ホスト異世界へ行く

REON

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第八章 武闘大会(後編)

夜会

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会食が終わった後の夜会。
優勝後とあって普段より盛大な夜会が行われているそこで、王都代表の俺たちは様々な地の様々な種族から取り囲まれる。

「本大会で三冠をお取りになるとは素晴らしい」
「運に助けられました」
「謙虚ですのね」

代表騎士は貴族の坊ちゃんも多いから恐らく坊ちゃんたちの両親(&関係者)だろう人も今日の夜会には参加していて、愛想笑いの叩き売りを辞める暇もない。

祝賀会の時ほどじゃなくとも娘ゴリ押しも健在。
遠回しに正妻候補がいるのか探ってくるから恐ろしい。
こんなクズに嫁がせたら娘が不幸になるぞ。
と言いたいところだけど、貴族には恋だ愛だは二の次だから関係ないんだろう。

叩き売りにうんざりしていて視界に入った姿。
夜会に参加した理由をようやく見つけた。

「知人を見つけたのでこれで。機会があればまたお話を聞かせてください」

正妻狙い(娘ゴリ押し)や紋章狙いの人たちに営業スマイル作り笑いで胸に手をあて挨拶をして、執事バトラーのエドの変わりに付き添ってくれているルネを連れて離れる。

「カムリン」
英雄エロー

発見したのはカムリンたちブラジリア集落の代表騎士。
俺が発見したというよりも遠巻きにキラキラしながらガン見されてて気づいたんだけど。

「本日は一段と素敵なご衣装で。お美しいです」
「ありがとう。カムリンもドレスがよく似合ってる」
「もったいないお言葉をありがとうございます」

代表騎士以外の人も居る夜会だからカーテシーでの挨拶にボウアンドスクレイプで返す。

「五人に話したいことがあるんだけど時間あるか?」
『光栄です』
「ここは人目に付くからバルコニーで話そう」
「はい」

人目につきたくない時はバルコニー席。
俺といると目立ってカムリンたちに気を使わせてしまうから。

バルコニーに出るといつもの席は利用中。
今日は人が多いからかバルコニーに逃げてきた人も多いようでそれなりに人が座っている。

「本日はお酒を嗜まれる方が多いようですね」
「ようやく全試合が終わったからな。大会中は我慢してた代表騎士も居るだろうし」

ルネの言う通りいつもより酒を呑んでる人が多い。
もう翌日の試合を気にする必要がなくなったから今日くらいはと呑んでる人もいるんだろう。

英雄エロー。お席をご用意いたしますので少々お時間を」
「よろしく」

酒を配っていた夜会スタッフが来て数人がかりで慌ただしく席の準備をしてくれる。

英雄エローが利用するとなると席ひとつでも大変ですね」
「まあな。俺が適当に座ると周りに迷惑がかかるから」
「周りに?」
「例えば隣に国王陛下が居てゆっくり呑めるか?」
「め、滅相もない!恐れ多いことです!」
「だろ?俺の場合も英雄エローって存在がそこに居るだけで気を使う人が多いから、目に付き難い特別な席の準備が必要になる。今も俺が来てから数人フロアに戻った」

スタッフの様子を見て言ったウーゴに苦笑する。
いつもの席は目につき難い場所だから準備が必要ないけど、他の席に座らせるとなると目立って他の代表騎士(今日はそれ以外の人も)に気を使わせてしまうからパーティションでの目隠しが必要になる。

「特別席を用意するのは俺のためだけじゃなくて、楽しく呑んでる周囲の人たちに気を使わせないための配慮でもあるんだ」
「なるほど。それは考えたことがありませんでした」

強い権力を持つ者は畏怖の対象にもなる。
その場に居るだけで相手に気を使わせてしまったり、失態を恐れて行動を制限させたり怯えさせたりしてしまう。
だからしなくてはならないし、されなくてはならない。
と、英雄エローになったばかりの頃に特別扱いが嫌で愚痴った俺に師団長が教えてくれた。

「まあ簡単に言えば、お互いが平和に過ごすためにも上手く棲み分けようぜ!ってことかな」
「シン殿。そのような威厳もなにもない言い方を」

呆れてこめかみを押さえるルネ。
カムリンたちは楽しそうに笑った。

「お待たせしました。どうぞこちらへ」
「ありがとう」

ビシッと整えられた特別席。
スタッフに案内されて俺は奥側の席に座る。

「ん?どうした?」

座った俺をキラキラした目で見る五人。

「さすが英雄エロー。歩いているだけでもオーラが違う」
「座るお姿でさえお美しい。眩い」
「後ろを歩いただけでよい香りに鼻腔が支配されてる」
「同じ空気を吸うだけで罰当たりな気分に」
「世界の美しいを凝縮したかのような英雄エローの後ろを歩く醜い獣人女を見るみなさまの、あの汚物を見るような目……快感」

……うん。話すの辞めようかな‪‪(  ˙-˙  )スンッ‬
その中でもぶっちぎりでカムリンは変態だけど。

「とりあえず座らないか?スタッフが困惑してる」
『光栄です』

俺は間違った選択をしようとしてるんじゃないかと一抹の不安を抱えつつ五人にも座るよう促す。

「ルネも座ってくれ」
「はい。失礼いたします」

代表騎士として夜会に参加してるエドの代理で執事バトラー役をしてくれてるルネも座りようやく落ち着く。

「入り用がございましたらお呼びください」
「ありがとうございます」

座ったことを確認してスタッフはパーティションを閉めた。

「お酒をお作りいたします」
「ありがとう」

酒を作るのはルネに任せて五人を見るとまだキラキラ。
ただ一緒に歩いただけなのに何事。

「カムリン。試合の最後に言ったことを覚えてるか?」
「誇り高く勇敢な彼らに神のご加護があらんことを」
「いやごめん。その前」

うん、最後はたしかにそれだった。
よく覚えてたな。

「仲間を連れて王都に来い。ですか?」
「それ。あの時は放映されてたからあれ以上言うの辞めたんだけど、みんな王都で暮らす気はないか?」
「私たちが王都で?」
「うん。急にそう言われても意味が分からないだろうから説明する。呑みながらでいいからそれを聞いて考えてみてくれ」

唐突に王都で暮らせと言っても「うん」とはならないだろうから、みんなにも分かるよう俺が王都で領主をしていることや領の現状などを話せる範囲で説明する。

「状況は分かりましたが、私たちは一体何のために」
「西区の警備指揮官として雇いたい」
「……私たちをですか!?」
「うん。住居はもちろんそれなりの給金も約束する」

警備兵は国も用意してくれる。
元々それを生業としてる人の他に国王軍の騎士もいるけど、国王軍の騎士は何かあれば外戦に出たりするから西区専門で警備をしてくれる強い人が欲しい。

「話したように俺の領地は所謂スラム地区だ。貧困層はもちろん元囚人とかも居て犯罪が多い。だからこそ強い人が欲しい。何かあった時に領民を護ってくれる専属の警備指揮官が」

話を聞いて五人は唖然。
まあ急に言われてもそんな反応になるだろう。

「先に言っておくと王都にも獣人差別はある。それに危険地区の警備兵だから命の危険も増える。獣人だけが集まる集落で暮らしてる今の方が平和なことは間違いない」
「獣人差別があるのであればなおさら、私たちを指揮官として雇うのは英雄エローの評価に響いてしまいます」

王都へ来た時のマイナス面を話すとカムリンは真剣な顔で俺の評価について苦言を呈す。

「今後俺の領地では全ての精霊族を領民として受け入れる。人族も獣人族もエルフ族も平等に。種族で差は作らない」
「……正気ですか?そのようなことをしたら英雄エローの評価が」
「カムリン。俺の評価で誰かの腹が満たされるのか?行き場のない人たちが、食に困る人たちが助かるのか?」
「それは」

口篭りキュッと口を結んだカムリンに溜息をつく。

「この世界の人にとって勇者や英雄エローが特別な存在なことは分かる。だから俺も勲章や称号を与えられた者としての役目は果たすつもりだ。ただ、俺が英雄エローで居るのは大切なものを護るための権力が必要だからであって、周りからの評価を気にして護りたいものを護れないなら英雄エロー称号なんて要らない」

爵位も称号もが必要だから受けただけ。
評価を気にして身動きを取れないなら本末転倒。
同じ地区に別々の種族を住まわせてはいけない法律などないんだから差別なく全ての種族を受け入れる。

「……多くの者が憧れ欲しがる称号を要らないとは」
「悪いな。俺は異世界人だからこの世界の人と違って英雄エローはただの称号でしかない。称号より人の命の方が大切だ」

この世界では時に命よりも重んじられる英雄エロー称号。
民の命よりも英雄エローの命が尊重される。
だから評価を気にするカムリンが特別な訳じゃなく、気にしない俺の方がこの世界では異色。

「例え評価が地の果てまで落ちようとも俺は俺のやりたいようにやる。評価の高い英雄エローがいいのならこの話はなかったことにしてくれ。個人的に誘っただけで命令じゃないから」

命令じゃないから断るのも自由。
リスクを理解した上でやるかやらないかを決めて欲しい。

「いま建築中の獣人専用住居が出来るまで最低でも1ヶ月はかかる。来て貰うとしたらそれ以降。時間はあるからゆっくり考えてくれ。いま断るならこの場で聞くけど」

グラスの中身をあけるとルネがすぐに手を伸ばし新たに作ってくれる。

「もしお断りするとしても明日の閉幕式の後までお待ちくださいませんか?五人でしっかり話し合ってみますので」
「うん。いま決まってるなら聞くってだけで、返事は明日でもそれ以降に使者を使って知らせてくれるのでもいいから」
「分かりました。お時間をください」

先にカムリンが立ち上がると他の四人も立ち上がる。

「お先に失礼いたします」
「ああ」

丁寧に挨拶をして五人は先にフロアへ戻った。

「好い条件だけを並べておけば来てくれたのでは?」
「本当にそう思ってるのか?」

訊いた俺にルネは酒を作りながらクスと笑う。

「私もお答えしなくてはなりませんね」
「ん?」
「以前お誘いいただいた経理役の件なのですが、まだ有効でしたらお引き受けしようと思います」
「……マジで!?」

今返事する?というタイミングだけど、国仕えを誘うのはさすがにダメ元だったから引き受けてくれて驚いた。

「師団長さまからは私が自分で決めていいと言われておりましたので、大会中のシン殿を見て私なりに考えた結果です」
「やった!ありがとう!」

これはガッツポーズも出る。
今後事業を展開していくほど経理役は重要になる。
師団長は王宮の重役としての仕事も抱えているから、師団長と同じエリート集団王宮師団のルネが引き受けてくれるなら心強い。

「破天荒な試みばかりのシン殿を見ていて、このままでは師団長さまの胃に穴があいてしまいそうだと危機感が」
「引き受けた理由それ!?」

たしかにこの世界になかったことばかりやってるけど!
また驚く俺にルネはクスクス笑う。

「新たな試みには敵がつきものですが、成し遂げれば偉業に変わります。例え英雄エローの評価が一度地に落ちることがあっても逆転すればいいのです。そのお手伝いをさせてください」
「そうなるように邁進する。よろしく頼む」

意外にも好戦的なルネの言葉に笑いながら握手を交わした。

「ルネからはいい返事が貰えたし、最後の夜会に参加した目的も達成したし、少し呑んだら部屋に戻って寝るかな」
「今日はお戻りになるのがお早いですね」
「貴族たちの娘押しつけ詐欺にあいそうで怖い」
「ああ。たしかに今日はいつも以上に多かったですね。閉幕の儀を残すだけとなって切羽詰まっているのでしょう」

‪(  ˙-˙  )スンッ‬とする俺にルネは苦笑する。
貴族たちの正妻(紋章)狙いが怖いです(震

「元より権力と器量がありながら、今回の本大会では三冠の偉業を成し遂げましたからね。独身で婚約者も居ないとあればなおのこと、この機会に繋がりをと考える者が居て当然かと」
「俺が居た世界では21歳で独身でも当たり前なのに」

日本では『21歳。独身』がなんら不思議ではなくとも、この世界では『21歳なのにまだ結婚してないの?』になってしまうのが恐ろしい。貴族爵を持ってると尚更。

「とりあえずご婚約なさっては?」
「軽!とってつけたみたいで軽!」

とりあえず婚約って、結構なパワーワード。
婚約はでするものじゃないと思うけど。

「私も婚約者がおりますが、です」
「マジで!?」
「婚約者が居れば必要以上に言われなくなりますから」
「相手は?それで納得してるのか?」
「はい。お互いにまだ結婚は考えておりません」

ルネも相手も利害が一致してるってことか。
ロザリアが15歳を超えると結婚しろと煩く言われると話してたのを思い出し、ルネとルネの婚約者はまだ結婚する気がないから『結婚しろ避け』のために婚約してるのかと納得した。

「シン殿の場合は婚約者が居ても第二第三の夫人の座を狙われるとは思いますが、婚約者を理由にまだの先のことまでは考えられないと逃げることくらいは出来るかと」
「たしかに一時的には有効か」

今までは仕事が忙しくてそれどころじゃないと逃げてたけど、仕事が理由だと『それを支える妻が』や『忙しいからこそ癒される家庭が』とか、めげずにゴリ押ししてくる人も多かった。

「もしくは下手に言えないようなお相手とご婚約するか」
「下手に言えない相手?」
「例えば婚約者が王家や公爵家であれば、それ以下の階級の者は易々と結婚を迫れなくなります。王家や公爵家を差し置いて自分や自分の娘と結婚しろとは言えないでしょうから」
「なるほど……なのにハードル高っ!」
「まあ王家や公爵家がを認めるとは思えないので現実的ではないですが」

ああ、うん、無理だな。
国民階級の高い王家や公爵家が破談になる確率の高い婚約を許すはずがない。

「ハァ……憂鬱」

娘ゴリ押しは本当にしんどい。
据え膳は率先して喰うクズだけど誰でもいい訳じゃない。
人を愛せない俺のような奴にこの世界は厳しい。
いっそ魔王が女なら婚約者としてになったのに。


「なんか騒がしくなったな」
「はい」

憂鬱になる話題はやめてルネとのんびり呑みながら西区の計画について議論をしていると、さっきまで静かだったバルコニーに突然人の数が増えてフロアの方が騒がしくなる。

「念のため様子を伺って参りますのでお待ちください」
「いや、俺も行く」
「理由が分からないので危険です」
「物騒な何かが理由ならエドかベルが知らせに来てる」
「ああ。そうでしたね」

エドとベルは俺の専属使用人であり護衛。
今は代表騎士として夜会に参加していても、もし俺の身の危険に繋がるような何かがあれば護衛に駆けつけている。
単純に酒が入った人たちがハメを外してしまっただけな気もするけど、王都代表の四人がフロアに居ることだし万が一のことを考えてルネと確認に向かった。

「ん?何やってんだ?アイツら」

フロアに戻って真っ先に目に付いたのは集団の中心に居る王都代表の四人とバレッタ集落の代表騎士たちの姿。
その前には数人の男女が居る。

「バレッタ集落の騎士たちを庇っているように見えますが」
「……たしかに」

前に出て数人の男女と話しているのはドニとエド。
その後ろにはロザリアを庇うように抱いたバレッタ集落の女性騎士がいて、二人を護るようにバレッタ集落の男性騎士四人とベルとロイズが立っていた。

「あれはマネンテ公」
「公?公爵家か」
「エルフ族の公爵です。有名な方ですよ。女癖の悪さも」
「また面倒な奴が」

今の状況で判断するに、バレッタ集落の代表騎士たちに何か問題がおきて俺の仲間が間に入って仲裁をしているんだろう。
ただ公爵家が相手だとエドたちでは分が悪い。

「行こう。必要なら止めに入る」
「はい」

エドたち以外が遠巻きなのは相手が公爵デュークだから。
金にものを言わせて肥えた高級豚でも公爵は公爵。
上級国民に逆らえば何をされるか分からない。

「失礼。通らせて貰えるだろうか」
「え、英雄エロー

フロアへと続く階段を降りて遠巻きに見ている人の中に割って入ると、俺に気付いた人たちはモーセが海を割ったかのごとく左右へと引く。

「獣人が英雄エローに近付くなど汚らわしい」
「そのきたならしい黒い肌で迫ったのですか?」
英雄エローはお優しい方ですわね。獣人に慈悲をかけるなど」

ん?俺?
THE貴族のご令嬢たちが口にしたのは俺の話。
俺が理由でロザリアが責められてる?
なんでロザリア?

「マネンテ公爵閣下。どうぞこれ以上のお戯れは。Msミズ.ロザリアは王家の祝歌を歌う者として選ばれた歌唱士にございます」

高級豚の前に跪くエド。
ドニもそれを見て跪き頭を下げる。

「私の手を払い傷つけた者がただで済むと思うのか!お前たちもだ!英雄エローのお情けで出場した一般国民と奴隷風情が私に楯突くとは何事か!身の程をわきまえよ!」

怒りあらわに捲し立てるよう言った高級豚は持っていた杖でエドを叩きつけた。

「お止め下さい!罰は私に!」
「仲間を傷つけないでください!」
「薄汚い獣人が私に刃向かうからだ!」

バシバシ叩かれるエドは頭を下げたまま無言。
それをドニとロザリアが声をあげて止める。

「しっかり撮れたか?ルネ」
「記録しております」
「この後も頼む」
「はい。行ってらっしゃいませ」

ドニが叩かれないのは人族だから。
エドが叩かれるのは獣人族だから。
そんな種族の差での暴行がまかり通る貴族社会。
まともな貴族が大半だけど、コイツは腐ってる。

「お、お父さま!」
「私の執事バトラーが何かご無礼を?」

俺の姿に気づき慌てて止めようとした娘の声も聞かず、杖を振り上げた高級豚の腕を掴んで止める。

「……英雄エロー……お部屋に戻られたのでは」
「いえ?バルコニーにおりましたが」

高級豚は顔面蒼白。
バルコニーで呑んでたから部屋に戻ったと思っていたらしく、酔った勢いも手伝ってこんなことをしたんだろう。

「控えよ」

手を離し言うと高級豚と令嬢は顔面蒼白のままその場にしゃがみ、フロアに居る全員がその場に跪く。

「酒は呑むもので呑まれるものではないぞ」
「は、……はっ」

馬鹿な豚だ。
例え俺が本当に部屋に居ようと後で分かるのに。
公爵だからエドたちは言わないと思ったのか、直接見てないから白を切れると思ったのかは知らないけど。

「私の執事バトラーがご指導いただいたようだが、理由をお聞かせ願いたい。これほど熱心な指導を受けたのだから余程の無礼を働いたのだろう。理由が正当であれば主の私が処分しよう」
「ば、執事バトラー?……奴隷では」
「ご存知ないか。エドワードは国王陛下より任命された私の専属執事バトラーだ。彼への指導は私への指導。さあ、お聞かせ願う」

執事バトラー自体の身分は高くない。
爵位を与えられない限り国民階級は一般国民。
ただ、それが英雄エローの専属執事バトラーとなれば話が変わる。
まして国王が正式に任命した執事バトラー(国仕え)となると、今回の行動は英雄エローの俺はもちろん国に対しても釈明が必要になる。

「どうした。顔色が優れないようだ。私も悪ではない。自ら話せないのであれば娘たちに釈明させることを許そう」

冷や汗をかく高級豚の前にしゃがんで笑みで話す。
父親一人が仕出かしたことなら娘(多分)は巻き込まないけど、ロザリアを馬鹿にする発言をしていたから同類だ。

「マネンテ公爵ならびにその関係者四名。ブークリエ国特級国民の権限に基づき、英雄エローの名において嘘偽りのない釈明を命ずる。たばかれば処分がくだされると肝に銘じよ」

再び立ち上がり告げたのは英雄エロー権限の行使。
公爵デュークという強い権力を笠に着て暴行するような奴にはそれ以上の権力で返すまで。

「そ、そちらの者たちが私どもに刃向かって参りましたので序列を教えるため……わ、私どもは公爵家として」

しどろもどろだな、おい‪(  ˙-˙  )スンッ‬
ついさっきまで鬼の形相でエドを叩いてたのに。
公爵家だけに自分より上の階級の人が少ないとあって、撃つ方は慣れていても撃たれる方には慣れてないんだろう。

「刃向かった理由は」
「そ、それは」
「私の執事バトラーが理由もなく刃向かう愚者だとでも?」
「そのようなことは!」

釈明の内容が『刃向かったから』ということだけで刃向かうに至った理由を話さず、こちらから聞くと慌てて口ごもる。

「マネンテ公爵令嬢」
『はい!』
「長女。事の始まりを説明せよ」

四人とも高級豚の娘だったらしく、一斉に返事をした四人の中の長女に説明を求める。

「そ……れは」
「嘘偽りのないようにな。処分したくはない」
「は、はい。……お父さ、いえ、閣下が歌唱士に歌うよう命じたことが始まりで……それを拒んだものですから」

なるほど。
だからロザリアが庇われてるのか。

「歌えないと断られたのか?」
「はい」
「彼女は祝歌のために呼ばれた歌唱士。夜会の余興として呼ばれたのではないのだから断られて当然ではないか?」
「は、はい」

聞きたかったんだとしても断られて怒るのは意味不。
余興として呼ばれた歌唱士が歌わないと駄々をこねたというなら仕事に来たんじゃないのかと怒るのもまだ分かるけど。

「本当にただ歌えと口で言っただけか?」
「………」
「私の手を払い傷つけたと聞こえたが、口で言ったはずがどのようにして払われた?下ろしていた手を払われたのか?マネンテ公爵が先に手を出したから払われたのではないのか?」
「そ……その通りでございます!申し訳ございません!」
『申し訳ございません!』

床に平伏し謝罪する令嬢たち。
聞かれていたと分かって言い逃れできないと悟ったんだろう。

「エドワード。Ms.ロザリア。前に」
「はっ」

跪いていたエドは立ち上がり俺の前に来て跪きなおし、女騎士の腕に抱かれていたロザリアも俺の前に来てしゃがむ。

「まずはMs.ロザリア。見知らぬ者から歌唱を強要され体に触れられたとあっては嘸かし怖かったことだろう。令嬢からの暴言も聞いていた。この者たちの処分をどうしたい」
「私が処分を決めるのですか?」
「直接手をくだすのは英雄権限を持つ私だ。触れた腕を切り落とすか?二度と暴言をはけないよう口を縫いつけるか?二度と姿を見せないよう斬り捨てるか?好きな手段を選ぶといい」
「そ、そのような惨いことは!」

実際この世界にある処罰方法を言うとロザリアは大きく首を横に振る。

「恐れながら英雄エロー。私は謝罪をいただければ充分です。それ以上の処分は望みません」

そう答えたロザリアに微笑する。

「エドワード。お前はどうだ?仲裁に入っただけで出血するほどに叩かれたのだから嘸かし憎いだろう。私も大切な執事バトラーや仲間を罵り傷つけられはらわたが煮えくり返る思いだ。されたように杖で打つか?二度と権力を使えないよう爵位を剥奪して強制労働をさせるか?好きな処分を言うといい。私が手を下そう」
「我が主。私が望む処分も謝罪だけです」

エドも謝罪だけを望み頭を下げた。

「エドワード。Ms.ロザリア。私の隣へ」
「はっ」「はい」

跪いていた二人を両隣に立たせる。

「マネンテ公爵ならびに令嬢四名。面をあげよ」

顔をあげた高級豚と令嬢四人。
処分の内容を聞いて俺が怒っていることを理解したらしく全員が顔面蒼白になっている。

「聞いていただろう?二人に心からの謝罪を」
『申し訳ございませんでした!』

床に額をつけて謝罪する五人。
公爵家の人間にとって大勢の前で自分たちより下の階級国民に頭を下げるのは屈辱だろう。

「私はしっかり処分しておきたいところではあるが、今回は心の広い二人に免じて目を瞑ろう。権力を笠に着て傍若無人に振る舞う愚者たちよ。二度目はないと肝に銘じておくよう」
『はいっ!』

額をつけたままの五人に溜息を飲む。
今回の経験が今後の抑止力になればいいけど。

「お帰りになるそうだ。見送りを」
『はっ』

処分が終わるのを跪いて待っていた警備兵たちに頼んで会場を出て行く五人の後ろ姿を見送った。

「ハァ……肩がこった」
「申し訳ありません。英雄エロー権限を行使させてしまって」
「当然だろ?俺の可愛いエドをバシバシ叩きやがって。英雄エローって立場じゃなければ真っ先に飛び蹴り喰らわせてやったのに」
「それは駄目です」

しょぼんとする耳をモフモフしながら回復ヒールをかける。

「よく堪えたな。すぐ止めに入らなくて悪かった」
「公爵相手では証拠が必要だと分かってますから」
「ああ!俺のエドが賢可愛くて辛い!」

可愛いかよ!
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ

「シンさま人前でモフモフは」
「「辞めてやれ」」
「先程までの威厳は何処へやら」

久々のモフモフタイムを堪能しているとドニとロイズからダブルチョップで止められ、ルネからは呆れられる。

「………」
「うん。王都に帰ったらゆっくりモフってやる」

自分の尻尾を抱いて恨めしそうにエドを見ていたベル。
帰ってからゆっくりモフってやる約束をすると満足そうな満面の笑みで尻尾を離した。

「本当にシンって変わってるね。どっちの顔が本物?」
「どっちが好みだ?」
「「辞めろ」」

ぷっと吹き出しクスクス笑う可愛いロザリアの腰に腕を回して顔を近付けるとまたドニとロイズからチョップされる。

英雄エロー。私たちからもお礼を言わせてください。一度ならず二度までもお救いくださり、ありがとうございます」
「二度……ああ。前のアレか。どういたしまして」

バレッタ集落の代表騎士たちから深々と頭を下げられる。
以前ザコ虫とのいざこざを仲裁したことを、お礼を言われて思い出した。

「あの。図々しいのですが、お聞きしたいことが」
「ん?」
英雄エローとロザリアの関係は……あ!いえその!秘密でしたらお答えいただかなくても!ただ、いつの間にか親しくなっていたのでやっとロザリアにも春がきたのかなって!」
「こら!」
英雄エローに無礼な!」

慌てすぎな。
女騎士が訊いて男騎士の四人は慌てる。

「関係……ファンかな」
『ファン?』
「俺が未来の歌姫ディーバのファン一号。ロザリアの歌姫ディーバ初舞台には大きな花束を持って観に行く」

そう説明してロザリアの頭にキスをする。
室内庭園で歌を聴かせて貰った時からロザリアの歌声に惹かれていたからファンと表しても嘘ではない。

ワタクシもロザリアさまの歌声が好きです。容姿は美しく儚げな少女のようでありながら、普段は愛らしい声が奏でるその歌声は力強さと繊細さも持ち合わせていて心に響きます」
「ああ、うん。俺はそんなに語れないからファン一号の称号はベルにやるよ。控えめに二号にしとく」

隠れファンだったらしく熱く語ったベルに数秒足らずでファン一号を譲るとみんなは笑う。

「残念なような喜ばしいような」
「期待と違ったのは申し訳ないけど親しくさせて貰ってるのはほんと。夢を叶えて欲しいし応援したいと思う」

そう本音で話してロザリアを見た。

「ってことでデートしてくるからロザリアを借りる」
『デート!?』
「終わったら部屋まで送り届けるから安心してくれ」

ロザリアを抱き上げた俺にみんなは声を合わせて驚く。

「突然すぎるだろ」
「これっきりにならないよう話すだけだから」
「シン殿。責任を持って部屋まで送ってくださいね」
「分かってる」

ルネも含め苦笑する王都代表のみんなに笑って返し、注目している人たちにも愛想笑いをしながら少し急ぎ足で会場を出た。

 
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ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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