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第十章 天地編
策略家
しおりを挟むちょっとした騒ぎがあっても変わらず舞踏会は続く。
「メリッサ。私も喉が渇いたわ」
「では侍女に」
「貴女は鑑定が使えるでしょう?念の為に。お願いできる?」
「分かりました」
第二王妃から頼まれて長官は飲み物を取りに行く。
「私個人に話があるようですね」
「あら。お気付きでしたのね」
「王妃殿下主催の舞踏会であれば鑑定を使える者が給仕をしているでしょうから。わざわざメリッサ嬢に行かせなくとも」
王家が口にするものには必ず鑑定をかける人が居る。
主催が第二王妃であればなおさら、万が一の見逃しもないよう鑑定を使える人が飲食類のある場所に配置しているはず。
「勘の良さといい視野の広さといい恐ろしい才能の持ち主ですわね。英雄公に隠し事などできないのではないかしら」
そう言ってクスっと笑った第二王妃が胸元にしまってあったベルをリンと鳴らしてテーブルに置くと防音魔法がかかる。
さすが技術国アルク。
防音魔法が使える魔導具まであるとは。
「あまり時間もないので駆け引きなく申しましょう。メリッサを娶ってください」
単刀直入なそれに驚く。
今まで「妻にどうですか?」とか「良ければお付き合いを」とかなら言われたことがあるけど、ハッキリ「娶ってください」と言われたのはさすがに初めて。
「もちろん夫人権限を得ることになる第一夫人は英雄公の属するブークリエ国の女性が最善でしょう。メリッサのことは種族間の和平のために娶っていただきたいのです」
和平のための政略結婚か。
有り得ない話ではないけど。
「和平のための結婚であれば既に王太女ルナと王子レオナルドがご成婚予定ですが」
レオナルド王子は第一王妃の息子。
国王の息子と国王の娘である二人の結婚は確実に国と国の関係を強くする。
「ええ。それも大切なことですが、私のいう和平はそれとはまた別のもの。英雄公が地上規定に基づいた英雄勲章をお持ちの英雄だからこそ必要なことなのです」
第二王妃がこの話をすることを知ってたのか、侍女も護衛の騎士も人が近付けないよう少し距離を置いて立っている。
第二王妃が唐突な思い付きで話した訳ではないようだ。
「地上規定により形としては全種族の英雄ですが、実際は人族以外の種族と英雄公の繋がりは薄い。特にエルフ族とは」
「それは否定できませんね」
エルフ族はアルク国で暮らしているから繋がりがない。
人族の王都には居ないから少なくとも俺は魔王とアルク国に来るまでエルフ族と会ったことがなかったし、個人的に親しい間柄の人もいないから一番関係の薄い種族ではある。
「聡い英雄公であればお気付きでしょう。英雄公が人族に肩入れすることを恐れる者がいることを。その恐れが戦に繋がる危険性を孕んでいることも。人知を超えた力をお持ちの英雄公だからこそ全ての種族の英雄であって貰わねばならないのです」
全ての種族の英雄だから取り合いにならずに済む。
英雄が全ての種族の英雄と決められているのは仲良くお裾分けするためじゃなく、英雄の存在が争いの原因にならないため。
それは俺も察していた。
「つまり私がエルフ族から妻を娶ることで一つの種族だけに肩入れできないようになるとお考えですか」
「お話が早くて助かります」
さすが王妃。
策略家。
「その妻の候補がメリッサ嬢である理由は」
「ふふ。妹が可愛いからとお考えですか?それも否定いたしませんが、何よりおかしな者を娶らせても争いになるからです」
「おかしな者?」
「傾国の花嫁になる者では本末転倒でしょう?」
まあたしかに傾国の花嫁では困る。
俺は国王じゃないから誰を娶っても国が傾くことはないと思うけど、立場的に全く影響がないとも言えない。
「晩餐で顔を合わせた王女で気に入る者はおりましたか?」
「……あの晩餐はそういう意味もあったということですか?」
「陛下は純粋に、我が国アルクの王家とブークリエ国の王家と英雄での三者交流を目的として晩餐へお招きしました」
「では陛下の考えとは別に企みがあったと」
ニコっと微笑んだ第二王妃。
無言の肯定か。
「ブークリエ国の王太女と違い継承権を持たない我が国の王女は貴族家の令嬢と同じく爵位を持つ者と成婚して城を出ます。ですが王家の血を引く者としてある程度の身分の者でないと降嫁させられません。英雄公が目をつけられるのは当然では?」
濁しもせずにハッキリ言う人だ。
分かりやすくて嫌いじゃないけど。
「質問する許可をいただけますか?」
「ええ。私しか聞いておりませんから許可は不要です」
「ありがとうございます。私にとって重大なお話なので言葉を濁さず質問させていただきます。お含みおきください」
今まで聞く側だったけど今度は俺が問う番。
「他の王妃殿下も含めて目をつけられていたことが事実だとするなら、第二王妃殿下がメリッサ嬢を薦める理由が分かりません。他の王妃殿下を出し抜く必要があるなら分かりますが、第二王妃殿下は既に王妃を退く覚悟と受け取れたので」
王妃の中で自分が優位に立つために他の王妃を出し抜いて自分の関係者と結婚させたいというなら分かる。
ただ、第二王妃は王妃の座を退こうとしてると思っていたから自分の妹を娶らせて何の得があるのかイマイチ分からない。
「私の進退と民の幸せは関係ありませんもの。英雄公もご自身が英雄でなくなっても民の幸せを願うのではなくて?」
「たしかにそうですね」
英雄であることは関係ない。
自分の大切な人たちには幸せであって欲しいから、もし英雄でなくなっても自分にできることをすると思う。
王妃もそうだと。
「残念ですが今のアルク国の王女の中には英雄公と添い遂げられる心の強い者がおりません。娶らせたところでお荷物になってしまうでしょう。英雄公にもエルフ族にも価値のある成婚でなければ。可愛らしいだけの姫はお望みではないでしょう?」
そうハッキリ言われて笑い声が洩れる。
自分好みのこの人がエルフ国の王妃だったことが悔やまれる。
違ったら一晩お相手して貰おうと全力で口説いたのに。
不敬罪で断頭台行きになるから言わないけど。
「お話は分かりました。ただ、ご期待には答えられません」
「メリッサではご不満ですか?」
「いえ。メリッサ嬢は強さも可愛らしさも兼ね備えた素晴らしい女性だと思いますが、私の方に問題があるので」
「問題?」
政略結婚は王家や貴族ならよくある話。
国民が納めた税で贅沢をさせて貰ってるんだから、国のプラスになる結婚をすることも国民への恩返しだと思う。
ただ、国(種族)同士を繋ぐという壮大な結婚話となると俺には出来ない大きな理由がある。
「私と結婚しても子宝に恵まれることはありません」
「……え?」
「そういう体なんです。跡取りはできません」
この異世界に来てから分かったこと。
正確には魔法検査を使えるようになってから初めて自分が子供を作ることができない身体だと分かった。
それを知ってショックだったかというと全く。
魔王との子作りは魔力があればいいから何の問題もない。
「せっかくのお声がけをこのような形でお断りすることをお許しください。アルク国の発展をお祈り申し上げます」
結婚=跡取り。
貴族には家系を継ぐ跡取りを作ることが絶対条件のような慣習があるから子供ができない時点で俺は候補から外れる。
そもそも子供を望む人とは結婚しないつもりだったけど。
「構いませんわ。できなくとも」
「え?」
「元より英雄勲章は一代限りですもの。跡取りが産まれ英雄公爵家は継げても勲章は継げません。申しましたように私は英雄公ご本人が全種族を平等に扱っていることが民にも分かる形での証拠が欲しいのです。種族間で争いをしないように」
とんでもない王妃が居たものだ。
王家は貴族以上に跡取り問題は熾烈だろうに。
ただ、言ってることは分かる。
第二王妃は他の貴族のように英雄の紋章目当てではなく、もっと大きな種族間の問題を見据えているんだと。
「そこまで仰るなら正直に話しますが、私は人を好きになれても愛することができません。子供ができないことを知ったのはこの世界に来てからですが、それ以前から子供は作らないつもりでした。私の結婚条件は私が居なくても生きていける女性。そんな男と結婚したらメリッサ嬢が不幸になりますよ」
この条件でも受け入れてくれそうなのはエミーくらい。
エミーも死地に赴く覚悟のある軍人だから結婚したからと言って家に籠ることはないし、心残りになる子供も望んでいない。
だからエミーには相手が居なければ結婚しようと言えた。
「家柄での政略結婚だった私も陛下への愛などなく嫁ぎましたが?嫁ぐ前にお会いしたのは数回。お歳も離れているのに恋をするなど不可能でしょう?今あるのは夫婦としての愛ではなく共に過ごした者への情。それでも私は幸せですわ」
愛じゃなく情とハッキリ言ってしまう第二王妃は強い。
もちろん防音魔法がかかってるから言えたことだろうけど、幸せというのも第二王妃の本音だろう。
幸せのかたちは人それぞれだから。
「メリッサ嬢の気持ちはどうなさるおつもりですか?」
「今や汚名となったフェリング一族のメリッサがどんなに好いたところで多くの貴族は娶りませんわ。仮にこの先お話がきたとしても、爵位継承権のない末席の者や何かしらの理由で他の者とは成婚できない難のある者くらい。貴族が選ぶお相手は恋や愛ではなく家柄や利用価値だとご存知でしょう?」
言われてみればたしかに。
警備官を続けられないだけじゃなく結婚にも響く。
さっき俺に謝罪したシャルム公爵家の中にも若い男女が居たけど、あの人たちも今回の件が結婚の妨げになる可能性は高い。
「英雄を平等で在らせようとする私のことは嫌ってくれて構いません。ですが私は種族間の争いの種を摘むことがアルク国の第二王妃として最後の役目だと考えております。お話を飲んでくださるならば私にできることは何でもいたしましょう」
そこまでの覚悟があるのか。
王妃を名乗るに相応しい誇り高い女性。
「条件があります」
「なんでしょう」
「私とメリッサ嬢で過ごす時間を設けた上で本人に結婚の意思がないようなら諦めてください。メリッサ嬢の人生はメリッサ嬢のものです。例えまともな貴族と結婚できないとしても本人にとってそれが不幸かは分かりません。メリッサ嬢と二人でしっかり話した上でお返事させてください」
自分でいうのも何だけど俺の結婚条件は大概のものだから、それが嫌なら嫁いできたところで不幸にしてしまう。
政略結婚はそんなものと言っても俺には魔王の半身という立場や寿命のことといった大きな秘密もあるし、ここで返事をすることはできない。
「分かりました。それまで離縁の申し入れは待ちましょう。今の私が申し入れればすぐに通ってしまいますので」
「王妃の離縁がすぐに通るのですか?」
「本来であれば国王と王妃の離縁は認められておりません。ですが王家の汚点である者との離縁は許可されております」
なるほど。
ブークリエ国はどうなのか聞いたこともないけど、アルク国では国王と結婚した人は何かない限り離婚できないのか。
「お優しい英雄公。お話を聞いてくださってありがとう」
「こちらこそ、お時間をいただき感謝申し上げます」
正直アルク国の王妃なら権力を使って申し出ることもできた。
それをしなかったのは俺を怒らせるような真似は避けたかったことと、俺を庇護しているブークリエ国を敵に回さないため。
国の安全を第一に考えているいい王妃だ。
「メリッサ。いらっしゃい」
ベルをリンと鳴らして防音魔法を解いた第二王妃は飲み物を持って待っていた長官を呼ぶ。
「お話は済んだのですか?」
「ええ。英雄公のお話が楽しくてつい花が咲いてしまって。私からお願いしたのに待たせてごめんなさいね」
「お姉さまが楽しかったのでしたらそれで」
本当に仲がいい姉妹だ。
下がっていた侍女や騎士たちも再び第二王妃を守れる距離に戻った。
・
・
・
「英雄公爵閣下へご挨拶申し上げます」
第二王妃が部屋へ戻った途端にまた集まってきた貴族たち。
主催の王妃が居ないから俺も長官と少し話して部屋に戻ろうと思ったんだけど、逃がさないとばかりにすぐに来られてタイミングを失った。
「私は祖父のところへ戻ります」
「待った。あとで時間が欲しい」
「え?」
集まってきた貴族とは反対に去ろうとした長官を止める。
第二王妃と約束したからこのまま「じゃあ」とはできない。
「帰るのはシャルム家の邸宅か?」
「はい」
「私が送ろう。シャルム公や従者にそう言伝を」
「わ、分かりました」
「では後程」
多少強引だけど人前で理由を話すことはできないから、送ることを理由にして手の甲へキスをした。
「待たせてすまない」
シャルム公の所へ行く長官を見てる人も屡々。
どんな関係だと気になった人が大半だろう。
「発言の許可をいただけますか?」
「聞こう。以降、私との会話に許可は必要ない」
「ありがとうございます」
集まっているのは大半がエルフ族。
人族の貴族は俺が許可は必要ないと言うことを知っているから顔見知りだと最初から省略してくれてスムーズに話せるけど、エルフ族とは交流がないからまずはここから。
「シャルム公のご令嬢とは以前より相識の間柄なのですか?」
「いや。今日裁判所で初めてお会いした」
「裁判所で?」
「毒の鑑定に来たのが長官だった」
「血筋の者が事件の捜査に加わったのですか?」
「私に毒を盛った人物は今回の被告ではない。警備長官という立場の者が別の事件の捜査に来ても何ら問題はない」
血筋の者が参加できないのは被告が血筋の者である場合。
俺に毒を盛ったり暗殺を企てたのは外道ではないから話が別。
事件が違うんだから長官が捜査しても問題ない。
「咎人の居る血筋の者と関わりを持っては英雄の輝かしい功績に傷がついてしまいます。距離を置かれた方がよろしいかと」
英雄になってから何度も聞いたそれ。
うんうんと同調する人の多いこと。
貴族や一般国民だけじゃなく本人からも言われてしまう「一般国民と親しくすると~」とか「獣人と居ると~」とか、もう聞き飽きるくらい聞いてうんざりだ。
「私の持つ英雄勲章はよほど傷付き易い繊細な功績のようだ。そうであるならその程度で傷つく功績に価値などない。私が怒りを覚えたのは罪を犯した本人に対してのみ。悪事に手を染めず生きている者に何の罪を問う。咎人の居る血筋の者とは関係を経つと言うのなら私にも近付かないことだ。名が穢れるぞ」
一瞬にして青ざめた貴族たちはすぐに跪く。
「出過ぎた真似をいたしました。申し訳ございません」
必死で謝る人たちと何事かと眺める人。
ザワザワする声が広がって行く。
「私は諸君の貴族としての生き方を否定するつもりはない。それが自分の生き方だと自信を持って言えるのであればしっかり貫くといい。ただし私にも自分なりに思う生き方がある。諸君も私の生き方に口を出してくれるな。私のためを思っての進言は感謝する。話は以上だ、下がれ。独りになりたい」
謝罪を表して去って行く貴族たち。
飲みかけだったグラスを再び手にして溜息をついた。
「お部屋に戻られますか?」
「長官に話があるからまだ戻れない。不機嫌な顔で話す訳にはいかないから少しバルコニーで呑んで落ち着いたらにする」
「承知しました」
フロアにこのまま居ると俺の顔色を伺う人が多そうだから、訊いてきた団長に答えてさっき長官と話したバルコニーに出る。
「地上も本格的に寒くなってきたなぁ」
「寒冷期に入りましたからね。来月の祈りの日に王都の南側では月祭が行われます」
白い息を見ながら呟くと後ろに居る団長がそう教えてくれる。
「祭りがあるんだ?」
「本来は大聖堂が行う祈りの日なのですが、二年に一度大きな祭りが開かれます。その日は国民も家族や恋人と祝いをするのが慣習ですのでシンさまもどなたか誘われては?」
祈りの日で家族や恋人と祝う……なにかと重なるような。
「あ。クリスマスだ」
「クリスマス?」
「俺が居た世界にあったイベントごと。神様の誕生日を祝って教会でミサが行われる。家族や恋人と過ごすのも同じ」
「祈りの日は月神へ一年の豊穣の感謝と翌年の豊穣も願うものですので少し違いますが、似た催しがあるのは不思議ですね」
「な。世界が違うのに」
この世界にもクリスマスらしきイベントがあるのは面白い。
それも過去に異世界から来た勇者の影響なのか偶然なのか分からないけど。
「大聖堂のミサにはシンさまも呼ばれると思います」
「えー。せっかく祭りがあるのに?」
「祭りが始まるのは教皇が祈りを捧げたあとです」
「ああ。じゃあ俺も祭りに参加できるな。良かった」
献身な信徒じゃない俺には祈りよりも祭り。
愚痴を零すと団長はクスクス笑う。
「月祭は翌日の夜まで続きますので満喫なさってください」
「団長は?」
「催し事のある日は軍人にとって警備の日ですから」
「そっか。そう聞くと俺もこの世界に来る前はクリスマスでも関係なく仕事してた」
苦笑する団長に笑う。
休暇をとるか日曜でもない限り社会人には平日。
俺の場合は夜に仕事をしてたから特に「Holy night?ナニソレオイシイノ?」レベルの話で、むしろ客にクリスマスプレゼントを用意するのが大変な日だった。
「この世界に来てから随分と時間が経ってたんだな」
客と待ち合わせしていて召喚された異世界。
地球には帰れないと聞いた時は腹が立ったけど、今はホストをやっていたことが懐かしく感じるくらいこの世界に馴染んだ。
勇者ではないのに召喚されたお荷物の異世界人が今や英雄。
魔王から結婚詐欺にあったり人族ではない人外になったり神さまが両親だったりと忙しく、異世界では人生イージーモードを望む俺の気持ちとは裏腹にすっかりハードモードの人生だ。
「英雄だから全ての種族を平等に、かぁ」
「王妃殿下のお話はそれだったのですか?」
「うん。長官を娶って欲しいって」
辺りに人が居ないことと盗聴魔法が使われてないかを確認して第二王妃から言われたことを話す。
「アルク国側は姫殿下の誰かとの縁談を薦めてくるものと思いましたが、第二王妃殿下の末妹とは予想外でした」
「縁談を薦められることは予想の範疇だったのか」
「全精霊族の守護者であり唯一無二の存在である英雄の元に国の重鎮を嫁がせることは想像に容易いかと。貴族ですら領地を守って貰うための政略結婚はよくある話ですので」
「たしかに」
貴族の間ではよくある話。
ただ異種族とそんな話になるとは思わなかった。
言われてみれば俺の立場なら有り得る話だったと思うけど。
「他国とはいえ王妃殿下の発言ともなると国仕えの私が下手なことは言えませんが、どうぞ国や民のためではなくシンさまのお心のままにご判断を。陛下も国家間の体裁がシンさまの自由を奪う枷になることは望んでおりません」
「ありがとう」
重い決断を迫られる俺を気遣ってくれる団長。
体裁など考えず自分の思うままに答えを出せばいいと。
俺が前に自分が争いの火種にならないようにと誰にも言わず魔界へ行ってしまったから、国王のおっさんからも何かあれば相談してほしいということや国や民じゃなくまず自分自身を優先してほしいと言われている。
だから俺が第二王妃の話を断っても何も言われないと思う。
そもそも国王のおっさんが俺に命令したことはないけど。
いつも俺にどうだろうと先に意思を聞いてから、俺がやると言ったらじゃあ頼むというような流れで決まる。
「とりあえず今すぐに返事できないとは言った。正体は隠すにしてもフラウエルたちのこともあるし、俺のこともどこまで話せばいいのか。条件として長官が嫌なら結婚しないとも話したけど、よくある政略結婚って以上に問題が山積みだ」
フラウエルや四天魔やエディやラーシュの出入りも結婚して一緒に暮らしていれば分かることだし、仕事の内容も領主の仕事の他に魔界の公務があるからいつかバレそう。
普通の政略結婚なら長官の気持ち次第で決められただろう。
でも俺には言えないことが多すぎる。
「英雄勲章を持つ者に関することは全種族共通の法である地上法で定められた口外禁止令がありますから、例え種族が違っても従わなければなりません。なのでお相手も話せないことがあることは最初から理解した上で嫁いでくると思います」
「ああ、そっか。それを守れる自信がないならそもそも嫁いで来ないか。使用人でも誓約書を書かされるくらいだし」
地上層に暮らす全ての種族に共通した法律の中に、英雄勲章を持った者の能力や私生活を明かすことを禁じる事項がある。
もちろん俺の噂話をするのが駄目とかそういう話ではなく、俺本人が明かしていないことを他人にバラせば極刑。
専属使用人のエドやベルだけでなく、屋敷で働く使用人たちもそれを承知で血判の誓約書を交わした上で仕えてくれている。
「受け入れるかも分かりませんので細かなことは言わず、話せないことがあっても良ければとお伝えするだけでよいかと」
「狡い条件だよな。俺のことは詮索するなっていうのと同じ」
「そうでしょうか。自分は英雄に嫁ぐことで過分なほどの見返りを得るというのに、英雄の出した条件は受け入れないという者の方が狡いと思いますが。その程度のことすら受け入れられない者が英雄に嫁ぐ資格はありません」
相手は嫁ぐことで得られるものが多いことは確か。
俺から相手に望むことは、得られる金や地位や影響力のための結婚と割り切って深入りしないで貰うこと。
「それ以前に魔王の怒りに触れ天地戦になるのでは」
あまりにも害のない魔王(今のところ)だから忘れていたみたいだけど、既に俺には半身の魔王のいることを思い出したらしくハッとして言った団長に笑う。
「紋章分けのために結婚することは話してある。それを理由にフラウエルを遠ざけたら激おこだろうけど、魔族は半身の他に伽の相手が居ることが当たり前の種族だから、フラウエルからすれば俺にも伽の相手ができたって程度の感覚だと思う」
「アルク国の王妃と王宮妃のようなものですか?」
「いや、正妻と寵妃って関係性でもない。言葉のまま夜伽の相手ってだけで、魔王の伽役に至っては使用人の役職の一つ」
ただ単に性欲を解消をするためだけの相手。
言い方は悪いけど、魔族にはそれが常識。
魔王にとっての伽は自分の性欲を解消するためじゃなくて伽役が力を保てるよう魔力を与えてあげてるんだけど。
「まあ後は長官と話してみてからだな。娶るよう言ったのは第二王妃で長官本人じゃないし。助言してくれてありがとう」
「少しでもお役にたちましたら幸いです」
長官の気持ちがNOならそれで話は終わり。
うっかり話せば極刑になるようなことを聞かされた方が長官の負担になるだろうし、団長の助言通り余計な話はしない。
「さてと。長官と話すか」
「どちらでお話になりますか?」
「あ、そっか。勝手に王城に入らせる訳にいかないもんな。じゃあ王宮庭園で散歩でもしながら話すことにする」
「かしこまりました。邪魔にならない距離で護衛いたします」
「ありがとう」
本当は個室の方が安心して話せるけどアルク国にある店は知らないし、かと言って俺の宿泊先の王城に連れて行く訳にもいかないから、今日は舞踏会があるから特別に解放されている庭園で話すのが一番安全だろう。
貴族裁判のために来たアルク国で思ってもなかった話に。
第一夫人でさえもまだ決まっていないのに。
そんな複雑な心境のままバルコニーからフロアへと戻った。
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