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第五章 新たな始まり
ファイアベア
しおりを挟む多く見えたコース料理(中華料理のように同席の人と取り分けて食べる)も、痩せの大食いらしい魔王の胃の中へ。
特に“ラウンドコンドルの丸焼き”という料理がエグい量だったのに関わらず、魔力を抑えて体のサイズが縮んでいる今でも胃の収納力は変わらないのか、普段はもっと食べているのか、平然と完食したことに驚いた。
「綺麗な所作でえげつない量を食べるな。吃驚した」
「俺はお前の食べなさに驚いた」
「いや、俺も人族の中では割と食べる方だから」
「だから人族は体が小さいんじゃないか?」
「むしろ体が小さいから食べられないんだろ」
俺は割と食べる方で、決して少食じゃない。
それでも少食に見えたなら魔族はみんな食事量が多いってことだろうけど……人族の世界ならエンゲル係数が凄そうだ。
そんな話をしながら少し寛いだあと店を出る。
「見渡す限りエルフ」
「エルフ族の国なのだから当然だろう」
「そうなんだけど、エルフを見ても意外と感動しなかった」
「感動?」
「居るなら会ってみたいと思ってたんだけど、最初に見た門番のエルフ以降は特に真新しさを感じない」
本当に居たとテンションが上がったのは最初だけ。
耳が尖っていること以外は人族と変わらない。
唯一俺の印象(異世界系知識)と大きく違ったのは、閉鎖的な集落で暮らしている孤高のイメージだったのが大都会に暮らしている商人だったと言うだけ。
エルフ族も人族と同じように街を作り生活をしている。
良くも悪くもヒトくさい。
「なあ。この国のギルドに行ってみたいんだけど」
「ギルド?」
「冒険者ギルド」
「なんだそれは」
「あれ?魔族にはギルドってないのか」
「ない」
エルフ族の区域はどんなクエストが出ているのか見てみたくて言うと、ギルド自体が分からないらしく魔王は首を傾げる。
「もしかして魔族には冒険者が居ない?」
「居ない。何をするんだ?」
「んと、困ってる人を助けて報酬を貰う仕事?かな」
「それは魔界では仕事にならない。竜人街の竜人のように中には集団で生活している魔族も居るが、基本的には弱肉強食だ。他人に助けを借りなければ生きられない者は淘汰される」
「そんな感じする。だから魔族は強者が偉いんだろ?」
「ああ」
力が物を言うのが魔族。
それは聞いていたから冒険者が居ないことも納得できた。
「俺も興味が湧いた。訊ねてみよう」
「うん」
魔界層にはない物に興味が湧いたらしい魔王は通りすがりのエルフに声をかけてギルドがあるかを訊く。
「ギルドはあるが、君たちは人族じゃないのか?」
「そうだ」
「悪いことは言わない。この国のクエストを受けるつもりなら辞めておけ。人族では殺されに行くようなものだ」
「そんなに強い魔物ばかりなんですか?」
「魔王は地上の神が目障りなんだろう。人族の住む区域とは比べ物にならない強い魔物が魔層を使って送られてくる」
魔王の話が出て吹き出しそうになったのを堪える。
その地上の神が目障りらしい魔王は目の前に居ますけど。
「お気遣い感謝します。クエストを受けるかは別として、冒険者としてアルク国のギルドを見ておきたいので場所を教えて貰えませんか?」
そう説明するとエルフの男はギルドの場所を教えてくれた。
「地上の者は俺が魔物を送っていると思ってるのか」
「人族は魔王が送ってるとまでは思ってないけど、魔界の生き物が魔層を通って出て来てるとは思ってる。俺もリュウエンに聞くまではこの世界に来てから教えられたそれを信じてた」
男が去ったあと呟く魔王に苦笑する。
人族は魔王が地上へ送り出してるとは考えてないけど、魔界の魔物が魔層を通って地上に来てると教わった。
「魔物は地上の負の感情と魔素を糧に魔層内で生まれて天地に現れる。地上の者でもなければ魔界の者でもない。食料だ」
「最後の一言がエグいんですけど」
「食べるだろう。地上でも」
「いただきますけどね。有難く」
この世界では魔物も貴重な食材。
それは間違いないけど、人族にとっては脅威でもある魔物を食料と言い切る魔王はやはり化け物だなと思う。
「無知め。自分たちが作り出していると言うのに」
「精霊族は魔層を通れないからな。魔物がどこから来てるか分からなくても仕方ないだろ。勘弁してやってくれ」
自分が送っていると思われてることが納得いかないらしく、ブツブツ文句を言う魔王を連れてギルドへ向かった。
「デカいな!」
さすが大都会(この世界にしては)。
冒険者ギルドが三階建てのビル。
召喚前ならありふれた何てことはない建物でも、半年ぶりに三階建てを見ると大きく見えるんだから毒されてる。
この国に来た時にまず思ったけど、こじんまりと暮らしてる人族とは生活水準が違いすぎだ。
「やっぱ装飾品技術の高さが生活水準の差か」
「それもあるが、人族が誠実だと言うことでもあるだろう」
「ん?」
「エルフ族は相手を見て狡賢く立ち回るが、人族は馬鹿正直に同盟の誓いを守っている。その誠実さが逆に商業や技術の発展の妨げになっているんじゃないか?」
なるほど。
正直者が馬鹿を見るってパターンか。
人として信用できるのは人族だけど、国民が裕福な生活をおくれるのはエルフ族の方。
「どっちが正解なんだろうな」
「正解不正解でなく何に重点を置くかの違いだろう」
「それもそうか」
どちらのやり方も善し悪しがある。
正解不正解の話じゃないって言うのはたしかにその通り。
「なんか近代的なギルド」
中に入っての感想はまずそれ。
人族のギルドと違ってこの国のギルドは機械的。
歩いている人たちは洒落た鎧や胸当てを装備していて冒険者らしからぬセレブ感が漂っている。
「あ、人が集まってるあれが依頼ボードか?」
「行ってみよう」
「うん」
魔王は建物には興味がないらしくさっさと歩きだす。
冒険者がどんな依頼を受けるかの方が気になるらしい。
「えーっと……あれ?」
「どうした」
「魔物の種類が人族のギルドとあんま変わらないんだけど」
場所を教えてくれた男が強い魔物と言ってたから知らない魔物ばかりなのかと思っていたのに、ボードに貼られている依頼に書かれた名前は人族の区域にも居る魔物が多い。
「Aクエにファイアベアが居る。個体値が高いのか?」
「Aクエとは?」
「A級クエスト。S級が一番難しい依頼でその下がA級」
「炎を纏った赤色の魔物だろう?どこが難しいんだ?」
「さあ。人族の領域ではC級扱いの魔物だし」
常に火だるま状態の真っ赤な熊。
エミーと王都の外で訓練をした時に何度か森のくまさんしたけど(森で遭遇したの意)、首の急所さえ狙えれば一発で仕留められる魔物。
「あの魔物は一撃で仕留めれば肉が柔らかくて美味い」
「分かる。美味いよな。王都でも人気があるから料理店や肉屋からよくクエスト依頼が出てる。Cクエだけど傷が少ないほど素材の買取額が跳ね上がるし、受ける冒険者が多い」
Cランクに上がったらまずこれというくらい人気クエスト。
討伐報酬の方は他のCクエと変わらないけど、ファイアベアの依頼が冒険者に人気の理由は『素材買取』の方にある。
ファイアベアは少し特殊な魔物で、元気な時には全身が高級素材なんだけど、攻撃を受けるほど身に纏った炎で文字通り自らの身を焦がして勝手に丸焦げになってしまうマゾい熊。
そういう理由で攻撃回数(傷み)が少ないほど高額で買い取って貰えるから、金が欲しい冒険者からは大人気。
ただ、そんなCランクになれば誰でも受けるようなファイアベアの依頼が上位のA級クエストにあるのが不思議だ。
「戦ってみれば分かるんじゃないか?」
「受けてみるか。ギルド依頼はどこででも受けられるし」
今まで王都でしか受けたことがないけど、冒険者カードを持っていれば依頼はどこでも受けられるとエミーが言ってた。
「ギルドカードがない人は依頼を受けられないから、俺が依頼を受けて成功報酬を後で分けるって感じになるけどいいか?」
「わけまえは要らない。強い魔物に興味があるだけだ」
「さすが魔、バトル狂」
魔王と言いかけてバトル狂と言い直す。
魔界最強の魔王さまは今日も強者に飢えているようだ。
「君たち」
依頼書をボードから取ると背後から声が聞こえて振り返る。
「その依頼を受けるつもりか?」
「はい。あ、貴方がたも受けるつもりでしたか?」
後ろに居たのは男三人と女一人。
危機感なし装備だけど冒険者(多分)だろう。
「身形を見る限り君たちは人族じゃないのか?」
「そうです」
「そのクエストはA級だぞ?」
「え?はい。分かってます」
紙に大きくAの判子が押してあるから間違いようもない。
俺の返事を聞いた四人は仲間内でヒソヒソ話す。
「断る」
「ん?」
なにを?
唐突な魔王の言葉に首を傾げる。
「俺たちを囮にする算段をしていた」
「は?」
「合同で受けて俺たちを囮にすればいいと女が話していた」
「ヒソヒソ話してんのが聞こえたのか」
「ああ」
まさか聞こえてしまうとは思ってなかったらしくヤバいという顔をする四人。
「囮にして報酬を総取りする気だったのか。クズだな」
「な、人族が生意気な」
「その見下してる人族を囮にしないと討伐できる自信がないんだろ?自称地上の神が聞いて呆れる」
A級の討伐依頼はパーティ同士で共闘する時もある。
一人ずつの報酬は減ってしまうけど、A級は魔物が強いだけあって高額だから多少減ろうとも身の安全を優先して。
決して囮にするために合同で受ける訳じゃない。
「私たちはBランクパーティだぞ!」
「だから?」
冒険者カードをバーンと見せる男。
水戸〇門の印籠か。
ランクで威張り散らかす辺り雑魚臭が半端ない。
「私たちBランクでも苦戦するファイアベアを人族が倒せるはずがないだろう!身の程を知れ!」
「人族だとファイアベアはC級クエストだけど」
「C級!?嘘をつくな!」
「いや本当に。それなのにAクエになってるから、人族の区域のファイアベアと個体値が違うのか確認するために受ける」
同じ魔物でも強さは違う。
ただ強さが違うと言っても亜種のファイアベアでもB級止まりだから、Aクエに振り分けられるようなファイアベアとなると相当の強さだと思う。
「行こう、フラウエル」
「ああ」
「逃げるのか!」
「ああ、うん。それでいい」
面倒な奴は構わないのが一番。
これ以上関わりたくないからキッパリ言って離れる。
「その態度はなんだ!」
「しっかり謝罪しなさいよ!」
受付の看板を目印に歩く俺たちの後ろをついて来る四人。
ギャンギャン言いながら着いて来るんだからダサい。
周りの人たちも何事だと様子を伺ってるし(後ろで騒いでる奴が居るから当然だけど)勘弁して欲しい。
「そろそろ無に還してもいいか?」
「駄目」
ボソッと訊く魔王に答える。
今は魔力を抑えてるから人族にしか見えないけど、その姿でも一瞬であの世に送れる力はありそうだから洒落にならない。
「受注受付お願いします」
一階の奥にあった受付カウンター。
大都会(この世界にしては)にあるギルドだけあって受付カウンターが広いし、受付嬢の人数も多い。
「恐れ入りますが人族の冒険者さまですか?」
「はい。人族でも受けられますよね?」
「可能ですが、他種族の冒険者さまでも依頼中に起きたことの責任は当ギルドでは負えません。それでも宜しいですか?」
「ああ、はい。それは大丈夫です」
例えクエスト中に死のうとギルドに責任はない。
依頼人と冒険者の橋渡しをするのが冒険者ギルド。
それは人族のギルドでも同じ。
「こちらのA級クエストの受注資格はBランク以上となっております。まずは受注資格を確認いたしますので、ギルドカードか情報が付与された装飾品をこちらに翳してください」
「はい」
スルースキルの高い受付嬢。
あれだけ騒いでた奴が後ろに居るのに(受付に来てからは静かになったけど)淡々と仕事をこなしてるのが面白くて笑いそうになりながら首にかけてたネックレスを外し水晶に近付ける。
「……Sランク?」
「え?嘘でしょ?」
「故障した?」
水晶に映った冒険者情報を見て受付嬢が呟くと、今まで機械的だった他の受付嬢たちも表情を変え確認する。
「申し訳ございません。もう一度こちらへお願いします」
「はい」
どうやら水晶がぶっ壊れたと判断したらしく、別の水晶を目の前に置かれて再び装飾品を翳す。
「あの……ギルドカードはお持ちですか?」
「あります」
「申し訳ありませんがカードでの照会もお願いします」
「分かりました」
やっぱり持ち歩いてて良かった。
財布から冒険者カードを出して三度目のトライ。
「シン・ユウナギさま。ランクSで間違いありませんか?」
「はい」
水晶は最初からぶっ壊れてないし、Sランクで間違いない。
戦闘狂軍人さまの訓練は実戦形式だから王都を出る前にギルドで上級クエストを受けてから訓練に行くのが基本。
登録先が王宮ギルドだから依頼されてない(出来ない)祖龍の討伐と英雄ポイントも加算されてだけど、毎回訓練を兼ねて討伐をしていたらSランクのポイント数に達していた。
異世界系の漫画や小説ならお約束の成長過程。
俺TUEEEEしながら、時にはピンチに陥りながら強くなっていくのが楽しみの一つなのに、さっくりSランクになった俺には過程を語るほどの胸熱展開はない。
「大変失礼いたしました。受注資格の確認が出来ましたので受付手続きをいたします。少々お待ちください」
「お願いします」
まるで上野〇物園のパンダ。
四人が騒いでいた所為で様子を伺ってた人たちに加えてSランクの冒険者に興味があるのかますます人が集まり、受付嬢も数人がかりで受付をしている。
「もう御一方の照会もこちらでお受けいたします」
「俺は冒険者ではない。付き添いだ」
「それですと報酬を受け取れませんがよろしいですか?」
「ああ。報酬に興味はない」
魔王が興味を示してるのは強さだけ。
高額の報酬なのに興味がないと言い捨てる魔王に受付嬢がポカンとしていて笑ってしまいそうなのを堪える。
「お一人での受注ということでよろしいですか?」
「はい」
受けるのは一人でも実際には魔王も戦うけど。
上位級のAクエを一人で受けるマゾい変人(俺も魔王が居なければ一人でなんて受けないけど)に周りはザワつく。
「こちらのクエストは討伐と素材採取のクエストとなっております。討伐だけでもクエスト完了となりますが、採取の場合には攻撃回数が少ないものほど高値で買い取りいたします」
「分かりました」
それも人族のギルドと同じ。
ハロルドから何発も攻撃を喰らわせたファイアベアの肉を食べさせられたけど(攻撃回数での味の違いを教える為に)、臭いし硬いしで食べられたものじゃなかった。
「大変危険なクエストとなっております。お気を付けて」
「ありがとうございます」
『行ってらっしゃいませ』
丁寧に頭を下げる受付嬢たちに会釈をして振り返ると既に四人の姿はなく、逃げ足の早い奴らだと苦笑いが浮かんだ。
・
・
・
「よし。強いらしいから気合い入れて討伐するか」
「行くのは魔層でいいのか?」
「うん。目撃情報が魔層付近になってたから」
「では行こ」
「待った!それは少し離れてから!」
王都から出てすぐ魔空魔法を使おうとした魔王を止める。
猛者と早く戦いたいのは分かるけど、人族は魔空魔法のような術式なしの長距離移動は出来ないから(人族は術者が見えてる範囲にしか移動できない)魔族だとバレてしまうかも知れない。
「地上の者に合わせると何かと面倒だ」
「少し歩くだけだろ。歩かないとデブるぞ」
舌打ちする魔王を連れて門前から歩きだす。
なにも魔層まで歩いて行こうって言ってる訳じゃないのに面倒くさがりめ。
王都から離れて辺りに誰も居ないことを確認してから魔空魔法で魔層の傍まで移動した。
「魔物は居るけどファイアベアはどこだ」
上位の魔物の気配は幾つか探知に引っ掛かってるけど魔物の種類までは分からない。
「回るのは面倒だ。調べさせよう」
「誰に?」
「ゴーストバットに」
そう言って魔王が空中に手を翳すと術式が現れる。
「術式?」
「それは人族の力。これは召喚術だ」
「へー。違うのか」
「お前も使っているだろう?武器を召喚する時に」
「え?ああ!あれ召喚術って言うのか!」
「知らずに使っていたのか」
知 り ま せ ん で し た 。
確かに雅や優美、基、風雅は召喚されてくる。
中から取り出す異空間と違うことは分かってたけど、あれが召喚術ってものだったことは初耳。
「蝙蝠ちっさ!」
「体は小さいが使者としては優秀だ。姿も隠せる」
魔王が召喚したのは5cmほどの小さな蝙蝠が数匹。
今まで蝙蝠を可愛いと思ったことがないけど、それだけ小さいと可愛く見える。
「もしかして俺の監視に送ってるのもこの子たち?」
「監視とは人聞きの悪い。お前に何かあった際はすぐ分かるよう付けてある。俺もずっと見ていられる訳ではないからな」
良いように言っただけで監視です魔王さま。
ストーカーが付け回す理由を「危ないから見守ってるんだ!」と言うのと同じです( ˙-˙ )スンッ
「ファイアベアを探して来てくれ」
魔王が話すと蝙蝠たちは四方八方へと飛んでいく。
飛び去る姿も可愛い。
「今の子たちも魔族の仲間に分類されるのか?」
「あれは魔物だが、魔層から現れる魔物とは違って魔界に元々生息している。地上のマーメイドなどと同じく」
「地上ってマーメイドが居るのか!?」
「居る。個体数の少なさや目に付かない場所に居て知られていないというだけで、魔界にも地上にも何々族と分類されている以上の種族が生息している」
浪漫たっぷりの話だ。
移動手段の少なさや寿命や体の脆さも関係してるのかも知れないけど、この異世界の知識に関しては人族よりも魔王の方が博識と感じることが多い。
「待つ間に少し訊いてもいい?」
「なんだ」
「フラウエルの親って先代の魔王?」
「そうだ」
「王家みたいに親から子に引き継がれるものなのか」
魔王については知らないことが多い。
疑問に思うことも沢山あって少し訊いてみたくなった。
「いや。魔王の血族でも魔王の血継がなければなれない」
「え?魔王の子供が次の魔王になる訳じゃないんだ?」
「魔王の子供に〝魔王の血継〟という特殊恩恵を持つ者が現れやすいと言うだけで必ず持って生まれる訳ではない。精霊族の王家のように血筋や作られた順は一切関係なく、魔王の血継という特殊恩恵を持って生まれ覚醒した者が次の魔王になる」
「そうなんだ」
作られた順って言い方が魔族的。
人族が表現する時は産まれた順って言うけど。
「フラウエルに兄弟は?」
「居た。俺が眠りについてる間に討伐されたが」
「……え?」
「魔王の血継を持つ者は覚醒を機に長い眠りにつく。前回の天地戦は俺を作った者が魔王だったが、眠りについていた俺が目覚めた時は既に親も兄姉も勇者に討伐されていた。天地戦後に生き残っていた魔族は僅か。数百年かけて今は増えたがな」
そんな話を聞いて胸が痛む。
目が覚めたら多くの魔族は疎か自分の親や兄姉も亡くなっていたなんて辛過ぎる。
「なぜそんな顔をする。前回の天地戦は魔族が敗北した結果としてそうなっただけのこと。もし地上の者が負けていたら今居る者たちとお前が出会うことはなかったかも知れないのに」
「それはそうだけど」
それが天地戦に負けた者の末路なんだろうけど、その代償はあまりにも大きい。
「……数百年前ってフラウエルは何歳なんだ」
誤魔化すように話題を変える。
魔王や魔族の境遇に胸が痛んだことを悟られたくなくて。
「作られてからなら三百年ほどか。ただ、魔王の血継や魔王の特殊恩恵を持つ者は生涯で幾度も覚醒を繰り返し眠りにつくとあって歳をとるのが遅い。俺が最後の覚醒から目覚めたのはお前たち異世界人が召喚される少し前。俺が覚醒したからお前たち異世界人も地上を救う勇者として召喚された」
三百年ほど……約三百歳。
眠っている時間も多いといっても八十年も生きれば平均寿命(地球では)の人族の俺には気が狂いそうな時間だ。
「召喚された日に国王のおっさんが魔王が復活した年に異世界人を召喚するって話してたんだけど、正しくは復活じゃなくて最後の覚醒をした年に召喚するってことか」
「歴代の王のように完全覚醒をした魔王という意味では復活でも間違っていないがな。地上の者にとって俺の名前はフラウエルではなく魔王という名前だろう?」
ああ、そうか。
勇者が毎回違うように魔王も毎回別の人。
ただ精霊族にとってはみんな同じ『魔王』という名前の敵。
「ファイアベアを見つけたようだ」
「え?どうやって分かったんだ?」
「ゴーストバットは特殊な超音波で報せることや水晶を使った時のように目に写ったものを見せることが出来る」
「へー。小さいのに有能」
魔王が優秀というのも納得。
姿が消せるわ、ウェブカメラの変わりも出来るわ、存在そのものが優秀な小型スパイ。
魔空魔法で移動したのは魔層近くの山の麓。
魔王と俺の魔力を感じとったのか弱い魔物たちが散り散りに逃げたことが探知で分かった。
「固まってたのがファイアベアだったのかよ」
探知で気配が集中していた箇所。
その数ざっと数十頭。
炎を纏ったファイアベア軍団のお出ましだ。
「ファイアベアの炎で山火事なんて初めて聞いたけど、こんな集団で居たらたしかに火事になってもおかしくないか」
依頼書にはファイアベアの炎で山火事になる被害が出ていると書かれてたけど、そんな話は人族の区域で聞いたことがなかったから実際に集団で見るまでは半信半疑だった。
「何で集団で居るのか気になるけど、ひとまずやるか」
「ああ。半身は左の半分を。俺は右半分を倒す」
「OK」
俺たちを見つけてグルグル鳴く可愛くない熊。
風雅を召喚して魔王の指示通り左右に分かれる。
「美味しくいただかせて貰うから!」
大きな図体から振り下ろされる両手熊パンチ(俺命名)を上に飛んで避け、弱点である首の後ろに刀を突き立てる。
大きな断末魔をあげたファイアベアの体から炎が消えると地面へと前のめりに倒れた。
間髪入れず次々と襲いかかって来るクマ公。
命を貰うんだからせめてエルフたちに美味しく食べて貰えるよう弱点だけを狙って一撃で倒して行く。
「……短剣で倒すとか……化け物か」
魔王の方は大丈夫かと少し確認すると右手に握った短剣で急所を一突きしていて、心配のしの字も要らない化け物レベルなことを実感させられた。
「それで最後か」
「多分。探知からは一通り消えた」
先に倒し終わって待っていた魔王。
待ってるあいだ暇だったらしく、既に倒したファイアベアを一箇所に集めていた。
「まさかこれではないだろう?強いファイアベアは」
「俺も思った。人族の区域に居るのと変わらなかったし」
「これなら魔界に居るファイアベアの方が強い」
「ああ……魔界に居るのは強そう」
この程度の強さのファイアベアでは化け物クラスの魔物がゴロゴロ居る魔界層では生き残れそうもない。
「大剣を使うまでもなく終わるとは」
「いやそれはフラウエルが特別なだけ」
炎を纏うファイアベアを素手で捕まえる奴も短剣一本で事足りてしまう奴も初めて見た。
そんな化け物が地上にゴロゴロ居てたまるか。
「でも本当に何でこれがAクエになってるのか謎。強いとか大変危険とか言われたから苦戦する覚悟で来たのに」
ファイアベアのサイズ平均は4mくらい。
大昔の地球に居たショートフェイスベアのような巨大熊だけど人族の区域に居るのも同じくらいのサイズで珍しくないし、爪での攻撃や炎を吐く威力も違いを感じなかった。
今戦ったファイアベアなら人族のギルドではC級。
集団なことを知っていての依頼だったとしてもB級。
装備を新しくしたい冒険者や宿賃が欲しい冒険者が喜んで引き受けるだろう。
「異空間に仕舞うぞ?鮮度が落ちる」
「ああ、うん。ありがとう」
疑問に思うのは一旦後回しにして、いただいた命を無駄にしないよう魔王の異空間に仕舞う。
そんな“仕舞う”という作業でさえも二頭ずつ担いで(一頭で約1トンあるのに)軽々と仕舞っていることに驚かされるけど。
パない。
魔族、いや、魔王、パない(語彙力低下中)。
「今更だけど全部買い取って貰えるかなぁ。匹数も多いし全部急所を一突きで倒してあるし、かなりの額になりそう」
「買い取れない分は俺たちで分けよう。お前の分は捌いてやるから仲間に美味い肉料理でも振舞ってやれば良い」
「そっか。じゃあその時は頼む」
そんな話をしながら仕舞っていると背筋がゾクッとする。
「来たか。強いファイアベアってヤツが」
「いや。ファイアベアではない」
探知にはかかってないけど何かが居る。
やっぱり今倒したファイアベア以外に強い個体が居たのかと顔をあげると、魔王は俺よりも早く気付いていたようで魔層のある方角に顔を向けていた。
「俺がやっていいか?」
「え?」
「ファイアベアは期待外れで力を持て余していた」
魔王が異空間に手を入れ取り出したのは初めてブークリエ国へ来た時に担いでいた巨大な大剣。
自分の手を牙で噛んで傷を付けた魔王が見ている方角にその血を撒くとビシャっと何かについたと同時に耳を劈くような絶叫が響き渡る。
「……なんだコイツは」
魔王の血がかかった場所をグジュグジュさせながら姿を見せたのは超巨大な蛇……蛇……なのか?
「厄災の王と呼ばれる魔物だ」
「厄災って」
とんでもない化け物が現れた。
八つの頭と八つの尾を持つその魔物はまるで……
「……ヤマタノオロチだろ。これ」
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厄災の王と呼ばれるその魔物の姿に身震いがした。
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これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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