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危機一髪
しおりを挟むぱちりっと目が覚め、起きあがり周りを見渡す。
朝日が差し込み、見慣れた懐かしい部屋の風景が見える。
「……え゛っ!!!なんで!?」
ここは私の部屋、そう昔の――リンドバーグ公爵邸別邸の私の部屋で朝を迎えたのである。
コンコンと音が鳴り、体が飛び跳ねる。
入室の許可をし「お目覚めですか、お嬢様?」とメイド長のテレサが顔を出す。
「おっ、おはようございますっ!テレサさん!!あ、あ、あのぉ……」
「昨晩は大分お酒を嗜まれたようで……お年頃なのだから、お気をつけ下さいませ」
なぜか朝帰りをしてバレた気分だ、というか……背中に冷や汗が伝う。
「なぜ、ここに……?」
「あぁ、グレンヴェル卿にお礼をして下さいませね。昨夜、酔い潰れたお嬢様を抱えて当家まで運んでくださいましたのよ」
ヒッと喉が引き攣り、冷や汗が止まらない。
「あの時の旦那様のお顔は見ものでございました。あぁ、本日は偶然にも坊ちゃま方もお帰りになっております。本邸にお嬢様がお顔をお出しになれば、さぞお喜びのことでしょう」
――それは死刑宣告です!!!
知られたのならば逃げられない。
諦めるしかない、と自分に言い聞かせ、ノロノロと支度をする。
本邸に向かう間に昨夜のことを思い返す。
確かに、休み前もあって、いつもより飲んだ記憶があるが酔い潰れるほどではない。
私が気を失う理由なんて一つしかなく、鮮明に思い出してしまい顔が熱くなり鼓動が早すぎて痛い。
ただ、今向かっているのは猛者たちのいる戦地であると思い出し、その瞬間、今度は冷や汗が伝う。
朝から、赤くなったり青くなったり忙しない挙動不審な自分を落ち着かせるように、深呼吸をして、また歩き出す。
「……失礼します……」
恐る恐る扉を開け、声を殺し入室する。
そこには、威圧感満載の四人の猛者たちが鎮座していた。
――あぁ、こりゃ詰んだわ……
「早く入って挨拶でもしなさい。怒ってないから」
「失礼しました。おはようございます……ウィリアム様。……お久しぶりでございます、ディラン様、オーウェン様、ワイアット様……あ、あの、えっと昨晩はご迷惑おかけしまして……申し訳ありません!あ、あの急な宿泊のご準備もありがとうございました!以後このようなことがないよう気をつけますのでっ!!」
圧力に耐えかね、淑女らしからぬ挨拶をしてしまった。
「いや、面白いものが見られて良かったよ。体は大丈夫?大分ぐっすりしてたからな……兄さんたち、顔が怖くてロゼが萎縮しちゃうよ」
怒れる猛者たちに諭しながら忠言してくれたのが、三男で陸軍少佐のワイアット、年齢も二十八歳で一番歳が近く気楽な間柄だ。
「ワイアット様、お心遣い感謝いたします。あの……「ロゼ、私たちは怒ってはいない。怒ってはいないんだ……」
私の言葉を遮り、頭を抱えているのが長男のディラン。
海軍大佐で容姿も若い頃のウィリアムにそっくりなのだとか……眉間の皺が威圧感を増幅させているが。
「ロゼ、おはよう。君はどんどん綺麗になるね。うん……そう、だから私たちは怒ってはいないんですよ。怒っては。君のことを心から心配しているだけなのです。狭量な私たちを許して欲しい」
「きょ、狭量だなんて!ご迷惑をおかけしたのは私の方ですので!!」
彼が二男のオーウェンで中央局で宰相補佐官を務めている。武官の二人に比べると物腰は柔らかいが辛辣だ。
オーウェンとワイアットはリリー似と言っていい。
「お前たち……気持ちはわかるが、少し冷静になりなさい。それで、ロゼッタ、体は大丈夫かい?話ができるようなら、是非聞きたいのだが、どうだろうか」
――いや、拒否権ないじゃん!なんでリリー様がいないのっっ!
「リリーは昨日から所要で実家に帰っていてね、申し訳ない」
「ひっ」――なんで心読めるのよ!?ウィリアム様怖ずぎる!!
「ロゼは顔に出過ぎなんだよ!俺でもお前が何考えてるかわかるぜ」
「っ!ワイアット様っ!」恥ずかしすぎて顔が赤くなっているのがわかる。
まぁまぁとたしなめられ、とりあえず進められるままに席につき紅茶を一気に飲み干す。
行儀が悪いのは、重々承知だ。それでも一気に煽らなければやっていられない。
その勢いで昨夜の出来事、もちろんノアとの諸々は割愛し深酒のていで話をした。
「何もないのは十分理解したが、相手は若い男なんだ。何があってもおかしくないんだ。それは理解しているね?」
最初に口を開いたのはオーウェンだ。
「はい……もちろんです」
「しっかし、話には聞いていたけど本当に仲良くなったんだね。あの、グランヴェルと」
「えっと…まぁ、お互い魔術師として話が合うと言いますか……」
「ふ~ん、あのグランヴェルとね」となぜか意味深で言うワイアットに首を傾げていると
「ロゼッタはグランヴェルが、どんな奴なのかちゃんと理解しているのか?本当に無体なことはされていないのだな?お前のことは信じてはいるが……」
「父上、それ以上は。ロゼッタも私たちが危惧していることは理解したと思います。そうだろ、ロゼ?」
ここまで真摯に伝えられれば、言わんとしている事は十分理解できるし、実際に一歩手前まで進んでしまったのだ。
ノアの気持ちを知ってしまってる以上、この関係は変えざるを得ない。
そう気づいた瞬間、ズキリと胸が痛みだす。
恋心ではない――はず、ただ気心の知れた仲だった為、寂しいだけと知らないふりをする。
「……はい……理解してます。もう……ノアとは……」
認めてしまいそうで声が震え、目元が潤む。
心が痛く、涙を見せまいと思わず顔を俯いてしまう。
「ロゼッタ?グランヴェルと何かあったのか?」と心底心配している声が聞こえるが顔を上げることができず、子供のようにブンブンと顔を横に振ることしかできなかった。
膝の上で硬く握りしめた手に、暖かい手が重なり顔を上げるとワイアットがそばに寄り添ってくれていた。
その優しい瞳と、相手がワイアットだったこともあり本音が出てしまう。
「……ノアが……ぐすっ……好きって言ってくれて……っぅ、でも、私、っ、恋とかよくわからなくてっ……何も言えなかったっ。ただ、ノアとの関係が崩れてしまうのは、嫌、なんです……ぅぅ、っ、すごく楽しかったから、寂しい、ってっ、…都合がいいのはわかってますぅぅ。でも、っでも、っノアと会えないのはっ、すごく…悲しいんです…今度ノアと会う時、どんな顔して会えばいいか……」
「「「「…………」」」」
沈黙に気付き、俯いた顔を上げると四人が目を見開き凝視している。
思わず涙も引き体が硬直してしまう。
――怖い、何!?
ウィリアムとディランが同時に立ち上がり、その勢いでガタンっと椅子が倒れる。
驚いている横で、なぜかワイアットは腹を抱えうずくまり、オーウェンは眉間を揉んでいる。
――えっ、本当何!?ワイアット様笑ってる!!??
「所用を思い出した、急に申し訳ないが失礼するよ、ロゼッタ。また、すぐ来なさい。使いを出す。ディラン、付いて来なさい。オーウェン、ワイアット、あとを頼む」
返事を返す前に、颯爽と部屋から出て行く二人の背中を唖然と見送る私と、今度こそ声を我慢せず笑い出すワイアット、肩を落とし眉間の皺が濃くなるオーウェンだけが取り残された。
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