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第十章 天地編

貴族裁判

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英雄エロー公爵閣下のご入廷です』

警備兵の手で重々しい音をたてて開いた扉。
白の軍服姿で王宮第一騎士団の団長に先導されてバルコニーに出ると、他のバルコニーに居る正礼装姿の男性陣は胸に手をあて頭を下げ女性陣はドレスを摘み膝を折って姿勢を低くする。
そこに用意されている豪華な椅子に俺が座ると貴族たちもまた自分たちの席へ座り直した。

外道を拘束して約一ヶ月。
遂に貴族裁判の日がやってきた。

裁判が行われるのは被告人が属するアルク国の裁判所。
巨大な裁判所の一階は証言台などがある法廷で、二階は障壁を完備した個室の貴賓傍聴席(室)と裁判長席(室)が並んでいる。

異世界も裁判長の職は存在するけど今回は貴族裁判。
一般の裁判と違い貴族裁判では国王が裁判長の立場、公爵貴族が判事の立場となって貴賓傍聴室のバルコニーから裁判の行方を見て判決をくだすことになる。

『両国王陛下のご入廷です』

警備兵の声で立ち上がり裁判長室のバルコニーに姿を見せた国王のおっさんとアルク国王へ胸に手をあて頭を下げる。

「アルク国、ブークリエ国による合同貴族裁判を執り行う」

ホスト国であるアルク国王の声で裁判が始まった。

警護隊二人から左右を挟まれ出廷してきた外道。
被告人とは思えない姿だ。
二階席から眺めながらまずそう思う。

裁判の判決が出るまでは爵位を剥奪されない。
だから貴族の場合は拘留中も一般の罪人とは違って牢屋ではなく暖かい部屋が与えられてその部屋で過ごす。
部屋から出られないというだけでトイレも風呂もある部屋で三食昼寝付きの優雅な生活を送っていただけあって、丸々と肥えた豚のまま見窄らしさや悲壮感はない。

今はまだ公爵の地位に居る外道は高価そうな衣装を身につけしっかり身なりを整えた姿で被告人席へと座った。


まずは検事官(検察官)による起訴状の朗読が長々と行われて、俺が捜索の指揮をとり押収した幾つもの証拠品なども両国王へと提出された。

外道が問われている罪は、無許可の奴隷商と獣人族の嬰児を売り買いした『奴隷売買法違反』。
未成年を妊娠させた『未成年受胎期違反』と、産まれた子の出生届を出していない『国民登録義務違反』。
登録を怠りその分の税を納めていない『納税義務違反』、劣悪な地下牢という逃げられない環境に閉じ込めた『監禁罪』、身体を傷付けた『傷害罪』等々、検事官が長々と読み上げる羽目になるのも当然な数の罪に問われている。

同じ種族のエルフ族ですら呆れ顔。
その表情や夫妻でヒソヒソ話している様子を見て、エルフ族の貴族も大半の者は外道の悪事に呆れるくらいの常識は持ちあわせていることが分かって少し安心した。
を名乗り他の種族を見下す種族だから奴隷への行為など何とも思わないんじゃないかと疑っていたから。

「続いて罪状認否を行う」
「はい」

起訴状の朗読が終わるとすぐに罪状認否。
被告と弁護官(弁護士)のターン。

貴族裁判は裁判期間がたった一日しかないのが特徴。
忙しい国王や公爵家が何日も予定を空けられないから。
そして一度出た判決は覆らないことも貴族裁判の特徴。
時間短縮のため弁護側も検事側も必要な供述や証拠を裁判の日までに揃えて提出しているから話す内容は既にもう決まっていて進みが早い。

「被告人トロン公は起訴状の内容を全面的に認めます」

弁護官がそう発言すると貴族たちは少し騒がしくなる。

「トロン公。誤った内容はないと認めると?」
「はい。犯した過ちは認め真摯に罪を償い、王系公爵として国王陛下のお力になれるよう務めて参ります」

アルク国王から問われて堂々と答えた外道。
そりゃ認めるだろう。
今の起訴内容なら爵位剥奪もなければ処刑もないから。
反省を表すために言い訳はせず認めた方が判事役の公爵家からの印象がいい。

「このように深く反省しております。今までトロン公が第二王妃の傍系ぼうけい貴族として国のために尽くしてきたことは事実。みなさまにはその功績を顧みた上の判決を望みます」

公爵家の者なら周知の事実とはいえ、アルク国王の第二王妃の存在をチラつかせて刑を軽くさせようとするのが汚い。
まあ弁護官は被告人を守る立場だから仕方ないけど。

「次いで論告と証拠確認を行う」

弁護官の意見にアルク国王は触れず。
裁判が始まってすぐ提出された証拠物の確認と論告(検事官の意見陳述)に入った。

「今からお見せする証拠物は被告の邸宅へ家宅捜索に入った際に記録したものです。少々刺激の強い内容となっておりますのでご注意ください」

そう検事官が注意を促してからスクリーンに映されたのは俺が国王軍と捜索に入った時の様子。
令状を読む俺の姿が映ると貴族たちは少しザワつく。

「何で俺が映っただけで騒がしくなったんだ」
「シンさまが捜索を行ったことを知らなかったからかと。貴族邸の家宅捜索は軍人の国王軍だけで行うのが基本ですので」
「ああ、なるほど」

護衛でついている団長から聞いて納得する。
普段は国王軍だけで行っていたから俺が居て驚いたと。

少しザワついたものの裁判中とあってすぐ静まり、エミーが記録していた外道のに突入する場面が流れる。
裁判の判決に繋がる証拠記録だから加工はされておらず一糸まとわぬ姿の外道や四脚のないサーラの様子が音声つきで流れ、俺が見える範囲のバルコニー席に居る貴族は顔を逸らしている者も多かった。

押収される前の様々な拷問具と薬や魔法を使って新鮮な状態のまま保存コレクションされている身体の一部。
地下牢の環境の劣悪さや騎士たちにすら怯える子供たちの悲惨な姿など極悪非道と表すに相応しい記録が淡々と映し出され、具合が悪くなったのか席を外すご夫人の姿も見られた。

「以上が家宅捜索の様子と押収された証拠品の記録です」

恐らく時間にして四、五十分ほど。
残酷なものを次々と見せられた貴族たちは眉間を押さえたり項垂れたりと分かり易い反応をしている。

「体調の優れない方が多いようですので三十分の休憩を挟んで再開いたします」

予定より少し早めの休憩。
本来は被害者の子供たちが保護された時の状態や治療経過の記録を流したあとに休憩時間を挟む予定になっていたけど、想定していた以上に不調を訴える貴族が多かったようだ。

「多少見慣れている私ども軍人ですら眉を顰めるほどの状況でしたからこうなってしまうのも致し方ありませんね」
「うん。被害者が大人なら心が痛まない訳じゃないけど、やっぱ子供が犯罪に巻き込まれるのはなおさら観てて辛い」

部屋つきの召使セルヴァンが果実水を注いでくれたグラスを受け取りつつ団長と話して一口飲む。
治療協力をしたり面会にも行ってるから子供たちとは度々会ってるけど、今は多少落ち着いたことを知っている俺でも記録を見るとまた胸が痛む。

「それに比べてアイツに余裕があることが気に入らない」

弁護官に周りを囲まれ休憩中の外道。
障壁で護られた中でティータイムを楽しむ余裕っぷり。
あの様子で反省してるなどと言われても「どこがだ」と小一時間問い詰めたい。

「罰金刑と謹慎刑だと分かっているからでしょうね」
「あれだけの罪に問われても罰金と1年足らずの謹慎で済むとかどれだけ貴族に優しい世界なんだよ。虫唾が走る」

団長がいう通り現時点では謹慎(自宅で)と罰金刑。
加害者が権力のある公爵(ある程度の無体が許される立場)だということと、被害者が国民登録されていない無国籍児だからということと、は犯していないから。
師団長からそれを聞かされた時は怒りに震えたけど、この世界にはこの世界の法や罰則があるんだから俺が感情的になって騒いだところで何も変わらない。

「今の内にせいぜいティータイムを楽しめよ。腐れ外道が」

寛ぐ外道をバルコニー席から見下ろして独り言を呟いた。





「失礼いたします」

二十分ほど経って部屋に来た事務官。
召使セルヴァンが開けた扉から一歩入って跪く。

「休憩を延長することとなりましたのでご報告いたします」
「延長?なにかあったのか?」
「気分の優れない方の数が多く医療師の処置が間に合っておりません。済み次第再開いたしますので今暫くお待ちください」
「なるほど。分かった」

三十分では間に合わない人数が不調を訴えているんだろう。
精神的にやられる残酷な内容だったことはたしかだから不調を訴える人が多いことも理解できる。

「……延長になって良かった」

事務官が出て行ったあと本音を呟く。
気分が悪い人には申し訳ないけど休憩が延長されたことは俺にとって好都合。

「間に合ってくれたらいいのですが」
「うん。もし間に合わなければ逃げられる。費やした時間も手間も全てパーだ。子供たちのためにも間に合ってくれ」

昨夜までは俺も奔走していたけど、今日はもう貴族裁判に参加する義務のある俺はここでただ祈るしかない。
あとは時間との勝負。

英雄エロー公爵閣下。リアム・ロイスです。入室の許可を」
「許可する。すぐに開けてくれ」
「承知しました」

祈りの最中にドアの外から聞こえた副団長の声。
待ち望んでいた人物の声を聞いてすぐ許可を出すと召使セルヴァンが扉を開ける。

「申し訳ございません。少々手間取り遅くなりました」
「間に合ったから大丈夫。それよりどうだった?」
「連行いたしました。ロビーに待機しております」
「ありがとう」

部屋に入って来た副団長から報告を受けて口元が緩む。
間に合ってくれて良かった。

「団長、国王のおっさんに報告を。俺はロビーに行く」
「はっ」

決定的な罪を犯していないことが理不尽な判決に繋がるというのなら、を用意するまで。
そのために昨夜まで奔走していた。

「エド、ベル」
「「シンさま。ただいま戻りました」」
「お帰り。よくやってくれた」

ロビーに急ぐと騎士団員と居たのはエドとベル。
約半月かけ重要な任務をこなしてくれた二人を腕におさめる。

「偉大なる英雄エロー公爵閣下へご挨拶申し上げます。アルダ・バレディ・デュンヌと申します」
「お初にお目にかかります。公爵夫人」
「今はもう伯爵家の者にございます」
「そうでしたね。御無礼を、Ms.デュンヌ」
「ご丁寧にありがとうございます」

カーテシーで挨拶をした御婦人。
品のいいドレス姿で品のある仕草をするエルフ族のまだ若い御婦人は外道の第四夫人人。
約半月間エドとベルには彼女の実家である伯爵家へ使用人として潜入して貰い俺からの書簡を渡して貰った。

「こちらへお出でくださったということは証人として証言していただけると解釈しても?」
「離縁し逃げ帰ることしか出来なかったワタクシに出来るせめてもの罪滅ぼしをさせていただきたく参りました」
「貴女の証言で無念にも散った者たちの魂も報われることでしょう。Ms.デュンヌの勇気に敬意を」

俺が胸に手をあて敬礼すると騎士たちも敬礼する。
離縁して伯爵家に戻った夫人が王系公爵の起こした罪を証言するということは身の危険にも繋がりかねないのに、罪滅ぼしとして決断してくれたその勇気は並大抵のことではない。

「こっちが闇医療師か」
「はい。この者に手間取り時間を過ぎてしまいました」

騎士たちから捉えられ後ろ手に拘束されている男。
外道の家に出入りしていた医療師の一人。

「外道が拘束されて慌てて雲隠れとは随分と手間をとらせてくれたな。お前を捜すのにどれだけ苦労したと思う?」

青白い顔をした男の前にしゃがんで目を合わせる。
あらゆる貴族に力を借りて捜し出したこの男こそがあの外道にとっての最大の爆弾。

英雄エロー公爵閣下!見つかったとは誠ですか!?」
「ああ。この男がそう」

走って来たのはブークリエ国の検事官長と次官。
国王のおっさんから聞いて急いで確認に来たんだろう。

「こちらの御婦人がMs.デュンヌ。証言してくれるって」
「よくぞご英断くださいました。感謝申し上げます」
「一度は拒否をしたことをお許しください」
「お立場を思えば当然のこと。お顔を上げてください」
「ありがとうございます」

検事官長がいう通り証言を拒んで当然。
王系公爵の悪事を証言するということは本人だけでなくデュンヌ伯爵家そのものが迫害される危険性を孕んでいる。

「押収物は?」
「こちらに。持ちこめない証拠物は全て記録石におさめてアルク国の警備館に一時保管をお願いしました」
「分かった。ありがとう」

騎士団員が持っていた箱と記録石。
副団長から説明を受けながら早速開けて中身の書類を数枚確認する。

「検事官長。これを証拠物として提出する」

闇医療師から押収した証拠物爆弾
記録石で録って貰ったものと合わせて外道を適正に裁くための重要な証拠がようやく揃った。

「確認と証拠物手続きをいたしますので英雄エローは検事室へお願いします。君はMs.デュンヌを証人室へご案内して」
「はい」
「副団長。引き続きこの男の拘束と御婦人の護衛を頼む」
「はっ」

裁判で証拠物を提出するには手続きが必要。
記録石の内容も含め中身の確認が必要だから検事官長と俺でそれぞれ指示を出す。

「エド、ベル。ありがとう。王都に帰ったらゆっくり話そう」
「「はい」」

今は半月ぶりの再会を喜ぶ暇はない。
頑張ってくれた二人の頭を撫でて感謝を伝え、箱と記録石を持って検事室へと急いだ。

「闇医療師の身柄確保と証拠物を押収した!次官はMs.デュンヌと闇医療師の証言をとって証言書の作成を!事務官は証人尋問手続きを!あとの者は押収物の確認にまわるように!」
『はい!』

アルク国とエルフ国の検事官が集まっている部屋に行くと検事官長がすぐに指示を出し、次官と事務官以外のみんなに箱の中の書類を確認して貰う。

「記録を流します」
「頼む」

検事官長と俺は記録石の確認。
騎士たちがおさめた様子がスクリーンに映し出される。

「……ゴミ捨て場?」
「国の収集場ではないので不法投棄でしょうか」
「なるほど」

森の中で木材や瓦礫などが乱雑に落ちている一角。

『場所はトロン領コネサンス森林。午前六時、捜索開始』

映像とともに聞こえてきた副団長の声。
夜が開けてすぐ捜索を開始したようだ。
魔導師は大きな木材や瓦礫を魔法で移動させ、運べる大きさのものは騎士たちが肩に担いで移動させる。

「土が見えてる。当たりだな」
「隠蔽するための投棄物だったようですね」
「うん」

瓦礫を退かすと現れた地面。
その範囲だけ草が生えておらず掘り返した形跡がある。
何十人もの騎士団員が慎重に地面を掘り起こすと布や袋に包まれた大小様々な何かが埋められていた。

『午前七時三十分。遺棄物の確認を行う』

副団長がナイフで切った布の中身。
見なくてももう中身が何かなど知っていて捜索をして貰ったものの、形容しがたい成れの果てになっているそれに目を逸らしたくなってしまう。

「大丈夫ですか?」
「……うん。気を使わせてすまない」
「無理をなさらないでください。事件を扱う私どもは慣れてしまいましたが英雄エローにはお辛いでしょう」
「目を逸らす訳にはいかない。俺が頼んだんだから」

牢で亡くなった奴隷は毎回医療師が運び出していたことをサーラから聞いて、火葬するには国への届出が必要だから事件性のある遺体の届出はできずどこかに遺棄しているはずと予想し、雲隠れした闇医療師の家の捜索や繋がりのある者たちを尋問して遺棄場所にアタリをつけ国王を通して軍に捜索を依頼した。
依頼した本人の俺が証拠から目を逸らす訳にいかない。

『復顔師による顔貌がんぼう復元を行う』

魔法で生前の顔を復元するのが復顔師。
魔導師の中でも使える人が少ない貴重な存在で、遺体から生前の顔を読み取って似顔絵を描く。
地球の捜査に使われる復顔法は解剖学データで復元するから完璧に本人の顔にするのは難しいけど、異世界の復顔は文字通り情報を読み取っているから本人の顔を復元できる。

数十人しか居ない復顔師の中から五人が来てくれていて、明らかに大人だとわかる者の復顔を行う。
大人だけを復顔するのはそれが誰かを判明させることが裁判の重要な証拠になるから。
大量の魔力を使うから全員を復顔することはできない。

「この顔は……オーラフ医療師では」
「見たことがあるのか?」
「はい。三年前まで王都にある医療院に勤めていた医療師で腕は確かだったのですが、酒に酔い傷害事件を起こしたことで医療師団体から追放されました」

エルフの検事官の話を聞いて大量のファイルに検索鑑定をかけるとアンダーラインが引かれた『オーラフ』の名前。
鑑定画面に出ているページを捲って確認すると治療や処置にあたった者として数ヶ所に名前が記載されていた。

「見つけた。外道を適正に裁ける証拠」
「やりましたね!」

喜ぶ検事官たちとホッとする俺。
外道を適正に裁くには屋敷に出入りする亡くなっている証拠が必要だった。
免許制の医療師は国民登録をしている者しかなれない。
無国籍の者は出生の記録がないから身元の証明が難しいけど、国民であると証明できる人物を葬ったとあれば謹慎や罰金刑では済まない。

「証拠として提出できることは判明いたしましたので、確認の途中ではありますが手続きをお願いします」
「うん」

まだ記録石から映像は映し出されてるけど少なくとも一人は判明したから証拠として提出できる。
休憩時間内に手続きを終えられるよう書類に俺の名前をサインして血判を捺した。





休憩に入ってから約二時間半。
医療師の対応が長引いていた間に何とか手続きと確認を済ませることができた。

「ギリギリ間に合った」
「お疲れさまでした」
「ありがとう」

再開する直前に傍聴席へ戻って一息つく。
他の公爵は複数人で来てるから誰かが席を外しても判決に参加できるけど(公爵家の誰か一人は必ず傍聴する必要がある)、俺は英雄エロー公爵家の初代で親兄弟や伴侶すら居ないから自分で聞くしかなく、裁判中に席を外せば判決に加わる資格がなくなる。
間に合って本当に良かった。

「相変わらず呑気にティータイムか」
「被告の耳には情報が入りませんので」
「ああ、そっか。まあ耳に入ったところで今からじゃどうにも出来ないだろうけど」

バルコニーから見下ろした外道はまだティータイム中。
そんな甘いもの(ケーキ)なんて食ってるから醜い豚になるんだろうにと呆れながら、椅子の隣のテーブルに用意されていたグラスを手に取る。

口に運ぼうとしたグラスをふと見る。
休憩が終わる直前に新しく用意してくれたらしく、氷の浮いた果実水が注がれた透明グラスの表面には水滴がついている。

「これより裁判を再開する」
「はじまった」

エルフ国王の声を聞きながらその果実水を一口飲んだ。

再開して最初は当初の予定通りに保護した子供たちに関する治療記録などがスクリーンに映し出される。
保護された時の痛々しい状態にという様子だった貴族たちも、今回は治療経過中の多少改善された様子も見ることができて少し安心したような姿も見られた。

「何が怖いって子供たちを傷付けた本人が一番平然と記録を見てることだな。俺は先に観た内容だから別としても初見の貴族たちは精神的に辛そうなのに」

まだ幼い子供が妊娠していたり体の一部が欠損していたりと酷い映像に関わらず外道はまるで他人事。
この法廷内で一番寛いでいると言っても過言ではない。

「厭な話ですがそれだけ見慣れているんでしょうね」
「うん。外道にとっては傷付いた子供たちもなんだろうな。全く反省してないことは伝わった」

今の外道は反省もしていなければ危機感もない。
罪の意識があれば平然と観るなんて出来ないし、自分に大罪人の判決がくだると思っていれば優雅にティータイムを楽しむ心の余裕もないだろう。

「両国王陛下。事前に提出していた起訴内容は以上ですが、さきほど手続きしました追加起訴内容におきまして、まずは証人の証言許可をいただきたいと思います」
「追加起訴だと!?」

先に準備をしていた内容が全て終わったあとに検事官長が申し出ると、があることをたった今知った弁護官が驚いて立ち上がる。

「弁護官並びにトロン公爵閣下へ、追加起訴内容書、証拠物許可証、証人許可証を提出いたします」

検事官長が渡した書類を見る弁護官。
これから弁護官のターンになるところで突然変わった流れに貴族たちがザワザワしてる中、書類に目を通していた弁護官が一斉に顔をあげてこちらを見る。

「言っただろ?何一つ言い逃れできると思うなって」

弁護官と一緒に俺を見た外道に口元が緩む。
多くの奴隷や医療師まで殺害したことはバレていないと思っていたのか今日までに証拠が揃えられなかったと思っていたのか知らないけど、非道な行為を繰り返したお前を正しく裁くために多くの人が尽力した結果だ。

「既に追加起訴内容には目を通してある。証人をここへ」
「国王陛下!」
「今は検事の意見陳述中だ。申し開きは後にするよう」

焦って声をあげた外道にアルク国王はピシャリ。
第二王妃の話題が出た時にも感じたけど、アルク国王は外道を突き放している感が強い。
王家の名誉を汚したんだから当然なのかも知れないけど保身のために外道を庇うような様子も一切見られない。

「証人をお呼びいたします」

警備兵が開いた扉から姿を見せたご婦人。
その姿を見た貴族たちが一斉に驚いた様子を見せる。

「もしかしてみんなMs.デュンヌを知ってる?」
「デュンヌ大商会の会長だった方ですので」
「会長!?」
「はい。婚姻期間の僅か一年半で商会を立ち上げエルフ族に留まらず人族にも人気の商会だったのですが、離縁の条件として商会の全権をトロン公に奪われたと噂になっていました」

団長から聞いて驚く。
唯一証言をしてくれそうな人として検事官が証人を頼んだけど断られたと聞き、外道の悪事を公にするためにも証言して欲しいと俺が書いた書簡を持たせてエドとベルに潜入して貰った。
検事官から外道の元妻だとは聞いていたけど、そんな実力派の凄い人だったとは聞いてない。

「ご挨拶申し上げます。トロン公爵閣下の元第四夫人、現デュンヌ伯爵家二女、アルダ・バレディ・デュンヌと申します」

証言台に立ってカーテシーで挨拶をする婦人。
そんな場所でも気品が漂っている生粋の貴族令嬢。

「久しいな。デュンヌ令嬢」
「国王陛下におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます」

アルク国王もご婦人を知っているようだ。
ただただ驚きでしかない。

「このような場所での再会となったことは残念だ」
「せめてもの罪滅ぼしをさせてくださいませ」
「うむ。証人は誓いを」
ワタクシアルダ・バレディ・デュンヌはこの告発において嘘偽りのない証言を行うことを裁きの神に誓います」

そう宣言をしてご婦人の告発が始まった。

「二年前にワタクシがトロン公爵閣下へ離縁を申し出たのは、あることを知ったからでした」

そう前置きをして事情を話し始めた婦人。

外道と婚姻関係にあったデュンヌ婦人は、夫人邸に外道が忘れた物を届けるために雨の中を別邸へと足を運んだ。
裏口から入ろうとして偶然見かけたのは布に包んだ何かを馬車に積むローブ姿の二人の人物とそれを見る外道の姿。
外道の険しい顔を見て声をかけられず隠れたデュンヌ婦人に三人は気付くことなく大小の何かを馬車へと積んだ。

それが人だと気付いたのは三つ目を運んでいた途中。
片方のローブ姿の人物が手を滑らせ包んでいた布が外れて中身が地面に落ちた。

「まだ幼いと分かる、顔を潰された裸体の女児でした」

婦人の見たものに公爵夫人たちの悲鳴があがる。

「嘘をつくな!顔を潰されてるのになぜ分かる!」
「体の大きさや成長具合で予想はできます」
「両国王陛下!このような証拠のない証言を信じるのはお止めください!これは私に捨てられたアルダが逆恨みをしてトロン公爵家を陥れるため英雄エローとでっちあげた嘘です!」

必死に声を荒らげる外道。
弁護官から止められても必死に訴える。

「国王陛下。ただいまの被告の発言は証人と英雄エロー公爵閣下の名誉を著しく傷付ける侮辱行為と考えます」
「認める。被告は弁論まで黙るよう」

馬鹿な奴だ。
自分でマイナスをつけるなんて。

「シンさまの名まで出すとは」
「それだけ婦人の告発が怖いんだろ」
「保身に必死で英雄を侮辱するとは愚かな」

珍しくムッとした顔の団長に苦笑して果実水を飲む。

「馬車へ運び入れている最中はフードで隠れお顔が見えなかったのですが、トロン公爵閣下から金貨を受け取りフードを外した人物はワタクシも診ていただいたことのあるミルコ医療師と、医療師会を追放されたオーラフ元医療師です」

婦人の口から出てきたその二人の名前。
どちらも復顔で判明した人物と一致する。
復顔した記録を見ていない婦人の口から遺棄された中にいた人物の名前が二人も出てきたということは、婦人は本当にその現場を見たということだ。

「当時ワタクシは自分の身と生家のことを案じ見たことは言わぬまま離縁を申し出て、全ての条件を飲むことで離縁を許されトロン公爵閣下から逃げました。此度検事官さまから証言を求められた際にも恐らくあの子のことで罪に問われたのだろうとは思いましたが、恐ろしくてお断りしてしまいました」

どこが『私に捨てられた逆恨み』なのか。
むしろ捨てられたのは自分の方なのにデタラメな言い訳にまで変にプライドの高い外道で呆れる。

「ですがその後いただいた英雄エロー公爵閣下の書簡で別邸には他にも苦しんでいた子供たちが居たことを知り、なぜその可能性に気付くことができなかったのかと後悔いたしました。ワタクシがあの時告発していればもっと早く救うことができたのに」

涙声での証言に公爵夫人たちもハンカチで涙を拭う。

「告発中に申し訳ございません」
「構わん。嘸かし辛かったことだろう」
「ゆっくりで構わない」
「お気遣い感謝申し上げます」

ハンカチで涙を拭う婦人に声をかける両国王。
今日はアルク国王も別人のように優しいな。
国王のおっさんが国民に優しいのはいつもだけど。

英雄エロー公爵閣下の書簡には、無情にも命を奪われた者や今まで苦しんだ子供たちの未来のために証言をして欲しいと書かれておりました。ワタクシの選択で救えるはずの命が奪われた罪が消える訳ではございませんが、せめて救われた子供たちには安心できる未来を生きて欲しいと願い、このたび告発することを決意いたしました。この場をお借りしてワタクシに償いの機会を与えてくださった英雄エロー公爵閣下へ感謝申し上げます」

俺が居る傍聴席を向いてカーテシーをした婦人へ椅子から立ち上がって胸に手をあて敬礼で応えた。

「国王陛下。弁護官にも証人の尋問をさせてください」
「認めよう」
「ありがとうございます」

証人にとってはこれからが辛い時間。
被告人を守る立場の弁護官は証人の発言を覆すために重箱の隅をつつくような質問してくる。

「Ms.デュンヌ。貴女は布に包まれた何かを運ぶ人物二名を見たと証言しましたが、当日はどのくらいの雨が降っていたのか、時間帯は何時頃だったのかをお聞かせください」
「どしゃ降りの雨の日で、時間は夕刻です」

弁護官の質問に婦人は迷わず答える。

「どこから様子を伺っていたのですか?」
「裏門の外からです」
「どしゃ降りと表すほどの強い雨に関わらず門の外からハッキリと顔が見えたのですか?しかも雨の日の夕刻であれば薄暗くなっていそうですが」

まあたしかに。
雨が邪魔をして見えにくい状況ではありそうだし晴れの日に比べて雨雲で薄暗い可能性もある。
ただ、雨の降る薄暗い日でもあの別邸は見えると思う。

「そう申されましても見えたので証言いたしました。別邸は裏門から裏口までの距離が短いですので目の悪い方や深夜でもない限りはワタクシでなくとも見えると思いますよ?別邸の使用人に距離を確認してみてはいかがでしょうか」

また迷いなく婦人が答えて弁護官が言葉に詰まる。
俺も家宅捜索で入ったから造りは頭に入ってるけど、婦人が言ったようにあの屋敷の裏門の方は裏門から邸宅(の裏口)まで馬車一つなら余裕で停められるかな程度の距離しかない。

何とか矛盾を見つけようと必死な弁護官の尋問は苦しい。
弁護官本人も苦しい尋問だと分かっていて諦める訳にはいかないんだろうけど。

二人のやり取りを聞きながらグラスの中身を飲み干した。

 
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16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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