけではない。きっと。
体型も貧相ではなく出るところは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる方だとも思う。
大人になってからは少し落ち着いた癖毛の黒く豊かな髪も自慢だ。
何より太陽の光で色彩が青や黄色、緑などアースカラーに変化する神秘的な瞳はお気に入り。
歳が歳だけに交際や性交に関して興味がない訳では決してない。
寧ろ、司書は男所帯であるため女子が集まれば激しめの睦言が語られるし、研究肌にとっては知識欲を掻き立てる。
その為耳年増になっている自覚はある。
焦っていないと言えば嘘になるが、今は大好きな蔵書に囲まれ好きなだけ研究をしている時が幸せなのだ。
『運命の出会い』
恋愛小説のようにロマンチックではあるし確かに棚ぼただなと思う。
ただ夢見る少女ではない、現実主義なだけなのだ。
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