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激突
しおりを挟む魔術師団の団長執務室の扉が音を鳴らし開かれる。
「人払いを」
覇気を纏い入室して来た人物たちに誰もが否と言える者はおらず、威圧感が執務室を満たす。
溜め息混じりに部屋にいた者たちに退出を促す部屋の主人は、目の前の人物たちに臆することなく鋭い眼光を向ける。
「ご用件は」
「ロゼッタに何をした」
怒気を含み吐き捨てるように言い放つウィリアムは、先ほどより眉間に深い皺を寄せる。
「何とは」と煽るように淡々と対応するノアに対して声を荒げたのは、ディランが先だった。
「昨晩のことに決まっているだろうが!?父上が聞いているのだ、答えたらどうだ!!」
ノアは二人を冷めた目で見据え、わざとらしく大きなため息を吐く。
「では、まず。先触もなしに来られては迷惑です、以後ご注意を。それと一つ質問を」
「その件に関しては、申し訳ない。質問とは何だ」
頭に血が上っていたとはいえ、相手は最高権力者と同等の地位を持つ魔術師団団長だ。
礼を欠いたのは事実の為ウィリアムは素直に謝罪をする。
横ではディランが気に食わないように身じろぐが、ウィリアムの態度でノアも少し軟化しはじめる。
「では、閣下。もう、私には隠さないのですか?十五年間も隠してきたのに?貴方たちがロゼッタをどうしたいのか、私にはわからないし、正直興味がない。ただ、ロゼッタを苦しめるのであれば私は容認できない。昨夜はただ一人の男として好いた女に気持ちを伝えた、それだけです。何か問題でも?」
執務机がバンっと大きな音を立て、ウィリアムが乗り掛かる。
「あの子は血がつながっていなくとも私たちにとってかけがえのない存在だ。傷付けることは断固として許さん。混乱をもたらすだけの今のお前の存在など捻り潰してくれよう、舐めるなよ糞餓鬼」
紳士の皮が剥がれ、歴戦の猛者の怒気が部屋を震わせる。
「舐めるなよ糞銀狼爺、てめぇらこそ守り切れんのか?詰めが甘ぇんだよ。俺にとってもロゼッタは唯一なんだ。誰にも傷付けさせやしない」
「それはお前も含まれているのか?」
冷静な声が二人の間に囁かれ平静な空気が流れ始める。
「もちろんだ、ディラン殿。ロゼッタを傷付けることは俺自身も許さない。名に誓おう。俺はロゼッタを愛している。何者にも変え難い、俺の唯一で最愛だ。全ての脅威や陰謀から彼女を守る。彼女を害する者は地獄を見ると思え」
深い青の瞳には計り知れない激情が灯り、男の誓いが真実だと告げ、三人の間に静寂が訪れる。
静寂を切り裂いたのは「ほっほほ」と気の抜けた声だった。
「魔力が溢れておるぞ、ノアよ。抑えよ、未熟者めが」
「セス様、なぜここに」驚愕の表情でウィリアムが訪ねる。
「何、お主たちの危機迫る勢いで、皆がびびっておってな。儂に助けを求めてきたのじゃよ」
チッと盛大に舌打ちをするノアを気にすることなくセスが話し始める。
「お主たちも少し冷静になりなされ、ロゼッタを大事に思うのは皆同じ。我らが揺らげば、隙をつく虫が湧く。現にノアが言っておったじゃろ。きな臭い、あぁ臭い臭い、嫌じゃの……蛆虫は。あの子が七年間、身一つで築き上げてきたものに手を出されることがあってはならん。絶対に。わかっておるか?」
先程まで掴みどころもなく飄々としていたセスの目の色も変わり、真剣味を帯びる。
「誠なのですか、セス殿?軍も貴族院も今は動きがないようですが」
ありえない、と呆気に取られるディランを横目にウィリアムはノアを見据える。
一旦目を伏せ、ノアが深いため息を吐き、捲し立てる。
「だから詰めが甘いと言っている。動くとしたら三ヶ月後の評議会だ。蛆虫が湧く場所は一つじゃない。虫はゴミ溜めにいるだけじゃない、綺麗な場所だけに湧くわけでもない。どこに目を付けてやがるんだ」
吐き捨てて言うノアに対し、ディランが乗り出し腕を伸ばすが
「よせ、ディラン!忠言、感謝するグランヴェル。我らも今以上に潰しに参ることを剣に誓おう」
「……ならいい。閣下、落ちぶれ奪爵された貴族も目を見張れ。以上だ」
もう話すことはないと、執務椅子ごと彼らに背を向けるノア。
その背に向かいウィリアムは最後に聞きたかったことを聞く。
「本気なのか?……それならば、ロゼッタの義父として、こちらも忠告する。泣かせるな、以上だ。騒がせてすまぬ、失礼」
扉が閉まり――あたりまえだ――と掠れた声が執務室に静かに響いた。
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