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第三章 異世界ホスト、訓練開始
俺の師匠(♀︎)
しおりを挟むスラム見学に行った日の夜。
エドとベルとドニが帰ったあと一人で勇者宿舎に向かった。
「すみません。勇しゃ」
「シンさま!」
宿舎に入ってすぐの所に居る警備の騎士にフードを外しながら声をかけると宿舎の奥から名前を呼ぶ声が聞こえてきて、誰かとそちらを確認すると同じ制服を着た数名の女の人が居た。
何事だ。
わらわら集まってきたのは使用人の制服を着た男女。
集まってきたものの話しかけるでもなく距離を取ったまま見ているだけで、自分が上〇動物園のパンダになった気分になる。
「勇者の四人に取り次いで貰えますか?」
「申し訳ございません。本日勇者さまは作法の講習日でして」
「作法の?」
「はい。各自お部屋に講師を招いて挨拶やダンスなど、上級国民として必要な礼儀作法の講習が週に二回行われています」
使用人たちのことはとりあえずスルーして最初に話しかけた騎士に話かけなおすと詳しく教えてくれた。
「そうですか。タイミングが悪かったな」
週二回の内の一回にちょうど当たってしまうとは。
でもそういうことなら仕方ない。
「土産を渡して貰うことって出来ますか?終わってから」
「お土産ですか?」
「はい。今日王都に行って美味しい菓子の店を紹介して貰ったからアイツらにも買って来たんです」
北区で有名らしい菓子の店。
以前五人で王都地区へ買い物に行った時にサクラがチョコケーキが好きと話していたことを思い出して、菓子作りが好きなリサにもちょうどいいかと思って案内して貰った。
残念ながらこの世界にはチョコがないらしく、フルーツサンドのようなお菓子とフルーツゼリーになってしまったけど。
「実は飲食物の受け取りは禁止されておりまして。シンさまが直接お渡しいただくのであれば問題ないのですが、勇者さまのお手元に届く間に何か混入される可能性もなくはないので」
身を寄せて小声で話す騎士。
少し距離はあるものの使用人が集まってるから聞こえないようにそうしたんだろう。
「勇者の口に入る物だから万が一を考えてってことですか」
「はい。お預かりできず申し訳ございません」
「いや、アイツらの安全を第一に考えての規則ですから。そこまで徹底してくれてるなら逆に安心しました」
俺はアイツらと同じ異世界から来た人間だからスルっと入れて貰えてるけど、本来は王宮関係者であってもIDチェックが行われるほど勇者宿舎への出入りは厳重に管理されている。
勇者の口に入る物を受け取って万が一にも毒物を混入されていたりしたら、受け取った人の首が飛ぶのはもちろん疑わしき人たちも罰せられるだろう。
「分かりました。アイツらにはまた買ってきて直接渡します」
「そうしていただけますと」
「ただこれ……甘い物は食べられますか?」
「自分ですか?あまり得意では」
「ですよね。じゃああちらの使用人にあげても良いですか?」
「シンさまが宜しいのでしたら」
許可を貰ってから集まっていた人たちの所へ行って、最初に俺の名前を呼んだ女の人に箱を渡す。
「個数が少ないですけどケーキとゼリーです。仕事が終わった後にでも食べられる人たちで分けて食べてください」
「よ、よろしいのですか?このような高価な物をいただいて」
「元は勇者たちに買ってきた物で申し訳ないですけど」
「あ、あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
たかがケーキ(&ゼリー)で大騒ぎだな。
この異世界でお菓子は高級品だから貴族以外はあまり食べる機会がないとエドとベルが言ってたけど、例え元々はアイツらに買って来た物でも喜んで貰えて良かった。
「じゃあこれで。お騒がせしました」
「お気を付けてお戻りください」
「ありがとうございます」
最後に騎士にお礼を言ってフードをかぶり勇者宿舎を出た。
「……居るかな」
次に向かったのは王宮ギルド。
昨晩王都ギルドを見たばかりなだけに小さく感じるけど、こちらは外観からして高級感が漂っている。
「お帰りなさいませー」
相変わらずだな、おい。
秋葉にあるメイドの店に足を踏み入れたかのような挨拶を聞きながらカウンターを見渡すと……居た。
「土産」
下を向いて書類を書いていた人物の前にアイツらとは別に買ってきたケーキの箱を置く。
「ギルドでピックアップとは太い野郎だね」
「誰が好き好んで戦闘狂軍人さまをナンパするんだ」
書類から目を離さず言った憎まれ口にそう答えるとエミーは笑いながら顔をあげた。
「どうしたんだい?土産なんて」
「王都地区に行ったから。有名な店を教えて貰ったんだ」
「この箱は北区の菓子屋だね」
「うん。前に俺が作ったマフィンを美味そうに食べてたから甘い物でも食べられるだろうと思って」
甘い物が好きなエドとベルのために作ったマフィン。
調子に乗って多く作りすぎたから王都の外での訓練にも持って行ったんだけど、甘さ控えめなマフィンにリコリのジャムをたっぷりと塗って食べていた。
「有難く頂戴するよ。隣の食堂で待っててくれるかい?」
「ん?」
「まさか土産を渡すためだけに来たんじゃないだろ?」
さすが師匠。
俺の性格をよくご存知で。
「これだけ終わらせたらすぐに行く」
「仕事が終わる時間にもう一度来ても良いけど」
「今日は付与の依頼もないから大丈夫」
「分かった。仕事の邪魔にならないなら待ってる」
エミーと待ち合わせた後こちらを見ていたギルド職員たちに会釈をして食堂に繋がる扉からギルドを出た。
それなりに混んでる食堂の中を歩く。
前回来た時間と違って今日は夜だからか、あの時話した給仕の姿は見られない。
「いらっしゃいませ」
「エールをください」
「はい。少々お待ちください」
カウンター席に座るとすぐに声をかけてきた従業員にエールを注文した。
聞こえてくる冒険者たちの声。
多くの人がクエストを終えて今日の反省会でもしてるのか、魔物の話や倒す時に気をつけることや陣形のこと等々、冒険者らしい会話が飛び交っている。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
すぐにエールが届いて先に料金を支払ってから、再び冒険者たちの会話をツマミにしつつ呑む。
王宮ギルドの冒険者は王宮に暮らしている人ばかりだからか、魔物やクエストの話をしていてもどこか品がある。
荒くれ者が揃う王都ギルドのように大声で話す人やゲラゲラと笑っている人はいない。
建物の作り的にもメニューのお値段的にも少しリッチなレストラン風なぶん、独りで呑んでいても安心感は大きかった。
昨日呑み過ぎたばかりだからチビチビ呑んでいると、今まで聞こえていた冒険者たちの声が静かになって振り返る。
「エミーリアさま」
ギルド側の扉から入って来たのはエミー。
カウンターに居た女給が名前を呼びつつ走って行くと、その声で口火を切ったかのように冒険者たちもざわざわする。
これが王都ギルドならまだしも扉を一枚隔てたギルド内に居る存在なのに、滅多に見れない貴重な生き物を見たかのような反応をしているのが不思議だ。
「待たせたね」
「もう終わったのか?三十分くらいしか経ってないけど」
「みんなに早く行くよう言われてね」
「なんで?」
「私が男に口説かれてOKするのを初めて見たって」
従業員や冒険者の声に軽く答えながら歩いてきたエミー。
随分と早かったと思って聞くとそんな理由で、土産を持って行ったから勘違いされたのかと笑う。
「私にもベリー酒を」
「は、はい!すぐに!」
「その姿でも呑めるのか」
「当たり前だろ。魔力を抑えるために小さくなってるだけで実際には大人なんだから犯罪は犯してないよ」
「体の負担になるんじゃないかって話」
「ああ。それは大丈夫」
それじゃなくても少し高めの大人仕様になっているカウンター席が今のエミーには微妙に高いようで、よじ登ろうとしているのを見て抱きあげ椅子におろす。
「ありがとう」
「テーブル席にすれば良かったな。移動するか?」
「大丈夫。一杯だけ呑んだら私の部屋に行って話そう」
「分かった」
食堂に来て何も口にせずそのまま帰るのは失礼と思ったのか、付き合いの一杯を呑んだらエミーの部屋で話すことになった。
「悪いね。フードで隠してるのに私の所為で注目を受けて」
「別に。異世界人ってバレると面倒だからかぶってるだけ」
「大変だね、君も。特徴的すぎて」
「勇者じゃないって一々説明するのが面倒」
異世界人と思われるのは構わないけど、異世界人=勇者と勘違いされて勇者じゃないと説明するのが面倒臭い。
「聞き流せば良いだろ。もう勇者の紹介はしたんだから」
「勇者じゃないのに特別扱いして貰うのは詐欺だろ」
「君って変なところで真面目だよね」
「優しさや気遣いを踏みにじる奴にはなりたくない」
真面目というよりただそれだけ。
だから道で通りすがっただけの人であればスルーしている。
「お待たせしました」
「ありがとう」
お子ちゃま(見た目)賢者はここでも人気あるようだ。
女給たちがカウンターの隅でエミーの飲み物を前にして誰が運んで行くかをジャンケンで決めていたのを見てしまった。
「乾杯」
「もう呑んでたけど乾杯」
低い位置のエミーのグラスを軽く指先で上に押し上げ、自分のグラスの位置を下にして乾杯する。
「なんだい?今の」
「なにが?」
「私のグラスを少し押し上げただろ?」
「こっちの世界にはないのか?乾杯する時は目上の人よりもグラスを下にするのが俺の居た世界の礼儀」
本当は相手のグラスを持ち上げるなんてせず自分が低い位置まで下げるんだけど、今はちびっ子になってるエミーのグラスの位置が低すぎたから少し持ち上げさせて貰った。
「年齢のことを言ってるのかな?喧嘩売ってるのかい?」
「違うし。俺の師匠だろうが。一応」
「ああ、そういうことか」
グラスをぐりぐりされて水滴のついた頬を手の甲で拭う。
年齢に敏感なお年頃かこの野郎。
「ご馳走さま!」
「一気かよ!」
グラスを傾けたと思えばグビグビ呑んで中身は空。
今の見た目はお子ちゃまだけど酒は呑み慣れてるんだろう。
「君が呑み終わったら行こう」
「俺ももう一口だし」
そう話してグラスに残っていた分を呑み干した。
「エミーリアさま。もうお帰りですか?」
「うん。この子と待ち合わせをしてただけなんでね」
「そうでしたか」
ピョンと椅子から飛び降りたエミーを見て寄って来た女給たちは物凄い残念そうな顔をしている。
「そちらの方はエミーリアさまのお知り合いですか?」
「この子?私とただならない関係の子だよ」
『えっ!?』
床に術式を描くエミーから訊いた女給たちは驚き、エミーはその大きな反応に笑い声を洩らす。
たしかに師弟関係というただならぬ関係だけど。
「よし完成。帰ろう」
「うん」
「じゃあご馳走さま」
「ご馳走さまでした」
まだポカーンとしてる女給たちに手を振るエミーに続いて俺も術式の中へ入った。
「到着!」
「便利すぎてヤバい」
一瞬で辿り着いた室内。
召喚祭の時に壁に描かれた術式を通った時もそうだったけど、歩くことが億劫になりそうなくらい便利だ。
「これって何処にでも行けるのか?」
「そんな訳ないだろ。術式から術式に移動してるんだよ」
「じゃあ行ったことがない場所には行けないのか」
「無理だね。行く先にも術式を描いておく必要がある」
なるほど。
残念ながら某ネコ型ロボットの某ドアのように何処にでも行ける訳じゃないようだ。
「昨日訓練所で王宮魔導師たちが一瞬で移動したアレは?」
「あれも転移魔法だよ。術式と違って目視出来る範囲だけど」
「魔法なら俺も練習すれば使えるのか?」
「もちろん。時空間魔法を使う」
「じゃあ教えてくれ」
上着を脱ぐエミーに言うと手が止まる。
「着いたばっかで忙しないけど先に謝る。昨日はごめん」
王都で土産を買ってギルドまで会いに行ったのは、昨日のことを早く謝りたかったから。
職場に行くのは気が引けたけどエミーが何処に住んでいるのか知らないし、何日間と指定せず暫く中止と言っていたから、俺の方から会いに行かない限り謝る機会が先延ばしになってしまうと思った。
「ゆっくり話す前に湯浴みを済ませても良いかい?」
「ああ、うん。仕事帰りだからな」
「上がったら話を聞くから適当に座って待っててくれ」
「分かった」
俺は王都から帰って騎士団宿舎を出る前に入って来たけど、エミーは仕事が終わって帰って来たばかりだから先に風呂に入りたいのも分かる。
「あ、手洗いだけさせて貰えるか?」
「どうぞ。飲み物は冷蔵庫から好きに取って良いから」
「ありがとう」
手洗いやうがいは生活習慣。
エドとベルが居る時は部屋に入る前にリフレッシュをかけてくれるけど、それでも日本に居た時から習慣になっていた手洗いとうがいだけはしないと綺麗になった気がしない。
ローブとスーツのジャケットを脱いでソファの背にかけ、カウンターキッチンの奥に見えている水道で手を洗う。
「なんか……うん」
国の軍人で賢者さまの割には質素な室内。
広さだけはあるけど置いてある物は最低限という感じ。
女性らしさが一切ないのはイメージ通りだけど。
手洗いとうがいだけしてソファに座る。
謝りに来ただけになんとなく落ち着かない。
見る限り怒っている様子はなかったけど……経験上、表面に感情を出さない冷静な人ほど怖いものはない。
「待たせたね。何も飲んでないのか」
「人の家の冷蔵庫を開けるのは気が引ける」
「なるほど。出して行ってあげれば良かったね」
バスローブを着て部屋に戻って来たエミーは大人の姿。
家に居る間は魔法制御をしていないと聞いてたけど。
「果実酒は呑める?」
「なんの?」
「レモン」
「呑める」
珍しくもじってない名前だと思っただろ?
でも、レモン=グレープフルーツ(風の果物)ってオチだ。
レモン風の果物はシグの実という全くかすりもしない名前。
「俺が作ろうか」
「ありがとう」
エミーが持ってきたトレイを受け取ってグラス二つに氷を入れレモン酒を注ぎ、最後に炭酸水で割る。
「手慣れてるね」
「酒を作るのはな」
元ホストだから。
冷蔵庫にしまっておいた箱を持ってきたエミーはそう言いながら俺の隣に座った。
「呑みながら食べるのか」
「だからレモンにした。エールとケーキは合わないから」
「甘い物な時点でどっちでも無理」
グラスを隣に置きながら言うとエミーは笑う。
召喚されてくる前の世界でも居たけど、酒を呑みながら甘い物を食べられる人の気が知れない。
「さっきの謝罪のことだけど、もう謝らなくて良いよ。昨日のあれは私が大人げなかった」
ケーキを一口食べたエミーから先に話を切り出される。
「……ごめん。昨日あのあと人前で魔法を使った」
「ん?そっちは許さないよ。流れで謝っても無理」
「どさくさに紛れて許して貰おうと思ったんじゃなくて、その時にエミーが言ったことを思い出したんだ」
フォーク片手に迫るエミーを止めて昨日のことを話す。
王都ギルドに食事目的で行って片腕を食いちぎられた負傷者が運ばれて来たことや、ポーションでは効かなくて瀕死だったから回復をかけたことを。
「馬鹿だね。回復魔法を使う人は貴重だと話したのに」
「エミーは助けないのか?救える命が目の前にあって」
「まあその状況なら助けるかな。二度と馬鹿なことをしないようギリギリまで痛みを経験させてから」
さすが戦闘狂軍人。
発想が鬼だ。
「その状況ならってことは違う状況なら助けないのか」
「戦場だったら助けないね。私が回復をかけてる間に多くの兵が死ぬかも知れないから。非情と言われようとも隣で倒れた者を切り捨てて少しでも多くの攻撃魔法を打つ」
さすがにその状況なら……いや、そうか。
「優しさが多くの人の命とりになるってことだよな」
「そうだね。回復役は戦場で助ける命と助けない命を瞬時に見極める必要がある。怪我をした兵を助けてる間に沢山の兵がやられるなんてことにもなりかねない」
緊急時のトリアージと似てる。
あれも少しでも多くの人を救うためには致し方ないこと。
「もっと言えば自分の身を守る力も必要だ。回復要員が死ねば救えたはずの命も犠牲になってしまう」
だから優しさや甘えはこの世界で通用しない、と。
平和な世界で生きていた俺たちにとっては酷いと感じることでも、この世界では酷いなんて甘ったれたことを言っていると自分も死ぬし、多くの人の命も犠牲になる。
「今日エミーに会う前に勇者宿舎に寄ったんだ。アイツらにも土産を買って来たから渡したかったのと、リサと少し話そうと思ったから。作法の練習の日だったから会えなかったけど」
隣で黙々とケーキを食べるエミーに独り言のように話す。
「昨日のことで人の命を救うことがどれだけ責任が重くて怖いものなのかを実感した。分かってるつもりなだけで俺の考えは甘かったし、リサを甘やかす気持ちもあった。でも本当にリサのためを思うならあのままでいい訳がない」
リサに自分のために強くなれと言ったのは俺だったのに。
いつまでも“同胞だから子供だから”と甘やかして成長を遅らせてどうする。
「言っただろ?私が大人げなかったって」
「ん?」
「白魔術師さまの言葉が私の嫌いな言葉だっただけだよ」
そう言ってエミーは皿とフォークをテーブルに置く。
「最初はただ、自分の力量も分からない激甘な菓子みたいな子に話してきかせるのは骨が折れそうと思っただけ。だから見せた方が早いと思ったんだ。頭の固い王宮魔導師たちも一緒に居たし、黙らせるには力を見せた方が早いだろ?」
フォークからグラスに持ち替えたエミーは話の合間にグラスを口へ運ぶ。
「嫌いなんだ。みんなで力を合わせればって言葉が。それを言っていいのは強者だけ。弱者が力を合わせようとも足手まといにしかならない。むしろ攻撃が当たらない遠くに離れていてくれた方がよほど戦闘の邪魔にならずに済む」
たしかにそんなことを言ってた。
俺たちの居た世界では善い言葉として捉える人が多いだろうけど、リアルに戦いで命を落とすこの異世界の人には『守りながら戦うより遠くに居てくれた方が気を使わずに戦える』というのが本音だろう。
「自分の身も守れない奴が誰かを守ろうなんて烏滸がましい。1しか力のない奴らが力を合わせようとも上手く戦えずにマイナスにしかならない。ただの無駄死にだ」
言い方はキツイけどたしかにそうだ。
力のない奴がいざ命がけの戦闘になってもオタオタするだけでむしろ足を引っ張ることになるだろう。
「みんなで力を合わせれば勝てるなんて夢物語を弱者には語って欲しくない。その夢物語で人が死ぬこともあるんだ。本当に誰かを守りたいなら自分がまず強くなることだね」
………。
「なにかあったのか?」
「なにが?」
「なんか妙にその言葉を嫌ってるから」
いつもの戦闘狂軍人さま的意見。
……だけじゃない気がした。
普段は血も涙もない戦闘狂軍人としての意見だけど、その言葉に対しては個人的な思い入れがあるように聞こえる。
「外戦を経験した軍人なら思うさ。力を合わせて戦ってる最中に仲間が死んで行く現実を経験してるんだから。時に強者が弱者を庇って死ぬこともある。戦場で弱者は罪だよ」
経験した人なら思うっていうのは嘘じゃないだろうけど……いや、変に深入りするのはやめよう。
もし本当は個人的な何かがあるんだとしても、本人が言わないことを詮索するのは良くない。
「訓練はいつ再開してくれるんだ?弱者は罪なんだろ?」
「たった一日でもう私に蔑まれたくなったのかい?」
「俺には蔑まれて喜ぶ趣味はない。ただ、強者に庇われる弱者では居たくないだけ。隣に居ても強者が安心して戦えるよう足枷にならずに済むだけの力が欲しい」
俺は軍人でも勇者でもないから魔王の討伐には行かないけど心残りにだけはなりたくない。
くそったれな賢者さまが安心して死地に赴けるようにと誓ったんだから、その為に出来ることをするのが弟子の役目だ。
「無能が言うねぇ」
「だから無能じゃなくなるように訓練し」
会話の途中で重なった唇。
レモンの柑橘系の香りと仄かな甘さ。
「困った愛弟子だね。美しくて優しいお師匠さまが休暇を与えてあげてると言うのに蔑まれたいとは」
「違うって言ってんだろ。あと、どさくさに紛れて自分のことを善い人のように誇張すんな」
少し離れた唇からエミーは言葉を紡いで笑う。
美しいには百歩譲るとしても、優しいだけはない。
「今日はそんなつもりで来たんじゃないんだけど」
「異性の部屋に上がっといて今更それはないだろ」
「またクズ男のような台詞を」
一回やっただけで~とか、部屋に上がっといて~とか。
俺の師匠(♀︎)がクズ男の発想を極めてて辛い。
「まあいいか。据え膳食わぬは男の恥って言うし」
「据え膳なのは君の方だけどね」
「……これは何のつもりだ」
両手で押されてソファにトスっと倒された体。
手が動かないし力も入らない。
この賢者さま魔法を使いやがった。
「人前で魔法を使うのは禁止にしてただろ?」
「いやでもアレは」
「言い訳か?約束を破った愛弟子には罰が必要だ」
昼はあの男の子に罰を与えて夜は罰を与えられるとは。
まあたまにはこんなプレイでもいいんだけど。
しようと思えば解除できるし。
「魔法を解いたら私を背負って100キロ走らせるからね」
「100キロって殺す気か!」
「解かなきゃいい話じゃないか。それともなにか?途中で解けばいいとでも考えてたのかな?」
バ レ て た 。
「力の使い方を間違うなって人には言っといて」
「愛弟子を痛めつけるのに容赦はしない」
「お前の思う愛弟子の存在って何か普通と違う!」
俺の師匠(♀︎)はサディスティックな戦闘狂。
死地に赴く前に絶対強くなってやる!
と、心に誓ったそんな夜。
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