アルテアースの華 ~勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか?!~

暁 流天

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10.勇者の真実。

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 鳥の声がする。
 そろそろ朝だから起きようと思って目を開けると、全く知らない場所だった。
 驚いて体を動かそうとすると、全身が鉛みたいに重い。
 
 それに股にとんでもない違和感がある。
 なんだろう、股に大きな穴を開けられたみたいな変な感じ……不思議に思って起き上がってみると、起きるだけでかなり体が辛かった。
 とくに下半身なんて、力が全く入らない。そもそも、なんで私はこんな場所で寝てたんだろう……。

「ああ、起きましたか。体の方は大丈夫ですか?媚薬の方は、完全に抜けているはずですが……」
「!っ……レムリアさん」

 なぜかすぐ隣にいたらしく、いきなり声をかけられて驚いた。
 そういえば、あの強姦魔に襲われて助けを求めたら、白い光に包まれて、気がついたらレムリアさんがいたんだっけ。

 それで……レムリアさんに助けを求めて……その後はどうなったんだっけ?

 思い出そうとすると、酷い目眩がしてきた。あまりに辛くて、考えるのをそこで止めてしまった。
 すると目眩が綺麗に治った。
 また思い出そうとすると、酷い目眩がするので、考えることを止めてしまった。

「お水、飲みます?」
「あ、いただきます」

 小さなコップに注がれた水を受け取ると、おそるおそる口を付けて、喉の奥へと流し込む。
 乾いた喉に染みわたる水がすごく美味しくて、いっきに飲み干した。
 まだ欲しいなと思ってレムリアさんの方を見ると、水袋から水をコップに注いでくれた。
 
 それを飲み干して一息つくと、自然と涙がこぼれ落ちてくる。
 人にこんなに優しくされるなんて、いつ以来だろう。

「大丈夫ですか?やはり体に無理が……」
「違うんです……人に親切にされたことが、身に染みるというか」
「親切が、身に染みる……?何か、あったのですか?」
「あったというか……この世界に来てから、ありすぎるというか」

 話しても良いのか悩んでレムリアさんの方を見ると、すごく心配そうにこちらを見ていた。
 なんだろう、レムリアさんの綺麗な紫水晶のような瞳を見ていたら、すごく安心してしまう。

「この世界?」
「私、勇者召喚の時に、勇者の近くに居たから一緒に召喚されたの。でもそれは、巻き込まれただけで……」
「巻き込まれた?それでは、天華さんは違う世界から来たというのですか?」

 レムリアさんは驚いたらしくて、少し目を見張った。返事の代わりに頷くと、軽く息を吐いた。

「こことは全く違う世界から、でも召喚はできても返すことはできないらしくて……」
「では、召喚してしまった国は保証などはしないのですか?何も力がないと言っていましたが……それなら市民権を与え、当分の生活費を渡すなどのことはできるでしょう」
「あ、市民権は……一応あるんです。その、国で身分証を発行してもらいましたから……それにお金も、旅の資金ならいただきました」
「それなら戦う力がないのに、どうして魔王討伐などに参加することになったのですか?」

 自分がしてしまった馬鹿な事を、話してもいいのか悩んでしまう。
 ふとレムリアさんの方を見ると、気づかわしげな色を宿した紫水晶の瞳と視線があった。
 レムリアさんになら、話してもいいかもしれない。

「……勇者に同行して、魔王討伐に成功すれば、領地と爵位が与えられるって言われて……私の適性が農業だから、好きなだけそこを耕せば良いって言われて……先のことを考えたら、良い話かと思ったんです」
「それは……」

 レムリアさんでも返事に困ったらしく、それ以上何も聞いてこなかった。

 本当に、勇者の旅になんてついていかなければ良かった。
 でもあの時は、どこにも居場所なんてなかったから付いて行くしかなかった。

「天華さんは、この世界のことはどこまで知っていますか?」
「あまり詳しくは……ただ、魔王を倒すために勇者を召喚したと。それで、勇者は魔王を倒しにいかなければならないから……」

 それ以外のことは何も聞いていない。そこで初めて気づいた、この世界のことを何も知らないということに。
 勇者召喚に巻き込まれたあげく、けっこう酷い扱いをされている気がするけど、きっと気のせいじゃない。

「そうですか……それぞれの国には、守護神がいます」
「国の守護神……?」

 そういえばあの国は、闘神バルトスの神殿があって、闘神バルトスは国を守っていると言っていた。

「崇拝し、その神の加護と恩恵を受けることにより、国がより強くなるのです。そして極希にですが、神が人の身に宿り降臨することも……」
「え、降臨……?」

 それだと、この世界のどこかには神さまが居るってことになるんだけど。
 もしかして神さまに頼めば、元の世界に帰れるかもしれない。

 思わず期待した目でレムリアさんを見ると、察したらしいレムリアさんは困ったように微笑んだ。

「ずっと昔に、神々の時代があったそうですが……その時代の名残ですね。今はそのような話は伝説のようなものです」
「伝説かぁ……」
「そうですね。神話の時代の話ですよ」

 ふと、召喚された時のことを思い出した。
 たしか男の声と、あとから物凄い美人を見たけど、もしかするとあれが女神かもしれない。
 すごく短い時間で意識もはっきりしなかったから、夢みたいな感じだったけど。

「そういえば、召喚された時に穴に落ちたんですけど……男の人と女の人の声を聞いた、気がするんです……」

 レムリアさんは少し考えるように視線を落として黙ると、何かに気づいたように口を開いた。

「天華さんが召喚された国は、闘神バルトスを守護神としている国です。おそらくですが、闘神バルトスの可能性がありますね」
「あれが闘神?じゃあ、あの女性は……」
「どこかの女神なのでしょう……ですが闘神バルトスは、戦と血を好む神ですから、他の神からはあまり好かれていないと聞きますが……」
「戦と血って……」

 そんな神を信仰している国って、とんでもなく危ない国ではないんだろうかと疑問に思ってしまう。
 レムリアさんは気づいたらしく、苦笑を漏らした。

「戦と血を好みはしますが、強さの象徴として扱われているためですよ」
「そうなんですか……ああ、他国に侵略されない強さってことですか?」
「そういう意味ですね」

 強いというよりも、すごい偉そうな感じがしたけど……でも戦いの神さまだから、当たり前かもしれない。

「……それと、あの国には珍しい行事があるそうなんです」
「行事って?」
「王の後継者が姫君しかいない場合、異世界から勇者を召喚し、魔王を倒させるそうです」

 たしかに魔王を倒して欲しいと、勇者として神宮寺くんは召喚された。
 でも、レムリアさんは行事って言っていた。
 つまり神宮寺くんは、姫を女王にさせるために召喚されたことになる。

「え……それって」
「見事魔王を倒すと、勇者は姫と結婚するそうです。姫は女王として即位し、勇者はその夫となるというものです」
「女王の夫になるための、魔王退治ってこと?」
「そう、なりますね……」

 レムリアさんは、すごく気まずそうにしている。
 どう考えても、召喚された時に聞いていた説明と違う。

「でも魔王は世界に良くない影響があるから、それを倒すために呼ばれたって……」
「影響?魔王は魔界を治めているだけで……人の世界には踏み込んできません」
「それって……人にとって脅威じゃないってこと?ならなんで倒すなんて……あ、お姫様と結婚のためか。でもそれって、魔王をそんな理由で倒された魔界側が黙っていないんじゃないの?」

 よく考えたら、王女の夫になるために魔王が倒されましたなんて冗談じゃない気がする。
 てっきり世界の平和のために、魔王討伐が必要かと思ったけど、実際には必要じゃないみたいだし。

「ある程度のお金を積んで、倒したことにしてもらうと聞いたことがあります」
「え、でも神宮寺くんはそんなことは言ってなかったけど……だから魔王を倒すのに同意したんだし」
「そうですね、召喚された勇者は知らなくても、仲間が知っているはずです。聖職者などは神殿を通じて、国から話を聞いているはずですよ」

 旅の仲間の聖職者なんて、1人しか思いつかない。

「プリーストの、女の子……?」
「その方でしょうね。おそらく、知っていますよ。そして交渉役も担っているはずです」

 そういえば、すごく勇者のことを気に入っていて、私のことを見下しまくってたっけ。
 彼女は初めから全て知っていて、私の扱いもそんなに良くないことをわかってたんだ。
 ブレイブだって、おそらくは知っていて私を襲ったかもしれない。

「お金を出して、魔王に倒したことにしてもらって……そのあと、姫と結婚?ただの茶番劇じゃない」

 初めから全てが決まっていて、勇者が召喚されていたわけだ。
 それなのに、私が親切心を出して勇者に引っ付いてきてしまった。

 召喚した側から見れば、確実に邪魔だったはず……だからどんな扱いになるか解っていて、勇者パーティーに放り込んだんだ。
 姫との結婚に邪魔な者を、排除できると考えて。

「馬鹿じゃないの?それだけのために、私は……」
「天華さん……」

 自然と目から熱いものが溢れ出て、視界が滲んでいく。
 それを隠すように俯いて指で拭うと、レムリアさんが労わるように、そっと肩を抱いてくれた。

「っ……っふ、ぅ……ぅっ」
「……泣いても、いいんですよ」
「……レム、リアさんっ」


 レムリアさんに優しく頭を撫でられ、耐えられずに涙が溢れ出てきた。
 この世界に飛ばされ、ずっとずっと我慢していた辛さが今になって出て来る。
 
 きっとレムリアさんは優しい人だから、こうやって慰めてくれているんだ。
 だったら今だけなら、泣いても良いんだと思い、レムリアさんの胸にすがりつくように泣いた。


**************


 思いっきり泣いて、だいぶ落ち着くとレムリアさんに縋り付いていることが恥ずかしくなってくる。
 赤くなってしまった顔を俯いて隠すと、そっとレムリアさんから離れた。

「ありがとうございます。その、私ったら……」
「いえ、気になさらず」

 さんざん泣くとやっぱり咽が渇いてしまって、また水を頂いてしまった。
 なんだろう、咽が渇いたと言う前に水をくれるから、すごい気が利くなと思って感心してしまう。

「本当に何から何まで、ありがとうございます」
「……私がしたくてしたことですよ。気にしないでください」
「……レムリアさん」

 これ以上は反対に失礼になると思い、それ以上は何も言えなかった。それにこれからどうしようと、本気で悩む。
 
 あの人たちの元には、もう戻りたくない。それこそ、自分の身をブレイブに差し出しに戻るようなものだし。
 でも行くところもなくて、お金も荷物も何も持ってない。

「それより、これからどうするつもりですか?」
「これから……」

 他の国に行くためには、通行許可書というものが必要だと聞くし、それを発行するのにも身分証が必要らしいし。
 身分証がない場合は、たしかお金を保証金として出せば一時入国は可能って聞いたことがあるけど、まずお金が無い。
 行く先もなければ、お金もなく、頼る場所もないし、本当に何も思いつかない。

「あの、どこか雇ってもらえるところってありませんか?」
「雇ってもらえるところ?仕事が欲しいのですか?」
「その、お金も荷物も全て置いてきちゃいまして……」

 着の身着のままで飛ばされてきたから、本当に何も持ってない。
 はっきり言って路頭に迷っている状態だった。

「ああ、なるほど。では……お金を貸しましょうか?」
「え、いいの?」
「ええ、お金には困っていませんし……」

 なんだろう、綺麗な笑みを浮かべているこの人が、すごく羨ましく見える。
 そんな台詞、私も言ってみたい!と思ったけど、それは心の中にしまった。

「ありがとうございます。すごく助かります。街に入るにしても身分証がなくて、一時的に入るにはお金がかかるって聞いたので、すごくありがたいです」
「身分証の再発行のために、また国に戻るのですか?」

 レムリアさんは心配そうに見つめてくるけど、あの国にはもう戻りたくない。
 戻っても、勇者に何があったか聞かれるはずだし、逃げてきたなんて言ったら何を言われるか。

「いえ……あの国には戻りたくないので、どこか別の国で働いてからお金を稼いでみます」
「別の国ですか……それなら、アルテアースなどはどうですか?」

 聞いたことがない単語だったけど、たぶん国のことだと思った。

「アルテアース?」
「ここから徒歩で2週間ほどの距離ですが、愛と豊穣の女神の守護を受けている国です」
「愛と豊穣の女神……」

 ふと、この世界に送り込まれる前に見た美しい女性を思い出した。
 麦穂のような黄金色の髪に、慈愛に満ちた翡翠の瞳。なんとなくその国なら、行ってみてもいいかもしれない。

「そこなら、私の仲介で身分証が作れると思いますよ」
「え、それならぜひともお願いします!」

 身分証の発行ができると聞いて、安心してしまう。
 たぶん身分証の発行が一番苦労すると思ったけど、本当に助かった。
 レムリアさんに感謝して、座ったまま深々と頭を下げた。
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