ジルヴォンニード

ククナククリ

文字の大きさ
上 下
8 / 27
第一譚:はじまりは時の線路

8ページ

しおりを挟む



    溢れんばかりの魔力が刻印となってエイドの腕から首筋を這う。超硬合金すらも熔融する熱の粒子が印から燻されたと同時に、さらなる詠唱を続行する。
 素人が不相応な術式を身に纏えば怪我どころの話ではない。しかしこれだけの熱量をもってしても平然としていられるということは、この歯に衣着せぬ男が相当の腕をもったキーマンという確固たる証拠である。
 灼熱を纏う殴打の一撃。回避が間に合わず、イリヤへの被害を極力防ぐため自身の左腕を呈してエイドの猛攻を凌いだ。
「っ、おい!?」
「つくづく悪趣味な男だ……大丈夫、掠っただけだよ。なけなしでもキミに誠意を伝えられるなら、腕のひとつ位くれてやるさ」
 苦笑いしながら振り返るが、先の叱責に堪えて生じた憔悴を押し隠しているのが見てとれる。
 イリヤはその表情に先ほど放った暴言の後ろめたさを覚えつつも、サムとの戦いのように、無力なまま彼の腕でやり過ごすしかなかった。
 ――無常にも、“依り代”の鈴は答える言葉を持たない。
 ふらふらと立つアルスの背を見届ける。石橋に到達したとなれば瞬時の油断すらも危ぶまれ、動きは大幅に制限される。すでに足下は蒼で染め上がっていた。
 連戦で息が上がっていく彼の疲労を見抜いていたエイドは、したり顔で剣斧の円舞に興じている。
 外套の裾が焦げるのも構わず荒れ狂う火花とともに踊り散らす姿を見て、イリヤは自身の地元の蘆笙舞を連想させた。
 途切れた詠唱を繋げようと銃把に指をかけ、アルスは九字を切る。矜持も自尊心も粉々にされた今、ボルクハルトの刻銘を紡げぬまま終わりを迎えるのだけは御免だった。
「Tote Ich mochte auch……っ!?」
 またしても遮られる詠唱。それも、エイドではない何者かの光槍によって。
「Я посланник чистилище――」
 大空の殻を叩き割るような雷鳴。その正体はアルスの真下に突きつけられた大振りの剣刃。
「新手……?」
 すんでのところで回避し、見上げると無数の羽根が霜降していた。それもみるみる灰と化し、小さな影が姿を現す。
「いおぅ、ずいぶんと手間取ってんじゃねェかエイド」
 幼女の声だ。それも赤い外套で身を隠した人形――アルスは歯を軋りたて、邪魔立てした光槍の出所に向け間髪入れず砲弾する。
 予想通り残影と化して消え、エイドの手の者だと瞬時に理解した。彼が最初から真っ向な勝負をする気など無い事も。
「おっと、俺サマに楯突くたァ良い根性してやがんじゃねェの?」
 再び出現し、人形は得物を拾う。エイドの半尺にも及ばない華奢な体躯を前に、妖精や小人などの可憐な童話の人物を思い起こす。
「エイちゃーん! よければ私達も手伝ってあげる~っ」
 今度は甲高い娘の声を先駆けに、二体の道楽人形が陣から召喚された。
 二対の槍雨を掻い潜りながら、人形の正体を暴こうとなおイリヤは彼らを凝視し続ける。外套の中身は人間と同様の原理なのかは定かでないが、彼らは自分の意思で浮遊移動を為せるらしい。
「……これで舞台が整った、っつーコトか?」
 さすがに肝の太いイリヤとて、死神を始末する事に躍起な彼の用意周到さに、驚愕と戦慄を隠せない。あるいは……自身の問題で、彼に火の粉が降りかかったのではないか。
「……余計な世話だ」
 しかしイリヤの想定とは裏腹に、主の声は凄然たる色を帯びていた。
「え、ひどいじゃないですか先輩ぃ~」
 突き刺さったままの光槍の数々を消散させたかと思えば、エイドは自身の戦闘に横車を走らせる眷属らの術式を一寸刻みに解除していた。
 味方の支援すら歯牙にもかけない傍若無人ぶりに、イリヤはアルスと同じ匂いを感じて思わず眩暈を催す。こういった独善的な連中に付き合わされて、なんど人生を狂わされてきたことだろう。力添えを無下にされた人形たちに、はからずも同情の念を抱く。
 ――暇もないようで、遅れて馳せ参じた人形二体の間を鋼鉄の棒杭が交差し、柱の隙間から目を眇めんばかりの光球が迸る。ミラーボールのように光の線を走らせるそれは、みるみる回転を増して誘導放出の熱線へと変貌していった。
「Мы будем резонанс」
 我の意のままに――
 二人の間を宏大無辺の槍砲が焦がす。ぐらりと傾く車両。
 とうとう限界を迎えたか――転落した際は結界でイリヤを護りながら向こう岸まで泳ぎきるしかない。腹をくくったアルスはボルクハルトの熱を冷ましながら、ある鉄包を弾倉に挿す。
 手にしていたのは七つの弾薬。狙撃を目的とせず、ただ時間稼ぎを主とした玩び物に過ぎない。
 だが彼の生き血を詰めた実包はまごうことなき呪詛の鈴なりであって、発砲された鉄塊を取り巻く術式が死の集合体となる。
 当然触れたら即死。しかし人かどうかも不正確な道楽人形にも効果があればの話だが――それは己とて同じ。死神の名を賜る己に授けられた強靭な肉体も、他人の呪詛に接触すれば血の袋の詰まった柔い人の子も同然だ。
 しかしこの劣戦、勝負を仕掛けられた時から決まっている。やらなければ自分が死ぬだけでなく、無関係のイリヤまでも巻き込んでしまう。
 雷管を叩き、術式が発動するまでの時間は二秒。ロスを補充するためにダミーの実包をさらに追加する。半径7メートルに及ぶ術式の範囲から外れるようイリヤを最前列まで引き入れ、奴らが縄を張った後列の連結器を叩ききらねばならない。
 それを二秒で為すとなれば……考えていても始まらないだろう。イリヤの手をとって炭水車両まで駆け抜ける。落光を、槍弾を、すべて潜り抜けていく先にエイドの大気弾が二人を遮り、イリヤを抱えながら前転で直撃を免れた。
「よし、この位置なら大丈夫そうだね……」
 ベルトに挟んでいた懐剣を引き抜いて、安堵しながら呟いた。
「よかったら俺、切ろうか?」
 意外な申し出にきょとんとするも、アルスはいわれるがままに懐剣を手渡す。
 度胸ある彼に得物を託す事、その行動自体に異存はないが、実行の段階で人形連中の放つ指弾に運悪く当たらないかが気がかりだ。
 イリヤとて無計算に動くつもりはない。ただ心無い言葉で彼を責めたてた行為に対する埋め合わせになればと、それだけの事だった。
 彼が煙室扉に降りたのを確認し、アルスは慎重に人形たちとの距離を測る。ドライゼの咆哮で牽制し、極力イリヤから注意を逸らすよう次の車両に足を踏み入れ、発動箇所と自点を繋ぐ間合いの拡大を狙った。
 エイドの注意はアルスの牽制へと向いている。しかし振り上げる都度に生じる大気の熱がボイラーの過熱器に接触し、不可抗力にも大爆発を起こす。
 エイドはこれを好機として煙幕から逃れるように後退する。不明瞭な視界を利用しての不意討ちを狙う腹積もりだろう。そんな胸算に応じる気のないアルスはとっさに車両の下を覗き込んだ。
「イリヤ!」
 手すりに掴まっていたため爆風に呑まれる事はなかったが、刃渡りの短いナイフで分厚な管を切るのはさすがに難儀を極める所業だった。
「イリヤ、無茶はしなくていいから……」
 アルスの手を掴んだ瞬間に人形たちの光片が飛ぶ。振動で大きく車体が揺れ、危うく鈴を落としかける。
「やっば……」
 命に代えても、この鈴だけは何としても保持していたかった。イリヤが腕に提げていたその音玉は、決して災厄から身を守るための魔除けなどではない。
 ――その鈴こそが、災厄の表象なのである。
 当然彼の事情など知るべくもないアルスの怒りは沸騰し、左腕の刻印が疼くのも構わず速攻に転じた。
「よくもやってくれた……極限の僻地にて、其を蝕む縁を裁て!」
 刻印から流れ出したスペルがアルスの血管をなぞり、強固な術式を築き上げていく。数ヶ月も凍結していた魔力で為せる事などたかが知れている。これは時間稼ぎの手段に過ぎない。
 初弾であったが、このような窮地に頻繁に立たされるほど厄に好かれてはいないだろう。アルスの呪詛が底を尽きること、それを意味するのは死。
 戦乱と無関係の人間を巻き込む行為に対して何の疑問も抱かなかった自分が、息を荒げて他人を守護するなど前代未聞の事態だった筈なのに。何をするにも利己を求め、見返りのない仕事はしたくなかった筈なのに。
 その身を削る行為の先に、自分は何を見ているのだろう。何を見て進んでいるのだろう。
「堕落、転落、没落、低落、凋落、零落、沈落――盛者必衰の理から落ちろ!」
 答えなど不要だった。その戦いにおける意味すらも、自分は最初から求めてなどいなかったのだ。
 7つの言霊を呪詛の光弾に変え、碧玉の塊をエイドの術式に叩きつける。詛呪をまとった弾丸は、列車を追走する人形には届かなかったが、エイドの堅甲なる術式にヒビを入れる程度の打撃は与えられた。
「珍しくも必死こいて……そんなに大事なら、最初から波風立てずサム達を撒けば良い話だったろうに」
 さすがの彼も、この破壊力を前にいつものポーカーフェイスを保つことは困難なようだ。
「撒いたところで確実に逃げ切れる保証もない上に、お前とサムの挟み撃ちにでも遭ったら一巻の終わりじゃないか」
「言っただろう。お達しだと。そんな殺戮性愛者にかける刻など俺に残されてはいない」
 こき下ろすようにアルスを睥睨すると、エイドはさらなる熱気を剣斧に絡めて攻勢を示す。
「Слейте в следующем, а затем принять ваше предложение」
 光球と斬撃の飛び交う激戦。根負けしなければ4体の人形を下ろす事は容易だろうとタカを括っていたが、ヒトのような鋭敏な動きと機械めいた自律性能に圧され、劣勢の色は増すばかりである。
 にやり。と、人形は笑っているような気がした。戸惑ったアルスは背後を取られている事に気付けず、反応が遅れる。それが命取りとなったのは明白だった。
「貴公の死は確定した――安い命だったな」
 アルスの顔が悔しげに歪む。腹部に負った傷は浅いが、散々と甲板に叩きつけられた彼の肉体には数知れない疲労が蓄えられ、まともに動くことさえ困難を極める現状にあった。
 たしかに安い命だ。無能な上司にも、慇懃な閣下にも、惜しまれなかった我が身。人類として意味を為さない虚の命。何ならくれてやっても構わない。ただし、その犠牲が……軽はずみな発言で傷つけた、イリヤの心を慰める糧になるのなら。
「Arschloch……イ、イリヤ、ごめん」
 先に逃げて――そう紡ごうとした口から血が吹き出しそうになって、自分を庇ったばかりにとイリヤを気遣わせないよう、歯を食いしばって喀血を防ぐ。
 瞬間、北の鐘が打ち鳴らされ、その重音は風で耳を塞がれているにも関わらずはっきりと行き届いた。鈍い音がアルスの傷に響いたのか、立ち上がろうとした膝が一気に頽れる。
「じきに時計盤のアレも動く頃合いか……」
 彼がおもむろに呟いた途端、アルスは怨嗟を込めた眼差しでエイドを睨み上げた。
「そう怖い顔をするな。可動はしているが、発動してはいない」
 赤の広場からの時報がなぜ此方にまで聞こえるのかは定かでないが、おそらくアルスとエイドの因縁に深く関連付けられているのだろう。
 もしくは、海域を越えても響き渡るように誰かが細工を施したのか――どのみち優先すべきはアルスの容態の確認である。
「おい! ……しっかりしろ!」
 ぐったりと此方を向く気配のない彼の頬を引っ叩く。所々に刻まれた深い傷のほとんどはイリヤを庇った故の香菓の泡だろう。
「大、丈夫……だから」
 イリヤの手を押しのけてアルスは双銃を拾い上げる。ふらふらと、おぼつかない足取りで呪詛を紡ぐ彼の横顔はかつてないほどの禍々しさに満ちていた。
 しぶとい死神に焦れを覚えた控えの人形たちは光線の集中砲火を2人に浴びせ、鋼板のフィールドから蹴落とそうとする。耐えに耐え抜いてきたがこの車両が倒壊するのは時間の問題だった。ふとドライゼを掴んだ途端に車体が大きく揺れ、バランスを崩して足を滑らせる。
「イリ、ヤ?」
「っ、しっかり掴まれ! そんな怪我で落っこちでもしたらいつ立てるか分かったモンじゃねーだろ!」
 牙を立ててイリヤは怒鳴り散らす。汗で滑る手を、震えながら持ち上げようとした。
「で、でも――」
 二槍の迫り来る挟撃に気付いたアルスは、イリヤの手をいち早く引き剥がそうとする。
「おやおや、感動ものだねえ」
「つくづくと泣かせてくれるのです」
 彼らの双光が2人が握り合う手の間を通り抜け、不安定な足場をさらに揺らす。
「オレの事はいい、早く前列に飛び乗ってそのまま終点まで逃げろ!」
 針のムシロにいるような気持ちになり、力の限り叫んだ。自分を拒絶したはずの少年はどうしても此方の言い分を聞いてくれない。そんなの不公平だ、ずるいよ。そう訴えかけるように、アルスは雫が飛び散るのもかまわずイリヤに逃亡を強く催促した。
「んなもん出来るわきゃねーだろうが! お前にはまだ言ってない事も聞いてない事もありすぎんだよ!」
 それを言うなら、まだ此方も謝罪の言葉が言い足りていない。本当は強がりだった、人間が自分をどのようなレンズを通して見ようが、この少年だけには自分を信じてほしかった。
 その想いに偽りはなかった。足りなかったのは、証拠だけ。
「お前は! ……この世界に復讐したいんじゃなかったのか? 自分を虐げたこの世界を無に帰したかったんじゃねーのかよ。それが嘘だってんならさっきの嗾けは何だったんだよ! 俺によくも言い切ってくれたじゃねーか、こんな世界滅んじまえばいいって!!」
 もし嘘なら、今度こそお前を許さねぇからな――
 アルスは逡巡した様子で下を向いた。死神とて、あの海に落ちれば這い上がるのは容易でないだろう。手負いならば、尚更そうだ。
 嘘でなければ、この世界の在り方を否定しても許されるのだろうか。自分を責め苦に追われる身に投げ落とした人類を拒絶しても、咎められる事は無いのだろうか。
「たしかにこの世界は腐ってる。人も政治も、兵士も王も、みんな腐れきってナパームの蝿が飛び回ってる。でもこんな世界でも、生きようと懸命に明日へ縋りつく人たちがいる」
 前へと踏み出すために、独り善がりの幻想を打ち砕く事は果たして可能なのだろうか。
「だから、オレはそんなキミを否定したくない……キミが死ぬのを有意義だなんて、オレは思わないよ!」
 死神は悲痛な声を上げる。考え直せば自らの憐みより他人の肯定を優先する男が、ナチスの妄信者である筈がない。短絡的な偏執で、彼に凝り固まった既成概念を押し付けた自分の無責任な暴言を、この時イリヤは深く恥じた。
「お前って奴は、なんですぐにそうやって……」
「おいおいよぅ。そろっそろ焦れてきた頃合いだぜぃヤローども」
 幼女の形をした偶人が展開を広げ、此方に突撃しようと瞬時に姿を消す。しかし戻ってくる気配はなかった。
「散れ。余計な世話だといっている」
 目を見張ると邪魔立てされた時から煩わしさを露骨に表していたエイドが指を鳴らして、ついに実力行使に出たらしい。
「うぇええ~強制退還なんてひどいよエイちゃーん!」
「先輩のあほー! イケズーっ!」
 文句を言いながらエイドお抱えの使徒達は順次に消し去られる。3体を収めたのち、彼は忌々しげに虚空を睨み据えた。
「これでフィールドは俺の思いのまま……」
 光の雨が止んだ隙を窺って、アルスをどうにか引き上げる。その後は傷口に触れ、応急処置を施した。
「ったく、誰かサンに似て傲慢な御仁ったらありゃしないぜ」
 死神の強靭な肉体を信用できるならば、このまま死に至る事はないだろう。しかし満足に動けそうな体でもなく、この状況から一刻も早く逃れたくば、後は自分の力をもって振り払うしか生き残る術は残されていない。
 ――だとすれば、鈴を使うしか道は無いか。
 彼は、右も左もわからない自身のために充分と身命を殺いだ。この決着は自分自身の力で片をつけよう。それが、今のイリヤが彼のためになせる唯一の返礼だった。
「死人の遺した力を借りるなんざ、いささか不本意なんだがな」
 流れ込む記憶とともに鈴は鳴る。左手に備わった銀の腕輪の下、鈴は健気に道行く人との想いを繋ぐ。ときに虚しく、ときに侘しく鈴は先行く人の無常を悟る。まるでその時代にあたかも存在していたかのように、思いと想いの狭間を潜り抜けて。
 アルスの傷に触れた時、未曾有な慟哭の断片が濁流のように脳裏へと押し上がってきた。彼の嘆きと共鳴すれば、この緊迫とした戦況を打開するための鍵となり得るだろう。
 ――全てはひとつの罪から始まった。わだかまる未練を抱えたまま過ごすぬるま湯の牢獄。科された刑は永遠の孤独。故に生きた証を消したいと願う、切々とした少年の哀訴。
『――独りは嫌だ!!』
 誰何の嘆きが谺した。果たしてその記憶は誰のものだったのだろう。果たしてその記憶は本当に因果応報のみで片付けられる闇だったのだろうか。
「この身を、滅ぼしてでも……」
 イリヤの動きに気付かないアルスは転げ落ちた得物へと手を伸ばす。しかし酸素を欠いた体では思うように動いてはくれず、銃身にすら届かないで虚空を切っていくのみだった。
 これも数多なる命を愚弄してきた男の末路なれば。アルスは目前に迫る死を茫然と受け入れる他なく、守りたかった筈の所在さえも損なわれつつあった。
 また家族に恥をかかせてしまう。人殺しの子供を養子に引き入れてくれた、あの温かい家に泥を投げつけるような真似を……もうすでに泥濘の奥底へと沈んだ記憶だった筈なのに。
 愛する者達の願いすら溝に棄てるような半生を送り続けてきた。盗むのも、殺すのも、犯すのも。何もかもすべてが自分の生きる為、もしくは欲望の先走った果ての凶行だった。
「また、キミに――」
 その決意は誰を救い、何を滅ぼす呪いなのか。その願いは誰を侵し、何を蝕む禍なのか。
 ――君は誰の幸福と引き換えに、大切な人と結ばれたい?


しおりを挟む

処理中です...