【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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15years ago & encounter said Noah

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 ――十五年前の、あの出会いを俺は生涯忘れない――

 十歳の小さなモフモフの女の子。
 小さな顔の中にある、こぼれ落ちそうなその瞳の色は複雑で、太陽の光と共に様々な色彩を放っていた。
 初めて何かに心を奪われた瞬間だった。 

 セスに連れられて、どこかの大貴族の屋敷に来た。
 十七になってもまだ社交に付き合わなきゃいけないのかと、嫌々付いていったことを覚えてる。
 セスと一緒に挨拶した銀狼みたいなおっさんに言われ庭で時間潰しをしていたら、そこに彼女がやって来た。
 小さい体で、一生懸命走って来る彼女は元気に挨拶をし、庭を案内してくれるという。
 子守かと戸惑いはあったが、そんなことよりも彼女から目が離せなくなった。

 その目を見た瞬間から、俺は囚われていた。

 十歳だという彼女は、世間に疎い俺でも年相応ではないとわかるくらいに小さかった。
 彼女はたくさん話してくれた。
 彼女の生い立ちも、きっと話せる範囲で。
 孤児で魔力があって、運良く助けてくれる人ができて、その人達に恩返しがしたいと。
 彼女はわずか十歳のその小さい体で、前を向いて全力で生きているのが伝わった。

 俺は彼女と自分を重ねた。

 何もかもが嫌になって逃げ出したあの時、たまたま運良くセスに拾われた。
 でも、彼女を見ていると、この七年間の自分は何て怠けていたんだろう、逃げていたんだろうと理解し、絶望した。
 俺の異変に気付いた彼女は、面白いくらいおどおどし始めた。
 それがおかしくて笑顔になれた。
 その時の彼女の言葉と笑顔は俺にとっての、道になり宝になった。

「お兄さんはとても素敵な方ですね!師が言っておりました。過去に何があっても、前を向ける人は素敵だと。私には、お兄さんがとても素敵に見えるのです!!きっと泣きたいこと、一人で寝るのが寂しいこと、いっぱいあったのに、前を向いて歩んでこられたから、素敵な笑顔になれるのですよね!!」と。

 彼女は神秘的な目を爛々と輝かせ、俺を見つめている。

 “あぁ、恥じることのないように生きよう”と初めて思えた。
 誰に何を言われようと、彼女には恥じぬようにと。

 だから、彼女の目の前で彼女と同じような瞳の色の魔石を作り、心からの笑顔で彼女に感謝を伝えた。
 すると、また彼女は違う表情でおどおどし始めて、それもおかしくて、本当に久しぶりに声を出して笑った。
 そのすぐ後、銀狼のおっさんとセスが来て彼女とも別れの挨拶をした。
 ――大事にしなます。御守りにします。と言ってくれた彼女。

 またすぐに会えると思っていたけれど、それっきり会えなくなった。
 セスに聞いても教えてくれない。
 それでも彼女との思い出も、決意も俺の心にずっとあった。

 恥じぬようにと。

 その結果、史上最年少の魔術師長になった。


 あぁ、どこかにいる君へ。
 君にとって今でも俺は素敵な人に見えるか?
 君はどんな素敵な女性になったんだろう?

 ――まだ見ぬ君を思うよ――

 あれから十五年、俺なりにやってきたつもりだ。
 ただ三十を過ぎても、あの時の衝撃が忘れられない。

 この感情は何なのかいまだにわからずじまいだ。

 平時だというのに、最近は特にくそ狸や狐、蛆虫共が煩わしく心身共に疲れ切っていた。

 ――最後に休んだのはいつだ!?
 ――この俺が女も抱いてない!?くそっ!

 “魔術師団長”の称号と共に有り余るほどの金と名誉、権力を手に入れた。
 顔がいい、金がある、権力がある、それだけで嫌というほどの女たちが寄ってくる。
 少し甘い言葉を囁けば、瞳を潤ませ見つめ股を開いてくる。
 性欲の捌け口ならいくらでも困ることはなかった。
 ただいくら女を抱こうが、自慰しようが心が満たされ、埋まることはなかった。

 ――所詮、俺は恋愛や愛などとは無縁なのだろうな。

 愛や恋などの情を感じたことがない、だから期待もしない。
 執着にも似た熱情など自分は皆無だと――いや、一度だけ――

 ――あの瞳に映りたい――

 これは恋慕か希求か。

 執務椅子に深く背を預け、溜息をつく。

 ふと執務室の書類に手を伸ばし、思考する。
 今、掛け持っている遺跡調査で見つかった魔術書。
 どうしても理解できない古文があり、少し悔しさを感じながら気分転換にでもと、何年ぶりかに図書館に行くことにした。

『魔術先進国モルガコックス王国魔術図書館』
 その名の通り、魔術に秀でた国であるからして、自国、他国の歴史や魔術、魔法、呪い、薬、多種多様の幅広い書や研究資料がここに集まる。
 それらを管理、研究している機関がここ魔術図書館だ。

 久しぶりに訪れたそこは、何千年も時を生きた荘厳に佇む大樹でできた図書館だ。
 瑞々しい若葉の香りと、木と土の香りが、疲れた心を僅かに軽くする。

 ――こんないい場所だったか。

 立ち止まり物思いに耽っている横を足早に人影が通る。
 艶やかに黒く少し癖のある髪を、大雑把に後ろでひとつに括り支給の制服を着て駆ける女性の背中が見えた。

 彼女の手から紙が落ち、声をかける。

 振り向いた彼女を見て、時が止まった。

 違う、動き出した。

 彼女の瞳は、昔と変わらず太陽の光で様々な色彩を放っていた。
 紙を受け取った手首にしているブレスレットには、あの時の魔石が見えた。

 ――間違いない、彼女だ――確信へと変わる。

 少女は花咲き誇る女性に変わっていた。
 あの頃より癖は少なくなっているが、無造作に括り上げている髪は漂う絹のようで、女性らしい体のラインは支給の制服を着ていてもわかった。

「ありがとう」と笑った顔は、あの頃より大人びているが瞳の奥の好奇心はそのままだった。

 彼女は俺に気づいていないのだろう。
 でも“やっと逢えた”その思いだけだった。

 ――もう見失わない、彼女のそばに――

 拳を強く握り締め、彼女の姿を目に焼き付けるように、背を見送りながら決意した。
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