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第九章 魔界層編
フェスタン
しおりを挟む沐浴を済ませて一旦自室に戻って夕食前の着替えタイム。
「ちょっと気合い入れすぎじゃないか?」
「雌性体を存分に体験していただこうと思いまして」
魔王城の召使姿で俺の髪をアップヘアに結い上げるクルトは楽しそう。
「嫉妬心を持つ愚かな者も中にはおりますが、大抵の城仕えは魔王さまに半身が出来たことを喜ばしく思っております。その大切な半身さまを着飾るお役目ができるなど光栄の極み」
その喜びの結果がこの姿か。
黒いロングパーティドレスとアップにした髪と薄化粧。
中身が男だとは思えない着飾りぶりだ。
「眼帯はいたしますか?」
「いやいい。せっかく化粧までしてくれたし」
いつもは自室や魔王の部屋以外ではしているけど、せっかく着飾ってくれた時にも無骨な眼帯をするのは気が引ける。
「本日の夕食は四天魔も同席いたしますので」
「え?珍しい」
「月に一度行います」
「そうなんだ」
いつもは魔王と俺の二人だけ。
例外として俺が料理を作った時は山羊さんと赤髪も一緒に食べるけど、他の使用人の目につかない魔王の部屋で食べてる。
「こちらで魔王さまのお迎えをお待ちください」
「クルトは一緒に行かないのか?」
「私も支度をいたしますので一度下がります」
「分かった。自分の支度もあるのにありがとう」
「もったいないお言葉を」
これから支度するらしいクルトを見送って姿鏡の前に行く。
「人族のドレスと大違いの露出度」
首で紐を結ぶタイプのそのドレスは“童貞を殺すセーター”を思い出させるほど背中が開いていているから刺青が丸見え。
プラスで右脚側に深いスリットが入っているから太腿のガーターリングまでもチラ見えする何ともけしからん姿だ。
それにしても夕飯を食べるだけなのに気合い入れすぎ。
まあクルトが楽しそうだったし、俺も元の体ではできない貴重な経験をさせて貰ってるからいいんだけど。
ドレスが皺にならないよう気遣いながら座って待っているとノックのすぐ後に扉が開いて魔王が入ってきた。
「……なんでフラウエルまで着飾ってんの?」
いつもは軽装なのに今日は正装。
長い髪は金の紐で一つに纏められていて、服装は黒の軍服に金の飾緒等の装飾品はもちろん、魔王の紋章が入った白いペリース(左肩にかける外套)までしている。
「月に一度の宴会だと聞いていないか?」
「宴会?四天魔も一緒に食べることは聞いたけど」
「本来の予定では明晩行うことになっていたが、明日は除雪に一日かかるだろうから今夜の内に行うことになった」
えぇぇぇぇえ。
四天魔と食事は前倒ししてでもやる重要なことなの?
俺だけ着飾りすぎで浮きそうだと思っていたのに全然そんなことなかった。
「今のままでも充分美しいが、これを着けるといい」
正方形の赤いクッションに載せた金装飾の黒い箱を持っていた召使と歩いてきた魔王はその箱を開けて中身を見せる。
「なにこれ」
「魔人界の極一部でしか採れないディアマンルージュという宝石を使った装飾品だ。ディアマンルージュは魔王と半身だけが身につけることを許された特別な宝石で、魂の契約が結ばれた後ティアラとビブネックレスを作って贈るしきたりがある」
ディアマンルージュ……赤いダイヤモンドか。
とんでもない値段がしそうなんだけど。
「着けてやろう」
「う、うん」
姿鏡の前に立たせた俺に魔王がビブネックレスを着ける。
血の色のような深紅の宝石が鏤められたそれはたしかに綺麗だけど、気軽に着けられるお値段だとは思えない。
「よく似合っている」
「ありがとう」
ティアラも頭に乗せて魔王は満足そう。
クズも着飾れば見た目だけは一国の王妃か王女かと思うような姿になれるようだ。
「折角貰っても元の姿の時は付けられないのが勿体ないな」
「そこは心配要らない。最初はしきたり通りティアラとネックレスを贈るが、半身が雄性の際には別の装飾品に作り直す」
「なるほど。じゃあ良かった」
せっかく貰っても着けられないから勿体ないと思ったけど、そこは半身を選ぶ基準が性別ではない魔族だけあって作り直しも許されているんだろう。
「ありがとう。大事にする」
「ああ」
振り返ってお礼を言った俺に表情を緩める魔王。
その後ろの召使たちからは憎らしそうな視線を向けられてるけど、ここで下手な行動をして魔王の機嫌を損ねたくないし、嫉妬深い魔王大好きっ子たちが『魔王と半身しか身につけられない特別な装飾品』を貰った俺を羨む気持ちも理解できなくはないから、今は見なかったことにしておこう。
あくまで今は。
あまり執拗いようだと黙っていられる自信はない。
相手するのが面倒だから普段は黙ってるだけで、本来俺は何も言えない気弱な奴でも優しく許してやれる奴でもないから。
魔族にとっては半身が男か女かなど関係ない。
一部の使用人にとって俺は『私の愛しい魔王さまを奪う敵』なんだと、魔王城での今までの経験でよく分かった。
「行こう」
「うん」
自然に差し出された腕に軽く腕を絡めエスコートして貰う。
普段はお互いエスコートする側だから腕を絡めるようなエスコートはしないけど、今日は俺が雌性の姿だから別。
ここで断ったり迷う方がみっともない。
日本人はお国柄か照れたり恋人でもない人に触られたくないという人も居るけど、エスコートは気遣いであって街中で見かける腕を組んだ恋人同士の戯れとは違う。
海外の人のエスコートがかっこいいのはエスコートする側もされる側も堂々としているから。
魔王のエスコートをみっともないものにしてしまわないよう一階へ転移したあとは背筋を正して隣を歩いた。
いつものように食堂の前で待っていた使用人が開けた扉から入ると正装した四天魔が手を胸にあてた敬礼で待っていて、魔王と俺が席につくと四人も椅子を引いて座る。
この儀式的な流れは……晩餐会。
宴会なんて言うから呑んで食べてどんちゃん騒ぎするサラリーマンの宴会的な気軽な印象だったけど、これはそんな言葉で表すものじゃなく、お偉いさんが集まって食事をする晩餐会ですと言われた方が素直に納得できる。
フルート型のグラスに少量注がれたのは白シャンパン。
いや、この世界にシャンパーニュ地方はないから、正式にはシャンパンではなくスパークリングワインだけど。
そのグラスの隣へ置かれたのはナフキンとアイスピック。
な に こ の 物 騒 な 自 害 セ ッ ト (凶器+白い布)。
意味が分からず五人を見ると躊躇なく自分たちの指先をアイスピックで刺し、シャンパンが注がれているグラスに数滴の血を垂らしてナフキンで指先の血を拭う。
な に や っ て ん の ?(困惑)
俺の前にも置いて行ったってことは俺もやるの?
何をしてるのかも何の意味があるのかも分からないのに?
魔族の晩餐会の作法なのか?
「半身はやらなくていい」
作法なら真似した方がいいかと判断してアイスピックを手にすると魔王から止められる。
「でもみんなやってるし」
「これは自分の力を使って助け合うことを誓う血盟の儀式だ。お前は既に俺の半身にはなっているが御目見前なのだから誓わなくていい。それは形式的に置いてあるだけだ」
「だから説明してくれなかったのか」
「まさかやろうとするとは思わなかった」
魔族流の晩餐会作法なのかと思ったけど違うらしい。
常識だから説明し忘れてるのかと思えば。
「ん?半身ならみんなやるってこと?」
「ああ。本来は契約の試練を乗り越えた後に行ってその後も誓いが揺るがぬよう月に一度行うが、お前は歴代の半身と違い魔族でもなければ魔界に暮らしてもいないからやっていない」
つまり本来なら契約の試練(一ヶ月眠っていたアレ)を乗り越えたタイミングでやる儀式だけど、人族の俺は地上で暮らしていたからやらないままになっていたと。
「そういうしきたりがあるなら俺もやるよ。例え歴代の人とは種族や生活環境が違っても魔王の半身ってことは同じだし。それに何かあった時に助け合うのなんて当然だろ」
変な誓いをさせられるのはお断りだけど、助け合うために自分の力を使うって誓いなら断る理由もない。
一度は止められたアイスピックで指先を軽く刺してシャンパングラスに数滴垂らした。
「魔族と助け合うことを誓うと?」
「助ける理由に種族は関係ない。俺は魔族の味方について精霊族と敵対するつもりはないし、精霊族の味方について魔族と敵対するつもりもないけど、自分の大切な人が困っていれば出来る限り助けたいと思う。それじゃ駄目か?」
俺は種族で敵味方を分けることはできない。
地上層にも魔界層にも親しくなった大切な人たちがいる。
だから互いが戦うことになる天地戦では何もすることができないけど、それ以外の時に大切な人が困っていれば手を貸す。
「充分だ。そもそも魔王の半身を天地戦に立たせようなどと考える愚かな魔族などいない。魔王の半身は護るべき存在というのが魔族の常識だ。尤も、俺の半身は歴代の半身とは違って護る対象としては強すぎるがな」
そう言って魔王はくつくつと笑いながらグラスを持つ。
それを真似て俺もグラスを手にした。
「我が力、君主のために。半身のために。民のために」
『我が力、君主のために。半身のために。民のために』
「我が力、半身のために。諸君のために。民のために」
山羊さんが先に誓うと赤髪と仮面とクルトもそれに続き、最後に魔王も誓って俺を見る。
半身のためにって言われたんだから俺も言えってことか。
「我が力、半身のために。諸君のために。民のために」
で合ってる?と表情を伺うとくすりと笑い頷かれる。
「みなに幸あらんことを願う」
魔王の一言のあと六人でシャンパンを飲み干した。
血盟の儀式の後は人払いをしての食事タイム。
地上層だと魔族は野蛮だとか伝えられてるけど、城の主の魔王をはじめ四天魔の四人もテーブルマナーは完璧。
地球とこの世界のマナーは多少の違いがあったから貴族爵を貰った時に改めてこの世界流を教わるはめになったけど、地上層と魔界層のマナーは同じだから恥をかくようなことにならずに済んで良かった。
しかも今日は鑑定通りの食材だし味もいい。
嫌がらせ料理人(俺命名)が居た時は『今回の料理は天国か地獄か』と最後まで気が抜けなかったけど、居なくなった今は安心して食事ができる。
「機嫌がいいな」
「うん。もう食事の度に怖々食べずにす」
……あ。
上機嫌に食べていてポロッと答えてしまったけど余計なことを思い出させてしまった。
「まさか昨日だけではないのか?」
「ううん。昨日だけ」
俺が否定すると魔王はフォークとナイフを置いて肘掛けに肘を置き考えるような様子を見せる。
「思えば手を付けない時や少量しか口にしない時もあったな。食欲がないというお前の言葉を鵜呑みにしていたが、あれは料理人を庇って嘘を言っていただけか」
「庇ってない」
断じて庇ってはいない。
面倒事になるのが嫌だから自分のために言わなかっただけで、嫌がらせをしてくる奴を庇う優しさは俺にはない。
「なぜ言わなかった。昨日だけと思い追放処分で済ませたが、以前から続いていたのなら罪の重さが変わる。魔族は人族ほどの細かい決まりはないが、内容はどんなものであれ半身への攻撃は魔王の俺への反逆として罰する必要があるというのに」
そう言って魔王は顬に手をやって溜息をつく。
いやでも『内容はどんなものであれ』というなら魔王の伽役を兼ねてる召使の殆どを罰さないといけなくなると思うけど。
「……ごめん」
精霊族だって国王や王妃への攻撃は国への反逆として罪に問われるんだから、魔族も同じく魔王の半身の俺への攻撃が魔王への反逆として罪に問われることも理解できる。
「ああ、謝らなくていい。魔族ではない半身は魔界の決まりを知らなくて当然だ。一緒に食事をしていて気付けなかった俺も悪いのに一方的に責めるような言い方をしてすまなかった」
ナイフとフォークを置いて謝った俺に魔王は慌てたようにパッと顔をあげる。
「ううん。俺自身がバレないよう誤魔化してたんだからフラウエルが気付かなくて当たり前。昔から勝手に劣等感を持たれて嫉妬されることが多かったから、自分だけで済むなら大事にならないよう対処する癖がついてる。魔族にもそういう奴が居るんだなってくらいにしか思ってなかった」
勝手に比べて劣等感を抱かれ敵意を持たれることなどざら。
俺が何か悪事をして恨まれるなら当然の報いだけど、生まれ持った容姿や努力して手に入れた立場ですら勝手に羨んで恨まれ敵対視されるんだから堪らない。
そんな劣等感の塊が多すぎて慣れてしまった。
「そうは言っても、どんなことをされても無視できるほど俺はできた奴じゃない。例え世話になってる城の人だろうと度を超えたことをされればしっかり言わせて貰う」
「自分で言った後で構わない。俺にも報告を。こうして後からお前が耐えていたことを知るのは俺が耐えられない。報告さえしてくれれば後は魔界の決まりに従って適正な処分を行う」
「分かった。その時はちゃんと話す」
自分の中だけで片付ける癖が魔王の心配の種になるというなら俺も少しはその癖を直す努力をしよう。
「魔王さま。発言の許可を」
「なんだ」
「追放した四名を一度連れ戻しますか?外は吹雪ですので昨日の今日であればそう遠くへは行っていないかと」
「そのまま捨て置け。事実を知ったいま顔を見れば怒りを抑えられそうにない。見逃す変わりに何があっても手を貸すな」
「はっ。仰せのままに」
ひしひしと伝わる魔王の怒り。
いや、魔王のじゃなく四天魔を含めた五人の。
質問した山羊さんも、山羊さんに答えた魔王も、話を聞いていた仮面と赤髪とクルトも、表情では冷静を装っていても怒っていることが伝わってきた。
「さてどうしたものか。全ての者ではないといえ召使の半身への言動は特に目に余る。そうならないよう今までと変わらず伽を続けてきたが、半身という唯一の存在への嫉妬は尽きないようだ。それでもこのまま続ける意味はあるのか?」
また肘置きに肘を置いて頬杖をついた魔王は四天魔の方を見てそう話す。
「魔王さま、私にも発言の許可を」
「許そう」
「後程纏めたものをお渡しする予定でしたが、お話に出ましたのでこの場でも簡単に調査の報告とご提案を」
魔王の問いに口を開いたのはクルト。
俺の支度を手伝ってくれた時は召使の制服を着てたけど今はしっかり魔王軍の軍服を着て正装している。
「命を受け数日姿を変え普段の城仕えの様子を探りましたが、魔王さまが懸念しておられた通り半身さまへの不誠実な言動は若い召使に多く見られます。中には召使が魔王さまのご寵愛を受けている特別な存在だと思い違いをして他の使用人へ横柄な態度をとる者や、半身さまは形だけの存在で魔王さまと恋仲であるのは自分だと話す不届き者もおりました」
そんな内部捜査的なこともクルトの役目なのか。
さすがに四天魔の前でそんな話をするほど馬鹿じゃないだろうから、使用人同士で雑談している中に変身したクルトが居るとは知らずにペラペラ喋ったんだろう。
仕事中は言わないことでも気が抜けてる時は別。
それがその召使の本音。
「城仕えへの披露式も御目見後に行うとのことでしたが、すぐにでも行い立場を明確にするべきかと。半身さまは既にお気付きのようですので濁さず申しますが、半身さまが魔族より体の脆い人族であることもあり下に見ている者が多いことに憤りを感じます。何かあってからでは遅いですので魔王さまには早急な判断をしていただきたいと存じます」
つまり魔王の半身と認めていないし舐められていると。
うん。知ってた。
クルトの報告と提案を聞いた魔王は俺を見る。
相変わらず無表情だけど頭の中では色々考えてるんだろう。
「明後日に半身の披露を行う。全ての城仕えを集めよ」
『はっ』
明後日!?
またそんな急なことを。
「それと召使の人数を減らす」
「魔王さまそれは」
「魔王の半身を種族で見下すような自分の立場も分からぬ愚者は全て召使から外せ。いや、召使以外の者でも異を唱える者は一人残らず城から追放せよ。これ以上の温情は与えない」
ガチ切れ。
以前のように我を忘れ城を破壊してしまうような白地な怒りは表に出していないものの、山羊さんの言葉を遮り矢継ぎ早に話す魔王からは圧迫感を覚える。
今は食堂内に俺と四天魔しか居ないから良かったけど、給仕人が居たら苦しがってただろう。
「今までは若い魔族へ魔力を分け与えるため言われるがままに伽を引き受けてきた。本来は親の役目である魔力補助を幼い頃に受けることができなかったのは俺を作った先代魔王が敗北して多くの魔族が死んだからだ。そのせめてもの償いとして俺の魔力を与え、ある程度の失態にも目を瞑ってきた」
魔力を分け与えるため?親の役目?魔力補助?
魔族は構ってやらないと面倒くさい奴(構ってちゃん)になるからって理由以外にも理由があったのか。
「だが半身のことでは目を瞑れない。今まで数百年に渡り魔界や民を優先してきて初めて自分のために選んだ半身だ。他のことには目を瞑れても半身に害をなすことだけは許さない。命だけはとらないというのが最大の温情だ」
珍しい。
山羊さんの意見に耳を傾けないとか。
最終的に結論を出すのは王である魔王の役目だけど、いつもなら人の意見にも耳を傾けてから答えを出すのに。
それだけ頭に血が上ってるってことか。
「どうしてこうもマイナス因子って目立つんだろうな。魔王城に仕える人だって数で言えば善い人の方が圧倒的に多いのに、敵意ある少数派のマイナス因子の方が印象に残る」
「マイナス因子?とはなんだ」
「自分を肉体的にも精神的にも疲れさせる人のこと。逆に肉体的にも精神的にも元気にしてくれる人をプラス因子、毒にも薬にもならない人のことをゼロ因子って言う」
『マイナス因子』という言葉では伝わらなかった(上手く翻訳されなかった)らしく疑問符をあげた魔王に説明する。
「物言わぬ多数派のサイレントマジョリティより声高な少数派のノイジーマイノリティの方が目立つ。俺も仕事ではノイジーマイノリティで居ることで成功したけど、そのぶん敵の数も多かった。良い意味でも悪い意味でも印象が強いのはノイジーマイノリティなんだよな」
魔王城の使用人の大半はサイレントマジョリティ。
俺の存在に納得はしてないけど言わない人も多いと思う。
思っていても何もしないその他大勢より実際に行動した人の方が記憶に残るのは当然といえば当然だけど。
「つまり何が言いたい」
「お前いま頭に血が上って召使を含めた城仕えを一括りで敵のように考えてないか?城の規律を正すのは必要だと思うし反対もしないけど、一部のノイジーマイノリティの声が城仕えの総意のように考えてると判断を誤るぞ?」
そう答えながら独り食事を再開する。
みんなは手を止めてしまったけど俺は食べる。
本来は王が手を止めたら食べないのがマナーだからみんなが正しいんだけど、食べ物を粗末にしたくない。
「召使を減らすなというのか?」
「ほら、もう判断できてない。俺は言ったぞ?規律を正すのは必要だと思うし反対もしないって。冷静じゃないから会話の一部分だけ切り取って突っかかってきてる」
頭に血が上ってる時に出した答えなど穴も多い。
まして今回は城仕えの進退がかかってるんだから冷静になった後に「判断を誤りました」じゃ許されない。
「今までは伽の相手もする召使が多過ぎだと思ってたけど、好きでそうしたんじゃなくて事情があってそうするしかなかったことは分かった。事情があるならなおさら冷静になって一人一人の進退を決めた方がいいんじゃないか?俺はフラウエルの半身だから気に入らなければ反抗するけど、他の人は魔族の長に早々反論できないだろ?上の人が冷静になって判断してくれないと苦労するのは下の人だ」
それは地球でもこの世界でも変わらない。
指示する上司がアホだと下が苦労することになる。
「数の多い魔族の頂点に立つフラウエルには城仕えがその他大勢にしか見えなくても、その一人一人は同じじゃない。みんな性格も違えば考え方も違う。ノイジーマイノリティの声に惑わされて城仕え全てを一緒くたにするな。その怒りは目を曇らせるだけだ。怒り任せの判断で役目をまっとうしてる人まで罰するような能無しの王にはなるなよ?怒りの理由に俺を思っての感情も含まれてるなら、それはありがとう」
お礼は本人を見て言うと魔王は一度深呼吸する。
うん。垂れ流されてた邪悪な魔力がおさまったってことは少し落ち着いたみたいで何より。
「頭に血が上っていたことは素直に認めよう。そこはすまなかった。だが召使の数を減らす考えは変わらない」
落ち着いて話し出したのを見てフォークを置く。
さっきまでは怒りが全面に出ていたからまともに聞く気にならなくて食事を優先したけど。
「理由は二つ。俺が半身に害をなす者と魔力補助のためであろうと伽を行うのが不快というのが一つ。もう一つは半身と過ごす日を優先したい。半身が出来たというのに今は召使との伽の日を基本に組まれている。人数が多いから仕方がないと思っていたが、この機会に見直したい。クルトの報告にあった『半身は形だけの存在』という与太話も召使との伽に費やす日数を見れば一理ある。それも勘違いをうむ原因の一つだろう」
まあたしかに。
基本的には毎晩召使の相手をして、なんだかんだと理由をつけて俺と寝る日を間に捩じ込んでる状況だから。
「職務を全うしている者は今後も召使の役職を続けさせるが、伽は魔力補助が必要な者だけに変更するのはどうだろう。もちろん伽の者ではなくなっても必要な際に補う協力はする」
「召使を伽ありと伽なしの者に分けるということですか」
「ああ。最初はみな支障が出ていたから伽をつとめたが、今は魔力の流れが安定して補う必要がなくなった者も増えた」
なるほど。
話を聞いて最初からそうしておけば良かったのにと一瞬思ったけど最初はみんな魔力を補う必要があったのか。
「そういうことでしたら賛成いたします。ただ伽の者の特別感がますます出てしまいますので、伽ありの者が自分は魔王さまのご寵愛を受けているなどと愚かな考えを持たないよう、魔王さまの口からみなにお話ししていただく必要がありますが」
「明後日の披露式後に俺がみなの前で説明しよう。今までもこれからも伽の者は魔力補助の必要な者だとみなが知っていれば今まで横柄な態度をとっていた者も大人しくなるだろう」
今まで自分が特別だと思ってた召使は涙目な展開。
まあ、周りに横柄な態度をとってたクソな人はざまぁでしかないけど。
「自室に戻るのは昼間だけになる日も増えるな」
「は?何その悪いこと企んでそうな顔。……無理だから!お前に付き合ってたら体がもたないから!」
「心配するな。雌性体の時は雄性体の時より負担が少ないことが分かったのだからクルトに頼んで時々なればいい」
「喜んで私の力を使わせていただきます」
「クルトも俺の敵か!」
「魔王さまと半身さまの仲がよろしいのは我々四天魔にも喜ばしいことですので」
最初の晩餐会的な厳かな雰囲気が一転、自分の体の危機を案じて訴える俺と企むような悪い顔で手を掴んで離さない魔王との攻防を山羊さんと赤髪と仮面とクルトの四人は(生)温かい目で見守っていた。
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