【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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全貌と断罪

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「やれやれ、あの人たちには本当手が焼ける」

 どさりとソファにうなだれタイを緩めながら嘆くノアの頭を扇子で叩く。

「煽りすぎるノアがいけない。本当…仲が良いんだか悪いんだか」
「仲が良いわけないだろう」

 そう言いながら腕を取られバランスを崩しながら膝に座らされる。

「ちょっとノア!危ないでしょ!?」
「いいだろ?もう家だし、邪魔者はいないんだ。イチャイチャしたい」

 グリグリと胸に擦り寄るまだ撫でつけられたノアの髪を無造作にすくう。

「それはそうだけど。まだやることあるでしょうに」
「…………」
「ノア」
「…………」
「ノーア」
「…………明日やる」
「明日も何も、明日やらなきゃいけない準備があるでしょ!」

 額にデコピンをし痛くもないのに痛がるノアの膝から降りた。
「さぁやるよー」とまだ文句を言うノアを横目にあの後マテオ様たちからの伝言を振り返る。

 ――――――

「落ち着いたか?」
「すまない。もう大丈夫だ、ウィル。話を進めてくれ」

 まだ半べそのマテオ様をあやしながらウィリアム様を仰ぎ見る。

「急で申し訳ないが、明日、王家との謁見が設けられた。もちろんその場には魔法師団から魔法省、貴族院、この国の中枢が集まる。そこでロゼッタには今回の調査結果の報告を頼みたい」
「急ですね」
「まぁ、多少は予想していたがな。二人の暗殺が未遂に終わり相手方も調査報告の粗探しや仕掛ける手立てが欲しいのだろう。ロゼには負担をかけるが…」
「先ほどもお伝えした通りノアの方も目処がついてますし、私も問題ありません。充分な休暇を頂きましたから、思う存分魔術書を眺め検分できました」

 そう笑顔で義父たちを見ると安堵したように肩を落とす。

「ただな、平穏に終わるとは思わんがな」
「そこは殿下方がなんとかしてくれるのではないのですか?」

 様子を窺っていたノアが口を挟む。

「まだ証拠が不十分で足踏みしているようだ。助け舟になるかは…」

 渋々とディランが申し訳なさそうにウィリアムがそれにうなずく。

「お前たちが調査に向かってから、こちらも色々手は尽くしたんだがな。色良い返事はまだ聞けていないのが現状だ。だから、何が起きても万全なように明日はこちらも手配する。お前も必ずロゼから離れるなよ」

「言われなくても」と悪態をつきながら、腰に回すノアの手に力が入る。

「明日は私もロゼのアテンダーとしてそばにおりますわ。だから少しは安心してくださいな、グランヴェル卿。可愛い娘の目障りくらいには役に立つはずです、ふふ」
「お母様…」
「恐れ入ります、夫人。…何はともあれ、明日で決着がつく事を私は祈りますよ。このままじゃハネムーンにも旅立てない」

 悪戯な笑みを浮かべるノアを見て、私たちは帰宅の途に就いたのだった。

 ――――

「ロゼッタ・リンドバーグ司書が参りました」

 ドアマンの声と共に、豪華に飾られた重厚な扉が開く。
 赤く敷き詰められた絨毯の刺繍には、この国の国花グロリオサとオリーブの葉が幾何学模様のようにデザインされ縫い付けられている。
 前を見据え一歩前と足を出し、淑女の礼をとる。
 正装ではなく司書の制服を着ているため僅かに体は軽いが、如何せん慣れていないため体勢がキツい。
 刺繍を睨みつけ、声が掛かるまで耐えることに意識を持っていくと、緊張は自然と解けていた。

 宰相から声がかかり面を上げる。
 上座には見知った顔がいくつもあり、胸を撫で下ろす。
 私の後ろには義母であるリリーがいる。

 顎を引き背筋を伸ばし歩みを進めた。

「この度はお時間を頂き感謝申し上げます。調査報告を…」

 ここからは私の真骨頂だ。

 ――もう迷いはない。

「以上になります」

 凛とした声が大広間を響かせ、辺りが静まり返る。
 以前、マテオたちに説明した内容の確証と実施報告。全て揃えての報告だ。
 彼らのあの時の比ではない驚愕の表情が、彼方此方で見える。

「質疑応答があればこの場で答えさせていただきます」

 煽るように私が声を出すと、重鎮から声が掛かる。

「見事な演説、恐れ入った。この度は調査にて怪我を負ったと聞き及んでいたが息災のようで何より。ただしかしな…襲われたと聞いておるが、何か恨みを買うような事をお主はしておるのではないか?失礼。正直、これだけの偉業とも言える成果をお主のような若輩者が行えるとは到底思えんのでな」

 値踏みする様な嫌な目で見据えるのは皆が警戒していたグリード前公爵だった。

「グリード前公爵とお見受けいたします。確かに私はまだ若輩者ですが、研究発表でも認められて今日に至ります。多くの人に助けられ得られた成果であると自負しています」
「ほうほう、多くの人の助けとな……噂通りの阿諛追従であると自ら申すか」
「っな」
「父上……」

 声を荒げそうになった時、静かな声が通る。
 声の方を見ると静かに影を落とす壮年が佇んでいた。

 異様な緊張感を大広間が包み込むなか、その壮年が徐々に玉座へと膝を折った。

「何をしておる馬鹿者が!!」
「王よ、発言をお許し下さい」

 肩を掴まれても膝を折り続ける壮年を横目に、ノアやウィリアムたちを見つめる。
 止めようと体を前に出そうとした時、リリーに腕を掴まれた。

「お待ちなさい」

 静かに告げられ、立ち竦むしかできない。

「許す。申してみよグリード公」
「ありがとうございます。こちらを殿下へ。我が公爵家の全てを捧げます」

 グリード公と呼ばれた壮年が紙束を騎士に渡し、宰相が検分する。
 王も目を通し頭を抱えた。

「事実であったか」
「ロゼッタ・リンドバーグ嬢並びにノア・グランヴェル師団長暗殺を目論んだのは我が公爵家であります。この件に付きましても、先の闇の魔石に関しての取引も全て公爵家で取り引きしたものであります」

 グリード公は背筋を伸ばし王を見据える。
 辺りが騒然となる中での自白。
 グリード公が淡々とこれまでの悪行を自白する背後では騎士らに取り押さえられ、喚き散らす前グリード公爵の姿がある。
 そして彼もまた抵抗することなく騎士らに取り押さえられている。

 その姿を唖然と眺めていると、不意に目が合った。

 僅かに頭を下げるグリード公の姿だけが私の目に焼き付いたのだった。
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