アルテアースの華 ~勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか?!~

暁 流天

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2.必然の出会い。

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 買い物をするために街に出たのは良いけど、はっきり言ってどこに行けばいいのかわからない。とりあえずお店が立ち並んでる場所に行けば、必要なものくらい揃うかもしれない。
 そういえば必要なものって、どんな物だろうと考えながら町を歩いていると、なんだか周りの視線が気になる。足早に歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかった。

「あっ、ごめんなさいっ」
「こちらこそ、すみません……」

 見上げてみると、癖の無い銀色の長い髪を下の方で軽く束ね、紫水晶のような瞳の驚くほど秀麗な顔立ちの男性が居た。
 顔立ちがとてつもなく整っていて、素晴らしい美貌だった。はっきりいって美の神の化身じゃないかと思えるほどの美貌。
 目の保養とはこういうことを言うのだと納得してしまう。ただ、なぜかこちらを呆然と見ていて、視線が気になって仕方ない。

「あの、何か?」
「……あ、いえ。ただ、珍しい髪色でしたので……」

 私から見れば、目の前の男性の方が珍しい髪色に見えるけど、この世界では普通なのかもしれない。それにしてもこの人、よく見れば色白で肌のキメも細かい。
 ふいに微笑まれて、心臓が跳ね上がった。見られることに耐え切れず、視線を逸らしてしまった。

「はあ・……珍しいですか?」
「黒髪は、あまり見かけない色ですね。瞳の色も、珍しいです」
「そうですか……」

 なんだかよく知らないけど、目の前の美神といると余計に目立つことは分かったから、さっさと立ち去ろう。
 頭を軽く下げて、人通りの少なそうな細い道に入り込もうとすると、美神に肩を掴まれた。

「待ってください!路地裏に、何か用事があるのですか?」
「え、別に……ただ、人目の多いところはちょっと……」

 それに髪色が目立つみたいだし、暗い場所なら黒髪も隠れていいかもしれない。目の前の美神は呆れたような息をついた。

「はっきり言いますが、貴女みたいな人が路地裏を歩くなど……危ないだけですよ?」
「そ、そうなんですか?」

 どうも日本に住んでた感覚で、つい路地裏に入ろうとしてしまったけど、危ないらしい。それを止めてくれた美神さんは、実はとても良い人なのかもしれない。

「あまり、この辺りのことを知らないのですね」
「その、来たばかりで……えっと、この辺りのこと詳しいんですか?」
「詳しいも何も、子供ですら路地裏には近寄りませんよ。よく見てください、あの辺りの人の人相を……」

 言われたとおりよく見てみると、ニヤついている顔の危なそうな人たちが、建物の影に隠れるように座っている。
 誰が見ても、これは絶対にヤバイやつだと分かるような雰囲気に、思わず固まった。もしかして相当危険な場所に飛び込もうとしていたのかもしれない。

「道に迷ったのなら、私が連れて行きますよ」
「え、でも……」

 よくよく考えたら、物の相場も解らないのに買い物に行こうとしているし、道なんて適当に歩いているだけだし、一人で歩くよりも安全だと思った。
 それならきっと、この美神さんに案内して貰う方がいいかもしれない。

「じゃあ、お願いします」
「ええ。では、行きましょうか」

 穏やかに微笑むのを見ると、とても優しい人なんだと思ってしまう。
 でもどこか堂々としているというか、気弱な雰囲気は全く感じない。とりあえず、ついて行っても大丈夫かもしれないと思った。

「私は春野天華っていうの」
「ハルノテンカさん?」
「そうそう。あ、こっちだともしかして天華・春野になるのかも」

 目の前の美神さんは、珍しそうにこちらをじっと見てくる。
 すごく居心地が悪いから、少しずつ移動して視線を避けてみるけど、なかなか視線が外せない。

「ああ、テンカの方が名前ですか」
「ちょっと天華の発音が違うかな?」

 美神さんは少し考えるように首を傾けると、発音の練習をするように、何度も名前をつぶやき始めた。

「テンカ……てんか、天か、天華?」
「そうそう!天華!この世界の人に、初めてちゃんとした発音で読んでもらえたわ」

 ちょっと感動していると、美神さんが何か眩しいものを見るような顔でこちらを見ていた。あまりにも見つめてくるから、きっと人を見つめる癖でもあるんじゃないかと疑ってしまう。

「あの美神さ……ええ~っと、名前は?」
「あ……名前ですか。レムリア、レムリア・ヴィル……フォンダルシア」
「えっとフォンダルシアさん?」
「いえ、レムリアで」
「じゃあ、レムリアさん。私の顔に何か付いてますか?」

 あまりにも見つめすぎていたいことに気がついたらしくて、レムリアさんは、気まずそうに視線を逸らしてしまった。

「……何も付いてません」
「なら、いいです」
「ところで天華さんは、どこに行こうとしていたのですか?」
「あ、旅支度の用意をするために買い出しに来たの。でも用意するものとか解らなくて……適当にお店の人に聞けばいいのかなって出てきたんだけど……」

 必要な物を買いに行くために、お店を探していたけど、もしかしてレムリアさんなら必要な物が解るかもと期待してしまう。

「私も旅に出ているので、旅支度に必要なものならある程度わかりますよ。ですが、どうして旅に?」
「え、ああ。色々あって勇者の旅に着いていくことになったの。でも私、何も力が無いらしいからご飯の用意しかできなくて……」

 自分で言っているうちに、なんだか情けなくなってくる。
 適性が農民で子宝に恵まれるとか……これは完全に、村人として生活しろということじゃないだろうか。

「何も力がない?それは、魔力や神聖魔法の適性も剣の技術もないということですか?」
「そうだけど……戦うのは勇者たちだし、私は本当にお世話係みたいなものらしくて……」
「……何も力がないのに、世話係ですか……」

 レムリアさんは、穏やかな笑みは完全に消してしまった。
 さっきまですごく穏やかに話してくれていたから、余計に不安になってしまう。

「あの、レムリアさん?何かおかしなことでもありました?」
「いえ、何も……それより、買い出しですよね?」

 我に返ったように、レムリアさんは元に戻った。
 いったいなんだったのだろうと、少し気になったけど聞けなかった。

「え、ええ」
「旅支度に必要な物を揃えている店なら、こちらですよ」

 案内されるままに色々な店を回って、小型のテントから薄手の毛布といった必要最低限の物を買っていく。それに食事に使う軽量型の鍋から食器類、あると便利だからと撥水性の布や他の物も色々と買い込んだ。
 丈夫そうな厚手のリュックに詰め込むと、そこそこ重くなった。気がつくと、太陽がずいぶんと高い位置に移動していた。

「レムリアさん。一通りそろいましたし、お昼ご飯でも食べませんか?」
「そうですね。お昼にしましょうか」

 そういえばレムリアさんには、すっかりお世話になったのを思い出した。せめてものお礼に、ご飯くらい奢らないといけない気がした。

「あ、お昼ご飯ならおごりますよ?ほら、色々とお世話になりましたし」
「いえ、女性に出させるわけには……」

 このままだと、ご飯代までお世話になりそうな気がして、慌てて首を振って否定した。
 さすがに買い物に付き合ってもらって、ご飯まで奢ってもらうのはおかしい。しかも数時間前に知り合ったばっかりの人なのに。

「いえいえ!本当にいいですって!買い物に付き合ってもらったお礼です!」
「そうですか」
「あ!あそこのお店なんてどうですか?」

 とりあえず指差したお店は、行列ができていて人気がありそうだった。
 人気があるということは、きっと美味しいはず。まあ、なぜか女性客が多いのは気になるけど、気にせずに列に並んでみた。
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