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第六章 武闘大会(前編)

魔封武器

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「療養先にまで押しかけて申し訳ありません。大会まであまり期間がありませんので一日でも早く見ていただきたくて」
「こちらこそ足を運ばせて悪かった」

午後イチの訪問者はヤンさん。
数人の武器職人を連れて試作品を持って来てくれた。

「早速ですが、皆さまがお使いになる種類の武器に装飾したものをお持ちしました。ご確認ください」

木箱から出したのは剣とサーベルと弓と短剣。
みんな自分が装備する武器を手にして確認する。

「魔封石の加工に関しては私たち武器職人も素人ですので魔工師にご協力いただきました」
「結構小さいんだな」
「武器に装着するとなるとこれ以上は厳しいです」
「なるほど」

魔封石のサイズは3cmほど。
実際に幾度か魔力を通して試してみてくれたのか、一見すると宝石の黒翡翠ブラックジェイドが埋め込まれているように見える。

「試作品とは思えない仕上がりですね」
「装飾も美しいです」
「使うのが惜しいくらいに豪華だな」
「魔封石を使ってるから魔封武器とでも名付けとくか。綺麗だから何かの記念品みたいだ」

みんな見た目も気に入ったらしい。
試作品でも手を抜かないのはさすが一流の武器職人。
魔導車の応用で誰にでも魔力を解放できるよう頼んだけど、武器職人と魔工師の技術が詰まったこの武器がどんなものに仕上がっているのか楽しみ。

「じゃあ早速外で試してみよう」
「お待ちください。シンさまにもこちらを」

そう言ったヤンさんに武器職人の一人が渡した木箱。

「どうぞお納めください」

車椅子に座っている俺の前に跪いたヤンさんは紐で結んである木箱を差し出す。

「あ。もしかして刀?」
「はい。こちらも一緒にご確認ください」
「ありがとう」

木箱の長さでピンときて訊くと予想通り刀。
以前見せて貰った時の木箱と違ってヤンさんの銘が入った高級そうな箱に変わっている。

「これも外で開けて試させて貰う」
「是非」

早く見たいけど室内で試す訳には行かないから外で。
無理難題を押し付けた形だから大会までに間に合えばいいと思ってたけど、こんなに早く仕上げてくれるとは。

「シンさま。ワタクシとアデライドもいいですか?」
「どうぞ。危ないので試す時には少し離れて貰いますけど」
「はい。皆さまのお邪魔はいたしません」

同席して見ていたルナさまとアデライド嬢も興味があるらしく一緒に着いて来ることになった。

「あの、シンさま……あちらの御方はプリンセスでは?」
「ここではカトリーヌ嬢」
ということはやはり」
「本人は街娘を装ってるから気付いてないフリして貰えたら。国王や王妃の許可は貰って来てるから安心してほしい」
「ではご挨拶は控えておきます」
「ありがとう」

服装や髪型を街娘にしても顔はルナさま。
王都に暮らす人なら気付かないはずがない。
コソっと訊いてきたヤンさんに苦笑で返した。


俺のことは魔王が車椅子に乗せて押してくれて、みんなで訓練に利用している敷地に移動する。

「みんなの魔封武器?だっけ?貸してくれ。魔力を送る」
「魔力使って体は大丈夫なのか?」
「フラウエル。このくらいは平気だよな?」
「体内はほぼ治っている。無理をしなければ問題ない」
「だって」

一応魔王に確認してから心配してくれるロイズに答える。
問題はそのより先なんだけど。
から先が完治する保証はない。

「試作品だから少しにしとく」
「ああ」

ロイズの弓、ドニの剣、エドの短剣、ベルのサーベル。
全ての魔封石に少しずつ魔力を送る。

「お話を伺った際には半信半疑でしたが……本当にシンさまは直接魔封石へと魔力を溜められるのですね」
「もう自分たちは何があっても早々驚かなくなりました」
「シンさまですので」
「シンさまですから」
「シンだから」
「こんな感じで」

驚くヤンさんにみんな真顔で答えていて苦笑する。
魔封石は本来機械を通して魔力を充填するらしく、直接充填できるのは魔力譲渡ができる人だけ。
賢者でもないのにふざけ散らかした特殊恩恵の効果で賢者と同じ能力を使える俺が規格外と言われてしまうのも仕方ない。

「はい。送った」
「これはどうやって使うんですか?」
「魔導車の応用ということでしたのでグリップに起動スイッチをつけました。これで魔力のない方にも使えます」
「スイッチ……これか」

スイッチで起動するとは機械的。
多分グリップの内側に配線をしまってあるんだろうけど、耐久性はどうなんだろうか。

「握ってみてどうだ?」
「握った感じは普通の剣と変わらない」
「じゃあ問題は耐久性と切れ味か」
「うん。試し斬りしてみる」

まずは長剣のドニから。
鎧対策に用意した武器だから、木や藁ではなく鉄の棒を数本も纏めたものを用意して魔力を通した剣で試しに斬ってみた。

『…………』

斬った瞬間からみんな唖然。
斬る前は何本くらい斬れるだろうと話していたのに見事に全てが真っ二つ。

「……これ、対人戦の大会で使うのは拙くないか?」
「鎧どころか体も真っ二つになりそう」

まさかただ魔力を通しただけの段階でこれほど変わるとは。
最終的には魔封石に溜めた魔力を利用して自分の属性魔法を使うことで擬似的な付与エンチャント武器になる予定だったのに。
作った武器職人たちですら驚いてポカンとしている。

「シンさま。差し出がましいようですが、こちらの武器を武闘大会で使用することはお控えください。万が一のことがあっても罪には問われないといえ、あくまでそれは不慮の事故の場合です。使用する武器の種類も加工も自由ですが、この斬れ味では最初から即死攻撃を狙っていたと捉えられ兼ねません」
「やっぱり駄目ですよね。残念ですけど」

ルナさまから忠告されて溜息をつく。
鎧に太刀打ちできる武器をと思ってヤンさんに相談したけど、まさかここまで斬れるようになるとまでは思ってなかった。

「この程度で即死するほど弱い相手なのか」
「さあな。どんな人が出てくるのか分からないから」
「防御くらいは上げてくるだろうに」
「もちろん代表騎士に選ばれるような人たちなんだからそのくらいはするだろうけど、禁止されてる即死攻撃の可能性がある武器を使って万が一のことがおきれば問題視される」

魔王にとってはだろうけど、鎧を着ると聞いたエルフ族の代表騎士が魔王と同じ強さとは思えない。
ルナさまが言うように、この武器を使って万が一が起きたら最初から狙ってたんじゃないかと勘繰られてもおかしくない。

「お前の魔力だから斬れがいいんだと思うが」
「どういうこと?」
「そのままの意味だ。魔力の質がいいから斬れ味もいい」
「いやそれ関係ある?」

それを言ったら魔王の魔力を溜めた武器なんてどうなる。
以前俺が斬られた剣は魔王の魔力を与えたものらしいから、あの剣が史上最強の最終兵器になってしまう。

「シンさま。恐れながら私からも一つお話を」
「どうした?」
「私どもも魔工師協力の元で幾度か魔力を充填して斬れ味を試しましたが、このような斬れ方はしませんでした。その段階でこれほどの殺傷能力があると分かればお持ちしておりません」
「え?じゃあフラウエルが言うように俺の魔力だから?」
「恐らく」

ぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?
誰の魔力とか関係ある!?
魔王に同意するヤンさんからも言われて驚く。

「本来ならば魔封石に送る魔力は機械を通した混ざり物。私どもが試した魔力もそちらです。既に魔力研究でも判明していることですが、機械を通した魔力を使った魔法と魔法士が使う魔法では威力に差がございます。シンさまが直接送った魔力には混ざりけがないので威力の差が出たのかも知れません」

混ざってんのか……あれ(初耳)。
混合物と純物質の違いがあるならその可能性もある。

英雄エローさま。デュラン領にも魔封石へ魔力を装填する施設はごさいます。まずはそちらをお試しになられては?」
「あるのか。それならヤンさんたちが試してみた時と同じ条件になるから斬れ味の違いが分かるな」
「はい。武器職人や魔工師の方々が精魂込めて作った素晴らしい武器ですもの。簡単に禁じてしまっては失礼になりますわ」
「たしかに。この世界にない物なのに短期間でここまでの物を仕上げてくれたんだもんな。教えてくれてありがとう」

アデライド嬢の言うとおり。
俺の思いつきで急遽作って貰ったのに、斬れ味がって理由で終わらせるのは失礼だった。

「俺とロイズで行って来るか」
「うん。ベルとエドのも貸してくれ」
「「はい」」
「我々もお供させていただけますか?武器の制作にかかる費用は我々職人が国へ請求することになっておりますので」
「そういうことなら一緒にお願いします」
ワタクシが施設までご案内しますわ」
「頼んだ」

まだドニしか試してないけど恐らく威力は同じ。
施設で装填して貰えば混ざり物になるから多分そのままでも大丈夫だろう。


「お恥ずかしいです。アデライドは職人たちの気持ちを一番に考え方法を提案したというのに、ワタクシはそこまで考えが至らず努力を蔑ろにするようなことしか言えませんでした」

ドニとロイズとアデライド嬢と武器職人たちが装填施設へ行ったあと、自分が武器の使用を控えるよう言ったことを反省しているらしくルナさまは溜息を洩らす。

「ルナさまは王家の王女です。武闘本大会という国家行事で国や民の不利益となり兼ねないことを先読みして止めただけで、プリンセスとして正しい判断だったと思いますよ」

もし万が一が起きてしまった場合には、武器を使用した本人だけじゃなく武器職人や国まで責任を問われる可能性がある。
国を代表する王家の者としてそれを未然に防ぐのは当然。

「私もそう思います。ルナさまは武器職人だけに留まらず全ての国民のことを考えて禁じたのですから何も恥じることはございません。ブークリエ国民の一人として誇りに思います」
「……ありがとう。エドワード」

跪いたエドとルナさまは視線を交わして微笑み合う。
これはロミオとジュリエットどころの話じゃないな。
王女と獣人なんて高すぎる壁だけど、頑張れエド。

「それにしてもあんなにバッサリ斬れるとか予想外」
「はい。シンさまの恩恵武器は別として、現在地上にある武器の中では類を見ない斬れ味かと」
「もし魔力を変えてみても威力が変わらないようなら、ヤンさんたちには申し訳ないけど作って貰った者の責任として技術を封印させて貰う。悪用され兼ねない」

大会で使えば他の種族も目にすることになる。
魔工師たちがどうやって魔導車を応用したかまでは聞いてないけど、ドニが軽く試し斬りをしただけであの斬れ味のだせる武器を悪用されては多くの血が流れることになる。

「封印してもまた誰かが作るだけだろうに」
「関わった人たちには墓場まで持って行って貰う」
「全員が素直に従うといいがな」
「そこは信用するしかない」

魔王の言うことはもっとも。
この世界にない武器の技術は金の成る木だから。
金欲しさに技術を売る人が現れない保証はない。

「その際は国からも技術者へ禁止令を出します」
「お願いします。人を殺すために提案した訳じゃないので」

あくまで鎧対策に考えたこと。
魔封石を利用する提案をしてくれた第二部隊の団長だって、まさかこれほど斬れるようになるとは思ってなかっただろう。

「痛っ」
「大丈夫ですか!?」
「距離感が掴めなかっただけ。驚かせてごめん」

驚いて俺の前に跪き確認したエドとベルに謝る。
膝に置いたままの箱を触ろうとしたら距離感を誤った。
ただ二重に見えてるというだけなのに本当に不便。

「これではどうだ?」
「やっぱこの方が楽かも。視界は狭くなるけど」

後ろにいた魔王が右目を手で隠してくれて景色を確認すると、視界が狭くなった感はあるけどブレているよりまだ見え易い。

「娘。眼帯はここでも用意できるか?」
「防具屋がありますのですぐにでもご用意できますが、シンさまがお使いになるのですか?」
「ああ。右目の視界が二重に見えているらしい」
「それは治るのでしょうか」
「分からない。完治する保証はないと先に話したはずだ」
「……承知しました。ご用意いたします」

魔王から聞いてルナさまは眉を顰める。

「プリンセスを扱き使うなよ」
「シンさま。必要な物や協力できることがあればお声がけくださいますようワタクシがフラウエルさまにお願いしたのです」
「……じゃあお願いします」
「はい」

ルナさまにしてもアデライド嬢にしても俺に命を救われたという感覚が強いらしく、俺の怪我を自分の所為のように胸を痛めていることが伝わってくる。
俺は自分の意思で行動しただけと何度も言っているのにどうしても考えてしまうようだ。

言っても変わらないなら一日でも早く治すしかない。
治れば二人も安心できるだろうから。

「ただいま!」
「行って来たぞ」
「お疲れ。早かったな」
「魔封石が小さいから」
「ああ、そっか」

屋敷(別荘)から施設までは近かったらしく、魔力を装填した武器を持ってドニたちが戻って来た。

「これで威力が落ちてたらいいけど」
「威力が落ちた方がいいなんて贅沢な悩みだけどな」
「まあたしかに。魔物の討伐に使うなら良かったんだけど」

ドニやロイズと話して苦笑する。
生きるか死ぬかの魔物討伐へ行く時には斬れる剣の方がいいに決まってる。

「じゃあ早速試してみるか」
「うん」

さっき真っ二つに斬れた鉄の棒の名残り。
ドニはさっきと同じようにスイッチを押して魔力を流すと名残りに向かって剣を振った。

「っく……痛え!」
「バーカ。さっきと同じ感覚で斬るからだ」

真っ二つに斬れたのは半分ほど。
痛がるドニをロイズがからかう。
本当に威力が落ちた。

「やはりお前の魔力では強過ぎただけのようだな」
「吃驚した。こんなに変わるものなのか」

魔王が言っていた通り。
俺が直接送った魔力だったから駄目だったらしい。

ワタクシたちにも試すお時間をください」
「ああ、待たせてごめん。各自で確認してみてくれ」

他の三人も早く試してみたかったらしく、それぞれが鉄や木(訓練用に設置してあるもの)を斬ってみて確認をする。

「ロイズの弓とエドの短剣の威力もなかなか」
「あの二人は命中率も高い。禁止されている頭部や胸部を避けられるはずだ。それに加えてこの程度の貫通力であれば即死を狙ったと言いだす馬鹿もいないだろう」
「うん」

鉄に刺さりはするけど突き抜けるほどじゃない。
心臓にヒットしない限り待機している白魔術師が回復できるだろう。

「ル、じゃなくてカトリーヌ嬢。これなら使えますか?」
「はい。この威力であれば」

よし、許可は出た。
これなら剣士のドニとベルも充分戦力になる。

「ヤンさん。みんなの武器にお願いします」
「承知しました。本日お預かりいたしますが、訓練の期間を考慮し近日中にお渡し出来るよう尽力いたします」
『よろしくお願いします』

やる気を見せるヤンさんたちに四人も頭をさげる。
これで騎士相手の突破口がひらいた。
もちろんどんな相手と当たってもいいよう他にも手を考えておく必要があるけど。

「みんなの武器も決まったことだし、俺もヤンさんが打ってくれた刀を見せて貰うかな」
「是非。不備があればなんなりとお申し付けください」
「ありがとう」

手をぶつけないよう気をつけて紐を握って解く。
みんなも興味津々に覗いていて少し笑えた。

「え……俺の恩恵武器」
「いえいえ。あくまで模造品です」
「凄い。俺の恩恵武器に瓜二つだ」
「シンさまの恩恵武器はこの世界にはない大変美しい逸品。腕のよい武器職人の魂が込められたその美しさを損ねることがないよう細部にまで拘らせていただきました」

箱から出した刀は鞘から既に恩恵武器に似せてある。
柄に使われている皮も恩恵武器と同じ赤色に着色してあって、飾りにまでも気を抜いていない。

「見事な技術だ」
「本当に。ヤンさんが一流の銘を賜ったのも納得」
「ありがとうございます。今後も精進して参ります」

魔王も思わず褒めるほどの仕上がり。
唯一違うのは、こちらの刀からは邪悪な気配がしないこと。
大天使なんて清い名前のつく剣と融合したに関わらず風雅も邪悪フェロモンを垂れ流してくれているから。

「フラウエル。俺も試し斬りしてみたい」
「少しだぞ?」
「うん。分かってる」

今無理をしたら元の木阿弥もくあみ
でもこれだけ立派な刀なんだから少しくらいは試したい。

「大丈夫なのですか?」
「俺が傍についておく。無理はさせない」

ベルから訊かれて答えた魔王は車椅子を押すと鉄の棒を一つに纏めた訓練用具の前に連れて行ってくれた。

「手を貸してくれるか?立ってやる」
「脚はまだ完治していない。力を入れ過ぎては悪化する」
「知ってる。絶対に踏み込まない」
「それなら少し許可しよう」

手を借り地面に足をつけて立ちあがる。

「自分の足で地面に立ってることに感動する日が来るとは」
「失ってみなくては気付かないこともある」
「うん。本当にそう思う。ありがとう、フラウエル」
「感謝するのはもう少し先だろう?」
「そっか」

でも今でももう感謝してる。
ボロボロになった俺の体を治せる強い魔力を持つのはこの世界で魔王だけだろうから。

「鞘は頼む」
「ああ」

久しぶりの感覚に少し緊張する。
魔力を使うことですら最初は禁止されてたのに、今はこうしてまた刀を握って地に立っているんだから本当に奇跡だ。

深呼吸をして吐くタイミングで斜めに鉄を斬りつけた。

「……斬れた」
「見事」

三本残ってしまったけど。

「その体でよくこれだけ斬ったものだ」
「だよな?踏み込めない状態でのこれなら悪くないよな?」
「ああ。元から鍛えられていた脚はじきに完治するだろう。その時はまた存分に腕を奮うといい」
「そうする!」

治療の効果をまた実感できて嬉しい。
焦ってはいけないと思いつつ一人で居る時に気持ちが鬱ぐこともあったけど、これからは前向きに考えられそうだ。

「「シンさま!」」

背後から聞こえたエドとベルの声。
どうしたのかと振り返ると二人が号泣に近い泣き顔をしていて驚く。

「立てるようになったのですね!」
「良かった!本当に良かった!」

俺が立ったことを喜んで泣いてるらしく魔王と少し顔を見合わせて苦笑する。
完治した訳じゃないからぬか喜びさせないよう言わなかったんだけど、こんなことなら話しておけば良かった。

「今日の治療で少し脚の感覚が戻ったんだ。手を借りずに一人で立ちあがるのはまだ無理だけど、杖で支えてなくても立っていられるようにはなった」
「そうでしたか!治療の成果があって少し安心しました!」
「心配かけてごめん」

夜会には招待状を貰った人しか参加できないからあの日二人はドニたちと訓練をしていたんだけど、俺の状態を知ってから一緒に居なかったことをずっと悔やんでいた。
それを知っていたんだから俺以外の四人は訓練で忙しいからなんて思わず真っ先に話しておくべきだった。

「一度話してしまえば今日はどこがと期待するだろう?その期待が夕凪真の負担になる。毎日の変化を一番期待しているのは本人だということを忘れないようにな」
「「はい」」

二人は魔王から言われて頷く。
なんでも正直に話す魔王が今まで俺の治療に関してなにも言わなかったのは、みんなから期待されて負担になることを避けてくれたからだったようだ。

「今日はここまでだ。座れ」
「うん」

魔王の手を借りて車椅子の前に戻る。
いつもはまた車椅子かと嫌になるけど、少しずつ治療の効果は出てるんだと前向きな気持ちで座りなおした。

「私に押させてくれませんか?」
「エド狡い」
「えっと、じゃあ半分ずつ押す?」
「うん」
「左右別々に押しては真っ直ぐ進まないだろうに」

そんなエドとベルと魔王の会話に笑う。
心配してくれる人たちがいて一緒に笑うこともできて幸せだ。

「立てるようになったのか」
「うん。立ちあがるのはまだ無理だけど」
「シンは規格外なんだから休んでるくらいで丁度いい」
「後ろ姿を見てウルってた癖に」
「お前はなんでいつも余計なことを言うんだ!」

ほんのり赤い顔のドニとからかうロイズにみんなも笑う。
生きていて良かったと心から思った。





「では我々は王都へ戻り早急に装飾加工を始めます。仕上がり次第お持ちいたしますので少しお時間をください」
『よろしくお願いします』

魔導車(&トラック)で王都へ帰るヤンさんたちを見送る。
大会用に準備した武器を預けなくてはいけなかったから予備の武器と試作品をそのまま置いて行ってくれた。

「これで訓練できる」
「大会までに少しでも魔力を通した武器に慣れないと」
「そんなに普段の感覚と違うか?」
「斬れ味が違うんだからそりゃ違うだろ。軽く振っただけで斬れるだけに力の入れ具合を練習しないといけない」

ドニとロイズは早速午後の訓練の話。
そんなに違うか訊くとドニから真顔で返される。

「俺も訓練の時は恩恵武器を使わずに細めの剣を使ってるけど力の入れ具合なんてあんま考えたことがない」
「賢者さまが相手なら怪我させる心配もないだろうけど、武闘大会では相手の実力に合わせて加減する必要がある」
「ああ。万が一の確率を減らすためか」
「うん。魔物の相手ばかりしてた俺とロイズは加減することに慣れてない」

しっかり考えてるんだと感心する。
討伐クエストの魔物が相手なら加減も必要ないけど、人相手の大会ではどんな実力の人が出場するか分からないからあえて加減する練習をしている訳か。

「決まりのある戦いなど面白くないだろうに」
「そうか?大会ルールは出場者全員に与えられたハンデだ。その決まりを守って勝つには普段と違う戦い方を強いられるし頭も使う。正々堂々と戦って勝ったら気持ちいいと思うけどな」
「なるほど。そういう考え方もあるか」

スーパーチートの魔王でも大会のルールに則って戦えば全力を出す訳にはいかない。
そこに大番狂わせが起こる可能性もある。

「やはり俺も大会に」
「まだ出たがってたのかよ!お前は駄目だって!」
「俺も加減くらいはできる」
「フラウエルの加減は一般人の全力だから!」

最近は言わなくなってたから諦めたのかと思ってたのに。
どれだけ出たがり君になってるんだ。

「お使いの能力からしてフラウエルさまは賢者さまなのではないですか?大会の規定で賢者さまは参加できませんものね」
「アデライド。それを他の人の前で口にしてはなりませんよ?賢者さまは身を守るためお姿を変えておられるのですから」
「そうですわね。フラウエルさま、ご無礼を」

え?賢者?
……婚約披露パーティで俺とエミーに魔力譲渡してたからか。
よし、完全な勘違いだけど結果オーライ。

「俺って賢者さまに弓矢の調整を頼んでたのか!」
「声が大きい。もし誰かに聞かれてフラウエルさんが狙われたらどうするんだ。正体を隠してる意味がなくなるだろ」
「そうか。ル、カトリーヌ嬢もそうだもんな」

う ん 、結 果 オ ー ラ イ 。
ドニとロイズまで素直すぎて泣ける。

正体を知ってるエドやベルと目を合わせて苦笑した。

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