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決意表明
しおりを挟む窓から朝日が差し込みまぶしさで目が覚める。
重い体を動かそうとして、暖かい温もりと大好きな香りに心臓が跳ねる。
目の前には、バランスよく配置された顔のパーツと開けば吸い込まれるような青い瞳を今はまだ女性が羨むほどの長い睫毛で隠している。
髪も艶があり、同じ黒髪とは思えないほど黒曜石のように朝日で輝いている。
頬にかかる前髪を一房手に取り、さわさわと掬い上げる。
まだ健やかに眠る絶世の美丈夫を眺めながら昨夜、というより今朝までの事を思い出す。
魔力枯渇を起こし、目が覚めてから怒涛の日々を過ごした。
リンドバーグ家の養子縁組から調査報告書の作成と、ノアとわずかに会えたのは目覚めた夜の数時間だけ。
その後は、お互い忙しく会えない日々が二週間ほどだというのに、次に会える日が待ち遠しかったのを覚えている。
――夢じゃないんだ。
すぐそばにノアの温もりがあり、まだ体の奥にはノアの魔力を感じ体に疼きを与える。
前戯はノアが隙あらばしていたが、最後までは今夜が初めてだった。
やっと繋がり合えたことへの安堵と幸福感に笑みがこぼれる。
「もう、起きていいか?」
揶揄うように片目を開けたノアと目が合う。
「起きてたの?」
「まぁな。穴が開くほど見つめられてちゃ起きられなかったがな」
くすくすと笑いながら回した腕に力を籠め抱きしめられる。
「あぁ、幸せだ…」
私の少し癖のある黒髪に顔を埋めるノアの声を聴きながら、逞しい胸に頬を添え心臓の音を聞いた。
トクトクと規則正しい音に微睡み、声が漏れる。
「もうちょっと…」
「あぁ、…そうだな」
二人寄り添い合いながら夢の中へ落ちていく。
――――
リンゴンとベルが鳴りドアマンが入室を促す。
「お待ちしていました、お嬢様。グランヴェル卿。旦那様方は応接間にてお待ちです、どうぞこちらへ」
執事長のロンに誘導されノアと共に応接室へと向かう。
見慣れた廊下ではあるが今日の私たちの服装のせいか、体がムズムズとし落ち着かない。
なにせ微睡の中、急な来客に機嫌が悪くなるノアと共にリンドバーグ邸への要請を受けた。
「くそ狸どもめ!俺の連休を無くす気か!」と悪態をつくノアを宥めながら公爵家の招待に相応しい服装にて晩餐に招待されたのだった。
「なんか緊張する…」
「…実家だろう。…そもそも数日前まで一緒に過ごしていたにも拘わらず、呼び出すとか…マジで何考えてるんだ」
眉間に深い皺を作り、公爵家の長い廊下を見据えながらぶつぶつと悪態をつくノアの姿に少しだけ肩の力が抜ける。
「ふふ、仲が良さそうでよかった」
「ロゼ、本気で言ってる?」
片眉を上げながら悪戯な笑顔を向けるノアと笑いながら歩みを進め、気付けば応接間の入り口に着いていた。
「随分楽しそうだな」
少しどすの利いたマテオの声でハッとなる。
「この度はご招待ありがとうございます」
「息災であったか?今日も一段と綺麗だな、ロゼ。私が選んだドレスは間違いなかったようだ」
そうマテオに微笑まれ、膝を曲げる。
「とても素敵なドレスをありがとうございました、マテオ様。とても着心地も良く、公爵家の娘としても申し分なく」
「そうだろ、そうだろ」と満足そうに頷くマテオを怪訝な表情で見つめるノアを横目に挨拶を続ける。
「お父様、お母様、お兄様方も…数日ぶりです。ご招待ありがとうございます」
「元気そうでよかった。あのまま屋敷に滞在してくれるものだと思っていたが、こんなに早く出て行ってしまうとは思わなくてな。急遽このような形で晩餐を開かせてもらった。まぁ、快気祝いと思って楽しんでいってくれ。…グランヴェル卿も本日はお越し下さり感謝申し上げる」
ノアは軽く会釈を送り私をエスコートしながら席に着いた。
それぞれの近況報告や状況を話し、晩餐会は恙なく進んだがその間ノアは一言もしゃべらなかったのが不気味で背中に冷や汗が背中を伝う。
食事も終わりティータイムへと席を移そうと腰を上げようとすると、おもむろに手を取られた。
「ここからは俺が」
ワイアットが悪戯な笑みを浮かべながらエスコートしてくる。
「え!?ワイアット兄様?」
ノアを振り返ると深く眉間に皺を寄せている。
「何を企んでいるんですか、殿下」
絶対零度の声色でマテオを見つめ二人の間に火花が散った。
――あぁ、始まった…
呆然としてリリー様に助けを求めても、肩をすくめ首を振られる。ワイアットを仰ぎ見ても楽しそうにしているだけ、他の兄たちも我関せずで戦力にはならなそうだ。
「企むも何も私は何も聞いていないし、何も許可はしていない」
「義父となる方から屋敷に招待されたから、わざわざ休日を返上してまで赴いた。それの何が気に食わないのです?筋も通ってるし、何よりロゼと俺は思い合ってる。両家で話もついている。そもそも異例の速さで許可を出したのは王家ですが?何か閣下に異論があるのですか?」
「異論など…あるに決まっておるだろうが!!!」
マテオの咆哮とも言える魔力の乗った怒号に食器たちがカタカタと鳴り響く。
「私はロゼの後見人で忠誠を誓った騎士でもある!何よりもロゼのもう一人の父親だ!!私はお前に娘をやることは許さん!!」
ミシミシと握りしめている肘掛けが木くずを落とす。
「貴方に許可をもらう必要があるので?そもそも王家が承諾してる婚姻を王弟自ら破棄すると?」
これでもかと煽るノアに呆れながら、ワイアットの手を静かに払い二人の間に歩み寄る。
「マテオ様…ノアも、いい加減にして」
呆れながらノアを見つめ、マテオを振り返る。
「マテオ様…申し訳ありません」
「!!ロゼが謝ることなどない!全てこの男の」
「お父様!!」
マテオの目を見据えありったけの声を出す。
「ろ、ロゼ…?」
「私の愛する殿方です。“この男”などと呼ばないで下さいな。確かに性格は少し捻くれていますがご存知の通り実力はございます」
ゲラゲラと外野がうるさいが気にせずマテオに話しかける。
「何よりもお父様方に劣らず私を思ってくれています。どうかこの婚姻の許可を、心から祝って頂けませんか?私の幸せは彼と共にあるのです」
そう言ってマテオを見つめると、屈強な男の瞳から一筋の涙があふれた。
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