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第十章 天地編
禁断の能力
しおりを挟むブラジリア集落の慰問を終えた翌日の早朝。
珍しく寝室まで呼びに来たディーノさんの慌てた様子を見て上着だけを羽織り急いで屋敷の庭に出てきた。
「……ぇぇぇえええ!?」
集まっていたのは庭師や使用人たち。
普段は鉄仮面の使用人たちすら困惑を隠せないのも分かる。
俺にも何が起きたのか分からない。
「シンさま、一体これは」
「昨日埋めたばかりのはずですが」
「う、うん。俺が昨日帰って来てから埋めた」
一足遅れて走って来たエドとベル。
二人もありえないその光景を見て驚く。
「立派な大樹だ」
「面白い形の花や果実ですね」
「白い木の実など初めて見ました」
「驚いてるところに驚かせるな!」
スッと転移してきたのは魔王とクルトと赤髪。
魔王や四天魔が屋敷に転移魔法で入って来るのはいつものことだからか、それに関しては俺以外全く驚かなかったみんなのメンタルの強さと適応力に感心させられる。
「一昨日まではここに何もなかった気がするが、わざわざこの大樹を庭まで運んで来て植えたのか?」
「ううん。俺が昨日植えたのは小枝」
「昨日?小枝?」
「うん。10センチくらいの小枝。昨日夕方近くに慰問から帰ってきたあと庭師に穴を掘って貰って埋めた」
庭師も最後まで見ていたしエドとベルも一緒に埋めたんだから場所はここで間違いない。
驚くことに昨日女王から渡された妖精の女王(正式には星の樹)の小枝がたった一日で大樹になり花と実をつけていた。
「成長魔法でも使ったのか?」
「そんな魔、……あっ!そういえば使った!試しに!」
そんな魔法など知らないけど、たった一日で育った大樹をごまかしようがなく魔王の発言に全力で乗っかって答える。
「一日でここまで育ててしまっては実った果実は期待できそうもないな。お前はもう少し加減を覚えた方がいい」
「す、すみません」
いや本当は使ってないけども。
呆れたようにいう魔王に謝る。
「そのような魔法があるのですか?」
「不毛の地で植物を育てることの出来る成長という魔法で本来は毎日少しずつ成長させていくのが基本だが、自分の魔法の威力も考えず加減なくかけて急成長させてしまったんだろう」
「左様でございましたか。私どもの知識不足でお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした」
「う、ううん。俺の方が驚かせてごめん」
賢者(だと思っている)魔王から説明を聞いてみんなも納得したようで、騒がせたことを謝るディーノさんに今すぐにでもスライディング土下座で謝りたい気分。
「これからは半端な知識で行わないことだな。こうして知らぬ者を驚かせてしまうことももちろんだが、急成長させては栄養も甘みもない実になってしまう。勿体ないだろう」
「はい。反省します」
魔法はかけてないけど半端な知識で星の樹を庭に埋めたことは反省します。
「異変ではなかったようですので私どもは仕事に戻ります。お休みのところをお騒がせして申し訳ございません」
「ううん。朝の忙しい時間をとらせて逆に悪かった」
「とんでもないことでございます」
みんながそれぞれの持ち場に行くのを見届けホッと息をつく。
「本当に成長魔法などあるのですか?」
「精霊族はどうか分からないが魔族にはある。ただし、毎日少しずつ育てていくのではなく少しずつしか育たないというのが正しい。半身の慌てようを見てまた本人も予期せぬ何かが起きたんだろうと思い少し偽りを混ぜた」
「なるほど。助かりました」
「ありがとう!本当に!」
魔王から話を聞いたエドも感謝を口にして、空気を読んでのそのありがたい機転に俺も感謝する。
「成長を使わずに一日で育ったということですか?」
「うん。みんなには話しておくけど、この星の樹は祖、いや、星の大妖精がくれた依り代の一部なんだ」
『星の大妖精?』
魔神にすら会ったことがある魔王たちには妖精の存在を隠す必要もないから昨日の慰問先であったことを説明する。
「珍しい樹だとは思ったが神の樹とは」
「空気が澄んでいるのはこの樹が理由でしょうか」
「そういえば今日は少し体が軽い気がします」
「地上は魔界よりも自然が少ないぶん魔族にとっては空気が汚れていると感じるが、今日の屋敷はたしかに澄んでいるな」
精霊神から見せて貰ったから祖の存在を知っている魔王は別として、神の姿は見たことがあっても祖については全く知らないクルトや赤髪もすんなり信じてくれた。
「昨日実をいただいた時に体が軽くなったように感じたのはやはり気の所為ではなかったんですね」
「うん。俺の特殊鑑定で実を調べたら神族以外の人には怪我や病を治癒する効果があるって結果が出た」
「病まで?上級ポーションの成る木ではないですか」
「だから集落の住人のカムリンの前では話さなかったし、食べたことも俺たちだけの秘密にしようって言った。知れば命懸けで泉を渡る人が現れてもおかしくないから」
「たしかに」
悪事を企んで渡ろうとする人はもちろん誰かを助けたい一心で実を欲しがる人も居るだろう。
泉を渡れる人は居ないと分かっているのにそこにあると希望を持たせてしまう方が残酷だ。
真実は俺たちの胸の中だけにしまって、今まで通り集落の住人たちの憩いの場やご神木としての存在である方がいい。
「この実は美味いのか?」
「もしかして狙ってる?」
「神の樹になる実と聞けば興味がある」
ジーッと星の実を見上げる魔王。
病には滅多にかからない魔族には治癒効果うんぬんより単純に味が気になるんだろう。
「星の樹を依り代にしてる女王曰く星の実は魂に穢れがある人が食べると毒になるらしい。エドとベルは女王に確認したから食べても平気だってもう分かってるけど、他の人の生まれ持った魂の穢れなんて俺には調べようがないからな」
魂の穢れなんて見た目では分からない。
食べたいならあげたいけど万が一のことがあったら怖い。
「四天魔に魂が穢れている者はいない」
「え?あ。ここにも魂色の見える人が居た」
「ただ、自分の魂色は見えない」
『あー……』
一番食べたがっている人の魂色が分からないという。
( ˙-˙ )スンッとした魔王を見て少し可哀想になってしまう。
「うーん。女王に聞けたら良かったんだけど」
【創造主の対の魂に穢れなど有り得ません】
女王の声が聞こえたのと同時に星の樹から光の玉がニュッと出できて吹き出す。
「これは以前見た祖か。これが大妖精なのか?」
「いやなんでそんな冷静!?突然樹から出てきたのに!」
「自分が大妖精の依り代の一部だと俺たちに話して聞かせたのだろう?依り代から出てきて何を驚く」
「え。魔族すげえ」
俺とエドとベルは驚いたのに、依り代と聞いてたから驚きもしなかった魔王とクルトと赤髪の冷静さに唖然とさせられる。
【依り代があれば思念体を送ることができます】
「思念体?」
【分身と言えばご理解いただけますでしょうか】
「えっと……女王の本体はあの樹に居るけど、枝分けしたこの依り代を通して女王の分身を送れるって解釈で合ってる?」
【はい。正確には我の子が思念体です】
「子供たちは女王の分身なのか」
【我の力の一部だけではありますが】
ああ、何となく理解出来た気がする。
祖が始祖の力の一部から創られた存在なのと同じで、子供たちも女王の力の一部から創られたってことだろう。
創造神が始祖を創って、始祖が女王たち祖を創って、女王たち祖が祖を創った。
……うん。大妖精や妖精って言葉で表さないと、精霊神と魔神が言う祖とだけでは分類が雑すぎて混乱する。
「この光と会話をしているのか?」
「昨日拝見した女王は人の姿をしていたものの同行者の私たちがお声をお聞かせいただくことは叶いませんでしたが、シンさまだけはお声も聞こえて会話もしておりました」
「厄災の王の持つ念話のようなものか」
「そうなのかも知れませんね」
やっぱり俺以外の誰も声は聞こえないらしく、一人で喋ってる俺に首を傾げた魔王はベルから聞いて納得する。
今の俺の状況を傍から見ると光の玉に話しかけてる危ない人と勘違いされる危険性を孕んでいると。
「魂の色が見えるフラウエルがいうにはこの二人の魂に穢れはないって話だけど、女王から見ても食べて大丈夫そう?」
【そちら者たちも**の者。創造主と**で**た者に魂の穢れを持つ者はおりません】
「あーごめん。昨日に引き続き聞き取れない言葉らしい」
また役目や記憶に繋がる言葉らしく殆ど聞き取れなかった。
【まだ****ですね。**では**の**が**よう】
うん、全然聞き取れない。
これだけあらゆる部分が聞き取れないってことは、女王が話している内容は俺のあれこれに関わる重要なことなんだろう。
思い出すためにも聞き取れたら良かったんだけど。
「どうした。難しい顔をして」
「女王の言葉で聞き取れない部分が多い。言葉が分からないんじゃなくて精霊神や魔神が言ってた例の自分で思い出さないといけない内容に通じる言葉なんだと思う」
「万物の創造神である精霊神や魔神だけでなく大妖精もお前の忘れた記憶に通じているのか?」
「それは俺が始祖の力を持って……あれ?聞き取れないってことは始祖のことじゃなく俺本人のことを話してるってこと?始祖と俺と女王には繋がりがあるのか?」
俺を創造主と呼んで始祖本人のように扱ってるから聞き取れない部分も始祖に関係した内容だと勝手に思ってたけど、始祖の話をしているならどうして聞き取れないのか。
俺本人のことか俺の記憶に繋がる内容を知ってるなら、始祖や女王と俺は全く知らない者同士じゃなかったのかも知れない。
「……駄目だ。頭が痛い」
「またか。それ以上考えるのは辞めておけ。俺も余計なことを聞いて悪かった」
思い出そうとするといつも頭が痛くなる。
まるで思い出すことを拒まれているかのように。
「大丈夫ですか?」
「お部屋でお休みになった方が」
「いや、大丈夫。考えるのを辞めればすぐ治まるから」
魔王から肩を抱かれた俺を心配そうに見るエドとベルの頭を撫でる。
「ごめんな、女王。話を聞き取れなくて」
【こうしてお会いできるだけで光栄です】
「そう言って貰えると」
聞こえないことをただ話されただけなら頭痛はしないけど、その内容を理解しようとすると必ず頭が痛くなってしまう。
こんな調子で本当に思い出せるんだろうか。
「食べられるかどうかってだけでわざわざ来て貰って申し訳なかった。まさか依り代で繋がってるとは思わなかったから独り言を言っただけだったんだけど」
【創造主は我ら祖の源。いつでもお呼びください。我の依り代が御身の癒しとなりますように】
「ありがとう」
お礼を伝えるとフワフワ浮いていた光の玉は星の樹にスウっと消えた。
「みんな食べて大丈夫だって」
「俺が取ろう」
「ありがとう」
「みなにあげていいんだろう?」
「うん。みんなで食べよう」
人族の中では背が高い方の俺でも手を伸ばさないと届かない位置になっている果実に手を伸ばすと、魔力を抑えてもまだ俺より背の高い魔王が変わりにとってくれてみんなに渡す。
「見れば見るほど不思議な形と色ですね」
「星の形の果実は魔界でも珍しいのか?」
「少なくとも魔界にはありません」
「じゃあこの形の果実は星の樹だけなのかもな」
「恐らく」
「いい香りがする」
星型の果実を物珍しく見るクルトの隣で匂いを嗅ぐ赤髪。
地上でも魔界でも誰も見たことがないなら、星型の果実を実らせるのはこの世界で唯一星の樹だけなんだろう。
「味も不思議な味が」
「甘酸っぱい?変わってますけど美味しいですね」
「アプールという果実の味に似ている」
「「アプール?」」
「魔界にはない赤い果実だ。俺も以前半身の療養で地上へ来た時に一度食べただけだが味はそれに似ている」
話しながら星の実を食べる魔王とクルトと赤髪。
そういえば魔王はデュラン領で食べていた。
「ところで半身さま。このままで大丈夫なんですか?」
「ん?」
「人によって毒になる実なんですよね?この高さなら足場があれば人族でも採れますし、知らず食べる人が居そうですけど」
「……たしかに!」
赤髪から言われてハッとする。
魂に穢れを持つ人が何も知らずに食べたら危険だ。
「その心配は要らないと思います」
「なんで?」
「お屋敷のものは全て英雄公爵家の財。例え木の実一つであろうとも無断で食べようものなら窃盗犯として捕まります。少なくとも使用人でそれを知らない者はおりません」
「ああ、そっか」
エドの話で納得する。
屋敷の中の物は帳簿に付けて管理されていて、それこそティースプーン1本ですら失くなると窃盗騒ぎになる。
さすがに木の実の数まで管理しないけど、バレたら公爵家の物を盗んだ罪人になってしまうのに手をつける猛者は稀だろう。
「そもそも家の使用人はしっかりした人たちだから大丈夫だろうけど、外から出入りする人も居ることだし念のため体に害のある実だって伝えておいてくれるか?」
「承知いたしました」
あくまで念のため。
住み込みで仕えてるディーノさんたち使用人は間違っても食べないだろうけど、整備師や食材を運んで来る人など外部の人も来るのに黙っておいて毒物事件になっても困る。
「神と樹と聞いて思い出したのですが、昨日シンさまから出て来たシンさまも神のようにお美しかったですね」
「ん?俺から出て来た俺?」
果汁で汚れた手にリフレッシュをかけながらベルが言った謎かけのようなそれに首を傾げる。
「シンさまが母体と胎児へ祈りを捧げた際に現れた白と黒の翼を持つ者です。シンさまのお顔にそっくりな」
「……え?」
「ご記憶にないですか?」
「いや、覚えてるけど前髪で隠れてて顔までは見えなかった」
「私もシンさまのお体から出て来た際に少し拝見しただけではありますが、シンさまのお顔でした」
白と黒の翼が生えた白装束の神。
俺の方を向いた時には前髪で隠れてたけどベルはその前に見たらしく、俺の顔だったと聞いて驚かないはずがない。
「俺の顔だったっていうことにも驚いたけどベルにも見えてたことに驚いた。母体の傍に居た医療師やホルストが何の反応もしなかったから俺にしか見えてないんだと思ってたのに」
「え?私はてっきり母体が目覚めたことの方が重要でそれどころではなかったのかと」
「いやいや。流石に翼が生えた人が現れたら驚くだろ」
「ええ。ですから私は驚きました」
天 然 ち ゃ ん 炸 裂。
目の前に居るのにみんな無反応だったから他の人には見えてないんだと思って触れなかったんだけど。
「シンさまのお体から出て来たの?」
「うん。シンさまが母体に祈りを捧げ始めたらお体が光って。その光が白のご衣装を身に纏った長い髪のシンさまのお姿に変わったの。母体のお腹に触れた後はシンさまに触れて吸い込まれるように消えたけど」
エドから聞かれて具体的に話すベル。
俺は祈りの時に瞼を閉じてたからベルの声で瞼を開けてはじめて存在に気付いたけど、あの神はそんな風に姿を現したのか。
「身に覚えは?」
「身に覚え?」
「ただ祈りを捧げたら現れたのか?」
「可能性としては特殊恩恵かな。あの時に特殊恩恵が発動したんだけど、初めて聞く効果だったから多分それ」
特殊恩恵〝神力〟による癒しの光という効果。
あれが何の神だったのかは分からないけど、現れたタイミングを考えれば特殊恩恵の発動が関係していると思う。
「大天使を召喚したあの時と同じか?」
「いや。もし召喚したなら中の人がそう言ってるはず。大天使の時や急襲の犬の時にも召喚って言葉を使ってたから」
「ふむ」
人為スタンピードの時の精霊シェルと霊魔ヘル。
急襲の時の霊魔獣底無し穴の霊。
どちらの時も中の人が『神魔特殊召喚』と言っていた。
「多分だけど召喚されてくる大天使や武器は神々が作った実在するもので、他の時は術者の俺が見たことある姿形になるんだと思う。今回は召喚された訳じゃないから俺が一番よく知る自分の姿が影響されたんじゃないかな。恩恵を使うと見たことがある絵画や神像のフォルテアル神の姿になるように」
召喚されてくるのは俺が見たことのない大天使や犬や刀。
恩恵はアベルたちが描いてくれたフォルテアル神の姿。
今回は召喚されたものじゃないから俺が最も知っている人物の自分の姿が形になったと考えるのが妥当。
「容姿の真相は分かりませんが、シンさまのお姿のそれは少なくとも神のようではなく神だったのだと思います。そうでなくては心停止した嬰児が蘇生できた理由が説明できません」
「心停止の状態から蘇生させたというのか?」
「自分はその場におりませんでしたが、医療師が申すにはシンさまが抱くまで間違いなく止まっていたと」
エドから話を聞いた魔王は俺を見る。
それが事実なら有り得ないことが起きたということだから、どうなんだと伺うような表情になるのも仕方ない。
「心停止してたことは間違いない。話を聞いて俺が行った時にはもう既に心停止してたし、その後も母体が回復するまでに時間がかかったから手遅れの状態だった」
俺が行ってから産まれるまでに少なくとも二時間近く経っていたから医療師が蘇生処置をしようと助かる命ではなかったし、仮に蘇生してもそれだけの時間が経過していて体に何の異常もないなんて有り得ない話だ。
「ただあの時はどうしてなのか分からないけど蘇生できる確信があったんだ。自分が有り得ないことをしたって気付いたのは後々になって状況報告をしてる最中。自分の口で説明するまではそのことになんの疑問もなかった」
有り得ないと気付いたのは長や領主に報告していて。
それまでは何の疑問もなかった。
まるで蘇生して当然かのように。
「フラウエルの能力の話をした時に、死は神以外に操れる者なんて居ない方がいいって言ったことを覚えてるか?」
「ああ」
「誰も知らない特殊能力を持ってこの異世界に召喚されて誰も知らない様々な能力を覚えてきたけど、とうとうその超えたらいけない最後の一線まで超えたみたいだ」
死んだ人は生き返らない。
それが俺の居た世界でもこの世界でも常識だった。
それが当たり前だと思うし、死というものがあるからこそ人は必死に生きようとするんだと思う。
でも俺の能力は遂にその超えてはいけない一線も超えた。
「以前精霊神や魔神が話してくれた、特殊恩恵や恩恵は自分が元から持ってる素質が解放されるだけってのが真実なら、人の命を操る領域にまで足を踏み入れた俺は何者なんだろうな」
人が持ってはいけない禁断の能力。
死者を生き返らせる力なんて人が持っていい力じゃない。
それは万物の創造主である精霊神と魔神の領域だ。
「愚問だな」
そう言って魔王は鼻で笑う。
「考えるまでもなく何者かなど答えは出ているではないか。どのような力を得ようと例えそれが神の領域の力であろうとお前はお前だ。俺が魔王の力を持つフラウエルという者であるように、お前は神の力を持つ夕凪真という者なだけだろう」
星の樹を見上げたまま事も無げに言った魔王。
そのいつもと変わらない表情につい笑い声を洩らすと魔王は不思議そうな表情で俺を見る。
「君は何一つ変わっていないな」
「なんだ急に。そんな呼び方などしたことがないだろう」
「え?今のなに?」
「ん?」
今のは俺が言ったんじゃない。
いや、間違いなく俺が喋った言葉ではあるけど、自分の意志とは関係なく勝手に口が動いた。
「勝手に口が動いて喋った」
『…………』
そう説明するとみんなは真顔で口を結ぶ。
「シンさまお疲れですか?」
「半身さま、お部屋でお休みください」
「医療師をお呼びします」
「クラウスに診させよう。クルト、呼んで来い」
「はっ」
「ま、待った!」
真顔だったみんなが一斉に慌てはじめ魔王から抱き上げられて焦って止める。
「何ともないから!」
「何ともなくはないだろう。勝手に口が言葉を発するなど普通なら有り得ないことだ。なにかの病だったらどうする」
「体のどこにも異常はない!」
失敗した。
あんなことを言えばおかしいと思われるのも当然だ。
「……たしかに体内の異常は見られないな」
「だろ!?」
「咒などの可能性は」
「呪いの類いをかけられた者の魂色は濁っている。普段の半身の魂色をしているということはその可能性はない」
「そうですか。良かった」
すぐに魔法検査で確認をした魔王と魔王から異常がないことを聞いたみんなはホッとした表情に変わる。
事実を言っただけではあるけど、おかしいと思うようなことを言って申し訳ないことをしてしまった。
「病でも呪いでもないとなると一体」
「俺にも分からない。ただ今はこうやって自分の言葉で話せてるし誰かに操られてるような感覚もない」
改めて自分でも魔法検査をかけてみても異常なし。
勝手に口が動いたのもあの瞬間だけ。
「……様子を見るしかないか」
「うん。体に違和感もないし」
どこか異常があるなら治療が必要だけど、隅々まで調べられる魔法検査で異常がないなら様子を見る以外できることはない。
勝手に口が動いたとか奇妙な気分ではあるけど。
「本日はお休みになった方が」
「どこも悪くないのに様子見のためだけに休めない。昨日の慰問で予定を変更したからやることが詰まってるし」
心配してくれるベルの気持ちはありがたい。
ただ、体に異常があるならまだしも検査で異常もないのに休んでいられるほど暇な立場じゃない。
保護した獣人の経過報告を受けに行く予定になっているし、西区の仕事や魔界の公務もある。
「ベル。家政婦長の役目を逸脱してる」
「そういうつもりじゃ」
「シンさまが心配なのは理解できるけど、家政婦長が主人の仕事に口を挟むのはご法度だよ。それは執事の領分」
「……うん」
「自分の役割がどこまでか、もう一度よく考えて」
「ごめん」
エドから注意されてしょぼんとするベル。
前まではエドとベルの二人だけだったから曖昧だった役割も、今は他の使用人に示しがつかなくなるからという理由でしっかりと線引きされるようになった。
「心配してくれてありがとう」
使用人はそれぞれ役割が決まってることが普通だからそれに関しては口を出さないけど、ベルが俺の体を気遣ってくれたことは分かってるからお礼を言って頭を撫でる。
「どこかおかしいと感じたらすぐ言うように」
「ご無理はなさらないでくださいね」
「魔族にとっても半身さまは大切な方なので」
「うん。フラウエルとクルトとウィルもありがとう」
自分を心配してくれる人たちが居るのは幸せなことだ。
まして人知を超えた力を持っていると分かっても変わらずに接してくれるんだから、こんなにありがたいことはない。
「体調は様子見をするとして、口外は禁じたのか?」
「なんの?」
「蘇生能力を持っていることを」
「禁じてない」
「大丈夫なのか?お前が屍人を蘇生することができると知られれば生き返らせてくれと頼ってくる者が居そうだが」
「それは困るな。特殊恩恵だから自分の意思では使えないし、何を条件に発動するのかも分からない」
魔王から訊かれてそんな可能性もあることに気付く。
「心拍機がついておりましたから心停止からの蘇生だったことは誤魔化しようがありませんでしたからね」
「うん」
ベルが言う通り誤魔化すことが出来ない状況だった。
心拍機(所謂心電図)が動いていなかったことは、医療師と補助士と助産師二人とホルスト夫妻が実際に見て知っている。
「どうやって蘇生させたんだ?」
「上級回復を使っただけ。普段の上級回復に特殊恩恵で発動した蘇生の効果がプラスされた感じ。さっきも言ったように自分でも分からないけど上級回復で蘇生できる確信があった」
使った魔法はただの上級回復。
蘇生魔法なんて特別な魔法を覚えて使った訳じゃない。
「確信を持てたことに関しては特殊恩恵の発動が関係しているのでは?特殊恩恵の発動で半身さまのお顔をなさった白装の者が現れたという謎が前例としてあるのですから、荒唐無稽と思えることが確信に至ったことも無関係ではないような」
そう話すのはクルト。
「恐らくそうだろう。半身とよく似た何かが半身に吸い込まれるように消えたという獣人娘の発言から予想するに、神が憑依した状態だったとも考えられる」
「では魔王さまはその何かが神であったとお考えですか」
「実際に神だったのかは分からないが、少なくとも神の力を持った何かだったとは思っている。その者が半身の中に居たから蘇生できる確信があったのだろうと」
魔王と赤髪もそう話す。
得体の知れない何かが神という突拍子もない発想に至るのも、神の存在を当然居るものと捉えている魔族ならでは。
これが地上層の種族ならその発想には至らないだろう。
「あれは神だった。これも何で確信したのか分からないけど」
「お前がそう確信したのならそうなのだろう」
「ん?」
「お前が精霊神と魔神の寵愛を受けた者だからだ」
……神魔族だから神だと分かった、と。
たしかにその可能性は高い。
「そもそも半身さまの許には全ての頂点である魔神さまや精霊神さまが御来臨するくらいですから、特殊恩恵で何かしらの神が顕現なさったとしてもなんら不思議ではありません」
「ああ。神であっても今更驚くほどのことではない」
「他の者ならまだしも半身さまですからね」
俺だから不思議じゃないとあっさり受け入れる魔王とクルトと赤髪の会話に苦笑する。
魔族の大雑把さというかおおらかさというのは、神の力というトンデモ能力を持った俺にはありがたい性格ではある。
「上級回復で蘇生させたことは話したのか?」
「うん」
「特殊恩恵が発動していたことは?」
「言ってない。地上は犯罪者じゃない限り他人の能力を聞き出すことはタブー視されてるし、英雄の俺の能力については特に極秘だから上級回復を使ったことしか話してない」
英雄称号を持つ俺の能力は極秘扱い。
国王のおっさんや師匠のエミーでさえも俺の能力を全て知ってる訳じゃない。
「特殊恩恵が発動していたことは話すべきだったと思う。魔法で蘇生できると勘違いされては頼みにくる者が居そうだ」
「能力を言い触らしたら罪だから喋らないと思うけど」
「だといいが。極秘だから誰にも話すなと禁じようとも話してしまう者も少なくはないからな」
誰にも言うなと忠告すれば平気だとでも思っているのか、秘密事でも話してしまう口がゆるゆるの人が居ることは事実。
それを聞いた人がまた誰にも言うなと前置きをして他の人に話し、いつの間にか多くの人が知ってるというのも珍しくない。
「もう知られた時点で手遅れだ。罪になることが分かっていても秘密を黙っていられないお喋りも居れば、目の前に命が尽きようとしている者が居て喋ってしまう者もいるだろう。だからせめて自分の意思では使うことが出来ない特殊恩恵の効果だと話すべきだったと思うがな」
まあたしかに。
特殊恩恵は自分の意思で使えないと知っているから頼んでも無理だと思う人が殆どだろうけど、魔法は魔力さえある時なら使えるから頼めば蘇生して貰えると思う人の方が多そう。
「分かった。今日報告に行くついでに口外禁止の件と特殊恩恵だったことを師団長に話してみる」
「そうした方がいい。国から正式に出された箝口令であれば強制力もまた変わる。仮に話が広まってしまっても、特殊恩恵だと分かっていれば無駄な期待を持たせずに済むだろう」
「うん」
期待して後から無理と知らされる方が残酷だし、俺自身が期待して頼みに来た人に無理と説明するのも胸が痛む。
それなら最初から頼んでも意味がないと分かっていてくれた方がいい。
このあと慰問の報告書を出しに行く予定になっているから、その時に師団長に話すことにして屋敷へと戻った。
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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