ホスト異世界へ行く

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第四章 動き出した歯車

魔王様の寵愛児

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朝目覚めると既に魔王の姿はなかった。
俺が目覚める前に来ていたエドやベルから何も言われなかったということは、魔力を分け与えてすぐに帰ったんだろう。

「不本意だけどスッキリ」
「不本意?なにか不手際がございましたか?」
「ああ、違う。風呂は気持ち良かった」

体を拭いて貰いながら洩れた言葉にエドは首を傾げる。
魔王から魔力を分け与えられたお蔭か、熱もすっかり下がって怠さも全くなくなっていたからつい口にしてしまった。

「腹が減った」
「三分粥をご用意しました」
「粥か」
「昨日まで食事をされておりませんでしたので」
「それもそうか。ありがとう」

多分普通の食事をしても問題ないと思う。
そのくらい魔王の魔力は俺の体を完治させた。
でも魔王が来たことをエドは知らないし、俺の体を気遣って三分粥を用意してくれたんだから有難くいただこう。

「おはよう。体調は良いようだね」
「俺がいま風呂上がりで裸体なことはスルーか」
「今更」
「鼻で笑うな」

当然のように術式を使って現れたエミー。
知ってたけど、乙女の恥じらいはこの軍人さまにはない。

「それにしても肉体が衰えてないのが恐ろしいね」
「これも魔王との契約の影響なんだろ?」
「多分ね。昨日も話したように情報が少ないんだ。ただ君は魔王の半身だから影響は大きいだろうよ」

エドが肩にかけてくれたバスローブに腕を通す。
エミーがいうように、今日風呂に入りながら自分の体を見て殆ど衰えていないことを実感した。

「それで?こんな早くに来た理由は?」
「エドから今日の予定は聞いたかい?」
「まだ。いつも予定を聞くのは風呂を上がってからだから」
「そうか。昨日も言ったように熱が下がったようだから国王との謁見がある。その前に幾つか耳に入れておこうと思ってね」

エドが注いでくれた果実水を受け取ってエミーの対面のソファに座る。

「まず順を追って当日の話から。魔王の去り際に誰かが魔導砲を撃ったことは覚えてるか?」
「うん。何事もなく帰ろうとしてたのにクソかと思った」

俺は既に噛みつかれた後だったから多分手遅れだったけど、少なくともあの攻撃をしなければ魔王も王都に攻撃をしようとしなかったと思う。

「その砲撃命令を出した馬鹿は王宮魔導師だった。本来であれば総指揮官の私が命令をしない限りは撃たないんだけどね。例外があって、私が命令を出せない状況にある時には副指揮官のソイツが命令を出して良いことになってる」

なるほど。
総指揮官に何かあれば副指揮官が命令を出すのは納得。
もし総指揮官に何かあった時には全滅してしまうから。

「ん?でもあの時エミーは命令を出せたよな。立ってたし」
「ああ。弱ってはいたけど魔王に魔力譲渡して貰ったからね。撃つ必要がないから命令しなかっただけ。大人しく帰ろうとしてるのに逆に怒らせるような馬鹿な真似はしないよ」

俺もあの砲撃には驚いた。
なんでわざわざ攻撃されるようなことをするのかと。

「あの大砲は魔力が動力になっているから魔導師が撃つんだ。私の命令を待たず勝手に撃ったのは魔王や祖龍ごと私たちを消すつもりだったからじゃないかと思ってる」
「……は?」

思ってもみなかったエミーの話に一瞬の間が空いた。
百歩譲って王宮魔導師に嫌われてる俺を消そうとしたなら分かるけど、エミーは軍の上官でこの世界の数少ない賢者なのに。

「ご存知の通り私と魔導の奴らは気が合わなくてね。祖龍と魔王が現れて第三警報まで発令したあの状況であれば私が命令を出せない状態だったって言い訳が出来る。砲撃命令を出した馬鹿は案の定そう言ってるよ。私が命令を出せる状況じゃないように見えたからって」

どっちか一方の話だけを聞いて鵜呑みにするつもりはない。
エミーも確証がある訳ではないようだし。
ただ、あの王宮魔導師たちなら有り得そうだから考えすぎだとも言えない。

「で、俺にそれを話した理由は?」
「今日の謁見は国王軍である師団と魔導師と騎士も参加する。君から詳しく事情を聞くためにね。おかしな誘導には引っかからず事実を話してくれ。私とエドとベルはもう説明済みだ」

そういうことか。
事実を話せってことなら断る理由はない。
一方が有利になるよう嘘を言えってことなら断ったけど。

「エミーリアさま」
「おはようベル。朝から異世界人の世話ご苦労さま」
「シンさまはワタクシたちのあるじですので」

濡れた服(メイド服)を着替えて出てきたベルはエミーが来ていることに気付くと尻尾を大きく左右に揺らす。
エミー大好きか。いや、大好きなのは知ってるけど。

「後は?」
「今の時点で君が魔王と魂の契約を結んだことを知っているのは国王を含めて数人しか居ない。ただそれも今日の謁見で他の奴にも知られることになる。魔導師たちには特に気をつけることだね。どんなことを言い出すか分からない」

たしかに俺を目の敵にした魔導師たちなら色々と言いそう。
討伐対象の魔王と契約を結んだ奴が居るとなれば国から追放なんてことも有り得そうだ。

「謁見前に心構えをしておけってことか」
「まあそういうことだね」
「分かった」

魔王と契約をしたことを知ったら今まで味方だった人も敵になるかも知れない。
もし騎士団が敵に回れば住処がなくなるし、国王のおっさんが敵に回れば首を切られたり追放されたりするかも。

「魔王の奴とんでもないプレゼントをくれたな」
「欲しい物は手に入れるのが魔族らしいからね」
「言ってたな。そんなこと」
「愛されるのも困りものだね。魔王まで誑かすとは」
「俺は何もしてないし」

冗談で『魔王もハーレムに』なんて話をヒカルとしたけど、俺の方が魔王のハーレムに引き込まれそうな状況になるとは。
魔王がハーレムを築いてるのかは知らないけど。

「もしかしたら三人と会うのも今日が最後になるかもな」
ワタクシはシンさまにお供します」
「私もです。我々のあるじはシンさまですから」
「そっか。ありがとう」

こうなってもお供すると言える獣人の忠誠心は凄い。
ただもし俺の行く先がだったら連れて行くつもりはないけど。

「私も手は考えてある。君は事実だけ話せばいい。おかしな誘導をされないよう気を付けろとだけ先に伝えておきたかった」
「うん。ありがとう」
「例え魔王と魂で繋がっていようとも君は君だ。私の最初で最後の愛弟子だってことは変わらないよ」

ブレないな、俺の師匠も。
そう思って笑い声が洩れた。





謁見の間に呼ばれたのは正午すぎ。
だだっ広い会議室のようなその部屋には国王のおっさんをはじめとして、王宮師団、王宮魔導師団、第一騎士団から第三騎士団までの上役たちが顔を揃えていた。

「夕凪真。状況の報告を」
「申し訳ないけど俺は軍人じゃないから何をどう報告すれば良いのかが分からない。聞かれたことには正直に答えるから質疑応答にして貰えると助かる」

早速始まった事情聴取。
師団のオヤジに報告をと言われたけど、何を聞きたいのか分からないから質疑応答形式にしてくれるよう頼む。

「国王陛下、よろしいでしょうか」
「うむ。シン殿が話し易いよう進めてくれ」

おっさんが許可してくれて良かった。
みんなが知りたがっていることに答えていく方が一から十まで話すより早い。

「まずは祖龍と魔王が現れた当日の状況から。こちらで得ている状況と相違ないかを知りたい。第一警報後にエミーリアと城門前へ出た後の状況から始めてくれ」
「分かった」

師団のオヤジから言われて城門前に出た後のことを話す。
先に城門前に出ていた騎士からエミーが状況の報告を受けている間に俺の特殊恩恵が発動して、その発動の仕方から祖龍が現れた時と同じだと判断したこと。

以前発動した時に自分の特殊恩恵の効果がどんなものかは一度経験してるから、もし守護壁の効果が付与されてない騎士や魔導師が居たら体にどんな影響があるか分からないことをエミーに話して念のため障壁内まで下がって貰ったことなども。

「あの場に居たエミーリアや軍人から報告を受けたが、君の守護は個別に守護壁の効果がかかるというのは事実かね?」
「うん。薄い膜のようなもので一人一人の体が包まれたような状態になるっていえば多少は伝わるか?」
「うむ。今まで経験したことのない皮膜のような不可思議な守護壁であったと報告を受けている」

やっぱりみんなもって表現だったようだ。
みんなが使う障壁や魔障壁とは全くの別物だから不可思議って言われるのも分かる。

「自分でもあの守護壁がどんなものなのかよく分かってないんだ。一定距離に居る人に効果があるのかと思ってたけど、俺の守護が発動した時にはまだ王都内で国民を避難させてたエドとベルにだけは発動してたらしいし、単純に範囲って訳ではなさそう。今のところ守護壁のことで話せるのはそれくらい」

自分で発動できる訳じゃないし、まだ二回(訓練場も含めれば三回)発動しただけでは範囲も効果も報告できる程の中身はない。

「では祖龍と魔王が地上に降りて来てからのことを」
「先に降りて来たのは魔王。祖龍の時に経験した気配と違う気配を感じたから後ろに居たエドとベルには口頭で全力で後ろに飛ぶよう指示しつつ俺の隣に居たエミーは抱えて退避した」

魔王が綺麗に気配を消していたから祖龍から飛び降りて来る時にようやく気配に気付けてギリギリ退避できた。

「そのあと魔王は君と話していたと報告を受けている」
「うん。エミーとエドとベルは魔王から三人と遊んでおくよう指示された祖龍に引き離されたから俺一人で魔王と話した。その時に三人を殺すなとも指示してたから、俺との会話を邪魔されないよう祖龍に足留めさせることが目的だったんだと思う」

最初の状況を説明すると謁見の間が騒がしくなる。
事実を話しただけで嘘はついてないんだけど。

「それでは魔王は害を為す気はなかったと?」
「いや。気分次第では攻撃するつもりだったと思う。名前を訊かれたから逆に教えなかったらどうする?って質問をしたら三人を殺すよう祖龍に命令するって言ってたし、今回来た目的は勇者の視察だったらしいけど、つまらない奴なら国ごと焼き払うつもりだったとも言ってたから。でも気が変わったって」

要は気紛れ。
その時の状況によっては普通に攻撃したと思う。
最初から害を為す気がなかったとは思わない。

「気が変わったというのは?」
「勇者が覚醒するまで魔王は手を出さないって」
「そうか。それも事実だったか」
「ん?」
「エミーリアたちからもそう報告を受けてな」
「ああ、そういえばエミーたちにも話してた」

エミーと砲台を壊す話をしてた時に「勇者の覚醒を待つ」とハッキリ言っていたことを覚えてる。

「魔王のいうことを信じるのですか?」
「いや。全てを信じた訳ではない」
「でしたらこちらから討って出るべきでは?」
「勇者方を死なせるつもりか?」
「魔王が来たのですよ?悠長に構えていられません」
「だからこそ対峙したこの者から詳しく聞いているのだろう」

師団のオヤジと王宮魔導師の言い合いが始まる。
王宮魔導師の『魔王の言葉を鵜呑みには出来ない』って意見も分かるけど、師団のオヤジが懸念するように今の勇者の力では討って出たところで間違いなく殺される。

「魔王の強さを直接肌で感じたから口を挟ませて貰うけど、師団のオヤジが言う通り今のアイツらの実力だとわざわざ殺されに出向くようなものだ。魔王を倒せるのは勇者だけなのにもし殺されたら誰が討伐するんだ?地上に魔王が現れて逸る気持ちも分かるけど、今は冷静になって訓練を積ませた方がいい。俺の同胞の命を代替のきく物のように扱わないでくれ」

勇者が持つ精霊王の力と聖剣じゃないと魔王は倒せないという話が事実なら、まだ精霊王の力も聖剣も使えない今のアイツらでは行かせる意味がないと分かるだろうに。
意味がない戦いに向かわせるとか冗談じゃない。

「この者に賛同するのは癪だが私もこればかりは同意見だ。今は魔王の気紛れに一縷の望みをかけ、少しでも早く覚醒できるよう勇者方に訓練を積んでいただくのが一番ではないか?」

オヤジ、初めて意見があったな‪。
俺もオヤジと意見が合うのは癪だけどな(  ˙-˙  )スンッ‬

「魔王の手下になった異世界人を支持するのですか?」
「神に背く行為ですぞ!」
「早急にこの者を裁くべきです!」

……そう来たか。
してやられた感。
エミーから言われてたけど、まさかそう来るとは。

「魔王の手下になったとはどういうことですか?」
「この者は魂の契約を結んだのだ!あろうことか魔王と!」
「魂の契約……禁書に記されている契約のことですか?」
「そうだ!魔王と魂で繋がれた者を生かしておくなど神がお許しになるはずがない!」

だってよ、暇を持て余した神々。
暇すぎて俺で遊んでる神々だから、もし許せなければ契約が成立する前に寿命をチョッキンした気がしないでもないけど。

【ピコン(音)!ステータスが更新されました】

「うっそ、今?」
「何を言っているのだ」
「悪い。少しだけ時間をくれ。ステータスオープン」

なんてタイミングで更新してくれてるのか。
魔導師に少し待ってくれるよう言って画面を開く。

【シン・ユウナギのステータスを更新。新たな特殊恩恵〝魔王様の寵愛児 はーと〟を手に入れました。同時に〝聖魔に愛されし者〟を手に入れました。これにより、特殊恩恵〝病みに愛されし遊び人〟は〝聖魔に愛されし遊び人〟に進化しました】

……はーと。

「また生温い殺意が沸くもん付けてんな!大好きか!」

《特殊恩恵》
聖魔に愛されし遊び人 evolve!
不屈の情緒不安定
カミサマ(笑)
Dead or Alive 
魔刀陣
賢者様の寵愛児♡
魔王様の寵愛児♡ new!

《属性魔法》
火 Lv.7 魔炎 Lv.7 new!
水 Lv.7 魔凍 Lv.7 new!
雷 Lv.7 魔雷 Lv.7 new!
風 Lv.7 魔竜 Lv.7 new!
聖 Lv.7 魔空 Lv.7 new!
闇 Lv.7 魔祖 Lv.7 new!
時 Lv.7 

「フッ……無茶しやがって‪(慈愛)……」

また腹を出して寝たか。
熱で倒れる前(死亡フラグ)の状態でやっちゃったのか。
魔雷以降はどんな魔法なのか予想さえ出来ないぞ?
使いこなせる自信がないぞ?

「シン殿、ステータスに変化が?」
「うん。話の最中なのに確認してごめん。もう終わった」

おっさんに答えながら画面を閉じる。
今日だけはぬっ〇発言はやめてやろう。
また体調を崩してるみたいだからな。
暖かくして早く寝るんだぞ(慈愛)

「で、何の話だったっけ」
「貴様は本当に!謁見中に確認するとは!」
「文句はこのタイミングで更新した神に言ってくれ」

ぷんぷんと怒る師団のオヤジ。
こんなタイミングで更新されたら気になるのも仕方ない。

「もう一回訊くけど、なんの話だっけ?」
「魔王と魂の契約を結んだと。事実ですか?」
「事実。急に噛まれて一方的に契約されたんだけど」

ワイシャツ(異世界製)の襟をクイッと下げて印を見せる。
ここで嘘をついたら今まで話したことも信用されなくなるだろうから。

「それが魂の契約の印ですか。実物を初めて見ました」
「噛んで契約をするのですか?」
「他の人の時は知らないけど俺はそうだった。話してて突然噛まれた時にはなんで噛まれたのか分からなくて驚いたけど」
「魔族には謎の部分が多いですからね。魂の契約についても文献に少し書かれている程度で詳細までは分かっておりません」
「お時間のある時に印を書き記させていただけませんか?」
「ああ、うん。そのくらい全然いいけど」
「ありがとうございます」

あれ?師団たちは“契約の印”に興味津々で、神か悪魔かというように俺のことを言っている王宮魔導師とは反応が違う。
むしろ新たなものを目の前にしてわくわくしている。

「たしかに魔王と契約が結ばれたことは問題ではありますが、承諾もなしに契約を結ばれてしまったシンさまへ神に背く行為というのは酷では?望んでのことではないのですから」

ありがとう団長ぉぉぉお!!
こんな状況でも味方してくれるヌクモリティ。

「この者の力はもうみなご存知でしょう!我々と国民はこの者の邪悪な特殊恩恵で殺されそうになったのです!」
「は?俺がいつ国民を殺そうとした?」
「したではないか!強大な魔力を解放して!あのようなものを国民が浴びていたらどうなったかと考えると恐ろしい!」

んー……めんどくせえな王宮魔導師コイツら(本音)。
やっぱ初日に殴って黙らせるんだった。

「このような危険な者は即刻首を落とすべきです!」
「いいんじゃないか?そうしたいのなら。つまりお前たちは精霊族が滅ぼされることを望む国家反逆者ってことだろ?」

俺を始末したいらしい魔導師たちが演説のように語ってると、おっさんの近くの席でずっと黙ってたエミーが口を開く。

「自分の半身にしようと選んだこの異世界人が地上に居るから勇者の覚醒を待つということは、居なくなれば待たないということだ。しかも居なくなった理由が処刑されたからとなれば精霊族への怒りも相当なものだろう。乗ってきた祖龍ですら賢者の私が遊ばれるほどの強さだというのに、それを従える能力のある魔王が怒りを抱えた状態で開戦するとか絶望でしかない」

たしかにいま開戦したら絶望でしかない。
唯一魔王と戦える可能性を秘めた勇者はまだ覚醒前だから抵抗する術もなく一方的に蹂躙されて終わる。

「大体あの時の魔導師アンタらの暴挙を尻拭いしたのは誰だと思ってるんだ。私はあの場で魔王の怒りを買うことは得策ではないと判断して砲撃命令を出さなかった。魔王はこの子に勇者の覚醒を待つ約束をして既に去ろうとしてたからね。それなのに頭の悪い副指揮官が勝手に砲撃命令を出して攻撃をしたせいで魔王も反撃してきたんだろうが。その反撃から命がけで王都や国民を守ってくれたのは誰だ?他でもないこの子だろう?」

おかんむり。
こんなに怒りを顕にしてるエミーは初めて見た。

「うむ。それについてシン殿に伺いたい」
「俺に?なに?」
「貴殿が王都に向けられた魔王の攻撃を防いだのは事実か?」
「防いだっていうか邪魔をして逸らすことしか出来なかった。帰ろうとしてたのに砲撃を受けて、これが人族の歓迎かって魔王が反撃しようとしたんだ。だから全身に強化魔法をかけて攻撃した。結局俺の攻撃は当たらなかったけど、魔王の攻撃も空に逸れて王都に当たらなかっただけよしと思って貰えれば」

おっさんから聞かれて正直に答える。
本当は傷の一つでも負わせられてたらよかったんだろうけど、魔王と俺じゃLv.1のスライムがエス〇ークに挑むくらいの実力差があって無理だった。

「その時に命が尽きかけたというのも事実か?」
「うん。強化魔法をかけての攻撃に耐えられず体中の骨が砕けてたらしくて、魔王からも随分無理をしたなって言われた。折れた骨で臓器もやられたのかこれ死んだなって意識が遠くなったところで魔王が回復をかけてくれたから生き延びたけど」

ありのままに話すと謁見の間は騒がしくなる。
でも魔王が俺の命を助けてくれたことは事実だ。
変な契約を勝手にしたことも事実だけど。

「エミーリアたちの報告は事実だったようですな」
「うむ。シン殿」
「ん?」

師団のオヤジと話したおっさんが座っていた椅子から立ち上がると騎士や師団も立ち上がる。

「この王都を、民の命をお救いくださり感謝申し上げる」
「……え」

おっさんをはじめ、みんなから頭を下げられる。
その中にはエミーも。

「俺は感謝してほしくて攻撃したんじゃない!魔王が反撃しようとしてることが分かって咄嗟に体が動いただけだから!」

お偉いさんから頭を下げられたくてしたことじゃない。
たんに体が反応してそらすことが出来ただけなんだから頭なんて下げる必要はない。

「咄嗟のことであろうとも魔王を相手に生身で攻撃しようとは思わない。貴殿も魔王との力の差は分かっていただろう」
「まあ。魔王に比べたら俺はスライムだなって感じで」
「それにも拘わらず魔王の前へ飛び込んだのだろう?もし貴殿が身を呈してくれなければ王都は破壊され多くの民が命を落としただろう。国王として英雄に感謝をするのは当然のことだ」

あー!やっぱりむず痒い!
お偉いさんから感謝されると本当にむず痒い!

「救われたな。人族」

背後から聞こえたその声。
みんなの表情が一瞬にして強ばり俺も振り返る。

「……魔王!貴様どうやってこの部屋に!」
「魔王!?この者が魔王だと!?」

剣を抜いたエミーはテーブルに上がるとその上を走ってきて魔王へと斬り掛かる。

「お前はあの時の賢者か。随分と縮んだな」
「元の姿だと周りの人を魔力酔いさせるんでね!」
「人族とはそんなにも脆いのか」
「化け物のアンタと一緒にするんじゃないよ!」

俺の刀を受け止めた時のようにエミーの剣を片手で軽々と止めつつ背後から俺を腕に収める。

「そう怒るな。人族が半身を囲み首を落とすと話していると使者から報告を受け見に来ただけだ。まさか本気ではあるまい?勇者の覚醒を待つ約束はしたが、俺の半身に害を為す者が居るのであれば今ここで開戦を宣言して精霊族をみな殺しにする」

話している魔王の顔は見えなくても肌が粟立つ。
本気で言っていることは魔王の殺気で分かった。

「聞いてなかったのか?みんなシンに感謝してるんだ」
「聞いていた。だから救われたなと言ったんだ。だがそのまま放っておいてはまた半身の命を狙う輩が現れるだろう?其方そちらが攻撃しない限り戦うつもりはない。剣をおさめろ」

エミーと目を合わせて剣をおさめるよう促す。
今時点でエミーが攻撃をしてる状態だから、このまま続ければ魔王はこの場に居るみんなを殺しかねない。

「……分かった。シンを心配して見にきたということだな」
「ああ。魔族は自分の半身を傷付けられると見境がなくなる。暴走した魔族から殺されたくなければ覚えておくといい」
「へぇ。意外にも熱烈なんだね」
「生涯の伴侶は魂の契約を結んだ者だけだ」

魂の契約を結んだ者……。
俺か、俺だな。
勝手に契約して生涯の伴侶とか、魔王さま、それ完全に結婚詐欺です!

「貴台がこの国の国王か」
「ああ。お初にお目にかかる。私はブークリエ国十九代国王、ジェラルド・ヴェルデ・ブークリエと申す」
「俺は魔族のおさフラウエル。お初にお目にかかる」

あら律儀(オネエ風)。
俺たちの時にも思ったけど魔王が意外と律儀。
態度は全く律儀じゃないけど俺もそこは人のことを言えない。

「魔族は気紛れな種族だ。だが自分が選んだ半身と交わした約束だけは違えることをしない。俺は自分の半身である夕凪真に勇者の覚醒を待つと約束をした。覚醒前に命知らずにも勇者の方から戦いを仕掛けて来た時には反撃するが、そうではない限り俺の方から勇者に手を出すことはしないと誓おう。ただし今話していたように精霊族が俺の半身の命を奪うというなら話は別だ。自分の大切な者を奪う者へ与える慈悲などない。魔族は既に勇者を落とす準備ができていると忠告しておこう」

おっさんに堂々と宣言する魔王。
勝てる自信があるからこそ余裕があるんだろう。
化け物のような強さの魔王を討伐できる可能性を持っているのが勇者のヒカルたちだけというのがなんとも不安だ。

「それともう一つ。魔王の俺は勇者の覚醒まで手を出さない約束をしたが他の魔族は別だ。くれぐれも気を付けることだな」
「え?詐欺だ。自分は手を出さないけど他の奴は出すって」
「すまない。例え魔王であっても戦いと血を好む魔族全てを止めるのは不可能だ」

話しながら匂いを嗅ぐな。
そろそろこの匂いフェチ魔王を殴りたい。

「どうにかしろよ。魔族のおさなんだろ?」
「魔界に暮らす魔人族と竜人族と龍族の三種族でどれほどの数が居ると思う。階層の広さも数も地上を遥かに上回っている」

知 ら な か っ た 。
魔人族と祖龍(龍族)の話は聞いてたけど竜人族とか初耳キャラだし、魔族の方が数が多いなんてことも初耳。

「数の少ない精霊族なら制御できるのか?国王が命ずればみな素直に従うのか?それに反する者は居ないのか?」
「居る」
「だろう?」

たしかに国の決まりでも違反する者は居る。
数の少ない地上層の国王だって全ての人の行動を把握して止めるなんてことはできないんだから、数の多い(らしい)魔族はなおさら難しいだろう。

「お前も気を抜いていると殺られるぞ」
「助けないのかよ!」
「助けて欲しいのか?」
「いや、やっぱ良いや。後が怖いし‪(  ˙-˙  )スンッ‬」

助けた変わりに子を百人産め(魔力で)とか言われたら死ぬし。
悪役に助けは求めるものじゃない。

「魔王フラウエル。貴台に伺いたい」
「なんだ」
「シン殿を随分と気に入ったようだが、貴台の居る魔界層へと連れて行かない深い理由があるのだろうか」
地上層こちらに居させた方が面白そうだから」

浅ぁぁぁぁぁぁぁぁい!
通り雨の後の水溜り並に浅ぁぁぁぁい!

「お前全てがで事をすすめてるよな」
「退屈なんだ。魔王って立場も」

くっ……ハルと同じこと言ってやがる。
退屈というのが最早口癖で、面白いかどうかで物事を決めるところは完全にハルと一致。

「では、勇者の覚醒を待つ理由も面白いからだと?」
「魔族は力が物を言う種族で強者が頂点に立つ。故に魔王の俺は日々強い者に飢えている。精霊族より遥かに長命の俺にとって勇者の覚醒を待つ時間など大した時間ではない。俺を倒せるほどの強者となりうる者を待つ時間というのもいいものだ」

そういう理由であれば魔王は本当に約束を守るだろう。
退屈な人(魔)生を楽しませてくれる強者が唯一自分を倒せる可能性のある勇者だから。

「精霊族もそうであるように俺たち魔族も精霊族が敵だと教えられて育つ。終わりのない戦いを幾千年と繰り返すなど不毛だとは思うがな。互いに守りたいものがあるのだから仕方ない」

…………。
なんか人間みたいなことをいう魔王だ。
戦いと血を好む種族という割には。

「人族の王よ。勇者が覚醒した暁には敵として相見あいまみえよう。その時には俺も魔族の王として民のために身命を賭して戦う」
「承知した」

それまで魔王は敵ではないとでも言うように。
もちろん俺の首が飛ばされるようなことがなければ……が条件だろうけど。

「じゃあな、魂の半身。また会いに来る」

不思議な魔王だ。
ハルに似たブラウンの髪と瞳の魔王は俺にチークキスをしたあと口元に少し笑みを湛えてスッと壁に消えて行った。
 
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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