【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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襲撃と回避

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「もうよろしいので?」

 どこからともなく声がかかるが気にせず答えてしまった。

「もう、調べることがありませんから。この魔術書と写しがあれば問題ありません。あとは帰還してからで……」

 ヒヤリと首筋を冷たい剣先が撫でた。

「ご苦労様です。動かないで下さいね。ではそちらを全て頂けますか?」

 ローブを被り魔術師の格好をしているが手練であることは剣先や佇まいで見てとれた。
 横目で辺りを窺うと襲撃者は全部で五人。
 一緒に来ていた司書や魔術師たちは眠らされているのか、床に伸びた状態で身動きしない。

「目的は私だけですか?」
「そうですね。あとは貴方の鞄の中身、ですかね」

 切先を向ける男の手がするりと肩を撫で鞄に触れる。
 声色は男にしては高く独特の抑揚をつける。

「私以外を逃すことを許して頂けませんか?」
「それは無理かと」
「必要なのは魔術書と文献、私の命でしょ?他の人たちは関係ないはずです」
「見られていたら意味がありませんので」

 ローブから覗く口元が妖艶に微笑む。
 左腕のブレスレットが動いた拍子にチャラリと鳴った。遺跡の中を異様な雰囲気が流れる中、男たちは佇んでいる。
 意識があるものは五人のローブを深く被った男達とロゼッタだけ。
 どれほどの実力を持っているかは見当がつかない。
 それでも仲間の司書たちや魔術師たちを避難させる為に隙を伺うが飄々とした態度とは裏腹に隙を感じさせることはなかった。

「それではロゼッタ司書。貴方に恨みはありませんが私どもも仕事ですので」

 周りの男たちが動き何かを囁くと、意識を失っている者たちが動き出す。
 一人一人と立ち上がりふらふらとマグマの方に歩みを進め始める。

「やめて!!その人たちは関係ない!お願い、やめて!」

 どんなに力を入れて足掻いても、掴まれた腕の拘束は解けずその衝撃で剣先が首を掠める。

「ほら、動くと先に貴方が傷付きますよ」

 恍惚とした表情で弱いものを痛ぶるのが心底好きなのだと感じる目と合う。
 奥歯を噛み締め喉の奥から怒りの声が漏れる。

「ゲス野郎」
「いくらでも罵倒してください。早くしろ」

 男たちに向き直り指示を出す。
 また一人また一人と動き出す。

 ――どうにかしなきゃ。みんなを守れるのは私だけ。

 ゆらりとローブを揺らし男の剣先が離れ対峙する。
 狂気的な笑みを浮かべながら剣がかざされるのと同時にバチっと雷鳴の轟音と閃光が辺りを包んだ。

 ロゼッタが自分の枷を外し目眩しをしたのだ。
 男は僅かに蹌踉めきすぐに体勢を立て直しロゼッタの首目掛けて手を伸ばす。

「このあまが!大人しくしてればいいものを」

 喉を塞められ声を出すことは叶わない。
 外されたブレスレットが足元の黒曜石の床に転がる。
 今のロゼッタには枷はない。

 ――私ならやれる。

 足元のブレスレットを踏みつけ、瞳と同じ色彩の魔石がパリンと割れた。

「なにをっ」

 男たちの戸惑う声と共に倒れた人々が光を帯びぼやけ散布し、あたり一面が氷に覆われ始める。

「っ!!何をした!!」

 首を強く閉められ床に投げ出される。

「ぅっ、っごほっ」
「この女がこれほどの実力者など聞いてないぞ」
「早く殺せ」

 言葉を発してない男たちも現状に動揺してるのは見てとれた。
 その中の一人の男の静かな声が響く。

「やってくれましたね。これでは報酬の半分しか頂けないではないですか。…そうですね。では気分を害したので貴方だけは少し痛ぶり殺すとしましょうか」

 狂気の笑みが不気味なほどに溶けている。

「異常者」
「えぇ、なんとでもお好きなように。それにそのご様子では私どもが手を出すまでも無いようにお見受けしますね」

 班員を転移する際の大規模魔法とマグマを凍らせるほどの広範囲魔法で魔力は殆どなく息が上がりはじめる。
 冷や汗が額に浮かび目が霞む。
 久々の高魔力魔術とこの襲撃に体中が強ばる。

 男が腕を振り上げる瞬間ロゼッタの中で走馬灯が駆け巡る。
 もっと生きたいと願い痛みに備えて体をこわばらせたとき、剣戟の音が鳴り響いた。

「なっ!!」
停止ア・レースト

 響く声は胸を締め付ける。
 聞きたくて、その声をずっと聞いていたくて、涙が溢れ出る。

「っノア!!」
「ロゼッタ!!」

 手を伸ばせば強く引かれ、胸の中に抱かれる。

「ロゼっ」

 苦しいほどにきつく抱かれるが、望んでいた抱擁に自らも応えるようにすがる。
 ローブを被る男たちは突然現れたノアに隙をつかれ魔法で停止しているが、いつ解除されてもおかしくはなかった。

「無理するなとあれほど言っただろ!?広範囲魔法に大規模転移なんてっ」「帰ったらいくらでも怒られるから」

 今まで聞いたことのないノアの声に心臓が押しつぶされそうになりながらも冷静になれと己を鼓舞する。
 頭の中の警戒音が鳴り止まない。

「とりあえず…」

 辺りを見回し衝撃で飛ばされた鞄を見つける。
 少し安堵し、きつく掴まれたノアの手を解いて向かおうと足を伸ばした。

「ロゼっ」

 先ほどより悲痛な叫びと衝撃が体全体にかかり、ローブで視界が隠れるそのまま私は床に手をつく形になる。

「っくそが!」

 ノアの声と男たちの声が一瞬にして交差し、体勢を立て直したときには静寂が戻る。
 周りを男たちが呻き声を上げながら転がっているのが見えた。
 その光景で、男たちが魔法を解除し私を狙いノアが庇ってくれたのだと理解する。

「ノア、ごめん。怪我はない?」

 駆け寄る私に安堵したようにノアが笑う。

「ロゼは?怪我、ないか?」
「大丈夫!本当にごめん。気が緩んでた。助けてくれてありがとう。もう、本当何度目って感じで情けない。本当ありがとう」

 言い終わるか否かにノアに抱きすくめられる。

「…ノア?」
「よかった…」
「うん、ありがとう。ノアのおかげだよ」

 背中の腕を回し異変に気付く。
 回した手が生暖かいもので濡れ、ノアの体重の重みを感じる。
 肩越しから僅かに見えた自分の手を見て目を見張った。

「ノア!!」

 瞬時に止血を施す。
 みるみるとノアの表情からは血の気が失せ、何度呼びかけても意識は朦朧としている。

 ――ダメダメダメ、絶対助ける!!

 腹の奥から絞り出すように魔力を循環させ治癒を施す。
 自分の魔力が無くなるのを感じても構わずノアに注ぎ続ける。
 限界を感じ奥歯を食いしばる。
 あらゆる力を総動員して唱えた。

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