ホスト異世界へ行く

REON

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第九章 魔界層編

居場所

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「一匹の時でも危険だというのに無謀な」

先に建て終えていた上官用天幕の中、本音発表会になった経緯を俺やリュウエンから聞いた魔王は溜息をつく。

「祖龍の危険性は重々承知のはず。半身さまと親しくしているのだから自分のことも襲わないと思ったのでしょうか」

呆れ顔の魔王の話が止まって一緒に報告を聞いていた山羊さんも首を傾げる。

「いや。単純に人族にできて魔族にできないはずがないという負けん気で近付いたのだろう。半身が襲われないのは種族の優劣ではなく祖龍たちが心を許しているからだというのに」

魔王が言うそれが正解だろう。
自分たちは近付くことすらできないのに、魔族より劣るはずの人族が戯れてることが納得できなかったんだと思う。
祖龍に関してはどうして俺に心を許してくれてるのか見当もつかないけど。

「どうも人族を甘く見ている者が多いことが気にかかる。たしかに人族は魔族よりも体が脆く寿命も短いが、それを補うだけの知恵や強い心を持っていることは言い伝えられてきた。大切な者を守るために身命を賭して食らいつく人族を甘く見ている者は天地戦で早々に命を落とすだろう」

そういう考えを聞くと魔族の王なんだなと思う。
先人たちが遺してくれた大切な教えをしっかり学んで見た目に惑わされることなく相手を冷静に判断している。
自分たちの力を過信して戦う相手を舐めているような愚王には民を守ることなどできない。

リュウエンが隣で俺を見上げたことに気付いて顔を見ると複雑そうな表情をしている。
天地戦で戦うことになる人族と同じ種族の俺の立場を考えたんだろうと察して苦笑で応えた。

「半身の件では罰しないが他は別だ。勝手な判断でリュウエンたちを断ったという城仕えは倉庫番に任を下げろ。一使用人に決定権を与えた覚えはない。明らかな越権行為だ。忠告を聞かず祖龍に近付いた者たちは祖龍の狩りに場に連れて行け。気易く近付ける存在ではないと嫌でも思い出すだろう」
「仰せのままに」

俺に喧嘩を売ったことと城仕えの役目を逸脱したことは別。
そこは魔王城の長である魔王が決めること。

「予定外のことで時間をとられた。すぐに作業を行う」
「はっ」

処分内容などはそこそこに魔王は椅子から立ち上がる。

「俺も手伝う」
「お前はここに居ろ」
「体温調節ができたから俺も手伝える。元々手が足りてない上に決闘で時間が押したし、一人でも多い方がいいだろ?」

天幕に居ることにしたのは外に出るのが危険だったから。
でも調整アジャストメントが使えたんだから俺にも手伝える。

「人族なのに調整アジャストメントが使えるの?」
「う、ううん。俺が使ってるのは人族のスキル」
「ああ、そうなんだ。精霊族はスキルの数が多いもんね」
「今まで使う機会がなくて覚えたことすら忘れてたんだけど、フラウエルから調整アジャストメントの話を聞いて思い出した」

危ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
すっかり忘れて「うん」って言いそうになった!

「駄目だと言っても聞かないのだろう。好きにしろ」

あれ?怒ってる?
リュウエンと俺のやり取りを聞いたあと、魔王はそれだけ言って天幕から出て行く。

「半身さまのお体が心配なのだと思います」

何で急に怒ったのかと不思議に思っていると山羊さんが苦笑で言って魔王のあとを追った。

「心配しなくても調節できるのに」
「竜人界は突然魔素が不安定になるから魔法はもちろん魔法じゃない調整アジャストメントでも解けちゃうことがあるの。そうなったら人族の体じゃ寒さに耐えられないから心配なんじゃない?」
「そうなのか」

そう言えば以前俺が竜人街に拐われて来た時に気配(魔力)が感知できなくなって肝が冷えたと言っていた。
感知を遮断されるとかなんとか。
属性の一つを使うのに調整アジャストメントは魔法じゃないというのがよく分からないけど。

「竜人族は元々魔法が使えないから不安定でも関係ないけど、普段魔法に慣れてる人は別。他の場所では万能の属性魔法や性質能力も竜人界では万能じゃないって覚えておいて」
「分かった。教えてくれてありがとう」

魔素の状態によって左右されることは分かった。
たしかに魔法の変わりに言の葉(言霊)の使える竜人族だから問題なく暮らせる場所ではあるようだ。

「私たちも行こ。魔王さまを待たせる訳にいかない」
「うん」

天幕を出ると既に作業に携わる城仕えが並んでいて、手招きするクルトの隣にリュウエンと行って魔王の指示を聞いた。


中腹にあるこの場所より上で弱層を固める班の方には山羊さんと仮面とクルトの他に魔凍属性を持つ城仕えが数人。
その他の人はここに残って交換で除雪(手作業)を行う。

「下がっていろ」

平地のここが雪崩の終着点となり山になっている雪。
作業をする城仕えたちを下がらせた魔王は魔炎属性の闇色の炎を対象操作で使って雪山を溶かす。

「これわざわざ手作業する必要あるのか?洞窟の中の雪も魔法で溶かした方が早そうだけど」
「それが、洞窟内は魔素が阻害されているのでまともに魔法が使えないのです。魔法の威力を上げれば辛うじて使えないこともないのですが洞窟が脆いために崩れてしまいますし」
「だから中は手作業なのか」

赤髪から事情を聞いて納得する。
魔王の魔炎で溶けて行く雪山を見て洞窟内になだれ込んでいるだろう雪も魔法で溶かした方が早いだろうにと思ってたけど、それができない場所だから手作業でやるしかないと。

「洞窟内が頑丈でも手作業しただろうけどね」
「なんで?」
「魔王さまは簡単にやってるように見えるけど、実際にこのレベルの魔法を使い続けるのは物凄い魔力量を使うもの。今は特に月喰つきばみの影響で魔素が不安定な時期だからなおさら」

リュウエンから言われて魔王を見る。
そうか。強い魔力だと見える俺の目に闇色の魔力が見えているということは、炎の威力は地味に見えてもかなりの魔力を放出してるということだ。

「シンもさっき魔法を使ってたけど普段使う魔力量よりも多かったはず。あのあと数値の確認はしてないの?」
「うん。いつも体感で残量を判断してるから確認しない」

見 て も 7 で す か ら 。
制限解除されてる時に見てもアスタリスクだし、それが分かってからはという習慣がなくなった。

「私はあまり魔力値が高くないので魔王さまの補助ができず心苦しいです。クラウスなら役に立てたと思うんですが上は上で早急に弱層を固める必要があるので」

そう言って少し暗い表情をしてる赤髪。

「ウィルには洞窟内の除雪を期待してるからこっちに残って貰ったんだろ。マルクさんは指揮官、クラウスさんは魔法、クルトは両方の連絡役。で、ウィルは剛腕。四天魔の四人を信頼してるからこその振り分けだと思うけど」

リュウエンの話を聞く限り魔力量をかなり消費することになるだろうから、洞窟内の作業を任せられる赤髪に残って貰ったんだと思う。

「ここは俺が手伝ってくる。ウィルは期待されてる洞窟内の作業に集中できるよう力を温存しておいてくれ」
「半身さまがお休みください」
「大丈夫なの?かなり魔力消耗してそうなのに」
「大丈夫。フラウエルと比べたら雲泥の差だろうけど俺も割と魔力量はある方だから」

心配する赤髪とリュウエンに笑って答えて作業を眺めている城仕えの間を縫って魔王のところへ行く。

「手伝う。二人の方が魔力の消費を抑えられるだろ」
「下がっていろ。崩れてきたらどうする」
「閉じこめますけど?空間魔法で」
「竜人界は咄嗟の魔法が使えない時も」
「聞いた。フラウエルも危険なのは同じだろ」
「俺は埋まったところで死にはしない」

魔炎は絶やすことなく文句を言う魔王。
埋まったところで死なないというのが事実だから恐ろしい。

「じゃあもしもの時は俺もついでに助けてくれ」
「わざわざ手間を増やすな」
「フラウエルが魔力切れになった方がみんな困るだろ」
「心配だから言っている。人族の体は脆いだろう?」
「心配してくれてありがとう。でも、出来ることでも人族だから駄目ってのは過保護だ。城仕えと違って悪意がないだけで、俺が人族なことを一番舐めてるのはフラウエルだと思う」

心配してくれることは素直にありがたいと思う。
人族は魔族よりも体が脆いことは事実だし何かあれば手間になると思われても仕方ないけど、俺にも協力できることなのに大人しく眺めていられない。

「魔王さま。すぐに邪魔者は下がらせますので」

背後から俺の腕を掴んだのは城仕えの男(見た目)。
大事な話をしてる最中だったのに魔王に媚を売るのは別の機会にしてくれ。

「人族が魔王さまと同じことが出来るなどと思い上がる」
「貴様、誰に許可を得て半身さまに触れている」

何か言い途中だった城仕えの首を掴んだのは赤髪。
一瞬で城仕えの背後に転移してきた赤髪の殺気が痛い。

「ウィル、大丈夫。俺が作業中に話しかけたのは確かだから邪魔者って言れるのは仕方ない。ただ、近くに居ると崩れた時に危ないから下がらせておいてくれるとありがたいかな」
「仰せのままに」
「ありがとう」

下がれと言われてもまだ居るんだから、作業をしてる魔王の傍でチョロチョロしてる人族にしか見えなくても仕方ない。
赤髪が城仕えを連れて転移したあと溜息が洩れる。

「地上に居れば見知らぬ能力を持った人外扱い。魔界に居れば脆弱な人族扱いか。ほんと暇を持て余した神々さまさまだな。この世界のどこにも俺の居場所がない」

地上層でも魔界層でも半端者。
地上層では恐れられ魔界層では見下される。
この世界のどこに行こうとも俺に居場所はない。

「半身」
「話はもういい。何かあっても自己責任だから助けてくれる必要もない。作業にだけ集中してくれ」

【ピコン(音)!特殊恩恵〝不屈の情緒不安定〟の効果により全パラメータのリミット制御を解除します】

魔王の話を遮って魔炎属性の炎を対象操作で出そうと魔力を手に集めると中の人の声。
制御が解除されたってことは、魔王がやってることは普段の俺の魔力量では真似出来ないほど消費が多いってことか。

魔王とは少し距離を置いて雪山を溶かす。
先に下の方を溶かしてしまうと上が崩れてしまうから炎の威力を調整しながら上の方から徐々に溶かして行く必要がある。
猛吹雪で降り積もっている層と昨日起きた雪崩の層で雪の固さが違うから地味に威力調整が厄介。


二人がかりで雪山を溶かし続けて数十分。
ようやく洞窟の出入口が姿を現した。
思っていた以上にその洞窟は大きく、出入口を塞ぐほどに雪崩込んでいる雪の量もかなりの量になりそうだ。

「これだけ低くなればもう大丈夫じゃないか?あとはみんなが作業し易いよう出入口周辺の雪だけ除雪しておけば」
「ああ」
「んじゃ後は空間魔法で」

巨大な雪山を丸ごと消すのは無理だけど、2・3メートルほどになった今の状態なら空間魔法でも消すことができる。
先に魔王へ確認してから残りの雪山や作業の邪魔になる洞窟付近に積もった雪をキューブに閉じこめ、手のひらサイズまで縮小させて握り潰した。

「お終い。お疲れ」
「相変わらずデタラメな魔法の使い方をする」
「ん?」

魔王は自分の肩にかけていたショールを外して俺の肩にかけてくれながら苦笑する。

「空間を縮小させて閉じ込めた物を消滅させるなど想像力と属性レベルと魔力量の高さが揃っていなければできない」
「フラウエルもやろうと思えばできるだろ」
「魔王の俺にはできるかも知れないが、人族よりも魔力量の多い魔族でも真似出来る者は数人居るかどうかだろう」

そう話しながら頬に触れた手からさり気なく魔力を送ってくれている魔王は過保護。
制限が解除されていたからこのくらいの消費量なら大丈夫なのに心配症すぎて笑いが洩れる。

「ありがとう。ただ先に指示をしないと。洞窟内で作業をする人たちが寒い中を待ってるから」
「そうだな。ウィル」

名前を呼ばれてすぐ転移してきた赤髪に魔王は洞窟内での作業工程を指示する。

「中での力作業はウィルの剛腕が頼りだ。俺と半身は魔力回復のため一旦天幕へ下がるが回復後はまた手伝う。それまではウィルの判断で城仕えを交代させながら作業をしてくれ」
「お任せいただけるなど光栄の至り。かなりの魔力を消費なさいましたので半身さまとごゆっくりお休みください」
「ああ。頼んだ」

赤髪が少し嬉しそうで和む。
剛腕を頼られてるからこそ四天魔の中で一人ここに残されたことが分かって安心できただろう。

「みなはウィルの指示に従うように」
『はっ』

作業待ちしている城仕えに言った魔王は俺の背中に手を添えて歩き出したかと思えば、さっきの城仕えの姿を見つけてまた足を止める。

「勘違いをするな。俺が半身に下がるよう言ったのは俺と同じことが出来ないからではなく身を案じてのこと。半身の能力が高いことは他でもない俺が一番よく知っている。気易く触れたその腕を切り落とされずに済んだことを光栄に思え」
「は、はっ。申し訳ございません」

あの時はウィルが止めに来たから何も言わなかったけど内心穏やかではなかったみたいだ。

「俺が半身を心配に思うのはそれほどに大切な存在だからだ。お前たちのように人族を甘くみて見下している訳ではない。先程の半身の戦いを見てもなお人族を甘くみているような力量も分からない無能な魔族が天地戦に勝てると思うな」

魔王に冷たい目で見られた城仕えたちはすくみ上がる。
魔族にとって魔王はそれほどに恐ろしい存在なんだろう。

「足を止めさせて悪かった。戻ろう」
「うん」

再び背中に手のひらを添えられて天幕に戻った。

「すぐに温かいスープを用意するから」
「それは後で貰う。こちらに来い」
「ん?」

天幕に戻ってすぐスープを用意しようとすると手を引かれてソファに座らされる。

「先に誤解を解いておきたい」
「誤解?」
「俺はお前を舐めてなどいない」

隣に座った俺の両手を握った魔王。
真剣な表情でどうしたのかと思えばそんな話。

「いや、うん。俺も悪かった。フラウエルがいう人族の体は脆いってアレは城仕えみたいな厭味じゃなくて、半身だから心配してくれてたんだよな。多分俺が魔族だったとしても何かしらの理由で心配してくれるんだと思う。何かあれば手間をかけるのは事実なのにムッとして大人気なかった。ごめん」

人族だから舐めて見下している城仕えと半身だから心配してくれている魔王を一緒に考えてはいけなかった。
四天魔もの城仕えも俺が人族だから下に見ているんじゃなく心配だから気を遣ってくれているのに、言葉だけで捉えて一緒くたに考えてしまったのは俺が悪い。

「そもそもは俺が過剰に心配し過ぎたことが原因だ。心配しているのに大人しくしない奴だと腹立たしくなり言葉も過ぎた。今後は気を付けるから許してほしい。本当にすまなかった」
「じゃあ今回はお互いさまってことで仲直りしよう」
「分かった」

本当に魔族のどこが血も涙もないのか。
人族より体も大きいし頑丈だし強者が偉い種族なのは間違いないけど、こんなにものに。
醜さも優しさも持っている。

「頬も手も冷た」
「お前も人のことは言えない」
「それでも凍えずに済むのは調整アジャストメントさまさまだな」
「竜人界では過信するなよ?」
「分かってる。今度こそスープを用意するから温まろう」
「せっかく二人きりだというのに」
「なにをする気だったんだ」

互いに謝って触った頬が思った以上に冷たくてスープの用意をしようとソファから立ち上がると魔王は舌打ちする。
魔力回復のために戻ってきたはずなのに何を企んでたんだ。

「あ。ラヴィたちにもスープをあげたいんだけどいいか?」
「構わないが、みなの分は残るのか?」
「俺が作ってきたのはフラウエルと四天魔と俺の分の食事だけだから。魔王城の料理人の仕事をとったら悪いだろ」
「そういうところはしっかり考えているんだな」
「俺が何も考えてないアホのように言うな」

異空間アイテムボックスから寸胴を出しながら文句を言う俺に魔王はそれを受け取ってくれながら笑い声を洩らす。
失礼な奴だ。

「魔道炉を持って来たのか」
異空間アイテムボックスから出したらすぐに冷めるだろうから持って行った方がいいって料理人たちが貸してくれたんだ」
「他の料理人とは上手くやっているようだな」
「うん。料理人の中で俺に嫌がらせしてたのはあの人だけだったんだと思う。今朝手伝ってくれた料理人たちは以前も手伝ってくれたし、今日も色々と親切に教えてくれて助かった」
「そうか。それを聞いて安心した」

たくさん雇われている中にはあの料理人が追放されたことで大人しくなっただけの人も居るのかも知れないけど、もう問題さえ起こさずにいてくれるなら構わない。

「この香りジャンジャか」
「正解。体を温める食材にした」
「よい香りだ」
「食事の時のスープはポタージュにしたから」
「楽しみにしている」

ジャンジャ=ジンジャ(生姜)。
魔道炉(コンロ)の上に寸胴を置いて貰って魔力を流す。

「この香りを嗅ぐとまた刺身?を食べたくなる」
「あ、あの時に出した薬味の一つだから思い出したのか。次こそは寿司を握るから。お酢を買いに行かないと」
「ああ。月喰つきばみ期が過ぎたら魔人街へ行こう」
「うん」

魔人街へ買い物に行った時に生で魚が食べられることを聞いて魚をとって帰ったは良かったけど、この世界の米に合うお酢が魔王城にはなかったから寿司は断念して刺身だけを作った。
一年以上ぶりの刺身も美味かったけどやっぱり寿司も食べたいから、月喰つきばみ期が終わったら食料庫の買い出しのついでに連れて行って貰う約束をしている。

「はい。フラウエルの分」
「ありがとう」

鶏のつくねと根菜と卵と生姜のスープ。
スープ用のカップに装って念のため鑑定で確認してからスプーンと一緒に渡して二人でまたソファに座る。

「美味い。四天魔も喜ぶだろう」
「口に合って良かった」

側近だけあって四天魔は魔王にとって特別な存在。
信頼しているし心を許しているし大切にしている。
敵の精霊族はもちろん味方の魔族からも恐れられる孤独な魔王だからこそなおさら四人を特別に思うのも当然だろう。

「半身」
「ん?」
「先程この世界のどこにも居場所がないと言ったな」

そう言われて口に運びかけてたスプーンを持つ手を止める。

「暮らしている層や土地というのはそんなに重要か?場所ではなく誰と居るかの方が重要だと思うが。それでも確かな居場所が欲しいというのなら俺の半身という席にしておけ。そこは生涯揺らぐことのないお前だけの場所だ」

無表情でナチュラルに激甘な言葉をはく魔王。
それが魔王らし過ぎて笑ってしまう。

「そっか。たしかにあったな。俺の居場所」

どちらかの命が尽きるまであり続ける居場所。
どこに居ても、何をしていても、互いが生きている限りは変わらない。

「居場所はそこだけではない。この先俺が敗北して半身ではなくなったとしても、お前には慕い待っている者たちが居ることを忘れないようにな。煩わしさのない孤独な居場所より、煩わしくても大切な者が居る居場所の方が価値があるだろう」

さすが三百年以上の年月を生きている魔王さま。
言葉に重みがあり過ぎてシンドい。
たかだか二十年程度生きただけの俺にはまだそんな達観した景色は見れない。

「煩わしくても大切な人の居る場所の方が価値があるって言っても、俺からその価値のある居場所を奪うんだろ?勇者を倒して地上の精霊族が滅ぶか、フラウエルが負けて魔界の魔族が滅ぶか。どちらにしても奪われる」

残るのは片方だけ。
半身のフラウエルや親しくしてくれる魔界層の人たち。
同郷のヒカルたちや親しくしてくれる地上層の人たち。
どちらもという選択肢はない。
どちらが勝っても必ず片方は失ってしまう。

「すまない」
「この世界の人たちは馬鹿だ。争いを繰り返して得られた平和なんて束の間の休息期間でしかないのに。束の間の休息期間のあとはまた次の争いが始まるのに。自分たちの手で作って壊してを繰り返して何がしたいんだ」

魔王に言ったところでどうにもならないことは分かる。
魔王も魔界層の人たちを守る責任があることも分かる。
ただ、報復を繰り返すだけの争いで大切な人を失うことに納得などできない。

「お前がいう通り俺も含めてこの世界の者は愚かだ。いっそどちらも滅んでしまうことが最善策だろう。だが俺には全ての生命を滅ぼすほどの力はない。例え俺一人の首を差し出すことで争いを収めようとも生き残った者がまた争いを始める」

終わらない報復合戦。
勝利という希望があるから争いは終わらないのだろうか。
全ての生き物が死に絶えることになる世界の終焉を迎える絶望感を味わえば自分たちの愚かさに気付くのだろうか。

「……耳鳴り」

耳の奥でキーンと鳴る音。
同時に頭がズキっと痛む。

「どうした。体調が悪いのか?」
「いや。もう平気。一瞬耳鳴りと頭痛がしただけ」
「やはりお前に月喰つきばみの寒さは負担が大きいのかも知れない。ラヴィに城へ送らせよう。帰って休め」

慌てた様子で俺をキルトで包む魔王。
今の今まで深刻な話をしていたのに別の意味で深刻な表情になっている。

「本当に大丈夫。もしかしたら標高が高い山だからかも」
「山の高さが体調に関係するのか?」
「え?魔族はないのか?高い山に登ると耳鳴りすること」
「ない」
「頑丈ですね」

飛行機に乗ったり高い山に登ると耳鳴りや耳が詰まったようになるのは珍しいことじゃない。
ずっと続くようなら問題だけど、本当に一瞬でもう何ともないから大丈夫だろう。

「なあ、フラウエル」
「なんだ」
「色々と言ったけど、自分の首で争いを収めるようなやり方は辞めてくれ。生まれて二十年程度の俺はまだ三百年も生きてるフラウエルのように達観できないから。そうなれるまであと数百年は待ってくれ。それまで一緒に居てくれないと困る」
「珍しくしおらしいことを言う」

深刻な表情だった魔王は俺の話でくすりと笑う。

「フラウエルから言われて俺が居る場所が俺の居場所だってことを思い出した。地上でも魔界でも色々なことが続いたから知らず知らずのうちに心が弱ってたのかな。多分」

切り替えの早さと適応力が俺の持ち味なのに。
それが追いつかないくらい沢山のことが続いた。

同郷のリサのこと。
親しくなったロザリアのこと。
多くの亡骸が転がる悲惨な光景。
地上の人たちには恐れられ目をそらされ、魔王城の人たちからは見下した冷たい目を向けられる。

この世界に俺の居場所なんかない。
なんて、魔王に振り回されるなと言った俺自身が一番ノイジーマイノリティに振り回されていたんだから情けない。
地上にも魔界にも俺という存在を認めてくれる人は居るのに。

「半身の俺の前では無理に取り繕う必要はない。弱音も存分に話すといい。十のうち五は聞いてやる」
「そこは十聞くって断言……いや、やっぱ半分でいいや。十聞いて貰ってたんじゃ俺が一方的にフラウエルに凭れかかってるだけだもんな。そんなお荷物な関係は嫌だ」

弱音を聞き続けるなど俺が逆の立場でも重荷。
一方が頼るばかりの関係なんて肉親であろうと嫌だ。

「フラウエルも弱音や愚痴を言いたくなった時は話してくれ。俺も十のうち五は真剣に聞くから」
「そうしよう。半身だから半分ずつだ」

頼るのも頼られるのも半分ずつ。
それならどちらか一方の重荷になることもない。
ぶら下がるのではなく一緒に歩ける関係が理想。

「お休みのところ失礼します。急ぎご報告があります」
「クルトか。入れ」

天幕の外から聞こえてきた声。
弱層の補強に行っていたはずのクルトが入ってきた。

「頂の天候が変わったか」
「はい」
「分かった。クルトはこのままここに残って作業の指揮を。俺とウィルが祖龍を連れて頂へ向かう」
「はっ。仰せのままに」

クルトの報告が何かは分かっていたらしく魔王は話しながらもポールハンガーに掛けていたケープをとって羽織る。

「大人しくしていろと言っても無駄だろうが、手伝うにしても体調を見ながら行うように。疲れたらすぐに休め」
「うん。魔力回復してないけど大丈夫なのか?」
「天候が変わったのならもうまともに魔法は使えない」
「そうなんだ。でも一応魔力を少し分けておく」

俺も魔力を使ったから大量には渡せないけど『まともに』ってことは全く使えない訳ではなさそうだから、陣地を離れることになる魔王は少しでも回復しておいた方がいいと判断して口から直接魔力を送った。

「譲渡が最期の口付けになるような無理はするなよ」
「分かってる。フラウエルも気を付けて」
「俺を誰だと思っている。雪に負けるはずがないだろう」
「フラグのような台詞を言うな」

指示をする二人には先に出て俺も魔道炉を消してから調整アジャストメントを使いケープを着て外に出る。

「うわ……ここも酷くなってる」

今まで天幕の中に居たから気付かなかったけど、頂だけでなく平地のここも吹雪が酷くなっていて視界が悪い。
洞窟前の除雪は終わってて良かった。

「みんな寒くないか?今からみんなにも頂の方の作業を手伝って貰うらしいからスープは戻ってきてからな。猛吹雪で視界が悪いけど怪我しないよう気をつけるんだぞ」

魔王やクルトが赤髪と話しているのを見て邪魔をしないよう祖龍たちの所に行って話しかけると、交互に言葉代わりのツンツンで返事をする。

「不思議なものだ。俺や四天魔の眷属だけでなくまだ若い祖龍たちまでこれほど懐いているとは」
「もう指示は済んだのか?」
「ああ。天候が変わった頂も手作業になるからウィルを連れて行くが、なるべくクルトと一緒に居るようにな」
「分かった」

それだけ急を要するということなのか早々に指示を済ませてきた魔王のチークキスにチークキスで応える。

「ウィルも連続の力作業で大変だけど気を付けて」
「ありがとうございます。半身さまもお気を付けて」
「うん。ありがとう」

視界は最悪の中で眷属のラヴィとノブルに乗る二人。
祖龍は視界が悪くても関係ないらしいから魔法が使えない状況でも行き帰りは安心。

「では行ってくる」
「行ってらっしゃい」

祖龍たちを引き連れて飛びたつ魔王と赤髪を見送った。

 
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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