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第四譚:記憶の花よ辻風と散れ
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しおりを挟む教会都市よりカールスルーエへの向けられた刺客、聖圏の担い手ーーティカル・カンリフ。行き交う路面電車の窓に映るホログラムより、ウィル・トラッドはティカルの蹂躙を郊外のバス停で見届けていた。
十二宮環の七女、フラウを足元に侍らせながら。
「物見の方より報告を申し上げます。先刻より、カーネス様からの言伝てを受けた教会の方々が一斉に支局へと向かわれましたわ。ウィル様、わたくしめは如何なる措置を行いましょう?」
人形の奏でる耳に心地好い涼やかな声の色は、その肉付きのよい柔らかな曲線とのギャップに背徳感のそそる音をもたらしていた。
ウィルは己の整った白眉をなぞり、それから腰に跨がる少女の曲線もまた丁寧になぞる。枯れた甘い匂いが喧騒の中、バス停の中心のみを次元から切り離したように静寂を誘っていた。
「いつも通りお前たちは九の針を通して、これまで約定を交わした連中の無線を傍受すればいいんだ。少しでも不審な発言を聞き取ったら、すぐさま私に報告をするんだよ」
いつでも揚げ足を取れるように、ね。
九の針とは隠語で九女のルクレツィアを指していた。十二宮環の名称が公にされているのは教会都市においても身内にしか留まらずーー
なのに“連中”は軽々しく我が愛しき娘たちの名を呼んでいる。
「ウィル様も大変お人が悪いわ。十二宮環という組織も、所詮は軍が手配した駒に過ぎませんもの。わたくしめの身など使い捨て同然に扱ってくださって結構ですのに……」
皺に弛んだ手の愛撫に身を委ねてフラウはより色濃い艶笑を見せた。
「とんでもない、お前たちは私の愛らしい娘だよ。籠の中に閉じ込めておきたいほどにいとおしい……けれど本来ならばその絹のように滑らかな金糸を、俗衆の目に触れさせる事でさえ私には耐え難い。ならばせめてお前たちの奏でるレクイエムで、“禁忌に触れた”奴らをあの世へ送り届けてやればいいのさ」
薬物に溶けた目が細められ、口端が耳元に届くまで歪む。ウィル・トラッド、英国王室の掌握を企てる野望の教授ーー彼は人形兵器の考案者であると同時に、娘に対し常軌を逸する偏愛の心と独占欲を持つ淫情の男であった。
ウィルは十二宮環の複製元ーー最愛の娘クレルを見知らぬ旅人に寝取られ、嫉妬に狂い正常な判断が出来なくなった彼はその旅人の故郷を、仲間を、すべて情動のままに焼き尽くした。
その旅人の名がイリヤ・シャルナク。
父の手から逃れるための旅をしていた少女の痛々しい傷を見兼ねて自分の団に誘った、“ただそうしただけ”の人間。
「しかし使えるだけの駒は使っておくに越したことはないね。ティカル・カンリフ、彼奴は気に食わない男だが力はある。そう、お前たちの“実に愛くるしい姿を納めた実験記録”を持ち逃げしたあの汚ならしい片眼男を卸すだけの力が、な」
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