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32.先見の明。
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大神殿は思っていたよりも近くだったらしく、歩いて10分ほどで着いた。
ノイエル神官長の案内で2階の奥の部屋まで行くと、客室用の部屋があるのでそこの1室を使うように言われた。
旅路で増えた荷物を部屋に置いてベッドの上に寝転がると、疲れが一気に出てくる。
眠りかけていると、扉が控えめに叩かれて眠りの淵から意識が浮上した。誰だろうと思い、扉を開けてみるとレムリアさんが居た。
「レムリアさん、どうかしたの?」
「少し、話がしたいのですが……」
「話?良いけど」
扉の前で立ち話なんてできないから、レムリアさんに部屋の中に入ってもらった。
座る場所を探してみると、椅子が1つしかない。仕方なく並ぶようにベッドの上に腰掛けた。
「さきほどは、すみませんでした。感情を抑えられなくなってしまい、天華さんにあんなことをしてしまって……」
「何度も言うけど、嫌だったからじゃなくて……そのね、思い出したの」
「思い出した?」
「うん。たぶん淫陶花の効果で思い出せなくなっていた記憶の一部だと思うんだけど……」
あの薄暗い洞窟には見覚えがある。たしか淫蕩花が完全に抜けて目覚めた時に、居た洞窟のはず。
レムリアさんは緊張したように体を強張らせた。
「それは、どこまでですか?」
「キスが始めてか聞かれたところだけ、思い出したんだけど……」
そういえば似たようなことが、カンロ村でもあったような気がする。
あの時も、一瞬だったけど似たような光景が脳裏に浮かんだ。
「もしかして似たようなことを体験すると、思い出すの?」
「そうかもしれません。おそらくですが、追体験のようなことをしてしまうと、記憶を揺さぶられるのでしょう」
「でも記憶って少しずつ戻るって言ってなかったっけ?」
「ええ、本来はそうですよ。どうも追体験をすることで、早く戻るようですね」
だからフラッシュバックのように、記憶が突然甦ってしまったんだろうと納得した。
それにしても行為の真っ最中の記憶を、突然思い出すなんて心臓に悪い。
「記憶を、早く思い出したいですか?」
自然に手を握られ、窺がうように覗き込まれると、無意識に頷こうとしてしまう。けれど、ふいに出てきた理性で思いとどまった。
たしかに一気に思い出してしまえば、突然に記憶が甦ってくるなんてことは無い。
でも早く思い出すためには、同じようなことをしなければいけないわけで、それを大神殿の客室でするというのは、さすがに気が引けた。
「ううん、いいの。また混乱するし、それにそのうち思い出すんでしょう?」
「そうですね。逃走されては困りますし」
ついさっき、全力で逃走したことを思い出した。
今から考えたら、なんであんなことをしたんだろうと不思議で仕方ない。
よく考えると逃走した原因は、色んな人に見られたことも恥ずかしかったのに、さらに淫蕩花で乱れてた記憶の一部が甦ったことが原因だったはず。
「あれは恥ずかしすぎたから、つい」
「わかっています。混乱して、焦って走り出したのでしょう?」
「そ、そうだけどっ……でもよく考えたら、レムリアさんのせいな気もするけど」
あんな場所であんな事をするから、恥ずかしかったし記憶も甦ってしまった。
レムリアさんが何もしなければ、逃走することも無かったはず。
そう思ってレムリアさんを軽く睨むと、なぜか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
また誰かが扉を叩くと、確認もなく扉が開いた。
「テンカさん、ノイエル神官長が夕食の準備ができたからおいでって……なんで手を繋いでるの?」
「なんとなく、自然に繋がってたというか……」
自然に繋がれていた手を離すと、ベッドから立ち上がった。
「それより、食事よね?すぐ行くから」
「仕方ありません。行きましょうか」
ラズライエルさんに付いていくと、1階に降りていった。
広間を通ってまっすぐに進んでいくと、立派な扉の前にたどり着いた。どう見ても食堂じゃない。
これだけ大きい神殿なら、食堂があってそこに案内されるかと思っていたけど、拍子抜けだった。
「食堂は無いの?」
「あるけど、客人だからってノイエル神官長の私室に通すようにだって」
部屋に入ると、ノイエル神官長が出迎えてくれた。案内されるまま席につくと、食事が運ばれてくる。
パンとスープと、メインに豆の和え物と少しの肉が出てきた。
進められるまま食べてみると、味は控えめで、なんとなく精進料理を思い出した。
「すまないね、あまり豪華な食事を出せなくて」
「いえ、頂けるだけでもありがたいです」
本音を言えば、食事を無料で頂けたので、ありがたいと言いたいところだった。
「そう言っていただけると、助かるよ……おや、ラズライエルくんが食事をするとは、珍しい」
「僕だって、食べる時は食べるよ」
「え、ラズライエルさんって普段は食事しないの?」
「天使は、とくに必要ないよ。まあ、娯楽感覚で食べる天使もいるみたいだけど……」
「そう。天使にも色々といるのね」
ラズライエルさんは慣れた手つきで食事をしていたから、必要が無いなんて気づかなかった。
そういえば初めてラズライエルさんにあった時も、食事をせずに私の方を見ていたけど、必要がないから暇で見ていたのかも。
食事を進めているうちに、聖女の話を思い出した。
「そういえば、聖女が神の御技に近い奇跡を起こしたから、聖女として認定されたって言ってたけど……」
ノイエル神官長は、肯定するように頷いた。
「死の間際にいた騎士の命を国王の御前で救ったことから、聖女だと言われ始めたんだよ。そうして国王が認め、国が認めたという経緯があるからね」
たしかに死ぬ寸前の騎士の命を王の目の前で救ったということは、認められる要因になるかもしれない。
それは奇跡のようなもので、しかも王の目の前で起きたことになる。
「それで、ここに安置されていた聖杖は……聖女が持っていったんですか?」
「聖女か……疑問はあるが、たしかに安置されていた聖杖を持って行ったよ」
ノイエル神官長は、聖女を聖女と認めていないみたいな言い方だった。
ラズライエルさんが天使で、聖女を聖女じゃないと断言していることを知っているとしたら、仕方ないことなのかもしれない。
でもそれだとノイエル神官長が認めていないということは、神殿側も認めていないんじゃあ、と疑問に思った。
「あの、大神殿側は聖女として認めていないのに、聖女なんですか?」
「神殿側はたしかに認めてはいないが、国が認めてしまったからね。そして国に属している以上、あまり強くは言えないんだよ」
良くはわからないけど、おそらく力関係上、大神殿と国なら国の方が力が強くて、違うと否定することが難しかったんだと思った。
それにしても、聖女に聖杖まで渡してしまった理由が良くわからない。
「だったらなんで、聖杖を渡してしまったんですか?」
「聖杖は、聖杖に認められなければ力を発揮しないからね。つまりはね、聖女と名乗り聖杖を持っていたとしても、その力を使えはしないんだよ」
「使えないとわかっていたから、渡したってことですか?」
「そうなるね。それと、本来の持ち主が取り返すはずだからね」
本来の持ち主といえば、私になるらしい。じゃあ、このノイエル神官長は、すべてを見通して渡したということだろうか。
神官長というだけあって、頭もすごく良いのかもしれない。
でも結局は、私が取り返しに行かなければいけないということは変わらない。。
「それ、私の苦労が増えているように思うんだけど……」
「貴女なら、きっと取り返せるはずだよ」
自信満々に言うけれど、どうしてそんな自信満々なんだろうと疑問に思ってしまう。
「でも、どうやって?」
「一週間後に、城で聖女のお披露目があるんだがね、そこにラズライエルくんを向かわせようと思う。テンカさんは一緒に向かっていただければ、聖女と会うことができる」
「え、でも私は別に神殿に所属しているわけじゃないんだけど……」
「そこのラズライエルくんのお供として、ついていけばお城に入ることは可能のはずだよ」
聖杖を得るために、聖杖を持っているという聖女に会わなければいけない。
頷きかけたとき、レムリアさんが肩を掴んで止めてきた。
「待ってください。天華さんは私と行く予定です。ちょうど天華さんを紹介したい人も居ますし……」
「は?テンカさんは僕と城に行くんだけど?」
「先に約束を取り付けたのは、私です。そうですよね、天華さん」
そういえば城に行くからと、ドレスを購入したのを思い出した。
色々なことがあったからすっかり忘れていたけど、元々はレムリアさんがお城に連れて行ってくれる予定だったんだっけ。
ラズライエルさんとノイエル神官長には悪いけれど、断ることにした。
「ごめん、ラズライエルさん。レムリアさんの方が先だから……」
「ああ、なるほど。それなら、レムリア殿に連れて行っていただければ……聖女には、会えるはずだ」
聖女のお披露目には、レムリアさんについてお城に行くことが決定した。
ラズライエルさんは不満げだったけれど、ノイエル神官長は満足げに頷いた。
ノイエル神官長の案内で2階の奥の部屋まで行くと、客室用の部屋があるのでそこの1室を使うように言われた。
旅路で増えた荷物を部屋に置いてベッドの上に寝転がると、疲れが一気に出てくる。
眠りかけていると、扉が控えめに叩かれて眠りの淵から意識が浮上した。誰だろうと思い、扉を開けてみるとレムリアさんが居た。
「レムリアさん、どうかしたの?」
「少し、話がしたいのですが……」
「話?良いけど」
扉の前で立ち話なんてできないから、レムリアさんに部屋の中に入ってもらった。
座る場所を探してみると、椅子が1つしかない。仕方なく並ぶようにベッドの上に腰掛けた。
「さきほどは、すみませんでした。感情を抑えられなくなってしまい、天華さんにあんなことをしてしまって……」
「何度も言うけど、嫌だったからじゃなくて……そのね、思い出したの」
「思い出した?」
「うん。たぶん淫陶花の効果で思い出せなくなっていた記憶の一部だと思うんだけど……」
あの薄暗い洞窟には見覚えがある。たしか淫蕩花が完全に抜けて目覚めた時に、居た洞窟のはず。
レムリアさんは緊張したように体を強張らせた。
「それは、どこまでですか?」
「キスが始めてか聞かれたところだけ、思い出したんだけど……」
そういえば似たようなことが、カンロ村でもあったような気がする。
あの時も、一瞬だったけど似たような光景が脳裏に浮かんだ。
「もしかして似たようなことを体験すると、思い出すの?」
「そうかもしれません。おそらくですが、追体験のようなことをしてしまうと、記憶を揺さぶられるのでしょう」
「でも記憶って少しずつ戻るって言ってなかったっけ?」
「ええ、本来はそうですよ。どうも追体験をすることで、早く戻るようですね」
だからフラッシュバックのように、記憶が突然甦ってしまったんだろうと納得した。
それにしても行為の真っ最中の記憶を、突然思い出すなんて心臓に悪い。
「記憶を、早く思い出したいですか?」
自然に手を握られ、窺がうように覗き込まれると、無意識に頷こうとしてしまう。けれど、ふいに出てきた理性で思いとどまった。
たしかに一気に思い出してしまえば、突然に記憶が甦ってくるなんてことは無い。
でも早く思い出すためには、同じようなことをしなければいけないわけで、それを大神殿の客室でするというのは、さすがに気が引けた。
「ううん、いいの。また混乱するし、それにそのうち思い出すんでしょう?」
「そうですね。逃走されては困りますし」
ついさっき、全力で逃走したことを思い出した。
今から考えたら、なんであんなことをしたんだろうと不思議で仕方ない。
よく考えると逃走した原因は、色んな人に見られたことも恥ずかしかったのに、さらに淫蕩花で乱れてた記憶の一部が甦ったことが原因だったはず。
「あれは恥ずかしすぎたから、つい」
「わかっています。混乱して、焦って走り出したのでしょう?」
「そ、そうだけどっ……でもよく考えたら、レムリアさんのせいな気もするけど」
あんな場所であんな事をするから、恥ずかしかったし記憶も甦ってしまった。
レムリアさんが何もしなければ、逃走することも無かったはず。
そう思ってレムリアさんを軽く睨むと、なぜか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
また誰かが扉を叩くと、確認もなく扉が開いた。
「テンカさん、ノイエル神官長が夕食の準備ができたからおいでって……なんで手を繋いでるの?」
「なんとなく、自然に繋がってたというか……」
自然に繋がれていた手を離すと、ベッドから立ち上がった。
「それより、食事よね?すぐ行くから」
「仕方ありません。行きましょうか」
ラズライエルさんに付いていくと、1階に降りていった。
広間を通ってまっすぐに進んでいくと、立派な扉の前にたどり着いた。どう見ても食堂じゃない。
これだけ大きい神殿なら、食堂があってそこに案内されるかと思っていたけど、拍子抜けだった。
「食堂は無いの?」
「あるけど、客人だからってノイエル神官長の私室に通すようにだって」
部屋に入ると、ノイエル神官長が出迎えてくれた。案内されるまま席につくと、食事が運ばれてくる。
パンとスープと、メインに豆の和え物と少しの肉が出てきた。
進められるまま食べてみると、味は控えめで、なんとなく精進料理を思い出した。
「すまないね、あまり豪華な食事を出せなくて」
「いえ、頂けるだけでもありがたいです」
本音を言えば、食事を無料で頂けたので、ありがたいと言いたいところだった。
「そう言っていただけると、助かるよ……おや、ラズライエルくんが食事をするとは、珍しい」
「僕だって、食べる時は食べるよ」
「え、ラズライエルさんって普段は食事しないの?」
「天使は、とくに必要ないよ。まあ、娯楽感覚で食べる天使もいるみたいだけど……」
「そう。天使にも色々といるのね」
ラズライエルさんは慣れた手つきで食事をしていたから、必要が無いなんて気づかなかった。
そういえば初めてラズライエルさんにあった時も、食事をせずに私の方を見ていたけど、必要がないから暇で見ていたのかも。
食事を進めているうちに、聖女の話を思い出した。
「そういえば、聖女が神の御技に近い奇跡を起こしたから、聖女として認定されたって言ってたけど……」
ノイエル神官長は、肯定するように頷いた。
「死の間際にいた騎士の命を国王の御前で救ったことから、聖女だと言われ始めたんだよ。そうして国王が認め、国が認めたという経緯があるからね」
たしかに死ぬ寸前の騎士の命を王の目の前で救ったということは、認められる要因になるかもしれない。
それは奇跡のようなもので、しかも王の目の前で起きたことになる。
「それで、ここに安置されていた聖杖は……聖女が持っていったんですか?」
「聖女か……疑問はあるが、たしかに安置されていた聖杖を持って行ったよ」
ノイエル神官長は、聖女を聖女と認めていないみたいな言い方だった。
ラズライエルさんが天使で、聖女を聖女じゃないと断言していることを知っているとしたら、仕方ないことなのかもしれない。
でもそれだとノイエル神官長が認めていないということは、神殿側も認めていないんじゃあ、と疑問に思った。
「あの、大神殿側は聖女として認めていないのに、聖女なんですか?」
「神殿側はたしかに認めてはいないが、国が認めてしまったからね。そして国に属している以上、あまり強くは言えないんだよ」
良くはわからないけど、おそらく力関係上、大神殿と国なら国の方が力が強くて、違うと否定することが難しかったんだと思った。
それにしても、聖女に聖杖まで渡してしまった理由が良くわからない。
「だったらなんで、聖杖を渡してしまったんですか?」
「聖杖は、聖杖に認められなければ力を発揮しないからね。つまりはね、聖女と名乗り聖杖を持っていたとしても、その力を使えはしないんだよ」
「使えないとわかっていたから、渡したってことですか?」
「そうなるね。それと、本来の持ち主が取り返すはずだからね」
本来の持ち主といえば、私になるらしい。じゃあ、このノイエル神官長は、すべてを見通して渡したということだろうか。
神官長というだけあって、頭もすごく良いのかもしれない。
でも結局は、私が取り返しに行かなければいけないということは変わらない。。
「それ、私の苦労が増えているように思うんだけど……」
「貴女なら、きっと取り返せるはずだよ」
自信満々に言うけれど、どうしてそんな自信満々なんだろうと疑問に思ってしまう。
「でも、どうやって?」
「一週間後に、城で聖女のお披露目があるんだがね、そこにラズライエルくんを向かわせようと思う。テンカさんは一緒に向かっていただければ、聖女と会うことができる」
「え、でも私は別に神殿に所属しているわけじゃないんだけど……」
「そこのラズライエルくんのお供として、ついていけばお城に入ることは可能のはずだよ」
聖杖を得るために、聖杖を持っているという聖女に会わなければいけない。
頷きかけたとき、レムリアさんが肩を掴んで止めてきた。
「待ってください。天華さんは私と行く予定です。ちょうど天華さんを紹介したい人も居ますし……」
「は?テンカさんは僕と城に行くんだけど?」
「先に約束を取り付けたのは、私です。そうですよね、天華さん」
そういえば城に行くからと、ドレスを購入したのを思い出した。
色々なことがあったからすっかり忘れていたけど、元々はレムリアさんがお城に連れて行ってくれる予定だったんだっけ。
ラズライエルさんとノイエル神官長には悪いけれど、断ることにした。
「ごめん、ラズライエルさん。レムリアさんの方が先だから……」
「ああ、なるほど。それなら、レムリア殿に連れて行っていただければ……聖女には、会えるはずだ」
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