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31.逃走の果て。
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レムリアさんにしては珍しく怒っているみたいで、ラズライエルさんは視線を泳がして後ずさった。
「……天使の祝福をテンカさんに」
「祝福ですか……それなら、精霊の祝福も必要ですね」
「え……?」
気づくと顎と後頭部を掴まれて、上を向かされた。あまりに綺麗な紫水晶の瞳が閉じられ、近づいてくる。
影に覆われたと思ったとたん、唇が柔らかに塞がれていた。驚いて口を開けた瞬間、口内に何かが侵入してきた。
「んっ、んん?!んーっ!」
それが舌の感触で、歯列の隙間から進入してくると、舌を絡みとり吸い上げ、口内を貪られる。
動こうにも頭が後ろから抑えられていて、動けない。ただただ、それを甘受するしかなかった。
でもこれを気持ちが良いと感じてしまい、そしてこの感触を知っている自分に戸惑ってしまう。
ふいに月夜に照らされた薄暗い洞窟と、愛しげに見つめてくる紫水晶の瞳が記憶を揺さぶるように、脳裏に浮かんだ。
やっと離された頃、呆然とレムリアさんを見つめた。
「あの……私っ……」
「君、大胆だね」
記憶の中では、たしかに"ぜんぶはじめて"とか恥ずかしすぎることを口走っていた。
なんでそんなところまで暴露してしまったのか、そしてそれを嬉々として受け入れていた自分が恥ずかしすぎる。
ふと周りを見ると、通り過ぎの何人かがこちらを見ているのに気づいた。
穴があったら入りたい。けれども穴なんてないから、恥ずかしさのあまりに走り出した。
「天華さんっ!」
「どこ行くの!テンカさん!!」
レムリアさんとラズライエルさんの声は聞こえていたけれど、気にしていられなかった。
あの広場の噴水前から姿を消せれば、どこでも良かったから適当に走った。
そのうち息が切れて疲れてしまい、足が動かなくなってしまった。よく周りを見てみると、まったく知らない場所。
そういえばレムリアさんが、アルテアースは広いと言っていたっけ。でももう戻ろうにも、道がわからなくて、途方にくれてしまった。
***************
そのまま立ち尽くすことも考えたけど、もう日がずいぶんと傾いているから少しでも動いた方が良いような気がする。
そういえば、お城の近くに大通りがあったはず。あそこまで戻ることが出来れば、広場まで戻ることができるかもしれない。
お城を目指して行こうとした時、背後から声をかけられた。
振り返ると落ち着いた雰囲気を纏う初老の男性が立っている。
若葉色の瞳に濃茶の髪が、柔らかな色合いで安心感を抱いてしまう。
「お嬢さん、どうかしたのかい?」
「え、いえ……ラズライエルさんと同じ服?」
でも良く見れば違う。袖のところが金糸で縁取られているし、色が紫色っぽい。
たしかラズライエルさんは、青い神官服だった気がする。
「おや、ラズライエルくんを知っているのかね?」
「え、知り合いなんですか?」
「もちろん。彼にはずいぶん、お世話になっているからね」
そういえば神殿のお手伝いとしているって少し前に聞いた気がする。
きっとその関係だろうと考えた。だったらこの人は、きっと神殿の関係者で、信用できるかもしれない。
「あの私、実は道に迷っていて……それでできれば、道を教えていただきたいんです」
「かまわないが、いったいどこに?」
「ええっと、ですね。噴水のある広場なんですけど……」
「ああ、あそこだね。おいで、案内するよ」
道すがら色々なことを聞いた。この男性はノイエル・グリフェルさんと言って、やっぱり神殿関係者だった。
この辺りに住んでいる貴族に依頼されて、生まれたばかりの赤ん坊に祝福を授け、その帰りに私を見つけたらしい。
夜に向かい天気が薄暗くなってきたころ、遠くの方に見覚えのある人が見えた。
「天華さん!こんな場所に居たのですね。すみません、私があんなことをしなければ……」
「違うの。ちょっと記憶が戻ったせいもあって、少し混乱しただけで、レムリアさんが嫌だったとかじゃなくて、その」
心配そうにこちらを伺っているレムリアさんの顔が、変に緊張してしまい見れない。
話しているうちに、どんどんと恥ずかしくなっていくのはなんでだろう。
「レムリア殿。久しぶりと、言った方がいいかな?」
「これは……ノイエル、神官長」
レムリアさんは驚いたように目を見開いて、ノイエルさんを見ていた。
これだけ驚いているレムリアさんが珍しくて、思わずノイエルさんを見てしまう。
「レムリアさんも知り合いなの?というか、神官長って……」
「昔、少しお世話になったことがあるんです。それにしても、まさか天華さんを保護していたとは」
レムリアさんの来た方向から、少し機嫌の悪そうなラズライエルくんがやってきた。
途中までレムリアさんを挟んでいたから私の存在に気がついていなかったみたいだけど、近づいたら私の存在に気づいた。
「向こうには居なかっ……え、どうしてテンカさんと、ノイエル神官長が一緒に居るの?」
「道に迷ってたら、声をかけてくれたの。私から見たら、レムリアさんと神官長が知り合いだったことが意外なんだけど……」
「そうですね。それについては、後で少し話をしましょうか」
「レムリア殿。それなら久しぶりに、大神殿に寄ってみては?」
ノイエルさんがレムリアさんに尋ねると、レムリアさんは私の方へと視線を送ってくる。
レムリアさんと神官長の関係も気になるから、話を聞いてみたいと思い頷いた。
「私は別に良いけど」
「わかりました。では、今夜だけ大神殿に泊まりましょうか」
その一言で、今夜だけは大神殿に泊まることになった。
「……天使の祝福をテンカさんに」
「祝福ですか……それなら、精霊の祝福も必要ですね」
「え……?」
気づくと顎と後頭部を掴まれて、上を向かされた。あまりに綺麗な紫水晶の瞳が閉じられ、近づいてくる。
影に覆われたと思ったとたん、唇が柔らかに塞がれていた。驚いて口を開けた瞬間、口内に何かが侵入してきた。
「んっ、んん?!んーっ!」
それが舌の感触で、歯列の隙間から進入してくると、舌を絡みとり吸い上げ、口内を貪られる。
動こうにも頭が後ろから抑えられていて、動けない。ただただ、それを甘受するしかなかった。
でもこれを気持ちが良いと感じてしまい、そしてこの感触を知っている自分に戸惑ってしまう。
ふいに月夜に照らされた薄暗い洞窟と、愛しげに見つめてくる紫水晶の瞳が記憶を揺さぶるように、脳裏に浮かんだ。
やっと離された頃、呆然とレムリアさんを見つめた。
「あの……私っ……」
「君、大胆だね」
記憶の中では、たしかに"ぜんぶはじめて"とか恥ずかしすぎることを口走っていた。
なんでそんなところまで暴露してしまったのか、そしてそれを嬉々として受け入れていた自分が恥ずかしすぎる。
ふと周りを見ると、通り過ぎの何人かがこちらを見ているのに気づいた。
穴があったら入りたい。けれども穴なんてないから、恥ずかしさのあまりに走り出した。
「天華さんっ!」
「どこ行くの!テンカさん!!」
レムリアさんとラズライエルさんの声は聞こえていたけれど、気にしていられなかった。
あの広場の噴水前から姿を消せれば、どこでも良かったから適当に走った。
そのうち息が切れて疲れてしまい、足が動かなくなってしまった。よく周りを見てみると、まったく知らない場所。
そういえばレムリアさんが、アルテアースは広いと言っていたっけ。でももう戻ろうにも、道がわからなくて、途方にくれてしまった。
***************
そのまま立ち尽くすことも考えたけど、もう日がずいぶんと傾いているから少しでも動いた方が良いような気がする。
そういえば、お城の近くに大通りがあったはず。あそこまで戻ることが出来れば、広場まで戻ることができるかもしれない。
お城を目指して行こうとした時、背後から声をかけられた。
振り返ると落ち着いた雰囲気を纏う初老の男性が立っている。
若葉色の瞳に濃茶の髪が、柔らかな色合いで安心感を抱いてしまう。
「お嬢さん、どうかしたのかい?」
「え、いえ……ラズライエルさんと同じ服?」
でも良く見れば違う。袖のところが金糸で縁取られているし、色が紫色っぽい。
たしかラズライエルさんは、青い神官服だった気がする。
「おや、ラズライエルくんを知っているのかね?」
「え、知り合いなんですか?」
「もちろん。彼にはずいぶん、お世話になっているからね」
そういえば神殿のお手伝いとしているって少し前に聞いた気がする。
きっとその関係だろうと考えた。だったらこの人は、きっと神殿の関係者で、信用できるかもしれない。
「あの私、実は道に迷っていて……それでできれば、道を教えていただきたいんです」
「かまわないが、いったいどこに?」
「ええっと、ですね。噴水のある広場なんですけど……」
「ああ、あそこだね。おいで、案内するよ」
道すがら色々なことを聞いた。この男性はノイエル・グリフェルさんと言って、やっぱり神殿関係者だった。
この辺りに住んでいる貴族に依頼されて、生まれたばかりの赤ん坊に祝福を授け、その帰りに私を見つけたらしい。
夜に向かい天気が薄暗くなってきたころ、遠くの方に見覚えのある人が見えた。
「天華さん!こんな場所に居たのですね。すみません、私があんなことをしなければ……」
「違うの。ちょっと記憶が戻ったせいもあって、少し混乱しただけで、レムリアさんが嫌だったとかじゃなくて、その」
心配そうにこちらを伺っているレムリアさんの顔が、変に緊張してしまい見れない。
話しているうちに、どんどんと恥ずかしくなっていくのはなんでだろう。
「レムリア殿。久しぶりと、言った方がいいかな?」
「これは……ノイエル、神官長」
レムリアさんは驚いたように目を見開いて、ノイエルさんを見ていた。
これだけ驚いているレムリアさんが珍しくて、思わずノイエルさんを見てしまう。
「レムリアさんも知り合いなの?というか、神官長って……」
「昔、少しお世話になったことがあるんです。それにしても、まさか天華さんを保護していたとは」
レムリアさんの来た方向から、少し機嫌の悪そうなラズライエルくんがやってきた。
途中までレムリアさんを挟んでいたから私の存在に気がついていなかったみたいだけど、近づいたら私の存在に気づいた。
「向こうには居なかっ……え、どうしてテンカさんと、ノイエル神官長が一緒に居るの?」
「道に迷ってたら、声をかけてくれたの。私から見たら、レムリアさんと神官長が知り合いだったことが意外なんだけど……」
「そうですね。それについては、後で少し話をしましょうか」
「レムリア殿。それなら久しぶりに、大神殿に寄ってみては?」
ノイエルさんがレムリアさんに尋ねると、レムリアさんは私の方へと視線を送ってくる。
レムリアさんと神官長の関係も気になるから、話を聞いてみたいと思い頷いた。
「私は別に良いけど」
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