森野探偵事務所物語~1~

巳狐斗

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第19話 覚悟

第19話 覚悟

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コンクリート製の階段を笠村と藍里は稲垣と共に登っていき、ガチャリと稲垣がドアノブを回す。

「ここが、教会の近くのビルの屋上だ。」


稲垣と共に、2人は今度は教会の近くのビルの屋上を調べるために、管理人から許可をもらって来たのだ。

ドアは鍵がなく、簡単に開けることが出来た。


「靴があります…。」

藍里が目の前を指さす。フェンスの向こう側に、きっちりと揃えられたブーツが見つかり、3人がそこに集まる。

「これは……舞台用かな?」

手に取ったそれは、白色をベースに、所々に花の飾りが施されていて、普段用ではなかなか履けないようなものであった。

「真下には教会がある。ここから落ちたことには間違いないな………。いや、或いは落とされたとか?」


「稲垣さん。実は、あの遺書にも不自然なところがあるらしくて……。」



笠村の言葉に『え?』と振り返る稲垣。


(色紙のことは、笠村さんが話してくれそうだ。私は周辺を見てこよう。)



それを見守った藍里は、2人から離れて、屋上の周辺を調べてみる。

(稲垣さんが言うには、被害者の後頭部には、殴られた後があった……。解剖結果で、金槌のように硬いもので殴られた……或いはぶつかった  と言っていた。もしも他殺なら、後頭部を殴られた後に、自殺と見せかけて殺した可能性もある。

というか、そう見るしかない。

血の跡は……昨日の雨のせいで流石に無いかもしれないな……。でも、凶器ぐらいならあってもいいんだけど…さすがに持ち帰られてるかな…?)



藍里はウロウロと彷徨いながら、床を調べてみる。



半分くらい歩いた時だ。


(ん?)



屋上の端の下にある縁の下に、太陽の光を浴びてキラリと光るものが藍里の視界に入り込んだ。




(なんだ?)






近くまで行って確認してみる……。
人差し指にティッシュをくるみ、慎重にそれを引っ張り出してみる。
ザリザリと音を立てながら、それは姿を現した。
辛うじて雨をしのいだのか、砂利が若干かわいている。



「なんだ。100円玉か………。」





そこに落ちていたのは100円玉であった。
よく確認してみると、その100円玉の裏をめくると、ほんの僅かだが、血でこびりついていた。誰かが手を怪我した後に触った時に付いたのだろうか?



「ま。事件には関係しなくても……落し物だよね……。普通に……。」

藍里はそのままティッシュにそれを包むと、稲垣たちの元へと向かった。






「なるほどな。確かにそんなことがあれば……それにしても、犯人も無計画だな。こんな所にこんな靴を置くなんて。」


 「え?」

「新野紗弥は普段着の状態で亡くなっていた。靴はない状態ではあったが、ここに揃えられた靴があった。しかしだ、そんなステージの為のブーツをわざわざ履いて、自殺すると思うかい?」

「確かにそうですね……。」

笠村も顎を手に当てて考え込む。


「自殺だとしても、後頭部は出血してるし、右腕もモンテジア骨折を起こしていたそうだ。」

「モンテジア骨折って、高いところから落ちて手をついた時になるあの?」

「ああ。けど、見たところ、モンテジア骨折をしそうな所も、後頭部を怪我しそうな所も見当たらない。とにかく、計画的に見えて計画的ではないな。」

「犯人は、殺すつもりはなかったけど殺しちまって、その後、新野紗弥をここから証拠隠滅のために突き落とした。……とか考えられますか?」

「ありうるな。けど…殺意はもしかしたら…あるかもしれないが…。」


「稲垣さん!笠村さん!」


と、藍里の声に二人ともそちらの方を向いた。


「犯行に関係はしないんですが、これ、落ちてました。誰かの落し物みたいです。」

藍里に渡されたティッシュを受け取り、中身を確認する2人。

「金か。血がついてるな。」

「多分、持ち主の手に出血があって、それが付着したかもしれません。ので……。」


「……………いや。あるいは若しかすると……………。」


稲垣のそんな呟きに藍里と笠村は同時に稲垣の方を見た。稲垣は、そんなことお構い無しに、顎に手をやり『ウーン』と唸った後、


「……これを鑑識に回してみよう。」

と言い出した。

「は!?い、稲垣さん!?」


「山勘だよ。藍里ちゃん。関係ないなら関係ないでいい。取り合えず、それも預かっておこう。」



稲垣はそう言うと、そのティシュに包まれた100円玉を袋に入れて、再び調査を始めた。

心配そうにする藍里に笠村が肩に手を置くと


「心配すんな。稲垣さんの山勘は、案外馬鹿に出来ねぇからな。」


と、静かに耳打ちをした。










結局、その日は落し物の百円玉1枚と、壁に書いてある落書きだけであった。

落書きは地面から約153センチほどの高さにあり、藍里からは少し見あげるほどの高さであった。

そこには黒い文字で

『渚遅い』

と書かれていた。
誰が書いたのかわからないが、おそらく犯人が書いたもので、さらに壁には屋根らしきものがない。雨に濡れた後や、滲んだ後がないことから、自分たちが来る前に書かれたものであると分かる。




それだけ情報を得ると、
藍里は、2人に別れを告げ、大学への道に着く。







「仮に他殺だとして………後頭部の怪我をどう証明する………。」





本………は、殺傷能力としては不十分だ。

第1に鑑定結果では、金槌みたいなもので殴られたような後があると言われているらしい。








何を使って殺害して……







どこに凶器を隠したのか………。






藍里は午後からの講義に向かう途中、ずっとその事ばかり考えていた。


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