ジルヴォンニード

ククナククリ

文字の大きさ
26 / 27
第四譚:記憶の花よ辻風と散れ

6ページ

しおりを挟む

 
 
 教会都市よりカールスルーエへの向けられた刺客、聖圏の担い手ーーティカル・カンリフ。行き交う路面電車の窓に映るホログラムより、ウィル・トラッドはティカルの蹂躙を郊外のバス停で見届けていた。
 十二宮環の七女、フラウを足元に侍らせながら。
「物見の方より報告を申し上げます。先刻より、カーネス様からの言伝てを受けた教会の方々が一斉に支局へと向かわれましたわ。ウィル様、わたくしめは如何なる措置を行いましょう?」
 人形の奏でる耳に心地好い涼やかな声の色は、その肉付きのよい柔らかな曲線とのギャップに背徳感のそそる音をもたらしていた。 
 ウィルは己の整った白眉をなぞり、それから腰に跨がる少女の曲線もまた丁寧になぞる。枯れた甘い匂いが喧騒の中、バス停の中心のみを次元から切り離したように静寂を誘っていた。
「いつも通りお前たちは九の針を通して、これまで約定を交わした連中の無線を傍受すればいいんだ。少しでも不審な発言を聞き取ったら、すぐさま私に報告をするんだよ」
 いつでも揚げ足を取れるように、ね。
 九の針とは隠語で九女のルクレツィアを指していた。十二宮環の名称が公にされているのは教会都市においても身内にしか留まらずーー
 なのに“連中”は軽々しく我が愛しき娘たちの名を呼んでいる。
「ウィル様も大変お人が悪いわ。十二宮環という組織も、所詮は軍が手配した駒に過ぎませんもの。わたくしめの身など使い捨て同然に扱ってくださって結構ですのに……」
 皺に弛んだ手の愛撫に身を委ねてフラウはより色濃い艶笑を見せた。
「とんでもない、お前たちは私の愛らしい娘だよ。籠の中に閉じ込めておきたいほどにいとおしい……けれど本来ならばその絹のように滑らかな金糸を、俗衆の目に触れさせる事でさえ私には耐え難い。ならばせめてお前たちの奏でるレクイエムで、“禁忌に触れた”奴らをあの世へ送り届けてやればいいのさ」
 薬物に溶けた目が細められ、口端が耳元に届くまで歪む。ウィル・トラッド、英国王室の掌握を企てる野望の教授ーー彼は人形兵器の考案者であると同時に、娘に対し常軌を逸する偏愛の心と独占欲を持つ淫情の男であった。
 ウィルは十二宮環の複製元ーー最愛の娘クレルを見知らぬ旅人に寝取られ、嫉妬に狂い正常な判断が出来なくなった彼はその旅人の故郷を、仲間を、すべて情動のままに焼き尽くした。
 その旅人の名がイリヤ・シャルナク。
 父の手から逃れるための旅をしていた少女の痛々しい傷を見兼ねて自分の団に誘った、“ただそうしただけ”の人間。
「しかし使えるだけの駒は使っておくに越したことはないね。ティカル・カンリフ、彼奴は気に食わない男だが力はある。そう、お前たちの“実に愛くるしい姿を納めた実験記録ポルノグラフィ”を持ち逃げしたあの汚ならしい片眼男を卸すだけの力が、な」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...