ホスト異世界へ行く

REON

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第十章 天地編

悪条件

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「歓談中に失礼する」
英雄エロー公爵閣下」
「跪く必要はない。メリッサ嬢から話は聞いてるだろうか」

集まっている場所に行くと俺に気付いて跪こうとしたフェリング一族の行動を止めてシャルム公爵に話しかける。

英雄エロー公爵閣下が邸宅まで送ってくださると」
「ああ。先程ダンスの前に話をする機会があって思いの外話が弾んでな。もう少し話さないかと誘った。話のあとは私が責任を持って邸宅まで送り届ける。許可をいたたげるだろうか」

当主のシャルム公はもちろん両親の承諾も必要。
まだ嫁入り前の孫や娘だからなおさら心配だろう。

「お断りする理由もございません。大変光栄にございます」
「感謝する」

シャルム公や両親も承諾してくれたことに感謝を伝え、長官を連れ第二宮殿を後にして王宮庭園に出た。

「ちょうどいい。あのガゼボで話そう」
「はい」

第二宮殿と王城の中間地点くらいの場所にあるガゼボ。
ベンチで冬の夜風にさらされながら話すのは風邪を引きそうだから(俺は調整アジャストメントを使えるから平気だけど)、壁のあるガゼボがあって良かった。

「あの……ワタクシは何か御無礼を」

俺が座ってすぐ怖々と訊いてきた長官。
としか言わなかったから不安にさせてしまったようだ。

「そういう話じゃない。とりあえず座ってくれるか?」
「は、はい」

外套がシワにならないよう座る長官を見ながら苦笑する。
不安にさせて申し訳ないけど、長官の気持ちを訊く前に他の人の前で話す内容ではなかったから許してほしい。

「単刀直入に話す。王妃殿下から長官を娶るよう言われた」
「え、………えぇ!?」

余計なことは言わず説明すると長官は盛大に驚く。
舞踏会の会場では気品漂う貴族令嬢という感じだったけど、その貴族らしからぬ顔での驚きぶりは俺を大内刈でぶっ倒した時の長官そのもので笑う。

「あ、姉が大変なご無礼を!」
「頭を上げてくれ。無礼だとは思ってない」
英雄エロー公に貴族令嬢を嫁がせるなど無礼極まりないお話です。娶っていただくのであれば王家の姫殿下でなければ」
「ん?それは長官の個人的な意見か?」
ワタクシ個人の意見ではなく多くの国民は納得しないでしょう」

あれ?
そんなこと第二王妃は言ってなかったけど?

英雄エロー公が属するブークリエ国の公爵令嬢であれば同国の者なので理解できますが、他国から嫁がせるのであれば身分の高い王家の者でなくては失礼にあたります。貴族爵は同じ公爵であっても英雄エロー公は貴族ではなく特級国民なのですから」

まあたしかに俺の貴族爵は
常に優先される国民階級でいうと上級国民(貴族)より特級国民の俺の方が身分が上ってことになる。

「第二王妃がいうには今のアルク国の姫殿下プリンセスの中には俺に嫁げるような心の強い子が居ないらしい」
「姫殿下がどのような方かまでワタクシは存じ上げませんが、だからと言って公爵家の者を嫁がせるなど有り得ません」

んー……。
長官の気持ちどうこう以前に『公爵家の令嬢が嫁ぐ』という時点でもう既に有り得ないという認識のようだ。

「俺は公爵令嬢でも失礼だとは思わないけど?」
「例え英雄エロー公のお考えがそうであってもアルク国民は猛反対するでしょう。全精霊族の守護者である英雄エロー公と貴族家とでは得られる恩恵があまりにも違うに関わらず成婚を迫るなど、厚かましくて考えただけでも恐ろしいです」

なるほど。
結婚して得られるものの大きさを考えると王家じゃないと釣り合わないという考えのエルフ族が多いということか。

「姉にはワタクシが直接抗議いたします」
「姉といえ王妃殿下に抗議するのはマズイんじゃないか?」
英雄エロー公へ無礼な申し出をしたことの方が大問題です。王宮に居る姉は分かっていないのです。英雄エロー公が国民からどれほど慕われ愛されているかを。公爵家というだけでも厚かましいのに咎人の一族を嫁がせるなど暴動が起きかねません」

そうバッサリ。
気の強さはあの姉にしてこの妹あり。

「王妃殿下は全部理解してると思う。幸か不幸か俺が国民から支持を得てるからこそエルフ族からも嫁がせておきたい。血縁関係になれば有事の際に国を護って貰うこともできる。ただ、今の王家の中から嫁がせたところで俺の役に立たない姫殿下プリンセスなら情すらわかない。情さえもない姫殿下プリンセスのために俺が動く保証はない。だから長官だったんじゃないか?」

外道の罪を暴いたことで俺がフェリング一族を気にかけていることに気付いているし、周りの見る目を少しでも変えるために長官とファーストダンスを踊ったことも分かっているだろう。
言い方は悪いけど、俺の罪悪感を理解した上で既に気にかける程度のがある長官をお薦めしたわけだ。

有事の際に国民を護って貰うための策。
俺を種族間の争いの火種にさせないための策。
あの人は最初から俺に好かれようとは思っていない。
国民を護るためなら俺の罪悪感や同情心だろうとしっかり利用する立派な王妃だ。

「さすが王妃に選ばれるだけある。賢い姉さんだな」

小首を傾げる長官に笑い声が洩れる。
気にかけていることを気付かれた時点で俺の負けだ。

「長官は俺のこと好きか?」
「……え!?」
「どうだ?」
「ま、まだ出会ったばかりですのでそれを訊かれましても!多くの民を護る英雄として素晴らしいお方だと思いますし、憧れや尊敬の念は間違いなくありますが!」

身振り手振りで話す長官は軽くパニック。
慌てると公爵令嬢という身分は旅立つようだ。

「つまり一人の男じゃなく英雄として見てるって事だよな?」
「は、はい!あ、失礼?い、いえ!」
「言い直した方が失礼だろ」
「も、申し訳ございません!」

本当に貴族かと思うような正直さ。
それが逆に新鮮でくすりと笑う。

「それならいい。婚約しよう」
「……え?」
「もう一度言うか?婚約しよう。俺から申し出たことにする」

多くの国民と同じく英雄としてしか見てないならいい。
むしろその方が俺にとっても好都合。

「ぇぇぇぇぇぇええ!?なぜそうなるのですか!?」

時間差で驚く長官。
やっぱり面白い。

「俺にとっても都合がいいから」
「どういうことですか?」
「俺には結婚生活に向かない重大な欠陥がある」
「欠陥?」
「人に好意は持てても愛せないことが一つ。もう一つは子供ができない身体なんだ。だから結婚する相手は子供が居なくても俺から愛されなくても自分の人生を謳歌できる人がいい」

第二王妃が狙うは持てても恋愛感情のは無理。
好きで付き合っても恋愛感情での愛に変わった試しがない。
だから国民と同じ憧れ程度の感情しかない方が好都合。

「それに特殊能力ユニークスキル持ちの異世界人で英雄エローの俺は例え伴侶が相手でも話せないことが多い。そこを深く訊いてくる人は困る」
「そこは理解できます。特級国民である英雄エローと勇者と賢者の能力や私生活がと精霊法で定められている理由の一つは、知ることで命を狙われる危険もあるからでしょう」

さすが警備長官。
その辺りの心配はしなくて良さそうだ。

「そこを理解してくれてるなら話は早い。アルク国側が長官を嫁がせようとしたんじゃなくて、俺が長官を気に入って婚約を申し出たことにする。俺本人が姫殿下プリンセスの中の誰かじゃなく長官を気に入ったのに王家じゃないからって暴動は起きないだろ」

それで暴動になったら俺の気持ちは無視かってキレる。
自分の型に嵌めるような押し付けの憧れや尊敬は要らない。

「まず婚約しようって言ったのはまだ第一夫人が居ないから。王妃殿下も言ってたけど第一夫人は俺が属するブークリエ国の人になって貰った方がいい。国も種族も違うとなると法にも生活にも違いがあるだろうから長官が苦労することになる」

ブークリエ国に属するのは人族と獣人族。
同じ国の人族と獣人族(集落に暮らす獣人族)でも生活が違うのに、国も種族も違うエルフ族の長官には大きな負担になる。
だからこそ王妃も第一夫人にはブークリエ国の人をと言ったんだろう。

「あとは、婚約中にもし嫌になった時には言ってくれれば婚約破棄を受け入れる。その時も俺の方から破棄を申し出たことにすれば少なくとも長官の責任にはならない。婚約を破棄された扱いにはなるけど長官から申し出たって言うよりマシだろ」

長官から申し出たことを知れば恐らく叩かれる。
添い遂げる覚悟もなく英雄エローと婚約した者として。
破棄すれば次に婚約する時に響くことは間違いないけど、大罪人を出してしまったフェリング一族の長官が上流階級の男と結婚することは難しいからあまり変わらない。

「今この場で思いつく限りのことは話させて貰ったけど、話を聞いてどうだ?フェリング一族にとっても悪い話ではないと思う。俺の婚約者が居る一族を蔑ろにできる貴族は早々居ない」
「そのような英雄エロー公を利用する真似は」
「遠慮なく利用しろ。王妃殿下はエルフ族を護るために。長官は一族を護るために。俺は強引に娘と結婚させようと迫る貴族たちから逃れるために長官を利用させて貰う」

互いに利点がある婚約。
遠慮なく利用して貰った方が俺も罪悪感を持たずに済む。

「返事が決まったら書簡でいいから報せてくれ。俺も王妃殿下に返事を待って貰ってるから長期間は待てないけど。無理なら無理とだけでわざわざ理由を説明する必要はないから」

むしろ無理な理由の方が多いから必要ない。
英雄エロー相手だからと気を使った文章を考えるのも手間になる。
無理ならそれでこの話は終わりというだけ。
断る理由を追求するつもりもない。

「団長」
「はっ」

ガゼボから顔を出して警護に付いていた団長を呼ぶ。

「馬車の用意を頼む」
「承知しました。用意ができ次第ご報告いたします」
「うん」

通信石を見せた団長はガゼボを離れる。
アルク国に居る間は裁判所から乗せてくれた御者が専属で待機してるから、用意に大した時間はかからない。

「寒い場所での話になって悪かった」
「いえ。この中は風が遮られますから寒さはさほど」
「壁つきのガゼボがあったことが救い」

謝りながら再び座りなおして少し笑う。
たしかに外に居るよりは暖かいけど、風邪を引かせる訳にいかないから少しでも早く終わるようザッと話させて貰った。

「待ち時間に質問をする許可をいただけますか?」
「うん。いいけど今更だな。それ訊くの」
「も、申し訳ありません。何をしたのか思い出すのに必死で」

今更の確認で笑う。
最初の時点で頭がいっぱいなのは伝わってたけど。

「利用しろと申されましたが、貴族から逃れるためという理由では姉やワタクシの利点との差があり過ぎると思うのですが」
「全然。俺にとっては頭の痛い問題が減ってありがたい。今日の様子見ただろ?隙あらばああやって囲まれて娘をおすすめされたり令嬢からも迫られたりするからメンタルがすり減る」

思惑の渦巻く貴族たちとの化かし合い。
相手はどうにかして俺に取り入ろうと近付き、俺はなにがなんでも躱そうと作り笑いを標準装備して誤魔化しつつ逃げる。
あの時間がどれほど俺のメンタルを削ってくるか。
それがなくなる(多少減る)だけでも充分に価値がある。

「たしかにそれも大変かとは思いますが、咎人の一族を娶って国や一族を護ることになるよりはよいかと」
「咎人の一族だから選ばない理由にはならない。俺は今まで自分が思うままに生きてきたしこれからもそうするつもりだ。そんな男から婚約を迫られてる長官の方が大変だと思う。問わず口外せずを守ってくれるなら俺にはこれ以上の好条件はない」

むしろそんな悪条件を承諾する人を捜す方が難しい。
それを受け入れてくれるのなら有事に駆けつけることもフェリング一族の風避けになることも大した問題じゃない。

「深入りするなということですね」
「ハッキリ言えばそうだな。もちろん話せる範囲のことは話すけど、あまり期待はしないでくれ。長官も周りに迷惑をかけるような悪いことさえしなければ自由にしていい」

少なくとも魔族に関することは一切話せない。
実は人族じゃないことや寿命すら分からないことも。
このまま見た目が変わらないならそれは話すしかないけど。

「それだけの悪条件での婚約を迫られてるんだから双方の利点に差があると考える必要はない。俺は俺で充分この婚約には利用価値があるし、長官も遠慮なく利用してくれていい」
『報告します』

ちょうど話の区切りで団長の声。
バングルの通信石に魔力を流す。

「用意できた?」
『王城前へご用意しました。一度そちらへ護衛に戻ります』
「いや、大丈夫。そのまま御者コーチマンと待っててくれ」
『承知しました。どうぞお気を付けて』
「ありがとう」

さすがアルク国が用意した御者。
行動が素早い。

「じゃあ行こう」
「はい」

先に立ち上がって手を差し出すと手をとった長官をエスコートしてガゼボを出る。

「出た途端に寒っ」
「いかに中が暖かかったか分かりますね」
「うん。外で話すことにならなくて良かった」

真冬だから寒くて当たり前だけど、ガゼボに入る前より少し風が強くなったせいで体感温度がさっきよりも低く感じる。

「あの、もうひとつお聞きしたいのですが」
「ん?」
「今回のことは父母や祖父に話していいのでしょうか」

綺麗に舗装された石畳を歩きながらそう問われる。

「いや。一族の人から言われて渋々婚約することにもなりかねないから俺に返事をしてからにしてほしい。長官が婚約してもいいって思えば俺の方からシャルム公やご両親に申し出て、その気になれなければ俺たちの間だけでこの話は終わらせよう」

公爵家の立場で英雄との婚約を断るのは難しい。
本当は嫌なのに断れず困らせる可能性もあるし、逆に一族のために嫁げと長官の気持ちは無視される可能性もある。

ワタクシがお断りをすれば姉以外は婚約の話があったことさえも知らないままということですか?」
「うん。その方がフェリング一族としてもいいだろ」

知らない方が幸せなこともある。
俺のことを知らない方が幸せというのと同じく。

「お優しいですね、英雄エロー公は。一族の心配まで」
「それは違う。フェリング一族の後々のことを考えてない訳ではないけど一番はそれが理由じゃない」

俺は優しさだけで言ったんじゃない。
そんな善人じゃない。

「周りから言われて渋々婚約を受けられたら困るからだ。俺との婚約はエルフ族代表の生贄になることだと覚悟してくれ」
「生贄?」
「そうだろう?エルフ族を護って貰うために悪条件の俺に身を捧げることになるんだ。長官の幸せを犠牲にして」

俺との婚約は種族を代表して生贄にされることと同じ。
知ることも口外することも許されず、愛されることもない。
エルフ族の幸せのために長官は自分の幸せを犠牲しなくてはならない。

「それならば英雄エロー公はもっと酷い精霊族の生贄ですね。ご自身の意思とは関係なく全ての精霊族を平等に扱う責務を背負わされ、精霊族同士が争わないためという理由で愛せないと分かっている者を娶って養わなくてはならないのですから」

そう言って長官はクスッと笑う。

英雄エロー公はお優しいです。姉の申し出も国を通せば断ることもできたのに頭ごなしに断ることはせず、咎人の一族の未来を案じワタクシにも選択肢を与えてくださるなんて。冷酷な方ならば自分との婚約が生贄になることなど考え至らないと思います」

あの姉にしてこの妹あり。
生贄になることと聞いても動揺一つ見せず笑うとは。

「貴族として生まれ育ったのですから一般国民のように好きになった方と成婚できるとは考えておりませんでした。それを思えば尊敬できる方との婚約で迷えるワタクシは恵まれていますね」

そうか。
そもそもになる覚悟はあったのか。
それが一族や領民という以上の種族規模での生贄になったことは大きな違いではあるだろうけど。

「お言葉に甘えて自分で考え書簡でお返事いたします」
「そうして欲しい」

細かい話をするのは長官の返事が決まったあと。
断るなら書簡で終わり。

王城前で待っていた馬車に乗りシャルム公爵家まで送り届け、長官とは互いに何も特別な話はしなかったかのように挨拶を交わして別れた。





「長い一日になりましたね」
「うん。色々あり過ぎて濃い一日だった」

一泊するアルク城の部屋に戻ってきてようやく堅苦しい衣装を脱ぎながら団長と話して苦笑する。

「想定外のこともあったけど、保護された子供たちが怯えて暮らさずに済むようになったことで少し肩の荷がおりた」
「領主の勤めやご公務に加えて証拠集めに昼夜問わず奔走ほんそうなさってましたからね。本日はごゆっくりお休みください」
「そうさせて貰う」

ゆっくり休むのなんてどのくらいぶりか。
貴族裁判までに証拠を掴むためには睡眠時間すら惜しかった。
でも判決が出た今日は安心して眠れる。

「私は隣の部屋におりますので何かあればお呼びください」
「分かった。団長もゆっくり休んでくれ。ありがとう」
「もったいないお言葉をありがとうございます」

今日一日立ちっぱなしだった団長も疲れただろう。
後は風呂に入って寝るだけだから団長にも休むよう話して「おやすみ」と見送った。

『終わったか』

風呂に入ろうと下着を脱いだタイミングで聞こえた声。

「凄いタイミングで声をかけて来たな」
『今更見られて困るものでもないだろう』
「まあそうだけど」

声の主は魔王。
既に風呂に入ったあとらしくローブ姿。

「あれ?夜のお勤めは?」
『これからだ』
「その前に声をかけてきたってことは急用か?」

に声をかけてくるのは珍しい。
大抵はの怠そうな姿(伽の相手に魔力を与えてるから)で声をかけてくるのに。

『急用という訳ではないが最近はいつ声をかけていいのかが難しい。湯浴みをする今なら一人だろうと思ってな』
「なるほど。気を使わせて悪かった」

思えば最近は誰かしらが一緒の時間が多かった。
それがエドやベルなら気にせず声をかけただろうけど、二人はデュンヌ伯爵家に潜入していたから屋敷で俺の世話をしてくれていたのは他の使用人だった。

『夫人の候補が見つかったようだな』
「聞いてたんだ?」
『全てではないが。娶るよう言われているのは聞いた』
「ああ、王妃との話を聞いてたのか」

長官じゃなく王妃と話してる時に水晶で見たようだ。
あの時間だと食事前に少し話そうと思ったんだろう。

「フラウエルが見た王妃の妹を娶るよう言われたんだけど、本人の気持ち次第でまだ決まった訳じゃない。それにまずは婚約からだからいきなり夫人になる訳でもない」

シャワーを浴びながらそう説明する。
俺の結婚(最初は婚約だけど)は屋敷に出入りしてる魔王や四天魔にも無関係じゃないからしっかり説明しておく必要がある。

『婚姻前に行うというアレか。精霊族は煩わしい儀式が好きなのか?どうせするならさっさとすればいいものを』
「一般国民は婚約を省く人の方が多いけど貴族はな」

一般国民はわざわざ婚約する人の方が稀。
付き合って自分たちのタイミングで結婚するのが一般的だ。
ただ政略結婚が基本の貴族はそうもいかない。

「正直俺も不要派だけど、よく知らない人といきなり結婚するのもな。今回は相手を知るためにも必要な期間だと思って」

政略結婚と言っても、エルフ族で第二王妃の妹で警備長官ってことしか知らない相手といきなり結婚するのはさすがに。
付き合ってからの結婚なら婚約期間は不要だけど。

『俺の時も知らないまま半身になっただろう』
「許可なく半身にしたフラウエルが威張って言うな」

全然ドヤる話じゃない。
結果は別として、最初のそこは反省して欲しい。

『地上で何人娶ろうと構わないが、だからと言って俺にもう会わないなどとは口が裂けても言わぬようにな』

その忠告を聞いて体を洗いながら振り返る。

「ばーか」
『忠告をしてやったのに馬鹿と言われるとは』
「ばかばかばーか」

馬鹿馬鹿言われて苦笑する魔王。
そんな脅しのような忠告などしなくても言う訳がないのに。

「王妃の妹には俺が人を愛せないことも子供を授かれない体なことも話せないことが多いのも説明した。向こうも話を受けるなら俺に深入りするなってことだと理解してくれてる。何のためにそんなクソみたいな条件の話を先にしたと思ってるんだ」

会わないと言い出すくらいならわざわざ説明していない。
今まで通り魔王たちが来ても追求されないよう、最初から悪条件を提示して理解した上で決めて貰うことにした。

「自分の存在が争いの火種にならないためには必要なことなんだと思っただけで、結婚しなくていいなら最初から断ってる。結婚すると制限されることも出てくるし、自由に生きたいクズの俺が好き好んで結婚するはずがないだろ。本当は一緒に居ても苦痛にならない半身のフラウエルだけで充分だった」

俺のためじゃなく地上層(精霊族)のために必要な結婚。
それを理解しているから条件付きで了承しただけで、本当なら半身の魔王だけで充分というのが俺の本音。

『俺もお前以外の半身は必要ない』
「必要ないって言うより一人しか契約できないだろ」
『契約できても必要ない。数百年生きてもお前だけだった』

また真顔でナチュラルに言ってるのかと体を流しながらチラと見ると、目が合った魔王はくすりと笑う。

「いや、え?来るなよ?」
『誰も居ないのだろう?』
「ここアルク国の王城だから」
『王城だろうと俺には問題ない』
「問題大あ……最後まで聞けよ」
「魔力は抑えた。案ずるな」

そういう問題じゃないのに。
角を引っ込めてベッドから立ち上がったからまさかと思えば、人の話を最後まで聞かずに魔祖渡りで現れた魔王。

「警報さえ鳴らなければ俺が来たことはお前しか知らない」
「自由すぎるだろ」
「自由に生きたいお前と同じだな」

たしかに。
いや、納得していいことじゃないけど。

「お勤めはどうするんだよ」
「半身が優先だ」
「またマルクさんの頭痛の種になるようなことを」

シャワーで濡れることも気にせずハグする魔王。
嬉しそうな顔で俺を見てまたハグする魔王に調子が狂う。
忙しくて会う機会が減ってたから反動がきたようだ。

「分かったから風呂に入らせてくれ。風邪ひく」
「一緒に入ろう」
「もう入ったんだろ?」
「もう一度入る」

ああ、もう聞かないパターン。
さっさとローブを脱いでいるのを見て察した。





「風呂は許したけどコレは許してない」
「許せばいい」
「なにその新しい発想」

風呂を出て豪華なソファに座って一息つくつもりが、水を飲んだグラスを置いた途端に抱えられベッドに運ばれて添い寝。
反動がデカすぎる。

「悩みが一つ片付いて良かったな」
「まあ。それは間違いない」
「邪魔はしなかった」
「ん?」
「忙しい最中には邪魔しなかった」
「……だから今日はいいだろってことか」

たしかに邪魔しなかったけども。
そんなに我慢してたのかと思うと強く言えない。

「添い寝だけだからな」
「…………」
「黙秘しても駄目だから。もう一回言うけど、ここ王城」
「だから何だ。室内だろう」
「王城で盛るな。不敬だぞ」
「それが罪になるのか?精霊族は」

そうですね。
罪にはなりませんね。
俺の気持ちの問題だけで。

「疲れてるんだよ」

それを聞くとピタと止まった魔王。
しょぼんとしながら隣に横になる。
物凄い罪悪感を与えるしょぼん攻撃だ。

「寝るまで添い寝してやろう。ゆっくり休むといい」
「気持ちの切り替え早っ!」

子供を寝かすように背中を軽く叩く魔王の切り替えの早さよ。
疲れてると聞けば諦めてくれるところは優しいけども。

「不埒なことは王都に帰ってからな」
「お前は落下した祖龍の卵を見捨てられないタイプだな」
「前にも言ったけどそんな状況に遭遇したことがないって」

腕の中に居るとあっという間に眠くなってきて欠伸がでる。
俺にとって魔王以上に眠気を誘うアイテムはない。

「あ。来月のクリスマスもどきに祭りがあるんだって」
「クリスマスもどき?」
「家族や恋人と過ごす日。みんなでクリパしよう」
「クリパ?」
「異世界料理を作るから……予定あけておいて」
「いつだ」
「来月の」
「おい、言ってから寝ろ」

疲れもプラスされて快眠アイテムの効果は絶大。
答えようと思っても会心の一撃の眠気には勝てず、王都に帰ってから話そうと思いながら眠りにつく。

色々あって気疲れしてたことを察して来てくれてありがとう。
おやすみ、俺のたった一人の半身フラウエル

 
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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