【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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紡ぐ思い said Noah

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 トクントクン

 鼓動の音が聞こえる。
 合間に波の音が聞こえ、意識が浮上する。
 鼻腔に潮の香りに混ざり、安心する香りを感じる。

 ――暖かい

 重い瞼と体を動かそうと睫毛が僅かに揺れる。

「…ロゼ」

 少し掠れた声が聞こえ、視界に光が差す。

 顔色は悪く少しやつれてはいるが、最後に見た光景よりも遥かに具合の良いノアの姿に心の底から安堵する。

「…ノア……よかった…」

 頬に涙が流れる。
 暖かい節くれだった手が涙を拭い、頬を包む。

「ロゼ…もう大丈夫だ。…よかった、安心しろ。ずっとそばにいるから」

 ノアの声に安堵し、重い瞼が再び閉じる。
「おやすみ」と聞こえ、私はまた深い眠りの中に落ちていった。

 ――――

「目が覚めたようだな」
「…あぁ、また寝てしまったが。峠は越えただろう……ディラン殿…感謝申し上げる」

 船室を出て甲板に待機していたディランに頭を下げた。

「お前に感謝される筋合いはない。それを言うならロゼの同僚たちに申しあげろ。現地で薬草を採取し、奮闘してくれた。おかげで私も部下たちも何ともない」
「…そうか」
「…お前がいてくれて助かった。妹を救ってくれて感謝する」
「ディラン殿」
「ただ今後も冷静さを欠くようならば俺は容赦しないからな」
「あぁ、あの鉄拳は効いたさ。こちらこそ感謝する
「まだお前にそう呼ばれる謂われは無い!」

 互いの最愛が一命を取り留め安堵し労いあった。

「貴方も無理はなさらず、ここまでだいぶ魔力を使ったろう?」
「この程度…むしろ私にはこれぐらいしかできないのかと歯痒いばかりだった……本当、よかった…」

 最後は消え入りそうな声で囁いて目頭を押さえるディランの肩に手を置いた。

「ロゼッタは幸せ者だな。多くの者が心配し、力になってくれる。家柄も血筋も関係なく…貴方の妹は素晴らしい。それもこれも貴方たちがそばにいたからだろうな」

 男たちは何も話さず暫く水平線を眺めた。

 船で帰還の帰路に就き、あと半日もすれば国に着く頃ロゼッタがやっと意識を回復した。
 魔力枯渇で衰弱しきっていたが、何とか繋ぎ止められて心の底から安堵する。

 ――国につけばセスもいる。本当によかった。

 自分自身も魔力枯渇と重傷を負ったがロゼッタを失うと思った時の喪失感は今でも震えてしまう。
 船内で片時も離れずロゼッタの治癒に心血を注いだ。
 互いに膨大な魔力のせいでなかなかに供給がうまくはいかなかったが、助かって本当によかった。
 今でこそ冷静になれるが、ディランや部下たちには情けないところを見せたと反省している。

 潮風に当たりながら振り返っていると、声がかかる。

「あの、ノア様…」
「あぁ、マリー、ナザリー。…ロゼッタは先ほど目を覚ましたよ。すぐまた眠ってしまったけど…本当に助かった、師団長としても感謝申し上げる」
「いえいえ!頭を上げてください、ノア様!!ロゼッタは私の大親友なんです、これぐらい何ともありません…むしろ私にもっと力があれば…」

 そう瞳に涙を溜め、俯くマリーにナザリーがぴたりと寄り添う。

「話は聞いているよ。現地で見つけた薬草を生産してくれたって。すごい技術と知識だ、誇って良い。そのおかげで俺も部下たちも助かった。ポーションは全部ロゼッタに使ってしまったしな」
「そうですよ、マリー。あの魔術書を読んだとしても、あの混乱の中での貴方の学者としての冷静な判断と行動力は誇るべきです。現に私たちが無事なのも貴方の薬のおかげです。貴方がいなければ全滅していたかもしれない」

 場を和ませるようにナザリーがマリーに伝え、労い合う様子を見ていればマリーが恐る恐る何かを差し出してきた。

「ノア様、これを…」

 船内に戻ろうとしたところマリーに手渡されたのが、ロゼッタが見つけたという魔術書と古びた本。

「今回の第一人者はロゼッタです。しかし、今はまだ無理そうなのでぜひノア様にと…司書一同の同意です」
「しかし」
「師団長。大佐も同意しております。ロゼッタさんとの関係については可能な限り聞き及んでおります。また国としても、今回の調査の結果としていち早く解読できる者へとの鳩が来ていますので」

 ディランを見れば頷かれる。

「父や殿下にも今回のことはすでに耳に入っている。先ほど、王とセス殿の連名にて正式な書簡も受け取った。師団長として残りの僅かな時間で多少は結果を残してみよ。ロゼの為にも頼むぞ」

 二冊の本を受け取り頷く。
 三人に告げロゼッタの寝る船内に戻った。

 日が沈み暗くなってきた船内にランタンを灯し、ロゼッタのそばに腰掛ける。
 手を握れば温もりを感じ、生きていることを実感する。
 椅子の背もたれに深く腰掛け本を見つめた。
 題名のない本に手をとり開く。
 神経質そうな書体でびっしりと書かれた古代語を目で追い自然とのめり込んでいった。

 本を閉じた時には窓から見える空が白み、陽の光に水面がキラキラと光る。
 徹夜の目には何とも眩しく、目を細めた。
 僅かに朝日が船内に差し込みロゼッタを照らしだす。

「…かの男の気持ちが今ならわかるな」

 そう独り言を発して、もう一つの本に手を伸ばし机に向かった。
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