ホスト異世界へ行く

REON

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第十章 天地編

審判

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「もう一杯貰えるか?グラスはこのままでいい」
「はい」

まだ尋問が続くなか後ろに控えている召使セルヴァンたちに果実水の追加を頼むと、デキャンタの一番傍にいた召使セルヴァンが運んで来てグラスに注いでくれる。

「ありがとう」
「い、いえ。光栄です」

この子は関係ないようだ。
お礼を言うと少し赤い顔で立ち上がったのを見て思う。

「両国王陛下。弁護官の今までの尋問は的を射ない内容ばかりですので、ここは一旦もう一名の証人の証言と証拠物の確認を優先していただき、弁護官は後ほどそれらの内容を纏めた上で改めて尋問を行うというのはいかかでしょうか」

検事官の提案を聞いて話をする国王二人。
ホスト国のアルク国王が発言することが多いけど、合同で行ってる裁判だからしっかり国王のおっさんの意見も訊いている。

「認める。弁護官はこの後に証言台に立つ証人の証言や証拠物を確認した上で改めて尋問内容を考えるように」
「承知しました」

やっぱり弁護官も今のままでは無理だと悟ってたんだろう。
むしろ先に進めてくれた方が考える時間ができて良かったと思っていそうだ。

「二人目の証人をお呼びいたします」

婦人が警備官に連れられ一旦証人室へ戻ったあと次の証人が副団長に連れられて入廷する。
その闇医療師を見て驚いた顔をしたのは外道一人。
すぐに平静を装ったけど顔色は宜しくない。

「なあ。どこに行くんだ?」
「はい?」

証人が入れ替わったタイミングで傍聴室の扉が開いた音が聞こえて振り返り問うと、隣に居る団長が疑問符をあげる。

「申し訳ございません。気分が優れないので席を外します」
「そりゃ気分も悪くなるよな。効かないんだから」
「なにを申されているのか理解が」
「そっか。じゃあこれを飲んでみてくれ」

部屋を出ようとしていた召使セルヴァンのところへグラスを持って行って手を伸ばし、開きかけの扉をパタンと閉める。

「気分が悪いんだろう?飲めば少しは楽になる」
「いただけません」
「遠慮しなくていい。自分の手で持って飲めないほど気分が悪いのなら口移しで飲ませてやる」

グラス中の果実水を口に含んで顎を引き上げ顔を近付けると、外道顔負けの青ざめた顔で召使セルヴァンは大きく首を横に振る。

「君だろ?果実水に毒を入れたの」
『毒!?』

わかり易いその反応を見て笑いながら訊くと、何事かとキョトンとしていた他の召使セルヴァンや団長は驚きの声をあげた。

「デキャンタの果実水も毒入りってことは、グラスに直接入れたんじゃなくデキャンタの方に毒を入れてこれに注いだってことだろうけど、悪いな。こんなに沢山の毒入り果実水を作ってくれても俺には毒耐性があるから効かないんだ」

説明しながら捕縛バインドをかけ毒の盛られた果実水を目の前で飲んでみせる。

「毒入りをごくごく飲まないでください」
「効かない俺にはただの果実水だし」
「駄目です。万が一があったらどうするんですか」

神の毒でもない限り効かないのに。
団長からグラスを取り上げられる。

「も、申し訳ございません!注いでしまいました!」
「君が謝る必要はない。毒が入っていることはこの召使セルヴァンと俺しか知らなかったんだから。君はただ自分の仕事をしただけ。注がせたことで逆に罪悪感を持たせてすまなかった」

デキャンタに毒が入っていたことを知って青い顔で謝ったのは追加で果実水を注いでくれた召使セルヴァン
彼女はたまたまあの時デキャンタの一番傍にいたから仕事をしただけで、犯人や共犯者じゃないことはさっきの悪意のないはにかむような表情で分かった。

「私は何も知りません」
「ふーん。じゃあどうして飲まなかった?」
「仕事中にいただくなどできません」
「本当にそれが理由なら青ざめた理由は?毒入りなのに飲まされそうだったから顔色が変わったんだろ?」

もっともらしい言い訳をしてるけど、グラスを差し出されて顔色が変わったということは毒が入っていると知っていた証拠。

「さっき追加を頼んだ時に不審な顔をしたのは君一人だった。毒入りだと知っている犯人はどうして効かないんだと不審に思うけど、毒入りだと知らない人は俺が追加で頼もうと不審には思わない。それを確認するために追加を頼んだんだ」

毒入りなのに平然と飲み干して追加まで頼んだ俺を不審な顔で見ていたのはこの召使セルヴァン一人だった。

「俺にとっては裁判の方が重要だから終わるまでは放っておくつもりだったけど、さすがに逃げられるのは困る。後でゆっくり話を訊くから一旦自害防止に轡をさせて貰うぞ」

自害できないよう布を噛ませて視界に入る場所の床に座らせて俺も再び椅子に座る。

「国王陛下に報告しないのですか?」
「裁判が終わってから報告する。エルフ族で俺に毒を盛ったってことはあの腐れ外道の関係者の可能性もあるし。こんなことで裁判が中止になったら困る」

俺を恨むエルフ族とくれば第一に浮かぶのは外道。
今日まで部屋から出られなかった外道が直接命じた可能性は低いけど、協力者が居る可能性や俺の家宅捜索で捕まった使用人の関係者の可能性もある。

英雄エローに毒を盛るなど本来粛清を行う行為ですよ?」
「まあその通りだけど騒ぎになって裁判が中止になる方が俺には困るんだ。子供たちを早く安心させてやりたい」

効かない毒で騒いで中止になるより今日の裁判をしっかり終わらせて判決をくだして欲しい。
いまだに外道の影に怯える子供たちのために。

「……分かりました。本当にシンさまらしいですね」
「ごめん。国王には後でしっかり話すから」
「そうしてください。他の召使セルヴァンは犯人に近付かないよう。捕縛バインドで身動きは取れないが念のため」
『承知しました』

騎士並の精神力の持ち主なら解除できるけど、簡単にお縄について動けないってことは戦闘要員ではないんだろう。

「長時間の裁判だから時々外してやる。逃げたり暴れたりしなければこれ以上の拘束はしない。大人しくしててくれ」

逃げようとしなければ拘束しなかったのに。
しかも国王や公爵家の集まる貴族裁判で毒物事件をおこすとかよほど早死にしたかったらしい。

「あーあ。今まで何を話してたんだろ」
「概要を知っていて良かったですね」
「本当に。知らなかったら判決が出せなかった」

プチ騒動の間に進んでいる証人尋問。
証人というより共犯というのが正しいけど。

「自分の罪は概ね認めてるみたいだな」
「自宅に証拠を隠していた本人が一番もう言い逃れは出来ないと分かっているでしょうから」
「まあ。早々に諦めて証言してくれて良かった」

ちなみに隠していた証拠を見つけたのは俺。
共犯が居ることを知ったあと外道と交友があった貴族や商人に質問状を送り、ようやく疑わしい人物の名前があがった時には既に闇医療師は逃亡した後だった。
借家の管理者曰く外道が捕まった翌日は姿を見かけたと聞き、証拠隠滅の可能性を名目に国王軍と入った借家の床下で二個のスーツケース(的な鞄)を見つけた。

一個目の中身は奴隷売買の取り引きを記したファイルや外道の家で治療を行っていたことを表す数多くのカルテ、二個目には外道から金を受け取っていたことが分かる帳簿やメモなど。
裁判までに闇医療師を見つけ出せれば証拠として提出しようと箱に纏めておいたのを騎士が持ってきてくれた。

「雇われた医療師は私を含め全員が現役を退いた者です。小児趣味であり加虐趣味でもあるトロン公が加虐行為に及んだあとの処置が我々元医療師の主な役目でした」
「デタラメだ!両国王陛下!これは私の評価を下げるための虚偽の証言です!すぐに証言の中止を!」
「却下。証人は証言を続けるように」

性癖を暴露されたのが恥ずかしいのか外道は赤い顔で憤慨したけど、最初の起訴内容で屋敷にある拷問具が証拠の映像として流されたし被害者がほぼ未成年な時点で、小児性愛者で加虐性愛者なことはもうここに居るみんなが分かってるだろうに。

「医療院へ来る患者の中にもそういった行為が趣味なのだろう者もおりましたので、雇い入れの話をいただいた時にも痣や擦り傷などの治療だろうと考えておりました。現役を退いた私に声がかかったことも、相手が小児であるが故に治療をするにも公の医療師が呼べないのだろうと」

なるほど。
子供が相手だけに免許を剥奪されているものの治療の知識はある自分に声がかかったと考えるのは何ら不思議じゃない。

「ですが実際には私が予想していた小児趣味や加虐趣味の範囲でおさまるものではなく、五・六歳程の幼い子供も含めみな生きながらにして腹を割かれたり目を抉られたり四脚を切り落とされたりと残虐を極めたものでした。その状況で治療をと申されても限界があります。治療をする以前に呼ばれた時には既に息絶えていた子供も多くおりました」

声を震わせて証言する闇医療師。
聞いている貴族はもちろん弁護官もその証言には頭を抱える。
妊娠させたとか怪我をさせたというだけでなくと証言されたんだから。

「私が雇われた当初は七名の元医療師がおりましたが、今は私以外の者は居なくなりました。アドルフ元医療師とマクスウェル元医療師はトロン公お気に入りの子供の治療に失敗して殺害され、ミルコ元医療師は心停止で生まれた子の蘇生ができず殺害され、ハッセ元医療師は逃げようとして殺害され、スヴェイン元医療師は罪を悔い自首しようとして殺害され、オーラフ元医療師はもう辞めさせて欲しいと意見して殺害されました」

次々に出てきた医療師の名前。
書記官だけでなく検事官も急いでメモをとる。

「最初に治療を施した時点でもう共犯だと言われ、第二王妃殿下の傍系公爵の私に逆らえば陛下や第二妃が黙っていない、自分より上の者は陛下しか居ないのだからそれ以下の者の命をどうしようと自由だ、告発や口外は第二王妃殿下を貶める行為として粛清するとも言われて逃げ道を塞がれました」
「そのようなことは言っていない!」
「申しました。国王陛下や第二王妃殿下の名を出されたから口外することも逃げることもできずに従っていたのです」

サーラが外道から言われたと話していた『自分は王系公爵だから王さま以外はみんな自分以下。虫を殺しても誰も罪にならないのと一緒』という発言の内容と似ている。
外道は否定しているけど言ったんだろう。
本人が言ったことを覚えているかは別として。

「あの闇医療師のしたことは絶対的に悪だし許されることじゃないけど、唯一同情するのはあの闇医療師も王系公爵の権力に逆らえず従ってた一人だってこと。権力で粛清が許されるこの世界で王系公爵に逆らえる人はどのくらい居るんだろうな」

スーツケースに入っていた日記は数冊。
走り書き程度の短い内容の日記には『失敗したら殺される』とか『断れば殺される』とか『誰々が失敗して殺された』とか、そんな言葉が幾つも書き殴られて居た。

悪事を隠蔽してくれる人が周りに居る、金も権力もある王系公爵に命がけで逆らえる人は果たして何人居るのか。
死ぬか生きるかの状況ならに回ってしまう人も多いんじゃないかと思う。

「魔法や恩恵や特殊恩恵が人を護ることも傷付けることもできる能力であるように、権力も使い方次第で毒にも薬にもなる。闇医療師の日記を見て、自分の選択一つで人の人生を狂わせるだけの権力を持っていることが怖いと改めて思った」

地上唯一の英雄エロー称号を持つ特級国民。
国民階級でいえば王系公爵の外道よりも高い階級に居る自分の権力が怖いと、あの日記を見て改めて思った。

「もしいつか俺が権力を笠に着て傍若無人に振る舞う害悪になった時にはこの世界の人たちのためにしっかり殺してくれ」
「S級の魔物でもお一人で倒してしまう麻痺も毒も効かないシンさまを倒すとなると、全精霊族の軍隊が総出撃する大戦になってしまいます。ご自身で気を付けていただかないと」
「もう一人の魔王みたいな扱いだな」

大袈裟な団長の返しにくすりとする。
身の丈に合わない権力と力を持ってしまった俺の不安を笑い話として流してくれてありがたかった。

「今後私も裁判にかけられることになると思いますが、この場でも証言いたします。私はトロン公と共に希少価値のある獣人族の裏売買を行い、未成年と知っていながら出産補助を行い、トロン公が虐殺した奴隷や看守や同じ医療師仲間の遺体をコネサンス森林の南側に遺棄しました。遺棄場所には瓦礫と木材が積んでありますのでそれを目印にしてください」

もう既に遺棄した人たちは見つけた後だけど、そのことは知らなかったらしい闇医療師は偽ることなく証言をした。

「国王陛下!全て偽りです!」
「弁護官。被告を黙らせるように」
「申し訳ございません。トロン公いまは論告中ですので」
「煩い私に命令するな!国王陛下!なぜこのような闇医療師の証言を信じるのですか!私は第二王妃の傍系公爵で」

外道の必死の訴えを遮りアルク国王が机を叩く。

「まともに会ったこともない遠い分家の者でありながらよくもここまで第二王妃の名を語り悪事を働いたものだ。証人の証言が偽りであるかどうかは証拠を見て判事や我々国王が判断すること。今は貴様の意見を述べる場ではない」

まあ怒るよな。
第二王妃の傍系って立場を強調されたら。
まともに会ったこともないっていうのは驚きだけど。
そんな薄っぺらい関係性で今までよく第二王妃第二王妃と言っていたものだと呆れた。

「検事官は証人の証言に偽りがない証拠として先程提出いたしました記録石の映像を流したいと思います」
「許可する」
「ありがとうございます。両陛下へ提出した現物は加工されておりませんがそのまま流すには刺激が強すぎますので、今から流す映像の方は加工済みであることをお含みおきください」

闇医療師が検事官の一人と証人席へ座ると検事官長と次官が放映石の準備をする。
この証拠が出ればもう外道は言い逃れできない。

「判事席の公爵さまで放映の最中ご気分の悪くなった方は直ちに医療師へ申し出てくださいますよう」

準備を終えて検事官長が注意を促すとさっきよりも惨い内容が流れると察した公爵たちも多かったようで、数人をバルコニー席に残して室内へ下がる人たちも多かった。

『場所はトロン領コネサンス森林。午前六時、捜索開始』

放映が始まり副団長の声が流れる。
瓦礫の撤去や穴を掘るシーンは時間短縮のために短く加工されていたけど、布や袋に包まれた何かが埋められているシーンは加工されておらず貴族たちは少し騒がしくなる。

『午前七時三十分。遺棄物の確認を行う』

そこからは見えないようモザイク(的な加工)がされていたものの遺棄された人の成れの果てであることは充分伝わる映像。

『復顔師による顔貌がんぼう復元を行う』

遺体の顔は映さず復顔された顔貌が映る。
見たことがある医療師も多かったのか、生前の顔が映し出されるたびにエルフ族側の公爵家はザワザワしていた。

「以上がコネサンス森林に遺棄されていたご遺体の一部です。復顔師の数が少ないため数日がかりになりますので、まずは大人の復顔だけを行いました。現在トロン領警備館へ収容されている残りのご遺体は順次復顔を行います」

短くしてある放映が終わってもみんな憔悴したまま。
加工してあっても山のようなを見せられたんだから、言葉を失うのも憔悴してしまうのも当然だろう。
それが遺体など見慣れていない人の一般的な反応だ。

「こちらの証拠物を流す前に二名の証人が証言したことでみなさまお気づきかと思いますが、証言の中で名前の出た元医療師も遺棄されておりました。裁判が開始したのちに集まった証拠物ですので全員の身元はまだ判明しておりませんが、証言の中にあったオーラフ、ミルコ、スヴェイン、アドルフ元医療師の四名は既に判明しております」

婦人が口にした人数は二名。
闇医療師が口にした人数は六名。
二人の証言で同じ名前が出ただけでなく、六名中四名が偶然亡くなり同じ場所に遺棄されていたなんて奇跡は天文学的数字で有り得ないだろう。

「検事官といたしましてはこの記録石の内容と証人の証言の一致は偶然では片付けられないものとし、証人二名の証言は虚偽ではなかったと判断いたします」
「異議あり。記録石の内容だけで全ての証言が正しいと判断することは危険です」

食い下がる弁護官。
例え殺害した証拠があっても簡単に認める訳にはいかない立場の弁護官も大変な仕事だ。

「もういいだろう。復顔した者の中に証言に出ていた医療師六名が居たことは確認できた。私は国王だ。医療師を除名する際にも私の印が必要になるのだから六名の名と顔は知っている。例え除名になった医療師とはいえアルク国民には違いない。六名もの国民を殺害したという確かな証拠がある限り、証人に些細な偽りがあったとしても被告の刑が軽くなることはない」

アルク国王の発言で静かになる法廷。
そのために必死で証人や証拠を集めたんだからそうでなくては困る。

「弁護官。それでもまだ証人尋問が必要か」
「……ございません」
「弁護官!」
「申し訳ございません。減刑を望もうにもこれほどの証拠を揃えられては弁明のしようがございません」

白旗をあげた弁護官を責める外道。
貴族裁判を任されるような優秀な弁護官でも弁明の仕様がないことを自分がしたということなのに。

「こんな裁判は無効だ!私を貶めるため愚鈍な人族が偽装した証拠に騙されるなどそれでも貴様らは誇り高いエルフ族か!」

今度は貴賓傍聴室の貴族たちに噛みつく外道。
焦るのは分かるけど人族の国王も居る前でとは。
見事に自分の首を絞める外道に苦笑する。

「国王陛下!英雄エローに騙されないでください!異世界から来た者というだけでも信用ならないと言うのに、王系公爵の私を貶める偽りの証拠を用意するなどとは許されません!これは我らエルフ族への侮辱です!あの者こそ極刑が相応しい!」

今度の八つ当たり先は俺か。
アホだなアイツと呆れる俺の隣で団長が舌打ちする。

英雄エロー降りて来い!小僧に見下ろされるとは気分が悪い!陛下に取り入り英雄エロー勲章を手にした痴れ者が!」

両国王の指示で警備兵から取り押さえられた外道は懲りもせずなおも吠え続ける。

「弱い犬ほど吠えるとはこのことだな」
「挑発に乗ってはいけません」
「いや俺は何もしないし。犯人の召使セルヴァンを頼む」
「シンさま!」

毒を盛った召使セルヴァンを頼みバルコニーから法廷に飛び降りる。

英雄エロー!」
「シン殿!?」
「降りてこいというので降りました。私は何もいたしません」
「そうではない!何かあったらどうするのだ!」
「このまま被告に自由に発言をさせては先程のように人族を侮辱する発言を国王陛下へお聞かせすることになるでしょう。敵視されているのが私であるなら私へ発言させたいと思います」

法廷に降りた俺に慌てるアルク国王と国王のおっさん。
何かあったらも何も警備兵がしっかり捕まえてるからどうも出来ないと思うけど。

「で、トロン公。わざわざ降りて来させて何の用だ」
「貴様はどれだけ私の邪魔をするのだ!」
「犯罪を犯す邪魔をしたってことか?当たり前だろ。逆にこんな酷いことをして見逃して貰えるとでも思ってたのか?」
「生意気な!私は王系公爵だぞ!」
「そうか。では私も権力者らしく対応しよう」

典型的な権力者。
人族を見下し若い俺を見下している。

「クレール・フェリング・トロン。愚かな貴様にいま一度私の名を教えてやろう。私はシン・ユウナギ・エロー。地上唯一の英雄エロー勲章と称号を両陛下より賜った特級国民だ。貴様は私以下の国民階級だと忘れて貰っては困る。頭が高い。控えよ」

俺の声で外道と外道を押さえる警備兵以外の全員が跪く。
第二王妃の傍系だろうと貴族は貴族。
階級で言えば俺より下の国民階級に過ぎず、この裁判所の中で俺に跪く必要がないのは両国王だけ。

「貴族の役割は国を護ること。国を護るということはそこに生きる民を護ることにも繋がる。それにも関わらず貴様は自らの権力に溺れ守るべき多くの民の人生を狂わせ、アルク国第二王妃殿下の名誉までも穢した。強い権力を持つ者だからこそ権力の使い方を誤った罪は重い。その身をもって罪を償え」

外道に出来ることはもう自分の身で罪を償う他ない。
それほどのことをしたんだから。

「お前も道連れにしてやる!」

床に押さえられていた外道が顔をあげると警備兵が切りつけられ貴賓傍聴席から悲鳴があがる。

英雄エロー!」

隠し持っていた刃物を手に向かって来た外道と俺の間に割って入ったのは証人席に座っていた闇医療師。
闇医療師に蹴り飛ばされ離れた外道は再び警備兵から取り押さえられ、闇医療師はその場に膝から崩れ落ちた。

「どうして助けたんだ。俺が憎いだろう?俺が証拠を見つけて捜し出さなければ逃げきれたかも知れないのに」

抱き起こした医療師の腹部に深く刺さった銀のナイフ。
そこから血が滲んで広がってゆく。

「……捕まりたくないと思う反面、こうして断罪してくれる者が現れることを待っていたのだと思います。……元は命を救う医療師でありながら、我が身可愛さに多くの者を見捨ててしまいました。……だからこれでいいのです」

闇医療師の贖罪。
それが断罪した俺を助けることだったと。

「この貴族裁判で問われているのはトロン公の罪。子供たちを見捨てたことを本当に悔いてるのなら裁判を受けてしっかり罪を償ってほしい。助けてくれてありがとう。少し痛むぞ」

闇医療師の腹からナイフを抜いて切りつけられた警備兵にも行き渡るよう範囲上級回復エリアハイヒールをかける。

「どうだ?痛みはないか?」
「は、はい。まったく」
「我々警備兵にまで感謝申しあげます」
「ううん。みんな無事に治って良かった」

内臓まで傷が達していた闇医療師の魔法検査に異常はなく、警備兵たちの傷も塞がってホッとした。

英雄エロー
「はっ」
「貴殿には粛清を行う理由ができた。どうする」

アルク国王から呼ばれて跪き、そう問われて顔をあげる。

「ここで私が粛清を行ってはトロン公に苦しめられた者たちではなく私への罪を償った結果となってしまいます。強い権力で抑えつけられ無念にも散った者たちのために、保護された子供たちのために、このまま貴族裁判での適正な判決を願います」
「うむ。聞き入れよう」
「感謝申しあげます」

俺が粛清したら俺に刃を向けたことでの断罪になる。
それじゃあ苦しんだ人たちは報われない。
このまま貴族裁判での判決を望むとアルク国王はそれを受け入れてくれた。

「トロン。貴様は本当に救いがない」

そう付け足したアルク国王は溜息をつく。

「神聖な法廷へ刃物を持ち込み暴行に至った被告は拘束しておくよう。これより判事による審判に入る」

貴族裁判も後は審判と判決を残すだけ。
頭が真っ白になってるのか、大人しく警備兵に捕縛バインドをかけられ自害防止の轡を噛まされる外道を見て貴賓傍聴席へ転移魔法で戻った。

「シンさま。お怪我はありませんか?」
「大丈夫。闇医療師が庇ってくれたから」
「ですから挑発に乗ってはいけないと申しましたのに」
「ごめん。喚いてて裁判が進まなさそうだったから」

テラスに戻ると早速団長から心配&説教を受ける。
あのまま行かず無視してたら無駄に長引いたと思うんだけど。

「法廷に入る前に身体検査はしないのか?」
「被告人や証人の身体検査は必ず金属探知を使って行います。それなのになぜ持って入れたのか私にも不思議です」

なんかきな臭いな。
団長がいうことが事実なら金属探知に引っかかるだろうに、どうやって持ち込んだのか。

「恐らくそれもこの裁判が終わり次第調査を行うと思います。他にもこうしてシンさまに毒を盛った者も居ることですし」
「協力者が居そうだな」
「はい」

外道が金属探知を突破したというより、法廷の中に入ってから外道にナイフを渡した者が居ると考えた方が現実的だ。

「なあ。何か知ってるか?」

毒を盛った召使セルヴァンの布を外して訊くと首を横に振られる。

「君はあの外道の関係者なのか?捕まった使用人の関係者か?それとも全く別の暗殺犯なのか?」
「…………」
「外道とは無関係の暗殺犯ならわざわざ貴族裁判の途中で毒を盛ったりしないと思うんだよな。両国王や公爵家が集まってる警備が厳しい日を狙うとかアホすぎるし。まあ世の中にはアホな暗殺犯も居ないとは限らないけど」

黙秘を貫くようだから再び布を噛ませる。
持ち込めないはずのナイフを外道が持っていたことや俺が裁判中に毒を盛られたことを考えれば、やっぱりこの召使セルヴァンも外道と全くの無関係ではなさそうだけど。

「失礼いたします。判決はお決まりでしょうか」

扉の外から聞こえた判事の声。
テーブルの上の封筒を持って扉を開ける。

「こちらへお願いします」

貴族裁判は公平を期すため貴族同士で話し合えないようそれぞれの部屋に二人一組の判事が行って、自分が思う判決の色を示すカードが入った封筒をケースに入れて貰う。
回収する判事も封筒の中身を見ることは禁じられていて、開封する国王すらも全員が同じ封筒とカードを使っているため誰がどの判決を出したのかも分からないまま、集まったカードの枚数だけ見て判決をくだすのが貴族裁判のやり方。

「お預かりいたします」
「よろしく」

俺の目の前で封筒を入れたケースへ厳重な鍵をかけた判事は丁寧に頭を下げて次の公爵家の元へ行った。

「これで出来ることは全て終わりましたね」
「うん。やれることはやった。後は公爵家のみんなと両国王が適正な判決を出してくれることを願うのみ」

カードを渡した後はもう何も出来ることはない。
貴族裁判で出た判決は覆すことが出来ないから、もし俺の意に介さない判決であっても受け入れる他ない。

「…………」

捕縛バインドをかけられたまま被告人席に座っている外道。
諦めたのか随分と大人しくなっている。

「……なんだろう」
「どうかいたしましたか?」
「いや、何かモヤモヤする」
「モヤモヤ?」

全て終わったのに腑に落ちない。
違和感のようなものが拭えないというか。

「判決前だから落ち着かないだけか?」
「今までシンさまが費やしてきた時間の結果がこの判決で決まることを思えば多少落ち着かないのも仕方がないかと」
「んー……」

外道を見ていて拭えない違和感。
ティータイムを楽しんでいた時と違って被告人姿で座ってるけど、どうして違和感があるのか。

「……駄目だ。分からない」

何か変だと思ってるのに何が変なのかは分からない。

「トロン公にモヤモヤするのですか?」
「全体的に。何か変な気がするんだけど」
「変……ですか」

俺の隣でテラスから法廷を見下ろし首を傾げる団長。
団長は見ても違和感がないってことなんだろう。

「審判が出揃った」

モヤモヤしたまま法廷に響いたアルク国王の声。

「おい。何でこのタイミングで安心した?」
「シンさま?」
「お前いまホッとしたよな?何を隠してる。言え」

判決が言い渡されるタイミングで肩の力が抜けた召使セルヴァンの前にしゃがみ胸倉を掴んで口布を外す。

「女なら優しくして貰えると思うな。俺は悪は悪として扱う」

拘束したまま肩に担いでバルコニーに連れ出す。
両国王が裁判長室の硝子の前に立っているのを見て外道にもう一度目をやる。

……違和感の正体はこれか。
気付けば単純なことだったそれに舌打ちした。

 
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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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