アルテアースの華 ~勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか?!~

暁 流天

文字の大きさ
16 / 33

15.祝い酒。

しおりを挟む
 果実園のような場所が見えたから、そこまで行って見ると本当に果実園だった。そこで作業している人に聞いてみると、果実酒を作っている家を教えてもらえた。
 急いでレムリアさんを連れて果実酒を作っている場所に行ってみると、大きなお店を出していた。

「え、普通にお店で売ってるの?」
「商品として流通している物ですし……」
「まあ、考えてみたらそうよね」

 レムリアさんの言う通り、商品として出回っているということは販売元があるわけで、お店があっても不思議じゃない。
 中に入ってみると、数人のお客さんが居て、店の商品を色々と見ていた。さすがに恋人達の祝祭というだけあって、恋人同士で来ている人ばかりだった。
 それほど広くない店内をレムリアさんと一緒に見てみると、ボンブルという桃色の果実酒を見つけた。

「これがボンブル?可愛らしい色をしているのね」
「この色と甘い味が女性に人気らしいですよ」
「甘いの?ちょっと飲んでみたいかも」

 すっかり忘れていたけど、お金が無いことを今頃になって思い出した。見たところ試飲があるわけでもなさそうだし、お店に来ても飲めない。

 レムリアさんに頼めば買ってくれそうな気もするけど、宿代もレムリアさんが出してくれている状態なのに、さらに買ってもらうなんてできない。
 
 仕方ないから諦めるしかないかと、見るだけで帰ることにした。

「帰ろっか……」
「気に入ったものがなかったのですか?ボンブルを飲んでみたいと言っていたはずですが……」
「あ、うん。いいの。帰ろう」

 本当はすごく気になる。でもお金がないから帰るなんて、恥ずかしくて言えない。
 ボンボールという果実以外にも、色々な果実で漬け込んだ果実酒がいくつも置いてあって、楽しそうなのに。
 
 諦めたように溜息を吐いて、店を出ようとした時にレムリアさんに肩を掴まれて引き止められた。

「レムリアさん?どうかしたんですか?」
「その、お金なら私が出しますよ」

 今、少しだけ心が揺らいでしまったけど、仕方ない。でもこれ以上は、やっぱり遠慮しておこう。

「それは……宿代も出してもらっているのに、これ以上お世話には」
「天華さん、私が出したいから言っているのです。だから気にしないでください」
「でも「前にも言いましたが、お金には困っていません。それに、この間仕留めたべアルホワイトの皮や牙を換金すれば、さらに入ります」

 べアルホワイトはレア種らしいから、普通のべアルよりも数段高い値段で買取をしているらしい。たしかに今、ここで買ってもらっても余裕かもしれない。
 
 でも、それってどうかと思う。やっぱり自分のお金で買わないと、意味がないんじゃないかと考えてしまう。
 
 考え込んでいると、いつの間にかレムリアさんがお店の中に入ってしまった。呆れられたかもしれないと思って店を出て扉の前にいると、すぐに何かが入った紙袋を持って店を出てきた。

「天華さん、これを」
「え、これって……」

 紙袋の中身を見ると、さっき見たボンブルが入っていた。しかも特大サイズで、かなり大きい。
 思わずレムリアさんの顔と特大ボンブルを交互に見比べてしまう。

「私からのプレゼントということで」
「レムリアさん……」

 さすがにプレゼントと言われると、受け取らないわけにはいかない。
 お金を受け取らないからと、心遣いがすごく嬉しくて思わず顔がほころんでしまう。

「ありがとうございます。すごく嬉しいです」

 お礼を言うと、レムリアさんがピタリと止まった。
 まるで驚いたように固まったレムリアさんが珍しくて、思わず近寄って見つめてしまった。レムリアさんの手が、そっと頬を撫でてきた。

 混ざった視線の先にある、赤みがかった紫水晶の瞳が綺麗すぎて、頭が何も考えられなくなってしまう。

 ふいに微笑まれて、心臓が煩いくらいに音を立てて、どうすることもできない。
 
 だんだんと近づいてくる顔に、自然と目を閉じようとした時に、お店の扉が開いた。
 驚いてしまい、急いでレムリアさんから離れると、どこかカップルが仲睦まじそうに立ち去った。

「あ、あははっ……晩御飯を食べに戻ろうかしら」
「……そう、ですね」

 レムリアさんは、どこか残念そうに微笑んだ。
 落ち込んでそうなレムリアさんよりも、流れに流されかけた自分に焦った。
 まさか自分が、あんなに簡単に流れに流されてしまうなんて、今後のことを考えると流されそうな自分が怖い。
 
 宿に戻って食堂に向かうと、テーブルで待つようにと言われて待っていると、レムリアさんが食事が乗っているトレイを運んできてくれた。

「すみません、お金がなくて……」
「本当に気にしないでください。それに天華さんには、旅でずいぶんとお世話になりましたし」
「お世話って……とくに何もしてないのに」
「いえ、美味しい食事をいつも作ってくれていましたよね。それで十分です」

 トレイの上には野菜のソテーと何かの肉のミンチ、それと暖かなミルクスープが載っていた。レムリアさんが自分の分のトレイを持ってくるのを待ってから、一緒に食べた。

 野菜は煮込み野菜を一緒に炒めたらしくて、なんだかあまり美味しくないし、ミンチの肉も味付けが薄すぎなのにパサパサしている。

 ミルクスープも下味がなくて、本当に水にミルクを入れて具を入れただけの味だった。食べれるけど、美味しくない。コストを削減しすぎて、味が落ちている。

「なんというか……食べれなくはないけど、うん、まあ」
「言いたいことはわかります。私も天華さんの料理を食べた時は、あまりの美味しさに驚きました」
「あれは、素材の新鮮さと色々な調味料があったおかげだから」

 たしかに今食べている料理が基準なら、あれは美味しいうちになる。でも、それにしても褒めすぎな気がする。
 ふと周りを見るとカップルばかりに見えるけど、その中に混ざるように怪しい姿のお姉さんがたが数名見える。とりあえず、あまり美味しくない料理を食べ終えると、トレイを返しに行った。
 
 トレイの返還場所に、とても綺麗なオレンジ色の飲み物が沢山置かれているのを見つけた。
 
 よく見るとご自由にお飲みくださいと書かれていて、みんなトレイを返してから、ついでにオレンジ色の飲み物を持って行っていた。なんとなく2つ取ると、テーブルに戻った。

「それは、どうしたんですか?」
「トレイの返却口で、ご自由にお飲みくださいって置いてあったの。他の人も持って行っているから、いいかなって思って」
「ああ、今日は恋人達の祝祭でしすし、その関係の飲みものでは?」
「そうかしら。なら祝い用の飲み物ってことよね」

 オレンジ色の飲み物はよく冷えていて、炭酸っぽい泡が美味しそうに見える。何かの果実酒には見えるけど、いったい何の果実なんだろうと不思議に思った。

 周りの人達も食後に飲んでいるみたいだから、たぶん大丈夫。
 一口飲んでみると、果実の甘味と皮の苦味が混ざり合っていて、美味しかった。苦味が少し強い気もするけどアルコールで隠されていて、気にならない。

「あ、結構美味しいかも。ちょっと苦味があるけど……気になるほどじゃないし」
「そうですか。なら私も頂きます」

 レムリアさんは綺麗な所作で一口飲むと、少し目を見開いた。

「確かに美味しいですね」
「でしょ?食後にはぴったりよね」

 オレンジ色の飲み物を飲み干すと、返却口に戻して部屋へと戻った。
 食事はあんまり美味しくなかったけど、お腹は満たされたから満足はした。
 お風呂も臨時の大衆浴場が用意されていて、ちゃんと男女に分けられているらしい。それを聞いて急いで入浴すると、久しぶりに広いお風呂に入って大満足だった。

「やっぱり広いお風呂って良いわ」
「広いお風呂が好きなんですか?それなら今度、広い露天風呂でも作りましょうか?」

 そういえば旅の途中でお風呂に入りたいと呟いたら、精霊魔法で地形を変えて、地下から温水を湧き出させていたのを思い出した。
 たしかにレムリアさんなら、露天風呂も簡単に作ってしまえそうだけど、旅の跡みたいにあちこちに温泉を作るのは控えたい。

「こういうのは、たまにが良いのよ」
「たまにですか」
「そうそう。いつも入っていたらありがたみがなくなるわ」

 ふとテーブルの上を見ると、レムリアさんから頂いたボンブルの袋が目に入った。
 プレゼントされた物を、そのまま大事に抱えて旅に出るのは、さすがにおかしい。
 なら、ここで飲むしかないけど……コップとつまみがない。

「あの、レムリアさん。ボンブルを飲みたいんだけど、コップを借りてもいい?」
「少し待ってください」

 レムリアさんは荷物からコップを取り出すと、手渡してくれた。1つだけ渡されたから、思わずレムリアさんの分も頼まないとと思ってしまった。

「あ、コップをもう一つ。レムリアさんも飲むんでしょ?あと、ついでに干し肉も出してもらっていい?」
「ええ。干し肉ですね」

 コップと干し肉を取り出して、ついでに薄い皿も取り出してくれた。
 その薄い皿の上に干し肉を広げて、コップにボンブルを注いだ。
 コップを取るとレムリアさんに乾杯をするようにコップを向けた。レムリアさんは少し戸惑っているけど、気にせずに乾杯をしてボンブルを口の中に流し込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...