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久々のお茶会
しおりを挟むノアと両思いになってから数日がたった。
今はノアの進言もあり公爵邸から出勤している。
話が嘘に感じるほど私の日常は変わりなく、それがまた少し不安を煽っていた。
発表会も終わり久しぶりに恒例のお茶会を開くことになった。
サンルームを忙しなくメイドたちがリリーの指示で動き回る。
いつにもましてやる気を感じるのはなぜだろう。
その光景を呆然と眺めていると扉が開かれマテオを先頭に公爵家の男性陣が姿を現した。
皆、軍服に身を纏いその光景は圧巻である。
珍しい顔ぶれに思わず、カダリと行儀悪くも椅子の音を鳴らし立ち上がる。
「え!?皆様!?いかがなさいましたか!?」
各々に目を向け訴えるように問うが、答えたのはワイアットだった。
「やぁ、ロゼッタ。今日は兄さんたちも手が空いていてね。遊びに来たよ、一緒にいいかい?」
「そ、それはもちろんですが……皆様がお集まりになるとは……部下の方にご迷惑ではないですか?」
疑問に思っていたことを素直に聞くと、それに答えたのはディランだ。
「問題ない、今は特にやることもないからな。我らがいなくとも、どうにでもなる」
「そうですよ、ロゼッタ。むしろ私たちは働き過ぎな部類です。我らが休まなければ、部下も休みづらいでしょ?なので今日は、ロゼッタと母上に癒しを頂こうと思いまして」
オーウェンの言葉に兄弟たちがうなずき、彼らの後ろからマテオとウィリアムが歩み出た。
ガバリと大きな体躯に抱きしめられ、驚きに身体を硬直させているとマテオの肩越しから声がかける。
「愚息達がすまないね、ロゼッタ。どうしても今回は断れなくてね」
「我らの憩いの場を邪魔するとは、偉くなったものだな。せっかくロゼッタを独占できると思っておったのに……」
私の頭にぐりぐりと頬擦りをしながらマテオがぼやく。
「マ、マテオ様!!私はもう子供じゃないのですよ!!ちょっ、痛い痛い!!く、苦しいですマテオ様!!」
男性陣の中でも一際がっしりした体躯の持ち主のマテオに抱き締められるなど、年頃を過ぎてからは記憶がない。
恥ずかしさと驚きが入り混じり、マテオの腕の中から這い出ようとするがビクリともしない。
――本当どうしちゃったのよ!こんなマテオ様初めて見たし、みんなに見られてるのに~!!
背中をタップしても離してもらえず、どうしたものかと思考しているとベリッと音がしそうなほど肩をつかまれマテオから引き剥がされた。
そして次に訪れたのは、嗅ぎ慣れた爽やかなハーブの香りと、安らぎをくれるたくましい身体と温もりだった。
――えっ?
「義父とは言えやり過ぎです。節度を持ってください」
見上げれば、国一の美丈夫。ただそれに似合わない殺気を含む深い青い瞳がマテオ達を射抜いていた。
「え! ノア!? なんで!!??」
私の声に反応して目が合うと、先程の殺気は消え失せ、蕩けるような笑顔が返される。
「ロゼに会いたくて。いいか?」
その甘い声が鼓動を速くさせ身体を熱くさせる。
言葉がのどに詰まり頭をカクカクと縦に振ることしかできない。
「うげ」「何だと!?」「砂糖吐く」とか諸々聞こえた気がしたがそれどころではない。
ノアがこの場にいるという事実が驚きと共に心を暖かく満たしてくれる。
「殿方たち、いい加減になさいませ。ロゼッタは淑女ですよ。グランヴェル卿もお越し下さり感謝いたしますわ。さ、席についてお茶会を始めましょう」
――リリー様が張り切っていたのは、ノアを招待していたからなのか。
心がポカポカと温まり最愛の人を最愛の人たちに紹介できることに浮き足立つ私はこれからの出来事など微塵も考えていなかった。
リリーに促され各々が席につきお茶会が始まった。
「ほっほほ、しかしまぁ甘々じゃなぁ」
揶揄しながら優雅に長い髭を弄って楽しそうにしている好々爺の横には、殺気を隠さず怒気を纏った猛者たちが鎮座していた。
なぜか私はノアに腰を抱かれてぴたりと隙間なく座らされている。
ノアは気分がいいのか勝ち誇った笑みを浮かべながら優雅にお茶を嗜んでいる。
何度か離れようと足掻いたが、微動だにしないその態度に諦めの境地だ。
ただただ目線が痛い、とてつもなく。
「して、お前は何しに来た」
どすの利いたマテオの声がサンルームに響く。
肩がビクリと跳ね、隣のノアを仰ぎ見る。
――そう言えば、なんで来たんだろ。
「改めて挨拶に伺いました。ご覧の通り、十五年を経て私たちは思いが通じ合いましたので正式な手順をと……」
首を傾げノアを見るが、ただ蕩ける笑顔を向けただけで何を考えているのか私にはわからない。
助けを求めるようセスとリリーを見ても、他人事のようにニヤニヤしながらお茶を嗜んでる。
その相反する歪な光景に不吉な予感がして冷や汗が止まらない。
「正式な手順だと?」
マテオに劣らない低い声でウィリアムが問うが、どこ吹く風のようにノアが答えた。
「えぇ。後見人で義父の御二方に、こちらにサインを頂きたく挨拶に伺いました。あぁ、ご存知だと思いますが、こちら側はセスがサインをしておりますので」
そう言いながら机の上に取り出した書類を私も前屈みになり覗き見る。
「「「…………………………」」」
「え゛ぇーーーーーーーー!!!」
「「この糞餓鬼が!!」」
驚きすぎて二人の暴言を無視し、今はノアを問いただすことが優先だ。
「ちょっ、ちょっとノア!私聞いてない!!こっこれ!」
「ロゼッタは俺が夫じゃ不満か?」
眉尻を下げ瞳を揺らし聞かれたら否とは言えない。
なんせこの顔に弱いことは自覚しているし、なにしろ嬉しい。
考えなかったわけではないが、ついこの間両思いになったばかりなのだ。
浮かれすぎないよう自分を律するのに苦労していた矢先に、婚姻証明書を持ってくるとは……鼓動が早くなるのは仕方がないと思う。
「確かにまだ指輪を交換していなかったか……俺としたことが……」
とまた斜め上のことを言って一人で思考しているノアをほっておき、向かいにいる男性陣の方を見やる。
反応はそれぞれのようだが空気が重い。重すぎる。
これから出陣するような殺意をひしひしと感じる。
私はその雰囲気に冷や汗が止まらないというのに、隣のノアは気にも止めず、いまだにブツブツと何か考えているようだ。
ーやばいやばすぎるーと本能が訴えかけている中、ウィリアムが口を開く。
「我が娘を妻に求めるか」周りを凍てつかせる声で問う。
「ロゼ以外は考えられない」飄々と答える。
マテオの座る肘掛けがパラパラと木屑を落とした。
「覚悟はできているのだろうな」と身体を震わせる低い声で問う。
「勝負ますか?貴方たちが気が済むのであれば。もちろん全員一緒でも構わない」挑発するように答える。
男たちの魔力が心情を表すように、空気を巻き上げザワザワと草木が鳴る。
睨み合ったままの三人の本気の殺意に、私は身体が動けずにいた。
――何か言わなきゃ、動け動け!!
「見苦しい」と凛とした声と共に、三人の頭上から大量の水がバシャリと降り注ぎ濡れる。
呆気にとられ声のした方を見ると、リリーが扇子を閉じて立っていた。
――リリー様の水魔法なんていつぶりに見たかしら。
未だ呆気にとられている三人の男たちにリリーの嫌悪感むき出しの冷ややかな眼差しが向き、それぞれの体躯がびくりと跳ねた。
「お茶会を台無しにした貴方方は出て行きなさい。反省するまでロゼッタに会えるなど思わないよう」
冷酷な声がサンルームに響き渡った。
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