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闇の中で
しおりを挟む夜の帳が下り人々が寝静まるころ、王都から離れた別荘地にある一つの豪勢な邸宅に、馬の嘶きだけが響く。
この季節には少し早い暖炉に火を熾し、パチパチと火が弾け薄暗い部屋を灯す。
暖炉の前では一人の男がロッキングチェアに寛ぎ、ゆらゆらと揺れる火を眺めている。
その男の瞳は虚空を見つめ、感情を読み取ることができない。
その静寂の中、大きな音を立て、男がいる部屋の扉が開かれた。
一人の老人が部下らしき者たちを引き連れ、無作法な振る舞いで部屋に入ってくる。
「なぜ見つかった!?この使えない馬鹿者どもが」
身なりは立派な服を着ているが、その老人の表情は目が吊り上がり、顔の皺を増やし深くする。
吐き捨てるように引きずっていた女諸共、男の方へ言葉を投げつける。
「お前もお前じゃ!さっさとその汚い股でも開けばいいものを。使い物にもならん。お前にいくら金を使ったと思っておるのだ!!」
人を物としか思っていない言い草が言葉の端々に現れる。
男は何も言わず床に這いつくばる女を一瞥し、視線を暖炉に戻す。
「あっ……わっわたくし、っ……」
女は恐怖で口は震え、瞳からはボロボロと涙が流れ落ちる。
汚らわしい――と男が初めて声を発したが、その声はどこまでも低く冷めた声色。
「――っお、おとぅ、きゃ!!っぃや!やめっぅ」
男に何かをすがろうとした女を、老人が連れてきていた男たちが羽交い絞めにし動きを制す。
女は逃げようと足掻くが屈強な男たちの前では足元にも及ばない。
口元を抑えられ声を発することができないが、視線は男に縋るように、何かを懇願するように涙を流しながら射抜いている。
男は、それでも表情も瞳の色も変わることはなく感情を露にすることはない。
この男は果たして人間か人形か。
捨ておけ、好きにするがいい――と無感情に淡々と冷酷な言葉を発する。
そのやり取りなど興味がない老人が葉巻に火をつけ男を見据える。
後ろからは「お父様、助けて」と悲願の叫び声が木霊していた。
顔色一つ変えることなく男たちは会話を続ける。
「あの女に放った雇った奴らも殺れたのだろう?次はどうするつもりだ。王弟に証拠品もすべて没収されたんだぞ!!我々の事が気付かれるのも時間の問題なのだ!!あの家も使えなくなった。何を考えとる!?」
老人が巻き立て男に怒鳴りつけるが、部屋には火が弾ける音と葉巻を吸う音が響き渡る。
男が老人を一瞥するが何も言わず、視線が暖炉に戻る。
「…こうなれば……あやつらは熱い湯がすきだろ。仲良く浸からしてやればいい」
老人の不穏な発言に何も言わず、男はただただ爆ぜる火を見つめていた。
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