ホスト異世界へ行く

REON

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第八章 武闘大会(後編)

最終戦

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武闘大会最終戦。
闘技場コロッセオには立見席も多く用意され、最終戦に相応しく超満員の観客で埋め尽くされている。

「長かったような、あっという間だったような」

大歓声の続く観客席を見渡しながらロイズは呟く。

「不思議と今までの試合で一番落ち着いてる気がする」

帯刀する剣の位置を確認しながら言うドニは、その言葉通り緊張した様子はない。

「大会が始まる前にはどうなることかと思いましたが、過ぎてしまえばそれも感慨深いです」

ベルも観客席を見渡しふぅと長い息をつく。

「精霊族にとって神にも近い英雄エローが獣人族や一般国民と代表パーティを組んだ。過去の武闘大会では有り得なかった常識をシンさまが覆してくれたからこそ、お誘いいただいた我々だけでなく多くの獣人や一般国民が今後に希望を持てたと思います」

マントを脱いだエドはルネに渡しながら俺に笑みを零した。

「両パーティ舞台へ!」

観客の歓声が地響きのように闘技場コロッセオを揺らす。

「勝利の栄光あらんことを」

手を組み祈るルネに笑みで返してアリーナにあがった。

「誓いの握手を」

王都代表の俺たちの前に居るのはよく知る顔ぶれ。
親しくなったブラジリア集落の代表騎士が最後の相手。

「もう一度カムリンと戦うことになるとはな」
「今回は負けません。地上に暮らす多くの人々の憧れと希望を背負った王都代表に勝つのは私たちブラジリア集落です」

握手を交わしながら宣言するカムリンと目を合わせて決意の伝わる力強いその目に自然と笑みが浮かぶ。

「全力で来い。俺たち王都代表が叩き潰してやる」
「光栄です」

互いに笑って固く結んだ手を離した。

「俺たちが誰かの希望だって言うなら負けて無様な姿は見せられないな。勝てますようにじゃない。必ず勝つ」
『Yes,Sir!』

武闘大会 代表騎士決勝戦。
泣いても笑ってもこれで最後。

「はじめ!」

観客の大声援の中、最後の戦いは幕をあけた。





最終戦開始、数時間前。

「もう起きていたのか」

バルコニーに出て夜明けの風景を見ていると肩にローブをかけられる。

「おはよう。今日は来れないんだと思ってた」
「起こさないよう深夜に来るのは避けただけだ」
「気を使ってくれてありがとう。魔物調査はどうだった?」

二日間ほど魔界層に戻っていた魔王。
山羊さんからの報告が入り、それを聞いて魔物調査に行く話をしていたから訊いてみた。

「今後も様子を見る必要はあるだろうが、この二日間調べた限りでは異変と言えるほどの変化は見られなかった。報告書にあった通り魔層から出てくる魔物は数種ほど増えてはいたが」

隣に並んだ魔王はそう話して軽く欠伸をする。

「魔層内で何か起きてるとかは?」
「そう思って魔層内も調べてみたが異変はなかった」
「じゃあ気まぐれで出てきた的な感じか」
「気まぐれかどうかは分からないが、少なくともスタンピードの兆候は魔界でも魔層でも見られない」

スタンピードというのは簡単に言えば魔物の暴走。
魔層から多くの魔物が出てきて暴れ回る。
起きる理由は魔物が増えすぎた時とけど、正確な理由は分かっていないらしい(エミー談)。

「そもそも魔界は地上よりもスタンピードの周期が短い。俺が生まれてからも幾度か起きているが、もしスタンピードの兆候ならば数種では済まないし魔物の気性も荒くなる。念のためしばらく様子見はするが恐らく今回は違うだろう」
「そっか。大丈夫ならいいけど」

それを聞いて少し安心した。
自分が魔界層に住んでる訳じゃなくても魔界層で知り合った人たちのことが気にならないと言ったら嘘になる。

「最終日だと言うのに気にしていたのか」
「気になるだろ。もしスタンピードなら魔界の人たちの命に関わるんだから。魔族が強いことは分かってるけど」

試合はもちろん大事だけど、どちらが重要かと言えば命が関係する方に決まってる。
調査と言ってたから今すぐどうこうではないんだろうけど、試合前日には来ると言っていたのに昨夜も来なかったから何かあったんじゃないかと少し心配だった。

「変わった奴だ。魔族を心配する人族などお前だけだろう」
「種族は関係ない。親しくなった人の心配くらいする」
「そうか」

そう言って魔王はクスっと笑う。

「それで?このような時間に起きていたのはそれが原因ではないだろう?最終戦だから緊張している訳でもなさそうだ」
「緊張はしてない。目が覚めて二度寝しようと思ったけど眠れなかったから気分転換してただけ」

来なかったから少し心配してたことは事実だけど、同時に魔王が戻ってるんだから大丈夫だろうとも思ってた。
だから昨晩は最終訓練のあと風呂を済ませてすぐに寝たけど、ふと目が覚めてから眠れずバルコニーで気分転換をしていた。

「なにかあったのか?」
「なにも。眠気が飛んだだけ」

ただ、なにかサワサワする。
サワサワと言うかソワソワと言うかどう表現していいか分からないけど、理由もなく気持ちが落ち着かなくて眠気が飛んだ。

「なんだろうな……なんか気になる」
「気になる?」
「自分でも分からない」

なにか胸に引っかかる。
気がかりなことがある時のような。
かと言って身に覚えはないんだけど。

「よく分からないが、そういう時は気を付けておけ」
「気を付ける?」
「なにかが気になっているんだろう?無意識になにかを感じ取っているのかも知れない」

第六感的なってことか。
緊張してる訳でもなく何かかあった訳でもなく眠る前は普段通りだったし、言われてみればそれが一番しっくりくるかも。

「分かった。念のため気を付けとく」
「ああ」





試合開始から一時間以上。
いまだに決着がつかないまま試合が続いていた。

覚醒した獣人族と覚醒した人族。
今アリーナに立っている十人全てが覚醒済みの代表騎士なんだから易々と勝たせてくれないのも当然か。

「強いな。ブラジリア集落」
「…………」

肩で息をするブラジリア集落の代表騎士たち。
剣士+格闘士が三名と魔法士が二名のパーティで回復を繰り返しながら素早さを活かした攻撃で戦い続けていたけど、そろそろ立っているのもやっとに見える。

「ここまで力の差があるとは」
「分かってたけど……強すぎる」
「これが王都代表か」
「前行く背中があまりにも遠い」

全力疾走をした後のように息も絶え絶えに言葉を発するブラジリア集落の代表騎士たちは、俺たち王都代表騎士を羨望にも似た眼差しで見る。

「どうしたカムリン。もう終わりか?」
英雄エロー……貴方はどこまで規格外なのですか……汗一つ滲ませることすらできないなんて」

それはそうだ。
俺は魔法を使ってるだけで体は動かしていないから。

「最初に握手をした時に言っただろう?王都代表の俺たちが叩き潰してやるって。俺の仲間たちは強い。みんなの期待に応えて叩き潰してやろうと実力を発揮した結果がこれだ」

ドニ、ベル、ロイズ、エド。
武闘大会の前から既に実力のあった四人が、デュラン領で異世界最強の魔王から鍛えられてますます力をつけた。
そのうえ覚醒したとなれば弱いはずがない。
四人の実力はもう代表騎士の中でも群を抜いている。

「どうする?倒れるまで戦うか?降参するか?」
「……最後まで戦うに決まってます!」

ブラジリア集落代表騎士全員での一斉攻撃。
剣を握りしめて俺の前に転移してきたカムリンの腕を掴んで止める。

「いいのか?一人で勝てるほど俺の仲間は弱くないぞ?」
「無様に降参するくらいなら全員で玉砕します!」

掴む手に反抗しながら強い目で俺を見上げるカムリン。
一対一で戦いを挑んでいる他の四人を見ると、カムリンと同じ気持ちらしく誰一人として諦めている者はいない。

敗北を悟ってもそれに屈しない心の強さ。
降参よりも玉砕を選ぶとはどれだけ楽しませてくれるのか。

「行くぞ!誇り高い騎士たちの期待に応えてやれ!」
『Yes,Sir!』

仲間全員にかけた強化魔法。
攻撃を止めるために腕を掴んでいたカムリンを投げ捨てると器用にクルリと地面に着地する。

「決勝の相手がブラジリア集落の五人で良かった」
「私も英雄エローたち王都代表と戦えたことを誇りに思います」

一人、また一人と倒れるブラジリア集落の代表騎士たち。
カムリンの玉砕覚悟の攻撃を受け止めながら、自分の仲間全員が武器を鞘におさめたのを見届け抑えていた魔力を解放する。

「カムリン。仲間を連れて王都に来い」
「……え?」

天に翳した手のひら。
エドの時と同じく光が集まりフォルテアル神の姿になる。
あの時よりも巨大な慈愛に満ちたフォルテアル神の姿に観客からは驚きと感嘆の声が発される。

「誇り高く勇敢な彼らに神のご加護があらんことを」

翳した手をおろして胸に手をあてると、巨大なフォルテアル神はカムリンを含めたブラジリア集落の五人を腕に包んだ。

「そこまで!勝者ブークリエ国王都代表!」

最後まで立っていたカムリンが倒れて試合終了。
審判が手を挙げた瞬間闘技場コロッセオは観客の大歓声に包まれる。
一ヶ月以上をかけた全ての戦いが終わった。

『シンさま!』
「危な!」
『シン!』

勢いよく抱き着いたエドとベル。
ドニとロイズも走って来て抱き着かれる。

「優勝!ワタクシたちが優勝です!」
「本当に優勝できるなんて!」
「落ち着け」

感極まってボロボロ泣くベルとエドを腕におさめて笑う。

「勝って良かった!」
「勝った!俺たちが勝った!」
「うん。みんなを誘って良かった」

ドニとロイズも珍しく涙目。
二人の頭にも額を重ねて笑みで答える。

英雄エロー
「おはよう。回復できたか?」
「は、はい。折れていたはずの骨まで」
「エドワードさまの試合で見ましたが本当に回復を」
「傷も消えてます」
「動く力ももう尽きていたのに」

目が覚めて自分たちの体を確認して驚く五人。

それは神のの必要がない五人だったから。
もし悪人なら西区の襲撃犯のように闇に飲まれてる。
もちろんそんなことにはならない五人だと分かってたから使ったんだけど。

「無事に回復したみたいだし並ぼう。最後の挨拶だ」
『はい』

いまだ続く大歓声の中、王都代表とブラジリア集落代表に分かれて並ぶ。

「力を尽くした互いに敬意を」
『ありがとうございました!』

十人で向かい合って跪き胸に手をあてこうべを垂れた。

「みなさんおめでとうございます!」
「ん」
「はい?」
「あれ?ルネは抱き着かないのか?」

止まない歓声に手を振って応えながらアリーナを降り、満面の笑みで祝いを口にするルネに向かって腕を広げる。

「私は代表騎士ではありませんので」
「俺たち五人を支えてくれた仲間だろ。ルネが居たから試合に集中できた。六人で勝ちとった優勝なんだから一緒に喜ぼう」
「シン殿」

俺たちが試合に集中できるよう働いてくれたルネも仲間。
照れるルネには俺たちの方から抱き着いて勝利を喜んだ。

その後は少し時間をあけて授与式。

最強戦で優勝した時と同じように、武闘大会の紋が刺繍された赤いマントと勲章つきの襷が両国王から授与される。
その他には、次の大会まで国が保管することになる優勝旗とトロフィー、そして日本円で三千万ほどになる超高額の優勝賞金(※実際に受け取るのは王都に帰ってから)が授与された。

「王都代表ー!」
英雄エロー!」

超満員の観客席からかかる声。
式の最後に五人で並んで観客たちの声援に応える。
娯楽の少ない地上層の人たちが楽しめたようで良かった。

「大会期間中に応援してくれた観客にも最大の敬意を」

五人で観客席に向かい胸に手をあてる。

「沢山の応援ありがとうございました!」
『ありがとうございました!』

お礼を言って頭を下げるとワッと大歓声があがり、観客たちのボルテージも最高潮のまま授与式は終了した。


「王都代表騎士のみなさま、優勝おめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
『ありがとうございます』

置いてある荷物を取りに特別室へ戻ると、ディーノさんとフランカさんとエルサさんからも祝いの言葉とともに丁寧に頭を下げられる。

「大会期間中、本当にお世話になりました」
「もったいないお言葉をありがとうございます。本大会の頂点に立ったみなさまにお仕えできたことを誇りに思います」

ディーノさんたちと会うのは今日が最後。
一ヶ月以上俺たちの世話をしてくれた三人にお礼を言って握手を交わす。

「ディーノさんたちは派遣協会の所属でしたよね」
「はい。使用人として所属しております」
「また会うことになると思います」
「使用人をご用命の際には是非お申し付けください」

少し不思議そうな顔をしたあとすぐに表情を戻し、いつものように丁寧な挨拶をした三人に少し笑った。

挨拶を済ませて荷物を持って次は更衣室へ。

『おめでとうございますっ!』

ドアを開けるとここでも武器防具職人や衣装屋から祝いの言葉で迎えられる。

「ありがとうございます」
『ありがとうございます』

武器防具職人のヤンさんやアランさんとも今日で最後。
ディーノさんたちの時と同じくお世話になったことにお礼をして握手を交わす。

「俺たちが使った武器や防具の反響はありそうですか?」
「ええ、ええ。既に注文が入っております」
「同じく。お蔭さまで、うちの店にも王都代表が使っている防具は購入できるのかと問い合わせが続いております。今後ますます増えることでしょう」

キラキラしながら話すヤンさんやアランさんに笑う。
俺たちが装備していたことで武器防具職人たちの売上に協力できたなら多少の恩返しになるだろう。

「なんかまだ夢心地」
「ん?」
「本当に優勝できるとは正直思わなかった」

装備を外しながら言ったロイズ。
まだ優勝の余韻に浸っているようだ。

「俺は最初から優勝するつもりだったぞ?」
「もちろん俺も優勝を目標にしてたけど、シンの足を引っ張ることになるんじゃないかって思いも強かったから」
「ロイズが?」

足を引っ張るなんてことがあるはずもない。
王都ギルド唯一のAランクパーティのリーダーなのに。

「シンは一人でも五人を倒せる実力者だけど、全員の働きがポイントに反映される団体戦では各自のミスで減点される。そういう意味で足を引っ張るかも知れないって不安があった。結局は一回も判定にならなかったけどな」

判定試合ならたしかにポイントで勝敗がつく。
時間制限がある試合でも時間内に試合を終えてたから判定にはならなかったけど。

「そっか。結果的に足を引っ張ったのは俺だったけど」
「シンが?」
「俺が特殊なせいで大会早々能力を制限されて作戦が総崩れするわ、すぐに審議を食らって試合が中断するわ。やる気が削がれるような時が多々あったから」

誰が足を引っ張ったかと言えば俺。
俺の特殊恩恵ユニークスキルが異色なせいでみんなには迷惑をかけた。

「それはシンの責任じゃないだろ。能力制限だって本当なら受け入れる必要はなかった。大会のルールで禁止されてる賢者でも勇者でもないんだから、シンは何一つ違反してない」
「まあ違反はしてないけど、俺のことでみんなを振り回すことになったのは事実だろ。足を引っ張らないようにって思ってたのは俺も同じってこと」

フォローしてくれるドニに答えながら個室になってるシャワー室のカーテンを開ける。

「はぁ。後は優勝パレードか」

今日は術式ではなく魔導車で宿舎に戻る予定。
パレードのように優勝者のが目的。
それが理由でこのあと礼服に着替える必要があるから、五人並んで仲良くシャワータイム。

「シンさま?」
「ん?」
「今思い出したのですが、試合の最後にカムリンさまへ言っていたアレは何だったのですか?」
「カムリンに?」

シャワーの最中に話しかけてきたのはベル。
試合の最後……

「ああ。仲間を連れて王都に来いって言ったアレか?」
「はい」
「そのまま。王都に引っ越して来いってこと」
「もしかして西区の警備兵として雇う気か?」
「うん。強いし」

カムリンとデート(?)をした時にも言おうとしたけど、全員の実力を見定めてから誘おうと思って言うのを辞めた。
今日五人と戦ってみてやっぱり欲しいと思ったから今度こそ誘ったというだけ。

「あの言い方じゃ伝わってないだろ」
「もちろん後で話す。あの時は思わず言っちゃったけど、放映されてる今話すことじゃねえなって思って」

ロイズが言うようにあれで伝わったとは思わない。
閉会式の翌日までは代表騎士宿舎に留まることになっているから、解散になる前には時間を見つけてしっかり話すつもりだ。

「警備兵でしたか。肉奴隷というものになさるのかと」

そんなベルの言葉のあと、ドニがシャワーを浴びている方からガタゴトと何かを落とすような音が聞こえて笑う。

「肉奴隷の意味は分かったのか?」
「いえ。言葉のまま捉えればお肉に仕えると言うことだと思いますが、食材にお仕えしたいと言うのもそれをシンさまに懇願するのもおかしいですし」

ふざけている様子もなく答えるベルに爆笑する。
言葉は知らなくてもニュアンスで気づいても良さそうだけど(肉体や肉欲などの言葉があるから)、シモの発想までは至らないベルの鈍子ちゃんぶりが尊い。

「あのオープン変態はいいけど知らずに言ってるベルが恥をかかないよう説明すると、肉奴隷ってのは性的な関係のこと。つまりカムリンは体を使ったご奉仕をする相手にしてくれって言ってる。妾とか愛人って言えば分かるか?」

サド(主人)だマゾ(奴隷)だと言っても理解できないだろうからベルにも分かるだろう言葉で説明すると、今度はベルがシャワーを浴びている方からガタと音が聞こえてくる。

「ベル大丈夫?」
「そんな意味だったなんて……ワタクシは何てことを口に」

知らずに言っていたことに絶望したらしく、ベルの隣でシャワーを浴びているエドとの会話に苦笑する。
本当の意味での肉奴隷は、まだお綺麗に聞こえる妾や愛人よりもっと性的な意味に特化した関係だけど。

「そういうことだから人前で言わないようにな」
「二度と口に致しません」

笑いながらシャワーを止める。
カムリンが人前でも堂々と言うから、まさかのことだとは思いもしなかったんだろう。

先にシャワー室を出て衣装屋が用意して待っていた礼服に腕を通していると、後から次々に出てきたドニやベルの顔が少し赤くて洩れそうな笑いを堪えた。


「じゃあ後はお願いします」
「また王都でお会いしましょう」
「はい。その時はまたお世話になります」

今日で装備品を全て撤収する武器防具職人たちはこのまま更衣室に残って片付け作業をする。
礼服に着替えて先に帰る俺たちは、改めて武器防具職人の一人一人に感謝を伝えながら握手を交わした。

「みなさま優勝おめでとうございます」
「ありがとう」
『ありがとうございます』

ルネと一緒に更衣室の前で待っていたのは団長と副団長を含めた数人の騎士たち。
自分のことのように嬉しそうな表情で祝ってくれた騎士たちにドレスグローブをつけながら笑みで応える。

「前方を騎士が。後方を魔導師が護衛いたします」
「ルネから聞いてたけど本当にパレードみたいだな」
「代表騎士宿舎までの距離ですので簡易パレードですね。王都で行ったような形式ばったパレードではありませんので、どうぞ気を楽になさってください」

ん?気を楽に?
団長から言われて後ろを振り返ってなるほどと思う。
俺が緊張してるように見えたんじゃなく、少し緊張した様子のドニとロイズに言ったようだ。

「俺たちは魔導車に乗ってるだけでいいんだよな?」
「はい。観客にお姿を見せるというだけですので」
「分かった」

ただ座ってるだけの簡単なお仕事。
今回は馬に乗る訳でもないし、問題が起きないよう初日以降は避けていたことを今日は再びするというだけ。

騎士団が誘導するまま闘技場コロッセオを出ると沢山の人たちが左右に集まっていて拍手と歓声に包まれる。
前に停められているオープンカー仕様の魔導車まで敷かれた赤い絨毯の上に五人で並び、大歓声をあげる人々にこうべを垂れて感謝を表す。

「こちらへ」

見に来た人の数も多いけど、警護や警備の数も多い。
厳重な警戒態勢のお蔭で今日は熱狂的な人が柵を超えてくるということもなく、歓声に対して笑みで手を振りながら魔導車へと乗り込んだ。

飾られた魔導車に俺たちが乗り込むと三段雷があがる。
この辺りはパレードっぽい。
先導する騎士たちが馬に乗って動き出すと俺たちが乗った魔導車もゆっくりと走り始めた。

「凄い人の量だな」
闘技場コロッセオに来ていた人以外にも見に来たんでしょうね」
「西区のみんなや冒険者たちに会えるかと思ってたけど、これだけ人が居るとさすがに分からない」

闘技場コロッセオの敷地内はもちろん道に出てもまだ人、人、人。
最終日の今日は西区のみんなや王都ギルドの冒険者も試合を観に来てくれると聞いていたから、顔を見ることくらいは出来るんじゃないかと思ってたのに。

「俺たちもあと数日で王都に帰るからすぐに会える」
「まあな。王都に帰ったらまたギルドで祝い酒を飲もう」
「賛成」

あとの大会日程は閉会式だけ。
それが終われば代表騎士や英雄エローも終了。
優勝祝いも兼ねてみんなでゆっくり酒を呑める。

「王都に戻るまではしっかりお勤めお願いしますね」
「ルネってたまに師団長みたいなこと言う」
「みなさまに注意を促すことも付添人の役目ですので。特にシン殿には気をつけるよう強く言われております」
「日頃の行いのツケが」

ルネと俺の会話で四人は笑う。
思い当たる節がありすぎてぐうの音も出ない。

英雄エロー!」
「ロイズさまー!」

いまだ続く人混み。
ドニさま、エドワードさま、ベルティーユさまと、あちらこちらから名前を呼ばれる。
中でも相変わらずロイズは女の子の黄色い歓声が多くて微妙に癪に障るけど。

「じゃあしっかり宿舎まで勤めあげるか」
『Yes,Sir』

五人で手を振り愛想を振りまく。
これもまた代表騎士の大切な
時間をかけて代表騎士宿舎に向かう魔導車から最後までしっかりと優勝者としての仕事を勤めあげた。


『キャー!』

宿舎の前にもまさかの人集り。
代表騎士と代表騎士の関係者しか敷地には入れないから門前までだけど、魔導車から降りた俺たちに少し離れた距離からの黄色い歓声が飛んできて軽く手を振り応える。

『お帰りなさいませ』

出入口に並んで待っていた宿舎スタッフと警備兵。
赤い絨毯を挟んだ左右に分かれて頭を下げるスタッフたちの間を優勝旗を持った団長に先導されて中に入る。

「王都代表騎士のみなさま。優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
『ありがとうございます』

入った先に居たのは宿舎長。
宿舎内もまだ赤い絨毯が敷かれていてスタッフたちが並んで頭を下げていた。

「お疲れさまでした。ここで終了です」

赤い絨毯に優勝旗をおろした団長のその言葉でやっと終わったかと長く息をはく。
今日は優勝した後の帰還だから普段より特別だとはいえいつまで続くのかと思った。

「我々は優勝旗とトロフィーを国王陛下へお届けするのでこれで失礼しますが、みなさまは明日の閉幕式までごゆっくりお休みください。お荷物はフロントへ預けてあります」
「ありがとう。そうさせて貰う」

優勝旗とトロフィーとマントと襷(勲章)は一旦国王へ。
マントと襷は王都に帰ってから各々に渡される手筈になっているけど、この後も国王のおっさんの所まで厳重に運ばないといけない騎士や魔導師にはお疲れさまと言いたい。
国仕えも大変だ。

『お帰りなさいませ。優勝おめでとうございます』
「ありがとう」

ルネと一緒に受付へ行くと受付スタッフたちから一斉に頭を下げられる。

「お荷物はお部屋に運んでおきました」
「ありがとうございます」
「ご確認のうえ不備や不足している物がございましたらフロントまで連絡をお願いいたします」
「分かりました」

ルネが受付嬢と話してる間もまるで上〇動物園のパンダ。
今日は決勝戦だけだったからカムリンたちブラジリア集落以外の代表騎士は闘技場コロッセオに来ていなかったんだけど、優勝して凱旋してきた俺たちを見に来た代表騎士が多い。

「夕飯の前に衣装士がお部屋へ参りますが、それまでお時間がございますので自由時間としてお寛ぎください」
「うん。少し休ませて貰う」

今夜も食事(夕食)あとは夜会。
正直夜会は不参加にしたいけど優勝が決まった日に参加しない訳にもいかないし、カムリンたちにあの話をしたいから参加することにした。

「じゃあ夕食の時に」
「うん。風呂に入って少し寝る」
「気が抜けてどっと疲れがきた」
「ようやく肩の荷がおりましたからね」
「私も休みます」

最上階まで帰るとみんなぐったり。
みんなから見られてる時は気がはっていたけど今更になって疲労感がでてきたようだ。
夕食の時間に待ち合わせる約束をして各々の部屋に戻った。

「フラウエル」

部屋に入って眼帯を外しながら魔王を呼ぶと魔祖渡りを使いスッと姿を見せる。

「お疲れのようだな」
「試合以外のあれこれでな」

試合より授与式やパレードの方が疲れた。
肉体的にじゃなくて精神的に。
作り笑いが標準装備の仕事をしていたから慣れているとはいえ仰々しいことは元から好きじゃない。

「今日はもう聞き飽きただろうが俺からも言っておこう。大会制覇おめでとう」

そんな祝いの言葉に少し笑う。
確かに何度も『おめでとう』を聞いているけど。

「ついさっきベルも言ってたけどようやく肩の荷がおりた」
「今は喜びよりそちらか」
「うん。やっと全試合が終わったって気持ちの方が強い」

礼服(軍服)を脱いでハンガーにかけながら苦笑する。
こればかりは仕方ないけど英雄エローの顔も楽じゃない。

「夜には魔界に帰るって言ってたよな」
「ああ。式典には興味がない」
「たしかにな。俺も興味ない」

魔王が観たかったのは試合だけ。
それが終わって明日は閉幕の儀だけだから夜には魔界層へ帰ることは先に聞いていた。

「添い寝してやるか?」
「んー……うん。少し寝るかな」

風呂に入ろうかとも思ったけど、シャワーは浴びてきたから目が覚めてから入ることにしてベッドにバフと沈む。

「気になる何かは落ち着いたのか?」
「たまにふっと気になる」

下着一枚でベッドに俯せた俺の腰まで薄い布団をかけた魔王は隣で横になって昨晩(早朝)した話を訊いてくる。

「一番何か起こりそうな最終戦は無事に終わったし、気の所為だったんだと思う。逆に気にさせることになってごめんな」

第六感的なものにしては何も起こらなかったし常に気になってる訳でもないから、多分ただの気の所為だったんだろう。
頭を撫でる魔王の手が心地よくて欠伸がでる。

「半身を気にするのは当然だろう?魔族であろうと親しい者であれば心配するお前と同じように」

体に緩く流れこむ魔王の魔力。
肉体の回復を促すその行為をしながらクスと笑った魔王に「ありがとう」と笑みで返した。

 
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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