5 / 41
お茶会
しおりを挟む
私には月に一度外せない用事がある。
休日にお洒落を楽しむとか、魔術書を漁るとかそんなのではない。
最近はただの詰問会に成り下がっているが、私の大好きな方々とのお茶会である。
ここは公爵家のタウンハウスのサンルーム。
初夏の日差しを受け、クチナシの木がさわさわと揺れ香りを運んでくる。
そんな爽やかなひと時の中、公爵家秘蔵のブレンドティーを優雅に嗜みながら不釣合いな雑音が流れて思わず顔をしかめてしまう。
「ロゼッタ!まだノア・グランヴェルと付き合ってるのか!?目を覚ましなさい。彼奴と連んでも碌なことにならんと言ってるだろ!!」
大きな音を立てて扉を開け、大股で近寄ってくる金茶色の癖毛をそのまま後ろに撫で付け、軍服の上からでもわかる筋骨隆々の体躯をお持ちのお方が王弟であり、我が国陸軍将軍閣下のマテオ・シールズである。
そして――
「マテオ、少し落ち着け。ロゼッタ、今日も素敵だな。変わらず元気だったかい?早速マテオがすまない。変な噂を耳に入れたようで誤解しているようだ」
「マテオ様、ウィリアム様お久しぶりでございます。皆様のおかげで、毎日楽しく過ごさせていただいております」
淑女の礼をし二人に向き合う。
マテオよりは細身だが鍛え上げた体躯で銀髪に碧眼と、昔はモテたであろう偉丈夫が海軍元帥ウィリアム・リンドバーグ公爵閣下だ。
「ウィル!そうは言っても心配ではないのか!?うちのロゼッタに変な虫、すこぶる変な虫がついてしまったではないか!!」
国の一大事でもないのに動揺しているのは、最近のノアとの関係を気にしてのことらしい。
「ほっほほ、ウケる」
「“ウケる”ではありませんよセス様。本当、殿方達ときたら……ごめんなさいな、ロゼッタ。せっかくの茶会なのに騒がしくて」
爆笑し若者言葉も使えるお茶目な私の師、前魔術師長セス。
そして金髪碧眼が美しい淑女の見本リリー公爵夫人が彼らを窘めてくださった。
「いえ、皆様にお会いできるだけで私は幸せですので、お気になさらないで下さい。リリー様もあまり怒らないであげてくださいな」
「あなたは……わかりましたロゼッタに免じて。殿方たち、一ヶ月ぶりに会いに来てくれたレディをしっかりおもてなししてあげなさいな」
少し呆れながらも遅れて来られたお二方のティーセットの準備をメイドに頼んだ。
“毎月必ず会いに来ること”を条件に私はこの国で成人とされる十八歳で公爵邸を出て、一人で身を立てることを許してもらえた。
月に一度の茶会は本当に気ままに近況を語り合う場で、仕事の話はしない。
たまにオタク熱が出て盛り上がってしまうが、彼らなりに線を引き私に気を遣ってくれているのであろうと思ってる。
何せ彼らはこの国の中枢を担う大御所だ。
マテオに至っては王族で、ウィリアムは高位貴族のトップ、セスは前任の魔術師長だ。
彼らが右と言えば、左も右になる。
我ながらすごい面子に拾ってもらえたものだなと感心してしまう。
そんな彼らが純粋に愛を向けてくれたから、私もそれに報いたいのだ。
そんなこんなで近況報告をしているが、未だにソワソワと落ち着きのないお方がいる――マテオだ。
「ゴホンッ……ところでロゼッタ……その……」
――やっぱり気になってるのか。心配性だな。
「ノアのことですか?何度も言いますが、本当に何もありませんよ。個人的に依頼を請け負ってますが、決してやましい関係ではありません。どんな噂なのか知りませんが、純粋にノアとの交流は私の魔術師としての見識を広めるだけですよ。まぁ、最近は飲みに行ったりなどはしますが、本当に男女の雰囲気とかではなく、魔術師同士の語り合い的な……」
最後の方はなぜか恥ずかしくなり声が小さくなってしまった。
恋愛感情などかけらもないが、これでは誤解されるかも。
「ほっほほ、ウケるウケる。まぁ、マテオが心配するのもわかるが、単純なる意見交換の場じゃろうて。ノアとの接点はロゼッタにとってマイナスにはならんじゃろ。そこは儂の名に誓おう」
最近知ったことだが、セスはノアの後見人だ。
――伯爵家の三男坊が家出をし、拾って弟子にした――と聞いた時は本人から聞かされてない出自を知ってしまっていいのかと焦ったが、貴族の中では公になっていて周知の事実なのだとか。
「セス殿の名に誓わずとも……ただ俺はロゼッタの幸せだけを願ってるだけだ。彼奴に絡まれただけで、変な虫が湧くだろう?それでロゼッタが傷付きでもしたら、俺は……」
大きな身体を小さく縮めるマテオを見れば、いつもの威厳あるお姿しか知らない国民たちは驚くだろう。
そんな些細なことが心を暖かくする。
「マテオ様、心配してくださりありがとうございます。でも本当に何もないんですよ。私も少し……覚悟してましたけど、本当に何もなくて!教えていただいた護身術や毒舌を披露できなくて逆に困っています」と笑えば、マテオも――そうか。と目尻を下げ琥珀色の綺麗な瞳を見せてくれた。
「悪意ある噂は事実出回っている。気をつけるんだ、ロゼッタ。君やグラヴェルがいくら真実を口にしても、悪意ある虫はどこからでも湧いてくる。……それらの悪意から守る為に我々はいる。それだけは忘れないでくれ」
隠さず現実を示し愛を持って諫言してくれる、頼もしすぎるウィリアム。
――私は本当に果報者だ。
「今度は女子会を開きましょう。殿方がいては恋の話もできないもの」と母のように包み込んでくれるリリー。
この場にはいないが公爵家の三兄弟も私を妹のように思ってくれている。
――この方達に恥じぬように。
彼らが見守ってくれる。それだけで私は心からの笑顔で大きくうなずける。
休日にお洒落を楽しむとか、魔術書を漁るとかそんなのではない。
最近はただの詰問会に成り下がっているが、私の大好きな方々とのお茶会である。
ここは公爵家のタウンハウスのサンルーム。
初夏の日差しを受け、クチナシの木がさわさわと揺れ香りを運んでくる。
そんな爽やかなひと時の中、公爵家秘蔵のブレンドティーを優雅に嗜みながら不釣合いな雑音が流れて思わず顔をしかめてしまう。
「ロゼッタ!まだノア・グランヴェルと付き合ってるのか!?目を覚ましなさい。彼奴と連んでも碌なことにならんと言ってるだろ!!」
大きな音を立てて扉を開け、大股で近寄ってくる金茶色の癖毛をそのまま後ろに撫で付け、軍服の上からでもわかる筋骨隆々の体躯をお持ちのお方が王弟であり、我が国陸軍将軍閣下のマテオ・シールズである。
そして――
「マテオ、少し落ち着け。ロゼッタ、今日も素敵だな。変わらず元気だったかい?早速マテオがすまない。変な噂を耳に入れたようで誤解しているようだ」
「マテオ様、ウィリアム様お久しぶりでございます。皆様のおかげで、毎日楽しく過ごさせていただいております」
淑女の礼をし二人に向き合う。
マテオよりは細身だが鍛え上げた体躯で銀髪に碧眼と、昔はモテたであろう偉丈夫が海軍元帥ウィリアム・リンドバーグ公爵閣下だ。
「ウィル!そうは言っても心配ではないのか!?うちのロゼッタに変な虫、すこぶる変な虫がついてしまったではないか!!」
国の一大事でもないのに動揺しているのは、最近のノアとの関係を気にしてのことらしい。
「ほっほほ、ウケる」
「“ウケる”ではありませんよセス様。本当、殿方達ときたら……ごめんなさいな、ロゼッタ。せっかくの茶会なのに騒がしくて」
爆笑し若者言葉も使えるお茶目な私の師、前魔術師長セス。
そして金髪碧眼が美しい淑女の見本リリー公爵夫人が彼らを窘めてくださった。
「いえ、皆様にお会いできるだけで私は幸せですので、お気になさらないで下さい。リリー様もあまり怒らないであげてくださいな」
「あなたは……わかりましたロゼッタに免じて。殿方たち、一ヶ月ぶりに会いに来てくれたレディをしっかりおもてなししてあげなさいな」
少し呆れながらも遅れて来られたお二方のティーセットの準備をメイドに頼んだ。
“毎月必ず会いに来ること”を条件に私はこの国で成人とされる十八歳で公爵邸を出て、一人で身を立てることを許してもらえた。
月に一度の茶会は本当に気ままに近況を語り合う場で、仕事の話はしない。
たまにオタク熱が出て盛り上がってしまうが、彼らなりに線を引き私に気を遣ってくれているのであろうと思ってる。
何せ彼らはこの国の中枢を担う大御所だ。
マテオに至っては王族で、ウィリアムは高位貴族のトップ、セスは前任の魔術師長だ。
彼らが右と言えば、左も右になる。
我ながらすごい面子に拾ってもらえたものだなと感心してしまう。
そんな彼らが純粋に愛を向けてくれたから、私もそれに報いたいのだ。
そんなこんなで近況報告をしているが、未だにソワソワと落ち着きのないお方がいる――マテオだ。
「ゴホンッ……ところでロゼッタ……その……」
――やっぱり気になってるのか。心配性だな。
「ノアのことですか?何度も言いますが、本当に何もありませんよ。個人的に依頼を請け負ってますが、決してやましい関係ではありません。どんな噂なのか知りませんが、純粋にノアとの交流は私の魔術師としての見識を広めるだけですよ。まぁ、最近は飲みに行ったりなどはしますが、本当に男女の雰囲気とかではなく、魔術師同士の語り合い的な……」
最後の方はなぜか恥ずかしくなり声が小さくなってしまった。
恋愛感情などかけらもないが、これでは誤解されるかも。
「ほっほほ、ウケるウケる。まぁ、マテオが心配するのもわかるが、単純なる意見交換の場じゃろうて。ノアとの接点はロゼッタにとってマイナスにはならんじゃろ。そこは儂の名に誓おう」
最近知ったことだが、セスはノアの後見人だ。
――伯爵家の三男坊が家出をし、拾って弟子にした――と聞いた時は本人から聞かされてない出自を知ってしまっていいのかと焦ったが、貴族の中では公になっていて周知の事実なのだとか。
「セス殿の名に誓わずとも……ただ俺はロゼッタの幸せだけを願ってるだけだ。彼奴に絡まれただけで、変な虫が湧くだろう?それでロゼッタが傷付きでもしたら、俺は……」
大きな身体を小さく縮めるマテオを見れば、いつもの威厳あるお姿しか知らない国民たちは驚くだろう。
そんな些細なことが心を暖かくする。
「マテオ様、心配してくださりありがとうございます。でも本当に何もないんですよ。私も少し……覚悟してましたけど、本当に何もなくて!教えていただいた護身術や毒舌を披露できなくて逆に困っています」と笑えば、マテオも――そうか。と目尻を下げ琥珀色の綺麗な瞳を見せてくれた。
「悪意ある噂は事実出回っている。気をつけるんだ、ロゼッタ。君やグラヴェルがいくら真実を口にしても、悪意ある虫はどこからでも湧いてくる。……それらの悪意から守る為に我々はいる。それだけは忘れないでくれ」
隠さず現実を示し愛を持って諫言してくれる、頼もしすぎるウィリアム。
――私は本当に果報者だ。
「今度は女子会を開きましょう。殿方がいては恋の話もできないもの」と母のように包み込んでくれるリリー。
この場にはいないが公爵家の三兄弟も私を妹のように思ってくれている。
――この方達に恥じぬように。
彼らが見守ってくれる。それだけで私は心からの笑顔で大きくうなずける。
0
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
多分、うちには猫がいる
灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
傭兵のコウの家には、いつの間にか猫が住み着いていた。
姿は見えないけれど、多分、猫。
皿を洗ったり、洗濯をしたり、仕事を手伝ったり、ご近所さんと仲良くなったりしているけど、多分、猫。
無頓着な傭兵の青年と、謎の猫のステルス同居物語。
※一話一話が非常に短いです。
※不定期更新です。
※他サイトにも投稿しています。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~
exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。
家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。
愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。
一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。
ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。
涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。
薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない
宮永レン
恋愛
エグマリン国の第二王女アルエットは、家族に虐げられ、謂れもない罪で真冬の避暑地に送られる。
そこでも孤独な日々を送っていたが、ある日、隻眼の青年に出会う。
互いの正体を詮索しない約束だったが、それでも一緒に過ごすうちに彼に惹かれる心は止められなくて……。
彼はアルエットを幸せにするために、大きな決断を……!?
※Rシーンにはタイトルに「※」印をつけています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる