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第五章 新たな始まり
厄災の王
しおりを挟む「デザストル・バジリスク。この星に生息する全ての魔物の頂点であり、魔層の魔物たちを統べる最大最強の王だ。理由は分からないが普段姿を見せないコイツが外に出てくるとはな」
つまり魔界の王VS魔層の王と。
……うん、今すぐ帰りたい。
魔層最強の魔物が現れたのになんで嬉しそうなんだ。
これだから戦闘狂は。
「俺が一人で戦ってもいいか?」
「頼むからエルフ族の軍隊が動く事態は避けてくれ」
「分かった。隠蔽しよう」
ワクワクしながら魔王は言うと空に手を翳して辺り一面を巨大な透明ドームで囲む。
「これでいいか?この中は外から見ても普段の景色にしか見えない。人が侵入して巻き込まれることもない」
「なにそのチート能力。魔王さまが化け物すぎて辛い」
俺TUEEEEを地で行く魔王。
異世界系の漫画なら間違いなく魔王が主人公。
初めて見るワクワクした姿はまるで子供だ。
「駄目って言ったら拗ねるんだろ?死ぬ……ことはないけど回復に時間がかかるような大怪我しないようにな」
「ああ。約束する」
強者に飢えた魔王を止められそうもない。
恩恵の〝大天使の翼〟と〝大天使の目〟を発動して、魔王と厄災の王の戦いを空から観察することにした。
最初に仕掛けたのは厄災の王。
強酸のような血をかけられて余程痛かったのか激おこ。
八つの頭や尾を鞭のように器用にくねらせて攻撃する。
「吃驚した。居たのか」
眺めていた俺の肩に乗ったのはゴーストバット三匹。
危険を察知したのか、エコロケーション(超音波で障害物等を感知する蝙蝠の能力)ではなく「キィ、キィ」と鳴いている。
「んー。多分大丈夫だと思う。俺の特殊恩恵が発動してないってことは一緒に戦う必要がないってことだろうから」
俺がのんびり眺めていられる理由はそれ。
生死に関わるような時は勝手に発動するから。
「どちらにせよフラウエルが勝てないならもう誰も勝てない。現時点ではお前たちの主人がこの星で最強だと思うぞ?」
「キィ」
「うん。一緒に見てよう」
言葉は分からないけど落ち着いた姿を見て、勝手に通じ合った気になり再び下の様子を眺める。
「あのヤマタノオロチ、ヤバ過ぎ。全く勝てる気がしない」
上から見ていても肌で感じる威圧感。
魔王が豆に見えるくらいの巨体なのにあの速度。
頭や尻尾の一振りで地面に大穴を空けるほどの攻撃力。
もし人族のギルドに依頼を出すとしたら(出せないけど)、祖龍と同じく国王軍が動くことになる最上のS級だろう。
S級は同じでもその強さは祖龍以上。
魔層最強の魔物の王というのも納得の強者。
あれは勝てる気がしない。
「……すっっっごい楽しそう」
さすが戦闘狂。
そんな猛者を相手に楽しそうに大剣を奮っている。
俺からすれば化け物と化け物の戦いでしかない。
「アイツ溜まってたのか?」
「キィ」
「あ、下ネタじゃなくて戦闘欲が」
「キィ」
「キィ」
「キィ」
「うん。なんか悪かった」
右から順に鳴くゴーストバットとまた通じ合った気がして、言い方が悪かったことを詫びた。
「地形変わってるけど大丈夫か?これ」
巨体になぎ倒された木々は炎で燃え地面は抉れている。
今は外から見て普段の森にしか見えなくても、ドームを解いた後の地形を見た人(エルフ)が大騒ぎしそうな気もするけど。
とはいえこの化け物同士の戦いを止める自信は俺にはない。
「キィ」
「なんだよ。なんでさっきからツンツンしてるんだ?」
蝙蝠相手に独り言を話している俺の胸元を啄く一匹。
じゃれてるのかと思ってたけど何かを訴えてるようだ。
「あ。もしかしてコレか?」
ローブの内側の胸ポケから紙に包んだナッツを取り出す。
後で食べようと思って宿舎から持って来たことを忘れてた。
「キィ!」
「キィ!」
「キィ!」
「食べたいのか。お前らも大概のんきだな。喉に詰まらせないように慌てずよく噛んで食べろよ?」
紙を開くと三匹ともナッツに夢中。
飛膜の先のカギ爪で器用にナッツを取って口に運ぶと頬を膨らませてもしゃもしゃと食べていた。
「そろそろ終わるか?」
ゴーストバットにナッツを食べさせつつ眺めて一時間ほど。
速度が鈍くなったヤマタノオロチ、基、デザストル・バジリスクが頭を垂らし始める。
「お前たち、主人の戦いが終わるぞ」
「キィ」
「キィ」
「キィ」
頭を垂らし弱々しく尻尾を引きずるデザストル・バジリスクに魔王が一撃入れると、巨体はふぅっと力を失い地に倒れた。
「お疲れ。大丈……うん。聞くまでもないな」
「ああ。久しぶりに心置きなく体を動かせた」
「今日まで寝込んでた人みたいな言い方するな」
地上に降りた俺を見て満足そうに微笑む魔王。
デザストル・バジリスクの巨体は傷だらけなのに魔王の方は軽い火傷やかすり傷程度で済んでいるのが恐ろしい。
とはいえ異世界で最強の魔王に汗をかかせて傷をつけたデザストル・バジリスクが最強の魔物ということは間違いない。
俺なら数分も持たずあの世に行くことになっただろう。
「あれ?生きてる」
「統率者でもあるコイツを倒してしまうと魔層の魔物たちが活発化する。地上に出てくる魔物が増えては困るだろう?」
「そこまで考えてくれたのか。ありがとう」
「地上にはお前が居るからな。少なくとも傷が癒えるまでは魔層から出て来ないだろうから安心しろ」
魔王のこういうところに調子を狂わされる。
出会った頃は手も足も出ない強敵として恐怖を感じるほどだったのに、今となっては半身の俺には激甘。
パートナーを甘やかすことには慣れていても甘やかされる方には慣れてないから調子が狂ってしまう。
「先にコイツを魔層へ戻そう」
「うん。って言ってもどうやって連れて行くんだ?」
「引き摺って行く」
「瀕死なのにそれが致命傷になんだろ!」
もう動けない状態なのに引き摺って行かれたら死ぬ。
魔物が活発化するからと寸止めしておいて殺す気か。
「動けるようになったらまた攻撃してくると思うか?」
「さあな。攻撃してきたらもう一度瀕死にするが」
「嫌な無限ループだ」
魔王からすれば第二ラウンド歓喜なのかも知れないけど。
「ヤマタじゃなくて、デザストル・バジリスク。自力で魔層に戻れるくらいは回復してやるから大人しく戻って傷を癒せ」
地面に平伏してる顔の前に行って話しかける。
大暴れされたら困るからさすがに全回復はしないけど、自分で動けるようになれば少なくとも引き摺られずに済む。
「面白い奴だ。厄災の王を回復してやるとは」
「コイツを倒すと魔物が活発化するって言ったのはお前だろ?引き摺られて今度こそお逝きになったら困る。それに、ただ魔層から出て来ただけで何か悪いことをした訳じゃないし」
プークスクスする魔王はハルにそっくり。
今は魔力を抑えて人族にしか見えないから尚更。
「動くな。魔回復をかけるだけだから」
俺が手を翳すと攻撃されると思ったのか、頭をあげようとしていて止める。
「キィ!」
「キィ!」
「キィ!」
顔の周りを飛びながら鳴くゴーストバットを目で追いかけたデザストル・バジリスクは再び地へと頭を下ろした。
「お前たちが伝えてくれたのか?ありがとう」
『キィ!』
礼を伝え再び手を翳して今度こそ魔回復をかける。
巨体&強者だけあって回復に必要な魔力が多い。
特殊恩恵が発動しなかったから魔王ほどじゃないけど。
「……どうだ?動けそうか?」
ズズと地に引き摺り頭をあげたデザストル・バジリスク。
暴れられるほどの回復はしてないけど、動けることを確認しているのか頭を数度縦に動かす。
「厄災の王。姿を消す能力を使えるほどの魔力はもう残っていないだろうから俺が隠蔽魔法をかけ魔層まで誘導しよう。神々から愛された者に救われた命を大切にすることだ」
大丈夫そう。
魔王の後ろを地を這い着いて行くデザストル・バジリスクを見て第二ラウンドになることはなさそうだと安心した。
「よし。一段落」
「隠蔽も解くぞ」
「うん」
デザストル・バジリスクを魔層まで無事に送り届けたあと魔王は透明のドームを解除する。
「残りのファイアベアも回収せねば。数頭は厄災の王の炎に焼かれて灰になってしまったが」
「炎吹いてたもんな。蛇なのに炎吹くのかって吃驚した」
あれは驚いた。
蛇が炎を吹くなんて聞いたこともないから。
いや、この異世界には火を吹く熊が居るんだから炎を吹く蛇が居てもおかしくないんだけど。
「奴は数千年の刻を生きている。炎息も使えば魔法も使う」
「そんなに長く生きてるのか」
「魔層で自らの命の源である魔素を吸収しているからな。あの傷も魔層の中に居ればじきに癒えるだろう」
「そっか。じゃあ良かった」
地上の人たちを狙って攻撃してきたなら問答無用だけど、人が大勢居るアルク国に向かわなかったってことは最初から俺たちが目的だったんだろうし、地上と魔界の安全の為にもしっかり傷を癒して魔層に君臨していて欲しい。
大穴を埋めて燃えた木々は片付けてくれたものの更地になっていることに多少の不安は覚えつつ、残りのファイアベア数体を回収して漸く依頼は完了。
「結局ファイアベアは人族の区域のと変わらなかったし、どうしてAクエだったのかは分からないままだ」
デザストル・バジリスクはクエスト外。
ファイアベアだけで言えばC級クエストが妥当。
能力がずば抜けて高い個体は居なかったし、数百万分の一の確率で産まれるという亜種も居なかった。
「恐らく人族の方が身体能力が高いということだろう」
「え?エルフ族は強いってエミーから聞いたけど」
少し考える仕草を見せて言った魔王に首を傾げる。
拐われた時の報告の中で地上にエルフが居ることを聞いたとエミーに話したら、エルフ族は弓と風魔法の扱いに長けた強い種族だと教えてくれた。
「俺も人族の勇者を除き能力が高いのはエルフ族だと教わったが、能力は使わなければ廃れていくものだ。快適な生活を求め発展したエルフ族と昔と変わらぬ生活をしている人族とでは能力が逆転してもおかしくない。今となっては人族の方が能力が高くなったために同じ魔物でも脅威が違うのではないか?」
「なるほど。魔物側じゃなくて俺たち側の能力差か。そう聞くと有り得ない話じゃないな」
例えるなら田舎の人と都会の人の差。
大自然の中で土や血で汚れながらも日々魔物相手のクエストをこなす足腰の強い田舎冒険者と、機能より見た目重視としか思えない危機感ゼロ装備が流行る安全な都会冒険者では身体能力に違いがあってもおかしくない。
「尤も、エルフ族の方が強かった頃の天地戦でも真の敵は人族だったと教わった。エルフ族は負けを悟ればすぐに白旗をあげ寝返るが、人族は守りたいもののために最期まで立ち向かってくると。それを聞き人族は面白いと感じたのを覚えている」
人族もそうであるように魔族も歴史を教わる。
人族は昔の人が書き残した文献で。
長寿の魔族は文献+天地戦を生き延びた者が語り継ぐ。
「歴代の勇者が全て人族であることの謎も含め、そのような理由で以前から人族の生態に興味があって祖龍を偵察に出した。お前が倒してしまったから自ら赴くことになったが」
魔族も人族と同じように自分たちの世界の歴史を学び狩りをして毎日を生きているんだと、言われてみれば当然のことでも魔王と出会わなければ考えることはなかったと思う。
「ん?俺が倒さなければフラウエルは来なかったって事?」
「ああ。天地戦の前に勇者が居る人族の国へは行くなとマルクから反対されていたからな」
……魔王襲来騒動は俺の所為かっっ!!
大人しく帰ってくれた(魔導砲は破壊されたけど)のは俺を半身にしたからだったけど、襲来するきっかけを作ったのも俺。
「攻撃されたから反撃したのだろう?偵察だけで攻撃はしないよう言ったんだが。攻撃をすれば反撃されても已む無し。仮に人族が魔界へ来て攻撃をしかけてくれば俺でもそうする」
魔王に慰められる俺って……。
いや、元はと言えば魔王が偵察を送らなければきっかけにもならなかったんだけど、そんな『卵が先か鶏が先か』みたいなことを考えてもキリがない。
「よし。それより依頼を完了させに行こう」
「ああ」
過ぎたことはクヨクヨしない(現実逃避)!
国の近くまではまた魔空魔法を使い、後は歩いて聖地アルクの王都へと戻った。
・
・
・
「もう戻って来たということは失敗したのか!」
再び門番に通行料を払って王都門を潜った俺たちを真っ先に出迎えてくれたのは、あの逃げ足が早い冒険者パーティ。
いつ戻るか分からないのに待ってたのか?暇人なのか?
「討伐したから戻って来たんだけど」
「こんなに早く討伐できるはずがないだろう」
「ファイアベアを持ってないじゃない」
「連れが異空間にしまってくれてる」
「異空間?魔導鞄のことを言っているのか?それともあの巨体が入る異空間を作れるような属性レベルだとでも?」
「うん」
親の後を着いて回るカルガモか。
スルーしたらギルドの時みたいに後ろでギャンギャン始まるかと思って答えたけど、歩みを止めない魔王と俺の後を着いてきて話しかけてくるから結局は変わらなかった。
「本当に討伐したと言うなら証拠を見せてみろ」
「証拠に指定部位を持って帰って来てるでしょ?」
「何でお前らに見せるんだよ。依頼主でもないのに」
何で自分たちが証拠を見せて貰えると思うのか。
ギルド関係者でもなければ依頼主でもないのに。
「所詮は口だけか」
「やっぱりSランクって言うのは偽装だったのね」
「ランクの詐称は重罪だと知らないのか?」
「言ってやるな。人族は無知だと訓練校で習ったろう?」
後ろを着いて来ながら高笑いとは雑魚臭が凄い。
人族は無知と訓練校で習ったってところだけは、教員がそんなことを言ってるのかと微妙にイラッとしたけど。
「もういいだろう?無に還しても」
「鬱陶しいのは分かるけど我慢してくれ」
圧力を感じる笑みが怖い。
魔王の場合は人族がどうこうより、雑魚臭の凄い奴らが後ろを着いて来ることが鬱陶しくて嫌なんだろうけど。
「そんなに証拠が見たいならギルドで勝手に見れば良いだろ?これから依頼完了の報告に行くんだし」
どちらにせよこれからギルドに行って異空間から出すことになるんだから、見たければ勝手に見れば良いだけ。
見ていてはいけないルールなんてない。
それだけ言った後は完全無視。
見たいなら見ていいと助言してやったんだから、もう話(厭味)に付き合ってやる義理もない。
ギルドに入ると早速注目を浴びる。
さっきも居た人なのか話を聞いた人なのか知らないけど。
フードを被ってて良かった。
「シン・ユウナギさま。何かご不備がございましたか?」
「依頼のキャンセルはこちらのカウンターでお受けします」
ギルド奥のカウンターに行くと受付嬢から『お疲れさま』じゃなく『何でまだ居るの?』的な反応で返される。
「依頼を完了させに来たんですけど」
「……え?」
「解体せずに運んで来たのでどこに出せば良いですか?」
「もう討伐を?魔層まで行ってこの時間で討伐まで?」
「移動には転移を使ったので。場所は探知で探しました」
デザストル・バジリスクが現れなければもっと早かったけど、多少長引いてもこんなに疑われるのならどこかで休憩してから戻って来れば良かった。
「承知しました。鑑定をいたしますのでこちらにお願いしたいのですが、討伐したファイアベアは外ですか?」
「連れが異空間に入れてくれてます。ただここだと一頭しか乗せられないですよね?」
「一頭しか?……複数討伐なさったのですか?」
「魔層付近に群れで居た数十頭を全部」
「…………数十」
「依頼書に討伐数は書かれてなかったから群れごと討伐したんですけど、まずかったですか?」
人族のギルドだと一回で複数狩って来る人が多いし、魔物は魔層から次々に産まれるから狩りすぎると生態系がどうこうなんて話も聞いたことがないけど、実はヤバかったんだろうか。
「少々お待ちいただけますか?」
「え?はい」
「すぐにギルドマスターをお呼びします」
「ギルマスを?」
……違法とかだったらどうしよう。
冒険者カードの情報では居住地までは分からないから受けたけど、もし違法行為だったらさすがに色々訊かれるよな。
「これでファイアベアが絶滅するとかないよな?」
「魔層から産まれる魔物は絶滅したりしない」
「やっぱそうだよな?俺もそう聞いてたんだけど」
受付嬢がギルマスを呼びに行った隙にこっそり魔王に訊いてみるとエミーの情報が間違いだった訳じゃなかったらしく、それだけは少し安心した。
「そもそも数十頭狩った程度で絶滅するはずがないだろう。そうであれば魔界では一日もせず絶滅している」
「そんなに狩るのか」
「食料として一人で数十頭は狩る」
地上より強いらしいファイアベアを一人で数十頭。
……魔族の強さは異常( ˙-˙ )スンッ
「お待たせしました。ファイアベアを複数討伐なさったと」
「はい」
「鑑定いたしますのでギルド裏の解体所へお願いします」
「分かりました」
現れたのはエルフ族の男ギルドマスター。
ギルドマスターなのにスラッとした爽やか系。
見た目ちびっ子のエミーのインパクトには負けるけど。
「お二人を解体所へご案内して」
「はい」
ギルマスに案内するよう指示されたのは、最初に受注資格の確認や受注受付をしてくれたスルースキルの高い受付嬢。
「見世物のようになってしまって申し訳ありません。依頼達成率の低いファイアベアが複数持ち込まれることは今までありませんでしたし、体が大きいので解体後に部位素材だけを持ち帰る方が殆どですので、みんなも興味があるのだと思います」
「ああ、はい。大丈夫です」
緊張してるのかマシンガントークの受付嬢。
カウンターの様子を伺ってた冒険者たちが着いて来てることを目を合わせることもなく謝ってくる。
「シン・ユウナギさまもSランクで素晴らしい才能をお持ちなのはもちろんですが、お連れさまも複数のファイアベアが入る異空間を作れるほどの高い能力をお持ちなのですね」
物凄いキラキラしてるな。
相変わらず俺たちの方は見ないけど。
「こちらが解体所です。どうぞ中へ」
「はい」
大きな解体所。
殺伐とした名前の場所の割には中も綺麗だ。
「お待たせしました」
俺たちより一足遅れて来たのはギルマスとギルド関係者だろう男が数人、それと解体所の奥から数人の男が出て来た。
「個体確認と素材ランクを同時に鑑定いたしますので、討伐したファイアベアをこちらの床に出していただけますか?」
「はい。フラウエル頼む」
「ああ」
個体確認とは依頼された魔物かどうかの確認。
素材ランクとは、取って(採取して)きた素材の状態の善し悪しを鑑定することを言う。
魔王が手を翳すと異空間の出入口が現れる。
俺も手伝ってシートの敷かれた解体所の床へ出したファイアベアの数は全部で十八頭だった。
ギルマスたちは床に並んだファイアベアを見てポカン。
見物に来ている冒険者たちは出入口でザワザワ。
今更だけど4mオーバーの巨体が二十体近く入る異空間を作れる魔王の魔力量が恐ろしい。
「短時間で十八頭も討伐できるはずがない!」
「どこかで盗んで来たんじゃないの!?」
「人族がSランクなど嘘だ!」
「詐称してるに違いない!」
解体所の出入口から吠えたのはまたアイツら。
ほんと雑魚臭が凄い。
「シン・ユウナギさまは間違いなくSランクです!装飾品でもギルドカードでも確認いたしました!カードや認識コードに詐称がないことは私たち受付職が確認済みです!」
雑魚にプンスと怒ったのは受付嬢。
自分たちの仕事を疑われては怒るのも当然か。
「Sランクの冒険者が依頼を受けたと報告を受け私もギルド協会に登録されている情報を照会しましたが、シン・ユウナギさまのお名前は確かにSランクで登録されておりました」
ギルマスからも言われて雑魚臭の凄い四人は黙る。
そもそもの話として、Sランク冒険者の装飾品とギルドカードの両方をどうやって手に入れてどうやって詐称したのか。
詳しい構造は知らないけど、仮に落し物として拾っても本人以外は使えないらしいのに。
「ギルドマスター。素材ランクですがSSです」
「こちらも同じく。攻撃は刃物による急所への一撃だけで、毛皮、爪、牙、骨、肉、内臓、全てに傷みがなくSSです」
「短時間で狩り異空間に仕舞ったとあって鮮度も抜群にいいですね。この状態であれば各部位に高値がつくと思われます」
雑魚冒険者たちとギルマスが話してる間にもファイアベアを確認していた男たちは最高ランクのSSを付けてくれた。
「シン・ユウナギさま。こちらのファイアベア十八頭は全て当ギルドで買い取らせていただいてもよろしいのですか?」
「フラウエル、食べる分のはどうする?」
「二頭は異空間に残してある」
「そうなんだ。じゃあ十八頭とも買い取りでお願いします」
「ありがとう存じます」
大都会のギルドだけあって十八頭分も買い取れるらしい。
SSランク素材だから肉はもちろん毛皮や爪や牙なんかも高値で売れるとはいえ、結構な額の買取額になると思うけど。
十八頭全て鑑定して貰ったあとギルドに戻って、報酬を準備するあいだ椅子に座って待たされる。
「精霊族は他人を眺めているのが好きなのか?」
「あれだけ騒ぎになれば見られるのも仕方ない」
「視線が煩わしい」
遠巻きにこちらを見ている冒険者たちの視線が不快らしく魔王はフードを深く被る。
「報酬だけどやっぱ山分けしないか?結構いくと思う」
「改革の足しにしろ。今後も必要だろう?」
「それは必要だけど、半分はフラウエルが狩ったんだし」
「じゃあその半分は俺からの寄付だ」
「……本気で言ってる?」
「ああ。国にではなくお前への寄付としてな」
「ありがとう。そういうことなら有難く貰っておく」
領主として今後も金がかかることは確か。
クエスト報酬や寄付金には税金がかからないから、寄付してくれるのなら本当に有難い。
『お待たせいたしました。シン・ユウナギさま。ご用意が出来ましたのでカウンターへお越しください』
「お、意外と早かった」
館内放送(のようなもの)で呼ばれて椅子から立ち上がる。
匹数が多かったからもっとかかるかと思ってたけど、魔王が鬱陶しがってるから早く済んで助かった。
「あの雑魚臭の凄いパーティまだ居たのか」
「そろそろ無に還していいと思うが」
「だから駄目だって」
恨みがましい目で魔王と俺を見てた四人。
受付嬢からもギルマスからもSランクで間違いないと断言されたのに、まだ何か言いたげなのが鬱陶しい。
「お待たせしました。今回の報酬をお受けとりください」
「え?……こんなに貰えるんですか?」
カウンターに行ってギルマスから見せられた報酬に驚く。
カルトンに並べられてるのは白銀貨が九枚と金貨が七枚。
つまり日本円にして九百七十万円。
「討伐報酬と各部位の買取額を合計した額がこちらです。既に購入を希望する店舗や商人さまが殺到しております」
「もう知れ渡ってたってことですか?」
「アルクギルドでは依頼が討伐だった場合の魔物素材の販売は組合にご加入の方へ優先で通知いたします。今回は滅多に手に入らないSSランク素材ですのですぐに完売するでしょう」
もう売れる見込みがあるからこの額を出せると。
エルフの国はギルドにも商売人魂が根付いているようだ。
色んな意味で逞しい。
「分かりました。喜んで貰えたなら有難く受け取ります」
「またアルク国へ来訪のご予定があれば是非とも依頼のご協力をお願いいたします。依頼完了です。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
目の前で受付嬢が布袋に入れてくれた報酬を受け取る。
それだけアルク国では一撃で仕留めたファイアベアが出回らないってことなんだろうけど、まさか人族の国の倍以上になるとは思わずとんでもない臨時収入を得てしまった。
「Sランク冒険者のシン・ユウナギさまとお連れさまですので万が一もないとは思いますが、高額報酬ですのでギルドを出た後は念のためお気を付けください」
「気をつけます。ありがとうございました」
キラキラしていた受付嬢から言われて頭を下げる。
これだけ裕福そうな国でも物騒な奴は居るってことか。
「お気をつけてお帰りください」
『お疲れさまでした』
最後はギルマスも含めて受付嬢全員で頭を下げられる。
建物の利便性や綺麗さも含め、職員たちの高級旅館を彷彿とさせるその丁寧な見送りにも感心させられた。
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この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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