三兄弟の王子達は小さな宝を溺愛中

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第一章

オスト帝国の若き皇帝

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ウェリス王国から数百km離れた一つの小国が、この日地図から姿を消した。崩れ落ちた建物に、ちらほらと燻っている炎…積み上がった数多の屍の上に座り一人の男が空を見上げていた


「こんなところで何をなさっているんですか、ヴァル様」


ふと影が差し込む。己の視界を遮り背後から顔を覗かせた男にヴァルと呼ばれた者は溜息を吐いた。ヴァル・ヴェンデッタ…数ヶ月前に急死した皇帝の跡を継ぎ新たな皇帝の座に就いたオスト帝国の若き王である。


戦場いくさばで物思いにふける余裕があるとは流石ですね」

「二日前に戦争は終わっただろ」

「よく二日間も屍の上に居座っていられますね、我らが皇帝陛下は人の心というものがないのでしょうか」


ヴァルに呆れた目を向け言った彼もまたなんの躊躇いもなく屍を踏み付けにしていた。人の事を言えないだろと内心思いつつもヴァルは頬杖をつく


「それでお前は何をしに来た、スファレ。俺は全軍帰還しろと命じた筈だ」

「その軍の中にご自身も含まれている事をお忘れなく」


睨め付けるヴァルに臆すること無く、スファレは胸に手を当て笑みを返す。戦場に似合わぬ燕尾服に身を包んだ彼には一切の傷は無く、けれどもその手にはめた手袋は赤く染め上げられていた


「服を汚すとは、お前にしては珍しいな」

「あぁ……申し訳ございません、見苦しいものを。配下の不手際の処理に手こずってしまいまして」

「お前がやらずとも良かったのではないか」

「私の指揮する部隊が討ち損じた命ですから、尻拭いは私がしなければならないでしょう」

「お前はそうやって兵士を甘やかす。だから隊が衰えこうして俺自ら前線に立たなければならなくなる」

「わざわざ皇帝自ら…ありがとうございます」


変わらず笑顔のまま答えるスファレ。自身の腹心は本当にコイツでいいのだろうかと疑問を抱きつつもヴァルは重たい腰を持ち上げ屍の山を下り足を進める。その背を数歩後からおいかけるスファレは彼の言葉を聞きながら足元に転がる惨状に目を向けていた


「お前が隊の隊長となってからだぞ。俺が前線に出向く羽目になったのは……それまでは皇族が戦場に立つなどなかったというのに」

「そうですねぇ…しかしそれは私ではなく兵士達に言うべきではありませんか」

「アイツらに言うことはない」

「……そうですか」


ぶっきらぼうに投げられた言葉にスファレは小さく笑みを零した。…噂では血も涙もない非道な男だと囁かれているが、この男も身体に赤い血が通っているし涙を流す事もある。本当に血も涙もない男ならばわざわざ危険を犯してまで戦場に出向く事はしない。不器用なのだ、この男も、自分も。だが其れを悪いとは思わない…1人の理解者がいればこの皇帝が窮地に立たされる事はない。そう、私さえいれば…どうにでも出来る


「嗚呼…そうだ。そういえば例の件はどうなった」


ピタリと足を止め問いかけられた言葉にスファレは汚れた手袋を外しながら答える


「首尾は滞りなく……ただ、商人が余計な情報を明け渡したようで、私達が探っている事をあちらに知られた可能性があります」

「…あの第一王子は其れを知った上で戴冠式に参加すると連絡をよこした訳か……食えん奴だ」



クッと喉を鳴らし笑ったヴァルの横顔を眺め、スファレもまた静かに微笑を零した
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