アルテアースの華 ~勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか?!~

暁 流天

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23.大神殿と神官。

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 クレスさんの案内でお店へ向かっていく最中、光沢のある真っ白な石の壁で出来た、美しく壮大な神殿が見えた。
 柱は優美な曲線を描いて、計算されたように並び立ち、大きさも3階建ての学校の校舎くらいはある。
 日本に住んでいたら、絶対にこんな神殿を見ることは無い。思わず足を止めて魅入ってしまった。

「神殿が珍しいですか?」
「うん、こんな立派な神殿は見たことがないから……」
「有名な神殿だよ。愛と豊穣の女神アルテフェルミアさまの大神殿」

 大神殿と聞いて、納得してしまう。距離はあるのに、全体がよく解るほど大きく、本当に女神が降臨しそうな雰囲気だった。
 
 ふいに入口の上に飾ってある、鳥の羽と稲穂をモチーフにしたような紋様が気になった。

「あの紋様って……羽と、稲穂……?」
「テンカさん、知らないの?聖鳥ハクシアと稲穂の話し。聖鳥ハクシアが稲穂を運んできた家には、子供が生まれるんだよ」
「昔から伝わる、おとぎ話ですよ。子供が親に、赤ん坊がどこから来るのかと聞かれた時にする話しです」

 似たような話を、どこかで聞いたことがあるのを思い出した。
 たしか、コウノトリがキャベツ畑から赤ん坊を運んでくるという話だったはず。

「それって、もしかして……鳥が運んでくるみたいに?」
「ええ。女神アルテフェルミアさまのところから、聖鳥ハクシアが運んできて、目印に稲穂を置いていくと……そう教えるんですよ」
「そうそう。おとぎ話みたいなもんだよ」

 世界は違っても、親が子供に話す内容はどこも似たようなものかもしれない。

「へぇ~……私の知っている話は、コウノトリっていう鳥がキャベツ畑から赤ん坊を運んで来るって言うの」
「畑から赤ん坊を、ですか?」
「キャベツって何か知らないけどさ、畑って……それだと赤ん坊が、畑から生まれたみたいになるよな?」

 レムリアさんもクレスさんも、驚いたようにこちらを見てくる。
 今まであまりに気にしなかったけど、そう言われてみたら、キャベツ畑は少し酷いような気がしてきた。

「まあ、言われてみたら……まだ女神さまの所からの方が、いいかも」
「だよなぁ~。なんで畑なんだろ?あ、それよりご飯を食べに行くんだろ?」
「そうですね。ここで赤ん坊がどこから来るのかと話をしても、仕方ありません。行きましょうか」

 クレスさんが歩き始めたから、慌てて後を追おうとした時、大神殿の扉が開いて誰かが出てきた。
 青と白を基調にした神官服のようなローブを着込んだ、少しだけ少年っぽさの残る青年だった。
 
 距離があるから顔がはっきりわからなかったけれど、茶金色の髪が太陽の光を浴びて、金色に光っているように見えた。
 
 青年の青い瞳と目があったような気がしたけど、きっと気のせいだと思い、その場を離れた。



********************



 クレスさんの案内で着いたお店は、大神殿から見える位置に建っていた。
 緑色の屋根に真っ白に塗った壁。出入り口には、沢山の花を飾っていて、とても素敵な雰囲気を醸し出している。
 
 ドアを開けて中に入ると、お客さんを知らせるドアベルの音がなった。
 すぐに桃色の髪を後ろで団子にしている店員さんが来て、窓際のテーブル席に案内してくれた。
 窓側に座ると、レムリアさんが正面に、その横にクレスさんが座る。

「決まりましたら、ベルを鳴らしてお呼びください」

 店員さんは、水とメニューを置くとカウンターへと戻っていった。

「どんなメニューがあるの?」
「そうですね……ミミエラの煮込みランチ、揚げフイフイのランチ、トックレラのステーキと、ありますが……」
「俺、トックレラのステーキで!」

 メニューを聞いただけだと、何がなんだか解らない。ここはやっぱり、名前の響きで決めるべきかと悩んでしまう。

「本日のおすすめは、揚げフイフイと書かれてますが……どうします?」
「じゃあ、おすすめの揚げフイフイで」
「では私も、揚げフイフイにしましょう」

 クレスさんはベルを鳴らして定員さんを呼ぶと、頼んだ。定員さんはすぐにメモをしてカウンターへ入っていった。
 店内を見渡してみると、他のお客さんが見当たらない。お昼を過ぎた時間だとしても、これは寂しいと思ってしまう。

「お客さん、少ないのね」
「少し前に来た時はもう少しいたよ。たぶん、店の向かいにある大衆食堂に客を取られたんだろ」

 言われて窓の外を見たら、店の向かい側に大きな大衆食堂が見えた。そこにはお客さんが何人か居るみたいだった。

「あの大衆食堂、前に来た時はなかったんだけどなぁ」
「じゃあ、あそこも開店したばかりなのね」

 大衆食堂を見ていると、誰かが店内に入ってきたらしくドアベルの音が響いた。音に気づいた定員さんがドアの前まで行き、客の対応をしているみたいだったけど、客と何か話すとすぐにカウンターに引き込んだ。

 また外を見ていると、誰かが隣に来た気配がして振り返った。
 振り返った先に居たのは、つい先ほど大神殿の前に居た青年だった。

「え、さっきの……?」

 間近で見た青年は、驚くほどの儚い美貌で息を飲んだ。
 整った顔立ちに吸い込まれそうなくらいに透き通った深く青い瞳は、長いまつげに覆われていて、どこか憂いに満ちていた。
 透き通るような白い肌と、健康的に薄らと色づいている頬と唇は、中性的な美しさを醸し出している。

 レムリアさんの顔で免疫がついていたおかげで、見惚れることがなかったのが救いだった。

「……ここ、座ってもいいかな?」

 いきなりのことに、何を言われているのかすぐに理解できなかった。

 それよりも店内には客がほとんど居なくて、沢山の席が空いているのに、どうして隣の席に座りたいと言っているんだろうと不思議で仕方なかった。

「あの、他にも席は空いてるけど?」
「……うん、見ればわかるけど。僕は貴女の横に座りたいから、聞いてるの」

 隣に座りたいと言われているのは解るけれど、見知らぬ人に横に座りたいと言われれば、さすがに返事に困ってしまう。
 
 この青年とは、さっき神殿で一瞬だけ目があっただけで、本当にそれだけ。

「天華さん、断りましょう」
「貴方には聞いてないよ。僕は彼女に聞いてるの……まあ、勝手に座らせてもらうけど」
「え……勝手にって」

 レムリアさんの言葉を気にすることなく、神官っぽい人は隣の席に座った。
 いきなりの行動に驚きすぎて、誰も止めることができず、茶金色の髪の青年の行動を見つめるだけだった。
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