6 / 41
悪意ある噂
しおりを挟む好例のお茶会を終え数日後、私はいつもの日常を送っていた。
大好きな蔵書に囲まれ、大好きな匂いに包まれ、筆を走らせる。
カリカリと筆が走る音が不規則に聞こえ、それが癒しのBGMとなる。
そんな中、影が差し、不意に声がかかる。
「貴方がロゼッタ? ……ふーん、普通ね」
――え? 誰だこの美人
着ている服は支給される魔術師の通常のローブだが、一目でわかる貴族の令嬢であろう気品を持つ女性が机のすぐそばに立ち見下ろしていた。
「私はナザリー、魔術師団に所属してるわ。で、貴方がロゼッタで間違いないの?」
「あ、はい。初めまして」
――おぉ、これが噂の嫌がらせとか?ちょっとドキドキしてきた。しかし綺麗な人だな。どんなこと言われるんだろう。
場にそぐわぬことを考えながら、一応挨拶を送る。
「貴方と師団長の噂を聞いたのよ。それを確かめたくて会いに来たの。教えてくださる?」
――きたきたきた!!
「はぁ、噂とはなんでしょう?」
――ドキドキ。この人はノアのことが好きなのかしら?だからもう会うなとか言われるのかな!?私、間女的な立場!?悪女!?悪女ってどんな態度取ればいいんだっけ!?
「…師団長は……貴方に魔力の補給を要望しているとか。貴方は魔力がザルだとか? それは女性もいけるのかしら」
「…………」
「…………」
「……はい?」――アホな声が出た。
恐ろしすぎて詳しく聞きたくなかったが、詳しく聞いた。
魔術師同士が行うことできる、親密な魔力補給方法がある。そう親密な。
魔力は魔術師の血や体液に含まれ、魔力切れは魔術師にとっては死に直結する。
その為、魔石やポーションを使い一定の魔力を保つことが定められている。
ただ非常時、回復魔道具もなく魔力切れを起こした場合に有効となるのが体液の交換。
いわゆる粘膜接触、いわゆるキス、キスよりセックスである。
――んなアホな。
ナザリー曰く、私は魔力量が膨大なことをいいことに、ノアを誑かし彼は私をエナジータンクとして寵愛していると噂されてるらしい。
――んなアホな! マテオ様の聞いた噂もこれか!!!
「ナザリーさん、そもそも今は平時で魔力切れを起こす程のことなんかあり得ません。粘膜接触で魔力補給なんて……みなさん猥本の見過ぎではありませんか。あ、あと恋愛対象は男性です。まだ初恋もしてない処女です」
手を軽く挙げ、真実をアピールする。
「あら、それは失礼。しかし、そうよね……平時だしね……ただ貴方と会うようになってから師団長の素行がすこぶる良くなったから、少し噂を信じてしまったのよ。ごめんなさいね」
最初の横柄なイメージとは違い、ただはっきりした性格なのだろうと改めた。
「あれ? 何してるんだナザリー」
「あぁ、師団長。お疲れ様です。噂が気になり真相を本人に聞きに来たんですの。やはり直接聞くのが一番ですわね。スッキリしました。ロゼッタ、時間をいただきましたわ。ではご機嫌よう」
――後ろ姿も、あの金髪も本当綺麗な子だなぁ。
感心してナザリーの後ろ姿を見つめていると、なぜかすごく眉間に皺を寄せたノアが見下ろしていた。
「もう、終業だろ? 夕飯行くぞ。あとナザリーに言われたこと一言一句報告しろ」…と機嫌が悪い。
確かに時計を見ると終業時間は過ぎていた。
話を聞いている間にお腹も空いてきたので、帰り支度を済ませ歩きながら先ほどの噂の件をノアに伝えた。
いつもの行きつけの飲み屋で、いつも通りの食事やお酒を たしなんでいる。
――なんかこの流れが当たり前になってきたな。
ノアとの交流が当たり前になり、気兼ねなく話ができる。
しかも、私の好きな知識欲や探求心を刺激してくれる。
ノアと出会ってから、この上なく充実し贅沢な日々を送っている自覚がある。
お酒の力もあり、噂話の衝撃は何処へやら気分が上がってきた。
心も体もポカポカのルンルンだ。少し体が揺れてるのはご愛嬌である。
ふと彼を見るといつにない真剣な眼差しで見ている。
なんだろうと首を傾げる。
「その噂、事実にしないか?」
「……………………は?」
――こいつ何言ってんの。
0
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
多分、うちには猫がいる
灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
傭兵のコウの家には、いつの間にか猫が住み着いていた。
姿は見えないけれど、多分、猫。
皿を洗ったり、洗濯をしたり、仕事を手伝ったり、ご近所さんと仲良くなったりしているけど、多分、猫。
無頓着な傭兵の青年と、謎の猫のステルス同居物語。
※一話一話が非常に短いです。
※不定期更新です。
※他サイトにも投稿しています。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~
exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。
家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。
愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。
一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。
ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。
涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。
薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない
宮永レン
恋愛
エグマリン国の第二王女アルエットは、家族に虐げられ、謂れもない罪で真冬の避暑地に送られる。
そこでも孤独な日々を送っていたが、ある日、隻眼の青年に出会う。
互いの正体を詮索しない約束だったが、それでも一緒に過ごすうちに彼に惹かれる心は止められなくて……。
彼はアルエットを幸せにするために、大きな決断を……!?
※Rシーンにはタイトルに「※」印をつけています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる