4 / 6
テーマ『歯医者へ行く』
サブテーマ『世界5分前仮説』
しおりを挟む
「いだいいだいいだぁぁあい!!!」
泣き叫びながらカーペットを掴み、その場を動かないぞと固い意志を表明している我が息子(5歳)と
「あんたが痛いって言うから歯医者に連れてってあげるって言ってんのに、なんでイヤイヤするの!!!!」
叫びながら息子のケツを引っ張り、必ず治してもらうぞと強い意志を持つ私(37歳)
「だって!母ちゃん!いつも歯医者連れてくぞ連れてくぞって怖いんだもん!!絶対痛いことされるじゃんか!!!」
「それはいつも隠れておやつ食ってるからでしょうが!!しかも虫歯になったら歯医者行くんだよって優しく言っとるわ!!」
「優しいもんか!!毎回毎回オバケみたい言ってくるじゃんか!!」
「うるさい!とにかく虫歯になるまでおやつ食ったあんたが悪い!!」
こうして息子と押し問答して約10分。お互いに疲れてきたものの一歩も引かない泥試合。
(もう歯医者の予約まで時間ねぇんだから早くしろよー!!!)
思いとは裏腹に、迫ってくる時間と思い通りにいかないイライラが焦りを産み、帰りにケーキでも買ってやるかとか夕飯を大好きなハンバーグにしてやるかとか様々な打開策を考えるも、それでは今後もごほうびをあげなければならなくなるのですぐさま却下する。
(どうしたもんかな.......)
ヒィーハァー荒い息を吐き、虫歯の痛みに耐えながら、必死に抵抗する息子を見てなんだか悲しくなってきた。
思い返せば、自分が虫歯になった時も親に引きづられながら怖い歯医者に向かったものだ。待合室で響くドリルの音と泣き声。いつも名前を呼ばれるなと念じ、呼ばれたら母に最後の抵抗をするも通じず、待合室で聴いた音を自分で再現する。恐ろしかった。歯医者という場所すら敵に感じたあの痛みがあるから、今でも虫歯にはなりたくない。
だが息子はこれからあの痛みを受けることになる。心苦しいが行かないと治らない。
助けてくれとつぶやきながら私はスマホを手に取った。
----------------------------------
(やっとあきらめたか.......!
昨日の夜、虫歯を見つけられてソッコーで予約するなんて、こーどーりょくがありありなんだぞ!!)
悪態をつきながらゆっくりとカーペットから手を離す。
力を抜いたからかより一層奥歯の痛みが大きくなる。
(ここまでやれば歯医者に行かねぇよな。まったく、母ちゃんが「虫歯になったら歯医者で歯を抜くんだよー。だからちゃんと磨きなよー。」とか!「お母さんは虫歯になった時に歯をドリルでグリグリ削ったんだよー。」とか!いっつも言うもんだからゼッタイ虫歯になりたくねぇとは思ってたけど、まさか虫歯になっちゃうとはな。でも!元々はおやつがすくねぇのがいけねぇ!!もう少しあったら隠れて食べたりしないのに.......)
そんなことを考えていたら、母ちゃんは正座でオレを見つめてた。
(出たよ.......母ちゃんのせっきょータイム..............)
こうなったらおしまいだ。ただただ母ちゃんが怒って、無理にでも歯医者に連れていくんだ。
ため息をつきながら、オレも母ちゃんのマネをして正座になる。
そしたら、母ちゃんは怒ることはなく
「ごめんなさい。」とオレに言った。
思わずキョトンとなるオレ。
いつもなら怒鳴り散らかしてくるのになんなんだ?
返事がないからか母ちゃんの言葉は続いた。
「私ね、あんたぐらいの歳に虫歯になって、ドリルでグリグリされたのね。すっごい痛かったの。泣きながら歯医者に行って泣きながら家に帰ったの。正直もう虫歯になんかなるもんかって思ったもんよ。」
そんなん知ってる。いつも母ちゃんにつまみ食いが見つかる度に言われてる。
「でも違うんだって。昔はドリルでグリグリしてたけど、今は口に麻酔っていう注射を打つんだって。ドリルのグリグリの痛みが無くなるお薬を注射するんだって。あんた、注射は我慢できたことあるから、あれだけなら大丈夫でしょ。あんた強い子なんだから。」
そう言う母ちゃんの目は真剣だった。まるであんたなら出来るよと信頼してくれてるような感じ。
「今日はあんたも疲れてるからまた今度にするけど、虫歯がずっとある方が痛いんだから歯医者には早めに行かないとね。」
母ちゃんは「さぁて昼飯でも作るか」と言いながらキッチンに向かった。
オレは(あの母ちゃんが怒んねぇなんて.......)と正座のまんま、おどろきまくってた。
-----------------
後日、息子を連れて歯医者に来たが予想以上に息子は大人しかった。
なんか、少しこわがってはいるが頑張るぞと言いたげな気迫が見える。でも、名前を呼ばれた時に「ひゃい!」って思いっきり噛んだのは母ちゃん笑ったわ。まだまだ子どもだな。
でも、
「母ちゃん!」
と呼び、グーサインを決めたあんたは少しずつ大人になってんだなって思ったよ。
痛かったんだろうけど「ちっとも痛くなかった!」と強がるあんたも、歯医者に「あと2回かけて虫歯をしっかり治そうね。」と言われて落ち込むあんたも、どっちも頑張ってる息子に変わりないし、かっこいい。
「よく頑張ったな!」と頭を撫で回すと恥ずかしくて嫌がる息子と共に、夕飯のハンバーグを食べる私は幸せなもんだ。
泣き叫びながらカーペットを掴み、その場を動かないぞと固い意志を表明している我が息子(5歳)と
「あんたが痛いって言うから歯医者に連れてってあげるって言ってんのに、なんでイヤイヤするの!!!!」
叫びながら息子のケツを引っ張り、必ず治してもらうぞと強い意志を持つ私(37歳)
「だって!母ちゃん!いつも歯医者連れてくぞ連れてくぞって怖いんだもん!!絶対痛いことされるじゃんか!!!」
「それはいつも隠れておやつ食ってるからでしょうが!!しかも虫歯になったら歯医者行くんだよって優しく言っとるわ!!」
「優しいもんか!!毎回毎回オバケみたい言ってくるじゃんか!!」
「うるさい!とにかく虫歯になるまでおやつ食ったあんたが悪い!!」
こうして息子と押し問答して約10分。お互いに疲れてきたものの一歩も引かない泥試合。
(もう歯医者の予約まで時間ねぇんだから早くしろよー!!!)
思いとは裏腹に、迫ってくる時間と思い通りにいかないイライラが焦りを産み、帰りにケーキでも買ってやるかとか夕飯を大好きなハンバーグにしてやるかとか様々な打開策を考えるも、それでは今後もごほうびをあげなければならなくなるのですぐさま却下する。
(どうしたもんかな.......)
ヒィーハァー荒い息を吐き、虫歯の痛みに耐えながら、必死に抵抗する息子を見てなんだか悲しくなってきた。
思い返せば、自分が虫歯になった時も親に引きづられながら怖い歯医者に向かったものだ。待合室で響くドリルの音と泣き声。いつも名前を呼ばれるなと念じ、呼ばれたら母に最後の抵抗をするも通じず、待合室で聴いた音を自分で再現する。恐ろしかった。歯医者という場所すら敵に感じたあの痛みがあるから、今でも虫歯にはなりたくない。
だが息子はこれからあの痛みを受けることになる。心苦しいが行かないと治らない。
助けてくれとつぶやきながら私はスマホを手に取った。
----------------------------------
(やっとあきらめたか.......!
昨日の夜、虫歯を見つけられてソッコーで予約するなんて、こーどーりょくがありありなんだぞ!!)
悪態をつきながらゆっくりとカーペットから手を離す。
力を抜いたからかより一層奥歯の痛みが大きくなる。
(ここまでやれば歯医者に行かねぇよな。まったく、母ちゃんが「虫歯になったら歯医者で歯を抜くんだよー。だからちゃんと磨きなよー。」とか!「お母さんは虫歯になった時に歯をドリルでグリグリ削ったんだよー。」とか!いっつも言うもんだからゼッタイ虫歯になりたくねぇとは思ってたけど、まさか虫歯になっちゃうとはな。でも!元々はおやつがすくねぇのがいけねぇ!!もう少しあったら隠れて食べたりしないのに.......)
そんなことを考えていたら、母ちゃんは正座でオレを見つめてた。
(出たよ.......母ちゃんのせっきょータイム..............)
こうなったらおしまいだ。ただただ母ちゃんが怒って、無理にでも歯医者に連れていくんだ。
ため息をつきながら、オレも母ちゃんのマネをして正座になる。
そしたら、母ちゃんは怒ることはなく
「ごめんなさい。」とオレに言った。
思わずキョトンとなるオレ。
いつもなら怒鳴り散らかしてくるのになんなんだ?
返事がないからか母ちゃんの言葉は続いた。
「私ね、あんたぐらいの歳に虫歯になって、ドリルでグリグリされたのね。すっごい痛かったの。泣きながら歯医者に行って泣きながら家に帰ったの。正直もう虫歯になんかなるもんかって思ったもんよ。」
そんなん知ってる。いつも母ちゃんにつまみ食いが見つかる度に言われてる。
「でも違うんだって。昔はドリルでグリグリしてたけど、今は口に麻酔っていう注射を打つんだって。ドリルのグリグリの痛みが無くなるお薬を注射するんだって。あんた、注射は我慢できたことあるから、あれだけなら大丈夫でしょ。あんた強い子なんだから。」
そう言う母ちゃんの目は真剣だった。まるであんたなら出来るよと信頼してくれてるような感じ。
「今日はあんたも疲れてるからまた今度にするけど、虫歯がずっとある方が痛いんだから歯医者には早めに行かないとね。」
母ちゃんは「さぁて昼飯でも作るか」と言いながらキッチンに向かった。
オレは(あの母ちゃんが怒んねぇなんて.......)と正座のまんま、おどろきまくってた。
-----------------
後日、息子を連れて歯医者に来たが予想以上に息子は大人しかった。
なんか、少しこわがってはいるが頑張るぞと言いたげな気迫が見える。でも、名前を呼ばれた時に「ひゃい!」って思いっきり噛んだのは母ちゃん笑ったわ。まだまだ子どもだな。
でも、
「母ちゃん!」
と呼び、グーサインを決めたあんたは少しずつ大人になってんだなって思ったよ。
痛かったんだろうけど「ちっとも痛くなかった!」と強がるあんたも、歯医者に「あと2回かけて虫歯をしっかり治そうね。」と言われて落ち込むあんたも、どっちも頑張ってる息子に変わりないし、かっこいい。
「よく頑張ったな!」と頭を撫で回すと恥ずかしくて嫌がる息子と共に、夕飯のハンバーグを食べる私は幸せなもんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる