ホスト異世界へ行く

REON

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第零章 先代編(前編)

王家の晩餐

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場所は王城大食堂。
数十人が座れる長方形の食卓に椅子。
クロスや燭台や薔薇に似た花が飾られた花瓶。
シンプルながらもそれら一つ一つ高級感があり、品がよい。

「き、緊張する」

淡いピンク色の美しいイブニングドレスを身にまとった美雨。
緊張のあまり、ドレスの色に合わせたオペラグローブの中の手がしっとり汗ばんでいるのを感じる。

「ね、ねえ、柊。もう一度作法の」
「…………」
「柊しっかりぃぃぃぃぃ!」

緊張のピークを超え顔面蒼白で無の境地になっている柊。
そんな柊の目を覚まさせるために美雨はグーで腹部を殴る。

「賑やかなことだ」
「うん」

元気な学生二人に苦笑する時政と春雪。
召喚されてきた時から変わらない美雨と柊だからこそ、緊張感のある時でも肩の力が抜けるというでもあるのだけれど。

今日は王家と勇者の四人で行う晩餐会。
国王と王妃と王太子を含む子供たちが勢揃いする。

王家との晩餐とあらば服装はもちろん正礼装。
異世界から召喚された勇者の四人も、女性の美雨はイブニングドレス、男性陣は軍服と外套ペリースで身を包んでいる。

「時政さんと春雪さんは何で緊張しないの?国王さまとか王妃さまとか王子さまとかお姫さまとか偉い人ばかりなのに」
「一通り作法は習った。後はなるようにしかならない」
「何でって言われても分からないけど緊張してない」
「肝が据わってるぅ」

時政の場合は踏んできた場数の多さ。
こちらは肝が据わってると言っても過言ではないが、春雪の場合は王家への関心のなさが冷静でいられる理由。

春雪にも『王家=国王の家族=偉い人』の知識はある。
ただ、自らの目で見て尊敬に値する人物だと思えたミシェル以外の王家に対しては関心がなく、たんに『身分の高い人』というだけの存在でしかない。

そういう部分でも春雪は少し欠けている。
礼儀として不快にさせないための気遣いはするものの、興味もない尊敬もしていない相手に緊張する程の心がない。
つまり春雪にとってミシェル以外の王家の者は、道に落ちている小石と変わらない『気にもとめない存在』といえる。

「勇者さま方。王家の皆さまがお越しです」

予定していた時間ピッタリ。
大食堂内の扉の前に待機していた使用人から声がかかり、立って待っていた勇者四人は開く扉へと目を向けた。

最初に大食堂へ入って来たのは国王のミシェル。
国王の正礼装である金の刺繍入りのトガの上にベルベット生地の赤いマント、そして豪華な王冠を身につけている。
オーラと言うのか、威厳という意味でも眉目秀麗という意味でも、ただそこに居るだけで存在感が違う。

次に続くのは第一妃の子の王太子マクシムとグレース。
グレースの美しさは勇者四人も既に周知だったものの、ミシェルと同じパープルの髪と瞳の王太子マクシムも美形。
二人はミシェルとよく似ている。

その後ろは第二妃と継承権第二位のセルジュ。
後に続くのは第二妃の子供の王女と王子の二名。
セルジュの髪はパープルで瞳は赤、王女と王子は髪も瞳も母親譲りの赤。

最後は第三妃の一家。
母親の第三妃含め全員がブロンドの髪で青い瞳。
王子一名と幼い王女が二名。
王女二名はどうやら双子のようだ。

国王と王妃二名と子供が八名。
入室した順がそのまま身分の高さを表している。
国王も王妃も世継ぎを望まれ随分と頑張ったのだなと春雪は少し的外れなことを思いながら、全員が揃うのを眺めていた。

「勇者諸君、よくぞ参られた。本日の晩餐は王家と諸君だけで行う身内のもの。気軽に食事を楽しんでほしい」

今日のミシェルは国王の顔。
勇者の四人は教わった作法で挨拶をして応える。

「食事の前に挨拶を」
「はい」

横一列にずらりと並んだ王家の中からミシェルに言われて一歩前へ出たのは王太子。

「亡き母、正妃ブランディーヌ・ヴェルデに変わり、異界より参られし勇者さま方へご挨拶申し上げます。王太子のマクシムと申します。お目にかかることができて光栄です」

本来ならば最初に王妃が挨拶をしてから我が子を紹介するが、マクシムとグレースには母親の王妃が居ない。
そのため長子のマクシムが挨拶をしなくてはならない。

「既にご存知かと思いますが、こちらはヴェルデ王家の長女であり、私の妹のグレースと申します」

桃色のドレスを摘みカーテシーで挨拶をするグレース。
薄化粧も表情も仕草も、どれも上品で美しい。
この場で言葉を発することのできないグレースは勇者たちに視線を送り、長い睫毛を伏せることで挨拶を伝えた。

「そちらのご挨拶は済んだかしら」
「どうぞ」

真っ赤なドレスを着た真っ赤な髪と瞳の第二妃。
グレースを好意的に思っている美雨は、マクシムとグレースの挨拶を早々と切り上げさせた二妃にムッとする。

ワタクシは第二妃アルメル・ヴェルデ。第一妃は崩御あらせられて不在のため、ワタクシが実質上の第一妃とお考えくださって構いませんわ」

お母さんを亡くした二人の前でそういうこと言う?
おばさん、異世界漫画に出てくる悪役っぽいんだけど。
これ誰が『ざまぁ展開』してくれるの?
ヒーロー&ヒロインちゃんはどこ?

内心ではパンチを繰り出しながらも軽く頭を下げる美雨。
ただ、本来なら正妃の第一妃の務めを第二妃が代理しているのは事実で、マクシムもグレースもそれは分かっていた。

「皆さま黒い御髪おぐしや瞳が宝石のように美しいですわ。この世界で黒色は勇者さまの色として尊ばれておりますの」

この人が予算増やせの人か。
誰よりも高そうなドレスや装飾品を身につけてるのに。
と内心思ったのは、意図せず王族事情を聞かされていた春雪。

全く無関係の人が贅沢しようとどうでもいい。
とは言え、王太子やグレース王女にとっては皮肉でしかないことを平然と言えるこの人は信用に足る存在ではない。
そう判断してからは一切の興味を失い、まだ喋り続けている第二妃の話を聞き流し『早く次へ行け』と視線を外した。

「こちらはワタクシの第一子のセルジュ。王位継承権第二位ですの」

美形ではあるが母親に似て少し目付きの鋭いセルジュ。
ただし顔は似ていても、高貴な身分のはずなのに下品に見える二妃とは違い挨拶するセルジュは王太子と同じく品がある。
結婚して王家に入った者と王家として生まれ育った者の違い。

「セルジュは子供たちの中でも一番に剣が得意ですのよ?訓練校の成績もよく将来有望だとお墨付きをいただいてますわ」

よく喋る女人だ。
後が詰まっているというのに息子自慢が長い。
召喚前の世界にも式典で長々と話す上司が居たが、部下からすれば立たされたまま聞かされる自慢話は迷惑でしかない。

表情には出さず内心では呆れている時政。
ふと横を見れば先ほどまで緊張していた美雨と柊も感情を表情に出さないよう真顔になっていて、話が長いと思っているのは自分だけではなさそうだと察する。

春雪に至っては一体どこを見ているのか。
顔は王家の居る方に向いているものの目線は遥か先。
王家にも話にも興味がないのだとよく分かった。

「こちらはセルジュの弟のドナと妹のララ。ドナは魔導校へ首席で入学して今はあらゆる研究や開発に夢中ですの」

妹さんの話は?
長男次男の自慢話はするのに妹は名前を紹介しただけで一切触れらず、すっかり冷静になっていた柊は小首を傾げる。

しっかり顔をあげている兄二人と違い俯いている妹。
本人が引っ込み思案というだけなら良いけれど、母親の口から一切話題が出ない時点で色々察せるものがある。

このおばさんは好きじゃない。
自らも両親の都合で施設に入ることになった柊には、二妃の印象は最悪のものになった。

勇者四人がそれぞれ思いを巡らせているなか春雪がチラリとミシェルを見ると、向こうもこちらを見ていたようで目が合う。

早く止めた方がいい。
話させるほどみんなからの印象が悪くなるだけだ。

二妃へ一度目線を送り再びミシェルと目を合わせて伝える。
王妃という立場の人である限り勇者の誰かでは止められない。
君主制のこの世界で王妃へ自慢話が長いことや白地あからさまやな贔屓ひいきが不快だと言おうものなら不敬罪で首を飛ばされるだろう。
そんな理不尽な理由で死ぬのは御免だ。

「二妃。本日の目的は何だ」

春雪の不快感を表情と目線で察したミシェルが口を開き、冷静で落ち着いたその声色と言葉でピリリとした空気になる。
王家にとっても国王の存在とはそれだけ偉大なものなのだ。

「三妃。挨拶を」
「はい」

昔から話し出すと長いためみんなは慣れていたが、初対面の勇者方にとっては苦痛だろうことを先に察するべきだった。
二妃が一歩下がり三妃が一歩前へ出たのを確認してミシェルは小さな溜息を洩らした。

「勇者の皆さまへご挨拶申し上げます。ワタクシはブークリエ国第三妃マリエル・ヴェルデ。こちらは長子フレデリク、双子の妹のロザリーとリーズでございます」

柔そうな黄緑色のドレスを摘みふわりと挨拶をした第三妃。
そのカーテシーは優しげな雰囲気も相まって目を惹かれる。
息子のフレデリクも双子のロザリーとリーズも母親似の優しげな顔の造りをしていて、カーテシーをする幼い双子はさながら天使のよう。

「かわゆ」

双子の愛らしさに思わず声を洩らした美雨。
隣の柊が慌てて美雨の口を塞ぐ。

『やっちゃった』
『何してんだよ』

と目で語り合う二人。
どうしようと助けを求めるような目で見た二人に春雪はくすりと笑う。

「大変失礼いたしました。偉大なる王家の皆さまと拝謁する栄誉を賜り、緊張のあまりご教授いただいた礼儀作法を失念してしまったようです。どうぞお目こぼし願えればと存じます」

流れるような美しい所作で謝罪を口にした春雪。
まるで貴族として生まれ育った者としか思えない、見事としか言いようのないその姿に王家の者たちも息を飲む。
元よりその整った中性的な顔貌や体の造りの美しさでみなが目を惹かれていたものの、所作までも完璧とは。

「その程度のことで見る目を変える狭量きょうりょうな者は王家にいない。王妃や子供たちにも勇者方の紹介をしてよいだろうか」
「光栄に存じます」

本来であれば国王の許可を得る前に言葉を発することは無礼なこととして非難されるが、春雪の機転とミシェルの話題転換で美雨のミスは些細なこととして流された。

「彼が精霊王に愛されし勇者、春雪殿だ」

ああ、やはり。
またしても美しい形のボウアンドスクレイプをする春雪を見ながら王家の者たちはそう思う。

恐ろしいほどの存在感。
容姿の美しい者は数いても、この存在感はただならぬもの。
どんなに高価な衣装や豪華な装飾品ですら、ただ見慣れた正礼装を身につけているだけの彼の前では霞む。

これが精霊王に愛されし者。
この世界の者であれば誰もが憧れる、強く美しい勇者。

「春雪殿の右におられるのは〝剣士〟と〝格闘士〟の二つドゥーブルの才を持つ時政殿。春雪殿の左におられるのは召喚時より〝魔導師〟の才を持つ柊殿。そして柊殿の左におられるのは癒しの女神と呼ばれる〝聖女〟の才を持つ美雨殿」

ミシェルの紹介に合わせてぎこちないながらもこの世界の礼儀作法に従い挨拶をする三人を見て、王家の者たちはまた春雪の時と同じく次元の違いを感じる。

言葉では表すことのできない心強さ。
まだ成人前の子供に見える柊や美雨でさえ、ただそこに存在するだけでえも知れぬ安心感がある。

歴史で学ぶだけでは分からなかった勇者の存在感を、王家の者たちは身をもって知ることとなった。

「言わずとも学んで知っている者が殆どであろうが、勇者方の持つ職とは特殊恩恵の天分てんぶん職であり、我々のように学び鍛えることで得られる後天職ではない。神に選ばれ与えられた天賦の才を持つ勇者方の前での能力自慢は程々にせよ」

今後勇者の前で自慢話をしないよう釘を刺したミシェル。
本来であれば人前で言うことではないが、王家の者といえど勇者を自分たちより下の者と思われては困る。

この世界で勇者と賢者は『特級国民』と呼ばれる特別な身分。
中でも精霊族の救世主である勇者に対しては精霊族共通の法が設けられていて、名目上は正妃や王太子の方が身分は上でも勇者へ命じることができるのは国王のみという決まりがある。

言わば勇者は国王の次に位置する者。
初代国王の時代から続いてきた勇者の身分をいまいちどハッキリさせておくため、二妃へはもちろん三妃や子供たちへの忠告でもあった。

「では食事にしよう」

ピリッとした空気のまま席へ案内される。
その中でも春雪だけは興味を示さず無表情のまま従者が引いてくれた椅子に座り、普段と変わらないその様子にホッとさせられた美雨と柊と時政も落ち着いて席についた。


静かな晩餐会。
面白くないのは人前で釘を刺された二妃。
自分の子供や三妃の前で恥をかかされ腹立たしく思いながらワインを煽る。

二妃は蝶よ花よと甘やかされ育った侯爵令嬢。
我が子に甘い侯爵夫妻から欲しい物は与えられ、我儘放題。
悪事すら侯爵夫妻が金にものを言わせて揉み消してきた。

そんな好き勝手してきた侯爵令嬢が狙ったのは王妃の座。
両親に甘えた声で頼み有識者へ金を握らせ国母に選ばれた。

相手はまだ九つの子供。
少し可愛がってあげれば扱いなど簡単。
子供さえ産めば後は好みの男を宮殿に引き入れれば良い。
これで両親に頼まずとも自由に欲しい物が手に入る。
豪華なドレスも装飾品も私のもの。

そんな考えが甘かったと知るのは国母となってから。
特例措置で短かった婚約期間はただの子供だった者が化けた。
つまり、ミシェルは無知な子供のふりをしていたのだ。

九つであろうと次期国王として育てられた王子。
驚くほどの知識を持っていて、動かされるだけの駒ではない。
少し可愛がればどころかこれほど扱い難い男はいない。

王妃予算のせいで国母となる前より物が買えない。
毎日茶会や夜会と優雅に過ごしていたのに、国母らしい振る舞いを強制され煩わしい公務も務めなければならない。
強欲で我儘な侯爵令嬢にとって規律正しい王家は監獄。

尤も、国母としての態度がなっていなければ咎められるのは当然であり、王妃に割り当てられる予算があることも、国母の務めである公務を行うことも今代から始まったことではない。
我儘放題に育てられ、婚約してからも妃教育を受けず遊び回っていた二妃がただ知識不足だっただけの逆恨みなのだが。

それでも二妃は悲劇のヒロイン気分。
国のため民のためなどと、何故王妃の自分が取るに足らない平民の生活を考えなくてはならないのか。
民の命より大切なのは国母の私。

二妃はそんな考えを持つ愚かな人物。


やはり父上は甘い。
前菜オードブルを上品に口へ運びつつ思うのはセルジュ。

年も考えず下品に肌を晒したドレスを身につけているだけでも恥であるに関わらず、勇者同席の晩餐で酒を煽る無能ぶり。
このような者が自分を産んだ母であることに吐き気がする。

しかも地上を救う唯一無二の能力を持つ勇者に息子の訓練校や魔導校での成績を自慢するなど何と愚かなのか。
全属性魔法を使う賢者に対して、自分の子供は魔法が使えると自慢しているのと変わらないと言うのに。

国王の父上があの場でもっと強く叱責するべきだった。
甘やかすからいつまでも学ばず愚かなまま。
国母の自覚もなく男遊びも金遣いも荒いプライドだけは一流のこの者に、今まで何度恥をかかされ足を引っ張られたことか。
自分が国王となったあかつきにはこの醜女を塔へ幽閉する。

ミシェルの血をひいたセルジュの知識量は豊富。
国王となるための教育を受け、剣の訓練も欠かさない。
けれど人としてはどこか欠けている。
自分の目的のために国王となることが全て。
そのためには実の親である国王の命をとることも厭わない。

強欲な毒母のそばで歪んでしまった子供たち。

弟のドナは研究にしか興味がない。
天才と言われるほど頭脳明晰ではあるが、適正は多くとも生活魔法程度しか使えず母親にも逆らえず国王の器ではない。
周りからの評価は、優しく賢いけれど気弱で目立たない王子。
本人も王位に興味がなく、継承権を放棄できる研究職に就き早く王家を出ることで二妃から離れたいと思っている。

妹のララに関しては二妃の言いなり。
母親のようになりたくないと思っていても行き場がない。
王女としての贅沢な生活も捨てられない。
美味しい料理もお菓子も食べたい、綺麗なドレスも着たい。
王家の暮らしを捨てられないから母親に従っている。

娘や息子から愛されていない可哀想な二妃。
けれどそれは子供を盾にしてミシェルに金をせびる毒母には当然の報いだった。


愚かな人。
喉を潤す程度にワインを口に含んだ三妃。

民にとって勇者とは国王かそれ以上の価値を持つ大きな存在であることなど歴史を学べば分かると言うのに。
聖女に手を出した国王や勇者をぞんざいに扱った国母が民に革命を起こされ断頭台へ上がった歴史をご存知ないのかしら。

自慢話で心象を悪くするなんて本当に愚かな人。
本人は自分の愚行に気付かず忠告されたことに腹を立てているのでしょうけど、あれは陛下に恥をかかせたも同然。
国母であり妻でもある者が勇者方に呆れられたのだから。

あれを母に持つセルジュやドナやララもお可哀想に。
せめて人前で表面だけでも賢い母を演じてくれさえすれば、子供たちも今ほどの苦労はしなかったでしょうね。

そんな三妃も表面だけ取り繕っただけの人物。

「フフ」
「フフ」
「どうした?ロザリー、リーズ」
「勇者さま綺麗なの」

小さな声で話すフレデリクとロザリーとリーズ。
顔をあげたフレデリクは春雪を見る。

上品な所作でスープを口へ運ぶ春雪。
整ったその顔立ちはたしかに美しい。

「ご本人には言わないように」
「どうして?」
「勇者さまは男性だから綺麗って表現は不快かも知れない」
「勇者さまは男性じゃないよ?」
「違うよ?」
「ん?」

双子の言うことが分からず首を傾げるフレデリク。
中性的な顔立ちだから女性と間違っているのだろうか。

「たしかにお綺麗だけど女性ではない」
「うん。女性じゃないよ?」
「知ってるよ?」
「どういうこと?」

妹たちは以前からおかしなことを言う時がある。
本が好きだから空想して楽しんでいるのだろうけれど、それが時々当たってしまうから不思議ではある。

「……いや、まさかな」

正礼装も男性のものを着用しているし、口調も男性だった。
父上も ・ と紹介したのだから男性で間違いない。
やはり美しい人だから空想したのだろう。

「さあ、スープを飲んで。零さないよう気を付けて」
「「はーい」」

双子がスープを口へ運んだのを確認して、フレデリクも再びスープをすくったスプーンを口へ運んだ。


一通りのフルコースが終わり食後酒ディジェスティフ
この世界の成人年齢を超えている勇者たちも飲むことができるが、食前酒アペリティフの時点で酒を呑めないことを話した美雨と柊、そして子供たちにはコーヒーや紅茶が用意された。

「城の食事は勇者方のお口に合っただろうか」
「美味しかったです。ね?」
「うん」

それもそのはず。
今日の晩餐は勇者宿舎の料理人が幾度も味を変え品を変え勇者好みの味を調べた上でのメニューだったのだから。

「時政殿と春雪殿はどうだった?」
「美味しくいただきました」
「私も同じく」
「口に合ったのならば何より」

メニューは同じ物だが、春雪の料理は量を減らしてあった。
食欲不振は多少改善されたものの、人の居る席での食事は警戒するのではないかというイヴの助言に従って。
その予想通り春雪は先に手をつけることはせず、周りの様子を伺ってから口へ運んでいた。

少なくとも王家が揃った食事に毒物が入ることはない。
運ばれる料理ごとにミシェルが『鑑定スキル』を使っていることは、料理人や給仕すらも知っていることだから。
それでも盛る者がいるとすれば、ミシェルが鑑定を使えることを知らない部外者かただの死にたがり。

「せっかくの機会だ。何か困っていることはないか?改善して欲しいことや、必要な物があれば聞こう」

そう問われて黙った四人。
思い当たることがないのか首を横に振る。

あってもこの場では誰も言わないと思うけど。
食後酒を口にしながら春雪は内心思う。
要望なら毎晩来る師団や魔導師に聞かれているのもあるが、王家の揃ったこの場で欲しい物を強請る強靭なメンタルをした人は少なくともこの中にはいないだろう。

ミシェルもそれは分かっていて言っている。
ただ国王の自分が直接話しておくことで、聴聞員や従者へ遠慮なく言えるようにと考えてのこと。

「では何か思い浮かんだ際には遠慮なく従者へ伝えて欲しい。勇者方の生活は保証する約束をしているのだから」
「お気遣い感謝申し上げます」

春雪が胸に手をあて礼を口にすると三人も続いて同じ行動をとった。





「陛下」
「どうした」

晩餐を終え食堂を出ると声をかけてきたのはフレデリク。
王家の揃った場所でフレデリクが声をかけてくるとは珍しい。

「お話ししたいことがあるのでお時間をいただけますか?」
「今か?」
「可能でしたら」

間者を通さず直接声をかけたと言うことは急ぎか。

「フレデリク?何かあったのですか?」
「母上」

双子と手を繋いで歩いてきた三妃。
母親の三妃にとってもフレデリクの方からミシェルへ話しかける光景は珍しいものだった。

「では藍色インディゴ宮で話を聞こう」
「ありがとうございます」

フレデリクが何も言わないということはここで話す内容ではないのだと察し、三妃の藍色インディゴ宮殿で話を聞くことにした。

「三妃。急遽になるが宮殿へ足を運んでもよいか?」
「光栄にございます」

優雅にカーテシーをした三妃。
ミシェルのお渡りを知って面白くないのは二妃。
夜のお渡りを辞めて数年が経つと言うのに三妃の元へは行くのかと。

たんなる勘違いと逆恨み。
宮殿へ訪問するのだからお渡り・・・には違いないが、最後の宮殿へ行くというやり取りだけしか見ていなかった二妃は、ミシェルが三妃を伽に誘ったものだと勘違いしていた。

ミシェルへの愛はなくとも三妃には負けたくない。
これでもう一人男児を設けられては堪らない。
まだ二十代というミシェルの年齢を考えれば、これから設けた男児が国王となる可能性も充分に有り得る。
継承権は男児であることと年齢が優先されているものの、キレ者のミシェルならば優秀な子供に王位を継承するだろう。

「無様だな」
「お兄さま」
「そう思わないか?二妃のあの表情、勘違いしているようだ」

離れてひっそり様子を伺っていたマクシム。
わかりやすい二妃の表情にくつくつと笑い声を洩らす。

「くだらない。王位を継承するのは私だ」

ミシェルによく似た力強い瞳。
けれどグレースは以前と変わってしまった兄のそれに不安を覚える。

「お前の役目は終わった。一日も早く嫁いで城を去れ」

突き放すように冷たい目をしたマクシムは、他の誰に声をかけるでもなくその場を離れた。

ポツリと残されたグレース。
兄の後ろ姿をただ黙って見送る。

どうして兄は変わってしまったのか。
以前は優しい兄だったのに。

「あ、グレースさん」
「こら!プリンセスだろ!」
「聖女さま、魔導師さま」

護衛騎士と共に声をかけてきたのは美雨と柊。
先に大食堂を出たはずなのに何故まだここに。

「お部屋へお戻りになったのでは」
「お花を摘みに行ってましたの」
「美雨が言うと腹立つ」
「何か言った?」
「NO」

お花を摘みに?
この世界では使われない表現をそのままの言葉で捉えたグレースは『王城内に花畑はないのだけれど』と不思議に思いつつ、召喚の儀を行った日と変わらない美雨と柊の様子に口許を隠してクスクス笑う。

「美雨殿、柊殿。何かあったのか?」
「いえ何も悪さは!ただお花を摘みに!」
「花を摘みに?」
「陛下」

二人に気付いたミシェルも来てグレースと同じく『花を摘む』の意味が伝わらず首を傾げると、護衛騎士が耳うちする。

「ほう。異界ではそう表現するのか」
「その辺りは深掘りしないでください。乙女には辛い」
「少なくとも美雨は乙女じゃない」
「柊。宿舎に戻ったらゆっくり話そうね」

笑顔で腕を抓る美雨と抓られ痛がる柊。
晩餐会の前はあんなに緊張していたと言うのに、食事中に王家を見慣れたのかもう普段通り。

「明日も朝から訓練であろう。部屋でゆっくり休むといい」
「「ありがとうございます」」

カーテシーと胸に手をあて挨拶をした美雨と柊は、グレースへ小さく手を振って護衛騎士と勇者宿舎へ帰っていった。

「グレースも部屋で休め」
「はい、陛下」

グレースへ言って少し辺りを見渡したミシェル。
既にマクシムの姿はない。
このような機会でなければ王太子宮のマクシムと金色ドレ宮のグレースは顔を合わせないと言うのに、また言葉を交わさず去ったのかと溜息をつく。

「陛下、のちほど」
「ああ。着替えてすぐに向かう」
「承知しました」

グレースとマクシムの不仲も気になるが、今はフレデリクの話を聞くことが最優先。
宮殿へ戻る三妃と子供たちを見送りもう一度溜息をついた。
 
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

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