1 / 2
テーマ「忍者」
しおりを挟む
キーン。
少し耳鳴りがする。
それほどまでに静か。
時折、梟の鳴き声が聴こえるがそれ以外の環境音がない。
仕事にはおあつらえ向きの夜だった。
男はそう思いながら森の中へと駆け込んでいく。
男の名は「太田 一義」。
職業は忍者。
とだけ紹介すればかっこいいものだが、実際は結構泥臭い経歴だ。
大学を卒業するも内定は取れず、なんとか非正規雇用で会社勤めになるも営業成績が悪く1年で自主退職。
その後ハローワークや職業訓練校等に通い、今は忍者総合組合のパート忍者として下請け業務をしている。
今日もその業務として大手経営者から脱税の証拠を預かり(盗むというと法に引っかかるので)、依頼主であるKさん(守秘義務のため顔も名前も分からない)に届けたところである。
前の会社ならこのまま直帰してつまみとビールで晩酌となったのだが、忍者の仕事は終わらないし、終われない。
「ここから1度本部に戻るのが大変なんだよなぁ~これがさ…」
俺はつい本音を零してしまったが、大変なのは仕事より移動であることは事実なのだ。
忍者の仕事は基本的に世間に話せない仕事内容のため(守秘義務!!守秘義務があるからだよ!決して汚い仕事じゃないよ!!)、公共交通機関及び車やバイクなどの足がつきやすい乗り物関係は使用できない。
そのため徒歩移動で本部まで帰らなければならない。
タイムカードを切るためだけに。
パート忍者であるがゆえ、勤務時間は正確に記録しなければならず、残業はあまり好まれない。
というより、残業代は出してくれるものの、上司の小言が煩くてたまらないので残業はしたくないのだ。
「ものの数秒のために徒歩2時間とか馬鹿げてるよ…ホント…」
とはいえ仕事自体は終わっているので少しは気楽だと考えながら森の中を移動していると、
急に体が重くなる。
異変に気づいた時には既に体はさらに重くなり、右頬を殴られていた。
咄嗟に受身を取りそのまま距離を大きく開ける。
そして自分を殴った相手を観察していく。
180cmは超えていて横に広い体型だ。
だが太っているというよりは筋肉ダルマと言ったところだろうか。
武器は持ってなさそうだが、四肢の太さが武器の不必要さを物語っている。
「おい、おまえ組合の忍者さんで間違いねぇだろうな。」
相手は確信に満ちた表情で聴いてくる。
「そうだよ!!人違いだったらどうすんだよ!!あんなん喰らったら普通の人はお陀仏だぞ!!」
あとは帰るだけだった俺は思いっきりイライラを相手にぶつける。
相手はその様子にかなり驚いている。
「忍者ってのはクールな性格だと思ってたが意外と人間味があるんだな。」
ガハハハと昔の漫画みたいに割腹のいい笑い方をしたか思うとまた急接近してきた。
すかさずバックステップを入れるが、また急に体が重くなり体勢を崩してしまう。
相手はそのままの勢いで鳩尾に強烈な一撃を叩き込もうとしてきたので必死に両腕でガードする。
だが俺の体は、いとも簡単に宙に浮くが2mほど飛ばされた辺りで真下に急降下させられる。
「はぁ!?!?なにこれ!?!?」
思わず声が出てしまう俺は、にこやかな表情で距離を詰める筋肉ダルマと目線がかち合う。
本能で死を感じた俺は着地と同時に鎖鎌を後ろに投げ木に括り付ける。
そして相手の右ストレートを片手でガードしつつその反動を利用し距離を大きく取る。
(こいつ、能力者かよ…!!)
忍者という仕事上、命を狙われることは多々ある。
しかし、まずバレないようにすることが第一のため、なかなか戦闘になる事はない。
ただし戦闘にあった時は強者しか来ない。
(まぁそれも俺が仕事が上手だからなんだけどさ。)
鼻高々に語ってみるが過信ではなく、実は人智を超えた能力者ぐらいしか出会えないエリートパート忍者なのだ。
しかし能力者と分かれば、大分距離が稼げた現状でも安心できない。
すかさずクナイを投げ相手を牽制する。
しかしクナイは相手に当たるどころか近づくにつれ失速し3mほど手前で垂直に落下した。
「嘘だろ…おい…」
確認のために手裏剣も片手で3枚ほど放ってみるが、結果は変わらない。
「残念だがな。ピストルでもライフルでも俺には届かねぇんだ。だからそういうのは無意味なんだよ。」
なんとも国道で煽り運転をするような表情で説明してくれやがって。
だが、クナイや手裏剣を投げてる間は1歩と動かなかったのがその証拠。
(牽制にもならないんじゃ意味無いよな…!!)
でもやることは変わらない
今度は周りの木々に隠れて移動しながら、手裏剣を投げ続ける。
だが結果は同じ。
いくつ投げても、後ろなどの死角から投げても必ず垂直に落ちてしまい、相手に届きそうもない。
相手は手裏剣は怖くないだろうが、俺の姿を捉えきれずにいる様子だ。
頻りに顔を振り、手裏剣が投げられた方向に目を向ける。
先程の笑みが消えた相手は、
「そんなチマチマした戦い方はやめにしようぜ!!忍者さんは火遁や水遁とやらの忍術が得意なんだろ!!火を噴いたり、雷落としたりド派手にやってこうぜ!」
と怒気を腹んだ声で挑発してくる。
だがそんな挑発、俺には通用しない。
というより、
(そんなこと出来るわけねぇだろ!!!!!)
思わず心の中でツッコむ。
(まず挑発になってないからな!!!そんなことできたら苦労しねぇんだよ!!!)
元々は平凡以下のサラリーマン、つまりは一般人の俺に出来ることなんてたかが知れてる。
でも相手はそう思ってはいない。それどころかかなり警戒してる様子だ。
それなら、既に仕込みは終わっているから、素直に正面からやり合いますか。
俺は挑発に乗った風に演技しながら、相手と対峙する。
(上手くいってくれよ…上手くいくのは分かってはいるけどよ…)
内心ビビっているがそれを気取られないようにするのが精一杯な俺だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(ちまちまちまちま手裏剣だけ投げやがって、どこにいるのかイマイチわかんねぇ。)
俺は、本当は接近戦に持ち込みたい気持ちを抑えながら、忍者の出方を伺っている。
いつもならひたすら追いかけ回してタコ殴りにしてるとこだが、忍者に関しては警戒を怠ってはいけない。
上からのご忠告だしな。
俺は傭兵派遣団体で働いている。
いわゆる雇われ兵隊だ。
依頼があれば戦争でもボディガードでも暗殺でもなんでもやっている。
そりゃこの能力があれば何だってこなせるよな。
俺の能力は重空気範囲。
特定の範囲内の重力を加算し、空気中の密度を上げることが出来る。簡単に言えば、重力を発生させ俺の真上にある空気を下に送り続けることが出来る。
この能力の特徴は重力と凄まじい密度の空気によるバリアが同時に発生させられることだ。
この能力があれば武器も持たずに人を殴り殺せるし、前線で立ってるだけで遠距離攻撃は大抵無効化できる。
なんなら、火炎放射器も毒ガスも俺に届きやしない。
そんな俺でも警戒しないと行けない相手。それが忍者。
うちの団体でも忍者討伐の依頼は多く、世の金持ちは多くの懸賞金を出している。
明日は我が身かもしれねぇんだからそれは仕方ない。
だが、懸賞金を釣り上げてるのは討伐依頼を受ける団体側だ。
なぜなら何人も腕利きの能力者を忍者討伐に行かせたが帰ってきた奴は一人もいない。
そうすると団体は依頼失敗の名目を得て死んだやつがこれから稼ぐはずのお金が失われる。
つまり、うちの団体の被害総額は数十億を軽く越す金額なのだ。
今回の依頼も何度も首を振ったが、成功報酬の金額のデカさに根負けし依頼を受けたらしい。
でもそんなことはどうでもいい。
俺は「目を見ただけで動きを封じる」やつも「全身が鋼鉄で出来ている」やつも「炎と氷と雷を操る」やつも、
全員をぶち殺しやがったこいつに勝って、強さを証明してやる!!
ふと気づくと手裏剣の雨は止んでおり、忍者が正面に現れた。
まるで俺の警戒を嘲笑うかのように。堂々と。
「やっと出てきやがったか!待たせてんじゃねぇよ!」
威勢のいい声が出たが、飄々と勝ち誇ったような表情をした忍者に実際はビビってる。
挑発が効いたか?どんな大技を出してくる?
様々な懸念が頭の中を飛び交うが、忍者はただ1本のクナイを真っ直ぐ俺に投げてきた。
馬鹿の一つ覚えだと思った。なんなら欠伸でもして挑発してやろうとすら考えた。
ただ警戒をしていて良かった。
真っ直ぐと投げられたクナイは、真っ直ぐ俺の喉までやってきた。
俺はなんとか首を逸らし避けた。
それと同時に疑問詞が頭を埋め尽くす。
(なぜクナイは届いた?能力は解除していないはず?能力強制解除でも発動されたか?だがそれが出来たら最初からやっているはずだ?なぜ?どうして?)
だがそこからは考える隙を与えてくれなかった。
避けた後に正面を向いても忍者はおらず、先程同様に手裏剣の雨が始まった。
ただ先程と違うのは手裏剣は真っ直ぐ俺の身体を襲ってくること。
(避けないと…避けないと…!!)
頭では分かってる。防衛本能も全力で司令を出している。
ただ体は膝を震わせ身を縮めることしか出来ない。
ただの恐怖、安全圏から命を狙われる恐怖。
これが俺の体を支配していた。
無数の手裏剣が俺の体を掠めていく。
このままだとただ死を待つだけだ。
「あんた、意外としぶといんだな。」
忍者はいつの間にか姿を現し、下卑た顔でこちらを見ている。
悔しいがこれはチャンスだ。
俺の筋肉はそんじょそこらの筋肉ではない。
俺の能力にも耐えきれる筋肉だ。
俺は能力を解除し、一気に忍者との間合いを詰める!
そして、右腕を振りかぶり起死回生の一撃を!!!
………
だが俺の右腕は思い通りに動かなかった。
それ以前に忍者の前に移動した時点で、俺の四肢は無く、唯一残った首も忍者の刀で切り落とされていた。
それを知ったのは無惨にも、撥ねられた首が宙を舞い、なんとか俺の視界に入ったからだった。
俺は血液が脳から抜けていく感覚と共に死を迎えたのであった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「死んだ?死んだよな?死んでてくれよ??」
そう言いながら相手を凝視する。
あんな化け物だとまだ動けそうで怖いというのが本音だ。
だが、体には四肢も首もなく、肝心の首も動きそうにない。
ひとまず安堵した俺は埋葬を始める。
戦闘の形跡を無くすためでもあるが、もうこれ以上の敵に会いたくないと祈る側面もある。
「今日はちょっと大変だな。」
飛び散った四肢と胴体、首を見渡しながらため息混じりに呟いてしまう。
元々の予定ではここまで派手にやる予定では無かった。
というより相手が強すぎて派手になってしまった。
先程の戦闘を思い返しながら、ワイヤー付きの手裏剣を回収する。
最初に相手に殴られた場面だけだと、おそらく遅延などの時間操作か、重力などの空間操作かと考えられた。
だが、2度目の殴られた後に垂直に落とされた場面で空間操作だと断定。更に殴る瞬間ではなく、身体が空中を飛んでいる時に能力が発動されたことで、1つの仮説が生まれた。
(能力者本人も能力の対象となる)
つまりは能力を使っている間は本人にも重力が付与されているのだろうと。
もし能力者本人に重力がかかって無ければ、地面に跪かせてタコ殴りすればいい。
だが実際は殴るタイミングで能力を解除していたから俺はぶっ飛ばされた。
フルパワーで攻撃するためにわざと能力を解除していたのだ。
そうなるとあの筋肉ダルマは、あの重力がかかっている空間で常人以上の運動能力を発揮出来る化け物。
ここまで分かれば対処できるのがエリートパート忍者の俺なのよ。
ワイヤー付きの手裏剣を投げて仕込みをし、頃合いを見て木に括ったワイヤーを通したクナイを真正面から投げる。
ワイヤーが通っているから相手に直接刺さる軌道には投げれないが、遠距離攻撃が効く状況になれば痺れを切らせて突撃してくるだろう。
だから今度は手裏剣を全方位から投げまくる。
後は仕込んでいた手裏剣ワイヤーの網に突撃して弱ったところを急所を刺してトドメとなる。
言葉にすれば簡単で何の変哲もないトリック。だが能力者は自分の能力を無効化されたと思い込むと奥の手を出すしか無くなる。
その奥の手が必ずしも強い訳では無い。なんなら逃げることを主軸に考えるのでこちらからすると絶好の好機になる。
だがこいつはそうじゃない。能力に依存しなくとも敵を倒せるタイプだ。
俺はワイヤーの網にかかって怯んだ所で急所を狙う予定だった。
だが相手の膂力は想像以上だった。
ワイヤーの網にかかっても怯むどころか勢いも殺さずに目の前に迫ってきた。
あまりの勢いに四肢は網を通過した時点で千切れたが同時に発生した熱による火傷で、傷口が止血されていた程だった。
でも油断してなくてよかった。
構えていた刀を首の位置に合わせておくだけで、勢いそのままで首を切れたため、なんとか倒すことが出来たというわけだ。
そんなことを考えている内に、現場復旧と埋葬は終わり、
「はい、チーズ!」
と写真撮影をする。
九死に一生を得たことと戦闘手当が出るのが相まって、かなりの笑顔だ。
自分でも気色悪いなぁと感じつつ、また帰路へと向かう。
頑張ればお小言を回避出来る!!と意気込みながら、足早に本部に戻るのであった。
少し耳鳴りがする。
それほどまでに静か。
時折、梟の鳴き声が聴こえるがそれ以外の環境音がない。
仕事にはおあつらえ向きの夜だった。
男はそう思いながら森の中へと駆け込んでいく。
男の名は「太田 一義」。
職業は忍者。
とだけ紹介すればかっこいいものだが、実際は結構泥臭い経歴だ。
大学を卒業するも内定は取れず、なんとか非正規雇用で会社勤めになるも営業成績が悪く1年で自主退職。
その後ハローワークや職業訓練校等に通い、今は忍者総合組合のパート忍者として下請け業務をしている。
今日もその業務として大手経営者から脱税の証拠を預かり(盗むというと法に引っかかるので)、依頼主であるKさん(守秘義務のため顔も名前も分からない)に届けたところである。
前の会社ならこのまま直帰してつまみとビールで晩酌となったのだが、忍者の仕事は終わらないし、終われない。
「ここから1度本部に戻るのが大変なんだよなぁ~これがさ…」
俺はつい本音を零してしまったが、大変なのは仕事より移動であることは事実なのだ。
忍者の仕事は基本的に世間に話せない仕事内容のため(守秘義務!!守秘義務があるからだよ!決して汚い仕事じゃないよ!!)、公共交通機関及び車やバイクなどの足がつきやすい乗り物関係は使用できない。
そのため徒歩移動で本部まで帰らなければならない。
タイムカードを切るためだけに。
パート忍者であるがゆえ、勤務時間は正確に記録しなければならず、残業はあまり好まれない。
というより、残業代は出してくれるものの、上司の小言が煩くてたまらないので残業はしたくないのだ。
「ものの数秒のために徒歩2時間とか馬鹿げてるよ…ホント…」
とはいえ仕事自体は終わっているので少しは気楽だと考えながら森の中を移動していると、
急に体が重くなる。
異変に気づいた時には既に体はさらに重くなり、右頬を殴られていた。
咄嗟に受身を取りそのまま距離を大きく開ける。
そして自分を殴った相手を観察していく。
180cmは超えていて横に広い体型だ。
だが太っているというよりは筋肉ダルマと言ったところだろうか。
武器は持ってなさそうだが、四肢の太さが武器の不必要さを物語っている。
「おい、おまえ組合の忍者さんで間違いねぇだろうな。」
相手は確信に満ちた表情で聴いてくる。
「そうだよ!!人違いだったらどうすんだよ!!あんなん喰らったら普通の人はお陀仏だぞ!!」
あとは帰るだけだった俺は思いっきりイライラを相手にぶつける。
相手はその様子にかなり驚いている。
「忍者ってのはクールな性格だと思ってたが意外と人間味があるんだな。」
ガハハハと昔の漫画みたいに割腹のいい笑い方をしたか思うとまた急接近してきた。
すかさずバックステップを入れるが、また急に体が重くなり体勢を崩してしまう。
相手はそのままの勢いで鳩尾に強烈な一撃を叩き込もうとしてきたので必死に両腕でガードする。
だが俺の体は、いとも簡単に宙に浮くが2mほど飛ばされた辺りで真下に急降下させられる。
「はぁ!?!?なにこれ!?!?」
思わず声が出てしまう俺は、にこやかな表情で距離を詰める筋肉ダルマと目線がかち合う。
本能で死を感じた俺は着地と同時に鎖鎌を後ろに投げ木に括り付ける。
そして相手の右ストレートを片手でガードしつつその反動を利用し距離を大きく取る。
(こいつ、能力者かよ…!!)
忍者という仕事上、命を狙われることは多々ある。
しかし、まずバレないようにすることが第一のため、なかなか戦闘になる事はない。
ただし戦闘にあった時は強者しか来ない。
(まぁそれも俺が仕事が上手だからなんだけどさ。)
鼻高々に語ってみるが過信ではなく、実は人智を超えた能力者ぐらいしか出会えないエリートパート忍者なのだ。
しかし能力者と分かれば、大分距離が稼げた現状でも安心できない。
すかさずクナイを投げ相手を牽制する。
しかしクナイは相手に当たるどころか近づくにつれ失速し3mほど手前で垂直に落下した。
「嘘だろ…おい…」
確認のために手裏剣も片手で3枚ほど放ってみるが、結果は変わらない。
「残念だがな。ピストルでもライフルでも俺には届かねぇんだ。だからそういうのは無意味なんだよ。」
なんとも国道で煽り運転をするような表情で説明してくれやがって。
だが、クナイや手裏剣を投げてる間は1歩と動かなかったのがその証拠。
(牽制にもならないんじゃ意味無いよな…!!)
でもやることは変わらない
今度は周りの木々に隠れて移動しながら、手裏剣を投げ続ける。
だが結果は同じ。
いくつ投げても、後ろなどの死角から投げても必ず垂直に落ちてしまい、相手に届きそうもない。
相手は手裏剣は怖くないだろうが、俺の姿を捉えきれずにいる様子だ。
頻りに顔を振り、手裏剣が投げられた方向に目を向ける。
先程の笑みが消えた相手は、
「そんなチマチマした戦い方はやめにしようぜ!!忍者さんは火遁や水遁とやらの忍術が得意なんだろ!!火を噴いたり、雷落としたりド派手にやってこうぜ!」
と怒気を腹んだ声で挑発してくる。
だがそんな挑発、俺には通用しない。
というより、
(そんなこと出来るわけねぇだろ!!!!!)
思わず心の中でツッコむ。
(まず挑発になってないからな!!!そんなことできたら苦労しねぇんだよ!!!)
元々は平凡以下のサラリーマン、つまりは一般人の俺に出来ることなんてたかが知れてる。
でも相手はそう思ってはいない。それどころかかなり警戒してる様子だ。
それなら、既に仕込みは終わっているから、素直に正面からやり合いますか。
俺は挑発に乗った風に演技しながら、相手と対峙する。
(上手くいってくれよ…上手くいくのは分かってはいるけどよ…)
内心ビビっているがそれを気取られないようにするのが精一杯な俺だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(ちまちまちまちま手裏剣だけ投げやがって、どこにいるのかイマイチわかんねぇ。)
俺は、本当は接近戦に持ち込みたい気持ちを抑えながら、忍者の出方を伺っている。
いつもならひたすら追いかけ回してタコ殴りにしてるとこだが、忍者に関しては警戒を怠ってはいけない。
上からのご忠告だしな。
俺は傭兵派遣団体で働いている。
いわゆる雇われ兵隊だ。
依頼があれば戦争でもボディガードでも暗殺でもなんでもやっている。
そりゃこの能力があれば何だってこなせるよな。
俺の能力は重空気範囲。
特定の範囲内の重力を加算し、空気中の密度を上げることが出来る。簡単に言えば、重力を発生させ俺の真上にある空気を下に送り続けることが出来る。
この能力の特徴は重力と凄まじい密度の空気によるバリアが同時に発生させられることだ。
この能力があれば武器も持たずに人を殴り殺せるし、前線で立ってるだけで遠距離攻撃は大抵無効化できる。
なんなら、火炎放射器も毒ガスも俺に届きやしない。
そんな俺でも警戒しないと行けない相手。それが忍者。
うちの団体でも忍者討伐の依頼は多く、世の金持ちは多くの懸賞金を出している。
明日は我が身かもしれねぇんだからそれは仕方ない。
だが、懸賞金を釣り上げてるのは討伐依頼を受ける団体側だ。
なぜなら何人も腕利きの能力者を忍者討伐に行かせたが帰ってきた奴は一人もいない。
そうすると団体は依頼失敗の名目を得て死んだやつがこれから稼ぐはずのお金が失われる。
つまり、うちの団体の被害総額は数十億を軽く越す金額なのだ。
今回の依頼も何度も首を振ったが、成功報酬の金額のデカさに根負けし依頼を受けたらしい。
でもそんなことはどうでもいい。
俺は「目を見ただけで動きを封じる」やつも「全身が鋼鉄で出来ている」やつも「炎と氷と雷を操る」やつも、
全員をぶち殺しやがったこいつに勝って、強さを証明してやる!!
ふと気づくと手裏剣の雨は止んでおり、忍者が正面に現れた。
まるで俺の警戒を嘲笑うかのように。堂々と。
「やっと出てきやがったか!待たせてんじゃねぇよ!」
威勢のいい声が出たが、飄々と勝ち誇ったような表情をした忍者に実際はビビってる。
挑発が効いたか?どんな大技を出してくる?
様々な懸念が頭の中を飛び交うが、忍者はただ1本のクナイを真っ直ぐ俺に投げてきた。
馬鹿の一つ覚えだと思った。なんなら欠伸でもして挑発してやろうとすら考えた。
ただ警戒をしていて良かった。
真っ直ぐと投げられたクナイは、真っ直ぐ俺の喉までやってきた。
俺はなんとか首を逸らし避けた。
それと同時に疑問詞が頭を埋め尽くす。
(なぜクナイは届いた?能力は解除していないはず?能力強制解除でも発動されたか?だがそれが出来たら最初からやっているはずだ?なぜ?どうして?)
だがそこからは考える隙を与えてくれなかった。
避けた後に正面を向いても忍者はおらず、先程同様に手裏剣の雨が始まった。
ただ先程と違うのは手裏剣は真っ直ぐ俺の身体を襲ってくること。
(避けないと…避けないと…!!)
頭では分かってる。防衛本能も全力で司令を出している。
ただ体は膝を震わせ身を縮めることしか出来ない。
ただの恐怖、安全圏から命を狙われる恐怖。
これが俺の体を支配していた。
無数の手裏剣が俺の体を掠めていく。
このままだとただ死を待つだけだ。
「あんた、意外としぶといんだな。」
忍者はいつの間にか姿を現し、下卑た顔でこちらを見ている。
悔しいがこれはチャンスだ。
俺の筋肉はそんじょそこらの筋肉ではない。
俺の能力にも耐えきれる筋肉だ。
俺は能力を解除し、一気に忍者との間合いを詰める!
そして、右腕を振りかぶり起死回生の一撃を!!!
………
だが俺の右腕は思い通りに動かなかった。
それ以前に忍者の前に移動した時点で、俺の四肢は無く、唯一残った首も忍者の刀で切り落とされていた。
それを知ったのは無惨にも、撥ねられた首が宙を舞い、なんとか俺の視界に入ったからだった。
俺は血液が脳から抜けていく感覚と共に死を迎えたのであった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「死んだ?死んだよな?死んでてくれよ??」
そう言いながら相手を凝視する。
あんな化け物だとまだ動けそうで怖いというのが本音だ。
だが、体には四肢も首もなく、肝心の首も動きそうにない。
ひとまず安堵した俺は埋葬を始める。
戦闘の形跡を無くすためでもあるが、もうこれ以上の敵に会いたくないと祈る側面もある。
「今日はちょっと大変だな。」
飛び散った四肢と胴体、首を見渡しながらため息混じりに呟いてしまう。
元々の予定ではここまで派手にやる予定では無かった。
というより相手が強すぎて派手になってしまった。
先程の戦闘を思い返しながら、ワイヤー付きの手裏剣を回収する。
最初に相手に殴られた場面だけだと、おそらく遅延などの時間操作か、重力などの空間操作かと考えられた。
だが、2度目の殴られた後に垂直に落とされた場面で空間操作だと断定。更に殴る瞬間ではなく、身体が空中を飛んでいる時に能力が発動されたことで、1つの仮説が生まれた。
(能力者本人も能力の対象となる)
つまりは能力を使っている間は本人にも重力が付与されているのだろうと。
もし能力者本人に重力がかかって無ければ、地面に跪かせてタコ殴りすればいい。
だが実際は殴るタイミングで能力を解除していたから俺はぶっ飛ばされた。
フルパワーで攻撃するためにわざと能力を解除していたのだ。
そうなるとあの筋肉ダルマは、あの重力がかかっている空間で常人以上の運動能力を発揮出来る化け物。
ここまで分かれば対処できるのがエリートパート忍者の俺なのよ。
ワイヤー付きの手裏剣を投げて仕込みをし、頃合いを見て木に括ったワイヤーを通したクナイを真正面から投げる。
ワイヤーが通っているから相手に直接刺さる軌道には投げれないが、遠距離攻撃が効く状況になれば痺れを切らせて突撃してくるだろう。
だから今度は手裏剣を全方位から投げまくる。
後は仕込んでいた手裏剣ワイヤーの網に突撃して弱ったところを急所を刺してトドメとなる。
言葉にすれば簡単で何の変哲もないトリック。だが能力者は自分の能力を無効化されたと思い込むと奥の手を出すしか無くなる。
その奥の手が必ずしも強い訳では無い。なんなら逃げることを主軸に考えるのでこちらからすると絶好の好機になる。
だがこいつはそうじゃない。能力に依存しなくとも敵を倒せるタイプだ。
俺はワイヤーの網にかかって怯んだ所で急所を狙う予定だった。
だが相手の膂力は想像以上だった。
ワイヤーの網にかかっても怯むどころか勢いも殺さずに目の前に迫ってきた。
あまりの勢いに四肢は網を通過した時点で千切れたが同時に発生した熱による火傷で、傷口が止血されていた程だった。
でも油断してなくてよかった。
構えていた刀を首の位置に合わせておくだけで、勢いそのままで首を切れたため、なんとか倒すことが出来たというわけだ。
そんなことを考えている内に、現場復旧と埋葬は終わり、
「はい、チーズ!」
と写真撮影をする。
九死に一生を得たことと戦闘手当が出るのが相まって、かなりの笑顔だ。
自分でも気色悪いなぁと感じつつ、また帰路へと向かう。
頑張ればお小言を回避出来る!!と意気込みながら、足早に本部に戻るのであった。
0
あなたにおすすめの小説
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
声劇・シチュボ台本たち
ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。
声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。
使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります)
自作発言・過度な改変は許可していません。
アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる