ホスト異世界へ行く

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第十一章 深淵

義兄弟

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「たしかに英雄エロー公がアルク大教会の顔となってくだされば今居る信徒は喜び、新たな信徒の数も献金も膨れあがるでしょう。ですが、誰かの意のままに従う容易い御方でしょうか」

エルマー枢機卿を背負ってきた男の方がそう口を開く。

「そのために弱味を握るのだろう?人は誰しも他人に知られたくないことがある。特に人前では立派な振る舞いを見せている者ほど醜聞を気にするものだ。英雄エローと言えば人とは思えぬほど端正な容姿と唯一無二の強大な能力を持ち、清廉潔白で正義感の塊。普段は完全無欠な彼だからこそ痴態など誰にも知られたくはないだろう。隠すためなら否が応でも従うさ」

教皇は目の前に跪いている男に話しながらニヤリと笑う。

「私はそう思えません。英雄エロー公は例え弱味を握られようと己の信念を貫くでしょう。身命を削ることすら厭わず民のために怒り、民のために戦い、民のために祈る御方。そのような尊き御方が己の信念を捻じ曲げ悪に屈するとは私には思えません」

男は顔をあげてそう訴える。

「ほう。私を悪と申すか。神から啓示を受けた教皇の私を」
「そ、それは」
「私に意見するなどお前も英雄エロー公に毒されたようだな」
「大変な御無礼を。申し訳ございません」

床に頭をつけて土下座をした男の頭を教皇は踏みつける。

英雄エローもヒトには違いない。神に仕える者でありながら穢れた肉体を持つヒトに毒されるなど何と情けないことか」

踏みつけられても男は黙って頭を下げたまま。
むしろ隣の男の方がその男を心配してチラチラとそちらに顔を動かしている。

「神の啓示を授かることの出来る私に刃向かうことは神に刃向かうことと同義。義弟の罪も自分が背負うと懇願するお前に免じて私が神へお目こぼしくださるよう願うことで今まで許されてきたが、義兄のお前までが神に背くとあらばもう神もお許しにはならないだろう。なあ、アマデオ枢機卿」

……アマデオ枢機卿!?
教皇が呼んだその名前に驚く。
ローブを被っていて顔が見えないから気付かなかった。

「神に背くなど神職者に有るまじきこと。アマデオ枢機卿と義弟、いや、エルマー枢機卿を大教会から破門としようか」
「……エルマー枢機卿?義弟?」

隣の男は知らなかったらしく、アマデオ枢機卿とエルマー枢機卿が義兄弟と聞いて声を洩らす。

「涙ぐましい兄弟愛だろう?父も分からぬ娼婦の子として産み落とされゴミと共に捨てられたアマデオ枢機卿と、裕福な貴族の愛妾として娼婦が娶られた後に産まれ何不自由なく育てられたエルマー枢機卿。義兄が居ることを知らない義弟のため薬で喉を潰し声を変え、娼婦に似た顔さえも作り替え他人を装っているのだから涙ぐましい。義弟に代わり罪を背負う自分が裁かれる時がきても、義弟だけは巻き込まないようにと」

真面目なエルマー枢機卿は教皇にとって邪魔者。
二人の会話の中でアマデオ枢機卿はそう言っていた。
この教皇なら意にそぐわない者は権力を使って追い出しそうなものなのにそうならなかったのは、アマデオ枢機卿が影でエルマー枢機卿の分も教皇に従っていたからだったと。

「言っただろう?誰しも知られたくないことがあると。アマデオ枢機卿が知られたくなかったのは、今や第四夫人として貴族らしく振る舞うエルマー枢機卿の母が実の子をゴミと共に棄てるような鬼畜娼婦だったということ。何不自由なく暮らし絶望を知らない義弟が傷付かぬよう義兄弟であることを隠し、そのまま清らかに生きられるよう不要なゴミとして捨てられた自分が全ての罪を背負うことにした」

自分を犠牲にして義弟を守っていたのか。
生きてきた環境を思えばエルマー枢機卿を逆恨みしてもおかしくないのに、アマデオ枢機卿は逆恨みするどころかエルマー枢機卿を守ることを選んだんだから出来た人だと思う。
それが正しいかは別として。

「エルマー枢機卿は啓示にてお声を聞くことの出来る神に愛されし御使いの私へ不敬を働く不浄の者。だが、神がお許しくださるよう私がエルマー枢機卿の肉体と魂を清めよう」

そう話しながらアマデオ枢機卿の頭から足をおろした教皇はエルマー枢機卿が寝かされているベッドに座る。

「お待ちください!義弟にだけは手を付けないお約束だったではないですか!そのお約束で私たちは今まで」
「仕方ないだろう?清めなければ神はお許しにならない」

アマデオ枢機卿の言葉に被せた教皇はくつくつ笑う。

「喜べ!神に最も近い、いや、神の私と交合えばどんな不浄の者でも浄化されるのだから!」

どう見てもキ印の人にしか見えないムーブで教皇が高笑いしたあと神殿が大きくズシンと揺れる。

「何の揺れ」

と首を傾げる最中に魔神が再び俺を抱え、一瞬後には景色が元の部屋に戻った。

英雄エロー公爵閣下!ご無事ですか!?」

扉を叩く音と騎士の声。
移動と同時に狭間から出たらしく時間が進み始めたようだ。

「私は無事だ!一体何があった!」
「まだ私どもも状況は把握できておりませんが、他で警備を行っている軍より伝達が届き次第ご報告申しあげます!」
「承知した!」

部屋の中と外で会話を交わす。

「何があったんだ。砲撃でも受けたのか?」

独り言を呟きつつ異空間アイテムボックスを開いて軍服を引っ張り出す。

「やったのは精霊神だ」
「え?」

また顕現した魔神がそう説明してくれる。

「奴は啓示で神の声を聞くことが出来ると偽り悪事を行おうとしただけでなく、自らを神と名乗った。自分を神と信じているだけの妄想者であれば裁きなど下さないが、神を名乗り悪事に利用しようとしたとあらば私たちも黙ってはいない」

つまり創造神の裁きが下ったと。
地下にある部屋の地面が沈んだと感じるほどの強い振動が伝わるとか、どんな破壊力の砲撃を喰らったのかと思えば。

英雄エロー公爵閣下へご報告します!」
「私の姿はお前にしか見えないから安心しろ」
「分かった。入室を許可する!入れ!」

軍服の下を穿いたタイミングでノックと騎士の声が聞こえ、魔神の姿は見えないことを聞いてから入室を許可する。

「現時点でのご報告に参りました」
「聞こう」
「破壊された箇所は最高神を祀る離れの別館だったようで、教皇が別館に到着次第原因の調査を行います」

騎士は後ろで手を組み報告する。

「怪我人は居ないのか?」
「別館は教皇と数名の枢機卿以外の者が足を踏み入れることを禁じており、鍵の場所を知っている者もその数名だけだそうです。そのため祈りの時間でない今は無人と予想されます」
「居る方がおかしいということか」
「はい」

絶対に誰も居ないとは限らないけど、鍵の場所さえ知らされてないのなら可能性は低いか。

「人は居ない。破壊したのは祭壇のある建物だけだ」

そう魔神が教えてくれてホッとする。

「承知した。また伝達があれば報告を」
「はっ」

敬礼した騎士は部屋を出て行った。

「思えば狭間に居ても外の時間が進んだのは何で?」
「精霊神が世界に干渉したために狭間に歪みが生じた」

狭間に居る間は進まないはずの外の時間が進んだことを不思議に思って聞くと、魔神がそう教えてくれる。

「どういうこと?」
「説明に迷うが、今お前と私が居たのは狭間と並行世界の間にある薄皮のような部分だ。そこなら狭間の外で進んでいる並行世界の様子を見ることが出来るが、あくまで外を確認できる場所というだけで狭間の中には違いがなく、並行世界からの干渉は受けない。だが例外があって、創造神の私たちが世界に干渉する力を使えば全ての並行世界に影響を及ぼす。そうならないよう狭間が時間を歪め役割を果たしたということだ」

仕組みは分からないけど、狭間にも別世界にも影響を及ぼしてしまうほど創造神の力はとんでもないって事は理解した。

「教皇が今どこに居るか分かるか?」
「地下から出て自室に居るようだ」
「エルマー枢機卿たちは?」
「一人は教皇の自室に居るが、義兄弟はまだ地下に居る」

誰かが呼びに来るだろうと察して自室に戻ったんだろう。
大聖堂から追い出されて自室に居るはずの教皇が居ないとなればまた別の騒ぎになってしまうから。

「外から鍵を閉められて閉じ込められたようだ」
「騒ぎに便乗して逃げられないよう閉じ込めたのか」
「そうなのだろう」

破壊騒ぎで中断になったものの、あのキ印ムーブの教皇がエルマー枢機卿の貞操を諦めるとは思えない。

「啓示で神の声を聞くって話は嘘だったんだよな?」
「ああ。神の声を聞くことが出来るのは精霊神がお前と魔王に授けたのみ。啓示は眠っている間に声でも文字でもない感覚で受けとる能力であって神の声など聞こえない。それも一方的なもので、神に許しを乞うどころか生命の方から話しかけることも出来ない。あの男が本気で自分は神と会話をしていると思っているなら、それは存在しない妄想の神だ」

本人は本当に神と会話していると思っているのか、会話できると偽って人を利用しているのかは分からない。
ただ、周りの人はそんな話をよく信じたなと思うけど。

「あの男に啓示の能力があることは事実だ。以前は受けとった啓示を人のために役立てるよい神職者だったようだが、教皇に上り詰めたことで自らを驕り傲慢になり堕落したようだ」
「人間らしいと言えば人間らしいな」

権力や金に溺れた典型的なパターン。
強欲な人間らしい堕落の仕方。

「まずは閉じ込められてる二人を出してやらないと」
「地下はこの神殿の下にある。崩れる恐れはないぞ?」
「あの教皇、精霊神が裁きを下す前にエルマー枢機卿に手を出そうとしてただろ?あのまま諦めるとは思えないし、アマデオ枢機卿が義弟に手を出されるのを黙ってるとも思えない」

心配なのは騒ぎが片付いて教皇が戻ってきてから。
エルマー枢機卿には貞操の危機だし、アマデオ枢機卿が黙って義弟を差し出すとは思えないから揉めるだろう。
そうなる前に二人を地下から出してやらないと。

「どう救出するんだ?」
「さっきみたいに狭間を利用して地下まで連れて行って貰うのは生命に干渉しないっていう神のルールに反するか?」
「神族のお前を連れて行くのであれば構わないが」
「じゃあ頼む。タイミングを見て狭間から出てアマデオ枢機卿を眠らせる。それから俺が担いで地下から救出する」
「それならいいだろう」

軍服に着替え地下まで移動させて貰うと真っ暗。
祭壇に置いてあったランプを消されてしまったんだろう。

「……なぜこのようなことに」

姿は見えないけどアマデオ枢機卿の声が聞こえてきて、今の今まで暗かった地下室が明るくなった。

「お前からは見えるようにした。狭間の外は暗いままだ」
「ありがとう。助かる」

俺が二人の様子を確認できるようにしてくれたらしく、魔神にお礼を言ってベッドに居る二人を見る。

「神よ。エルマー枢機卿を、義弟をお守りください」

冷たい床に座り両手を組んで祈るアマデオ枢機卿。
誰も聞いていないところでも願うのは義弟のこととは。
背中しか見えてないけど真剣に祈ってるのが伝わってくる。

「この男、大教皇の素質を持っているのか」
「ん?」

隣でアマデオ枢機卿を見ながらポツリと魔神が呟く。

「大教皇なんて特殊恩恵があるんだ?」
「ああ。神職系の中で最上位の特殊恩恵だ」
「……最上位の?」
「数百年から数千年に一人の確率で素質を持つ者が産まれるかどうかの特殊恩恵で、お前が暮らす国の教皇が正しくそれだ。存命期間の重なる年月で珍しくもう一人素質を持つ者が産まれたことには気付いていたが、この男だったとは」

……え?
サラッと言ったけど、とんでもない事実なんじゃ……。

「なぜこの男が教皇ではない?」
「俺に聞かれても」
「まだ覚醒前で大教皇には進化していないが、今の時点でも既に神職者としての能力はあの教皇より優れている。それなのになぜこの男より劣るあの男が教皇なんだ?」

なぜと言われても俺は神職じゃないから分からないけど。

「……もしかしたら経験とかかも。多分」
「経験?」
「職種によっては何年間勤めた人って条件がつく場合があるんだ。神職者の場合は枢機卿の役目を何年間か勤めるって条件を満たさないと教皇になれないのかもしれない」

この世界は地球の教会と違って『枢機卿は役割の名称で階位は司教』という訳じゃなく、『枢機卿』という独立した階位があるけど、教皇の最高顧問というのは同じ。
教皇と最も関わりの深い枢機卿として最低でも数年は勤めあげてからはじめて、次世代の教皇候補に名を連ねるようになるんじゃないかというのが俺の予想。

「救済として与えた能力をどう使うかは生命次第だが、浄化や結界といった多くの命を左右することになる役割を持つ神職者は才能がある者が上に立つべきだと思うがな」

まあ分からなくはない。
教皇主導で行う浄化や結界は国民の命を左右する重要なことだから、能力が高い人が教皇になるに越したことはない。
例え能力が高くてもオベルティ教皇のように人格破綻者だったら困るけど。

祈りを続けているアマデオ枢機卿を今の内に眠らせてしまおうかと思ったタイミングで再度ズシリと地面が揺れる。

「また?」
「懲りない男だ。精霊神の慈悲に気付かないとは」
「慈悲?」
「創造神の私たちなら容易く生命を無に還せる。だがそうはせず精霊神を祀る祭壇がある神殿を破壊することで神の怒りを分かり易く伝え、心を入れ替えるよう警告している」
「……なるほど」

本当は教皇を葬るのは簡単だけど、改心するよう警告を与えたのがさっきの一度目と今の二度目の裁きということか。

「とりあえずアマデオ枢機卿を眠らせる。出してくれ」
「ああ」

アマデオ枢機卿の真後ろまで行って狭間から出して貰い、暗闇の中とあって気付かれることもなくそのまま眠らせた。

「狭間から出るとほんと真っ暗」

独り言を呟きつつ光魔法で室内を照らして床の扉の前にしゃがみ手をかけ引っ張ってみたけど、魔神が言っていたように鍵をかけて行ったらしく開かない。

「認証扉か」

認証扉は鍵があれば誰でも開けられる通常の扉とは違って、魔法錠という『個人の魔力の情報を登録してある鍵』と『扉の鍵穴に登録された個人情報』が一致してはじめて開く。
武器庫や宝物庫や機密情報が書かれた書物がある書庫など、厳重に管理する必要がある部屋の扉に使われている。

「魔法で開けられないのか?」
「魔法だと床ごと破壊する威力の魔法を使う必要がある。簡単に開かないから重要な物がある場所に使われるんだ」

扉に施された術式が複雑というだけでだけでなく、扉自体が破壊されないよう強化もされているから、魔法で開けるとすれば周りの床ごと破壊する威力の魔法を使うしかない。
地下でそんな魔法を使えばここに居るエルマー枢機卿やアマデオ枢機卿や俺が生き埋めになってしまうし、下手をすれば神殿そのものが支えを失い崩壊する可能性もある。

「まあやってみる」

魔法が駄目なら物理で。
扉を数回ノックして分厚さを確認してから風雅を召喚する。

「あれ?何か怒ってる?」

言葉を交わせる訳じゃないけど、召喚陣からヌーっと出てきた風雅を掴んだ瞬間にそう感じて首を傾げる。

「もしかして御無沙汰だったから拗ねてる?」

それも感じて聞くと、垂れ流されていた邪悪なオーラが増す。

「悪かったって。風雅は性能がよすぎるから精霊族に混ざって生活する中で普段使いするのは難しいんだよ。ここぞって場面では優秀な風雅が頼りなんだから機嫌を治してくれ」

恩恵の風雅はすぐ召喚できるけど、問題は斬れすぎること。
だから普段はヤンさんが造ってくれた刀を使っている。

「ごめん。俺が悪かった」

謝ると許してくれたのか垂れ流しの邪悪オーラがスンっとおさまり認証扉を斬ると、一太刀で綺麗な真っ二つに。
……やっぱり普段使いするには難しい。

「早く連れ出して俺も部屋に戻らないと」

狭間から出たから時間が進んでいる。
二度目の裁きが下ったようだから、騎士がまた報告に来る可能性が高い。

「どこへ連れて行くんだ?」
「保冷庫の中だと凍死しそうだから保冷庫の外かな。そこなら気付いた人が起こしてくれるだろうし」

体に強化魔法をかけてから最初にアマデオ枢機卿を肩に抱え、エルマー枢機卿も反対の肩に抱える。
二人の部屋は知らないし、俺も誰かに姿を見られる訳にいかないから、ここから救出する以上のことは出来ない。

風雅で真っ二つになった認証扉から出て階段を降りるとそこは魔導具のランプが等間隔で灯っている地下通路。

「階段が二つ……保冷庫に出る階段はどっちだ」

二人を抱え走っていると左右に階段があって立ち止まる。

『右だ』
「ありがとう」

地下室を出てから魔神は姿を消したけど見守ってはいてくれてるようで、保冷庫に出る方の階段を教えてくれた。

「また認証扉かよ!」

階段の先には再び認証扉が見える。
地下通路に降りるだけの扉もとは厳重なことだ。

「風雅!」

階段を駆け上りつつ恩恵を使うと俺の隣に召喚陣が描かれ、再び風雅が召喚されてくる。
両肩に大人の男を抱えてるから斬りにくいけど仕方ないと思いつつ手を伸ばそうとすると、風雅は一瞬で認証扉の前に移動して豆腐を切っただけのようにスっと真っ二つにした。

「……思えば投げても俺の手に戻ってくるんだもんな」

物凄く今更ではあるけど、風雅や雅は俺の手から離れても俺の元に瞬間移動してくる自律型の刀。
召喚されてくる時には毎回邪悪オーラを垂れ流してるし、さっきのように拗ねたりもするんだから、自分の判断で動けたとしてもおかしくない。

「助かった。ありがとう」

ドヤってる(ように見える)風雅にお礼を言うと、いつものようにスっと姿を消した。

「ほんと俺の召喚武器たち有能すぎんだろ」

そう独り言を呟く。

精霊魂せいれいこんだからな』
「精霊魂?」
『お前に合った武器の形へと姿を変えているだけで、実際には精霊の魂だ。だから自我を持っている』
「え、そういうこと?」

この世界でと付くのは勇者召喚と精霊王召喚の二つ。
俺は特殊能力の効果で神魔特殊召喚やら系譜召喚やらが勝手に発動するし、風雅のように恩恵を使って自由に武器を召喚することもできるけど、召喚陣(術式)から召喚されてくるものは自我(意識)を持っているという部分は同じ。

「武器に魂が宿ってる訳じゃなかったのか」

勇者や精霊神のように生きているもの(自我のあるもの)しか召喚されないはずの召喚陣(術式)から雅や風雅が召喚される理由が、精霊(の魂)だからと考えると納得。
俺が初めて神族を召喚したのは白と黒の大天使ではなく、それ以前から何度も精霊(の魂)を召喚していたということだ。

『精霊魂はお前が神族だった頃からあらゆる武器へと姿形を変えて仕えていた。仕える主人が神族ではなくなり一時的に自我や記憶も曖昧になっていたが、叙事詩が解放されてお前が神族に戻ったことで精霊魂も元に戻りつつあるようだな』
「雅と風雅も俺の記憶喪失に巻き込まれてたのか」

俺が記憶を失ったことで随分と色んな人に影響を与えているんだと今更ながら申し訳なくなる。

「どうして神族から人族になる必要があったのか、どうして地球に居たのか、そうする理由があったんだろうに肝心の記憶を失くしてることも。まだ分からないことばかりだ」

今の俺は過去の記憶を取り戻した訳じゃなく、覚醒したことで知ったり誰かしらに教えて貰っただけの状態。
精霊神や魔神でも話せない(伝えられない)肝心要の部分は記憶を取り戻さない限り知ることは出来ないだろう。

『記憶をなくした理由は堕天したからだ』
「え?」

魔神の話を聞いて足が止まる。

『神も堕天すればあらゆる影響を受ける。個々で好き勝手に出来ないよう創造神の精霊神と私が決まりを作り、例え神族でも決まりを破れば影響を受けるよう世界を創ったからな』

生命が法律を作り違反した者を裁くのと同じか。
規模は大きく違うけど。

「そのの一つが記憶喪失だったと」
『創造神の精霊神と私が定めた決まりを破り堕天したお前は神格を失い、神の力だけでなく全ての記憶を失った』

魔神から『もう一人の私たち』と言われるくらい近い関係にあって、その決まりを知らなかったとは思えない。
つまり神族だった頃の俺は二人が作った決まりも自分があらゆる影響を受けることも知りながら堕天したんだろう。

そこまでして俺は何の目的があったんだろうか。

「……っ!」

一瞬激しい頭痛がして蹌踉めくと背後から支えられる。

「ごめん。ありがとう」

支えてくれたのは魔神。
姿を消していたのにまた顕現して支えてくれていた。

「お前の記憶には制限がかかっている。制限のかかった部分を思い出そうと試みても痛みを伴うだけだ。記憶を取り戻す手段は覚醒し残りの叙事詩を全て解放すること。今までもそうだったように、覚醒することで元のお前に戻っていく」
「うん。分かった」

俺を支えるために形を成しただけのはずの体に安心する。
心から信頼できる相手に支えられているかのように。

「そっか……フラウエルに似てるんだ」

この安心感は魔王と居る時に感じるもの。
それに気付いて不思議と納得した。

「魔神が言ってた通り、フラウエルは魔神の血を色濃く継いでるんだな。神さまにも血があるのか知らないけど」
「形を成している時には血も通っている。もっとも私が言ったのは形を成している時にだけ通っている血の話ではなく、魔神の私の要素を多く持っている者という意味だが」

今ならその話も頷ける。
容姿は違うけど、魔王は魔神とよく似ている。

「あ。時間がないのに寛いでる場合じゃなかった。支えてくれてありがとう。抱えたまま階段から落ちずに済んだ」

あまりにも居心地がよくてつい落ち着いてたけど、今は時間がないんだったと思い出して二人をしっかり抱え直す。

「今ならこの付近に誰も居ない。二人を降ろしたらすぐに部屋へ戻してやる。騎士がまたあの部屋に向かっている」
「やば」

の裁きがあったことの報告だろう。
それがまさか神の裁きだとは思ってないだろうけど。

階段を駆け上がり風雅が斬って道を開けてくれた扉を抜けクソ寒い冷凍庫の中も駆け抜けると出入口が視界に入る。

「ありがとう!」

さすがに冷凍庫の扉まで認証扉じゃないよなと思いつつ走っていると、後ろに居た魔神が一瞬で転移して開けてくれた。

「食堂と繋がってるのか」

保冷庫から出た先は大食堂。
神職者の数が多いとあって沢山の長机と椅子が並んでいる。

「よし、ここなら来た人の目につくな」

保冷庫から近いテーブルの椅子二脚を足で引き二人を座らせ、倒れて椅子から落ちないようテーブルに俯せさせる。
教皇は精霊神の裁きが下った別館に行って対応しないといけないから戻るまでに時間がかかるだろうし、その前に戻ってきた誰かが寝ている二人に気付いて起こしてくれるだろう。

「戻すぞ。騎士が部屋をノックしている」
「頼む」

魔神が肩に手を置くと一瞬で貴賓室の景色に変わってノックの音が聞こえる。

「入室を許可する」

異空間アイテムボックスを開きながら言うとカチャリと扉が開く。

「ご報告に参りました」
「また何かが破壊されたようだがその報告か?」
「はい。破壊箇所は先程と同じ別館で、教皇が到着し別館前で団長と話をしている最中に再び攻撃を受けたそうです」
「怪我人は」
「おりません」
「そうか。それは幸いだった」

怒っていながらも二回目の裁きでも怪我人が出ないよう配慮してくれたようで、話を聞いてホッとしつつ異空間アイテムボックスから出した白いグローブ(手袋)をつける。

「もう一つご報告がございます。王宮師団より特例処置で術式を使い英雄エローを王城へ帰還させるよう通達が届きました」
「ここに居させるのは危険と判断したということか」
「はい。事故か故意か不明ですが、故意であれば次の攻撃を受ける可能性があり、攻撃箇所が別館とも限りませんので」

まあ分かる。
俺は精霊神の裁きだと知ってるから神を祀る祭壇がある別館以外は破壊されないだろうと予想できるけど、他の人は何かしらの原因で爆発した事故なのか何者かが爆発させた事件なのか分からないんだから、この神殿も危険と判断するだろう。

『もう一度落ちる』

頭に直接聞こえてきた魔神の声とほぼ同時に建物が揺れる。

「ま、また攻撃が!」
「そうらしいな」

あの教皇、何度精霊神を怒らせるんだ。

『慈悲は三度で最後だ。次はない』
『つまり?』
『次は教皇に直接裁きが下る』

別館を破壊する威力の精霊神の裁きが下ったら教皇は骨ひとつ残らなさそう。

「すぐに確認して参ります!」
「私も行こう」
「え!?」

一度目の裁きの理由は神を名乗り悪事を働こうとしたから。
二度目と三度目の理由は分からないけど、精霊神が裁きを下すようなことを教皇がまだしているということ。

精霊神ほど優しくない俺は多くの神職者へ非道な行為をしてきた教皇に神の裁きが下ろうと同情しないけど、あんな教皇でも民にとっては神に仕える者の代表者。
悲しみに嘆く人はもちろん、大事な結界をはる新星ノヴァの祝儀の前に教皇が亡くなれば不安になる人も居るだろう。

だから精霊神の怒りを買っているを辞めさせないと。
そのあと今までの悪事の責任をどうするかはまた別の話。

「なりません!危険です!」

扉を開けた俺の手を掴んで止める騎士。
もし俺に何かあれば国家を飛び越え全ての種族の争いになることを危惧してというのも当然あるだろうけど、俺自身の身を案じてくれているようにも思う。

「では命じよう」

騎士の腕を掴み返して異空間アイテムボックスから記録石を取り出しながら貴賓室を出る。

英雄エロー公爵閣下?」

部屋の前に居たのは警備と護衛を兼ねた騎士が数十名。
こんなに付いていてくれたのかと内心では少し驚きつつも腕を掴んでいた騎士から手を離す。

「ブークリエ特級国民の私が持つ英雄権限に基づき、この場に居るアルク国王軍の諸君へと命ずる」

意味が分からないままでも俺の宣言を聞いた騎士や魔導師は反射的にその場に跪く。

「この場の何名かは私に付き添い別館へ案内せよ。残りの者は私が今から話すことを記憶せよ」

そこまで話すと宣言中は顔をあげないようにと教わっている騎士たちが驚いて顔をあげる。

「私は今から創造神を祀る神殿の確認へと向かう。別館へ足を運んだことで仮に私の身に何かあろうとも、全ての責任は私自身にある。例え両国王陛下であろうとも、私が決め私が命じたことの結果で争いを起こすことを認めない」

そう宣言を遺した記録石を報告に来た騎士に渡す。

「神殿が破壊された音は付近の民にも聞こえただろう。それが三度もとなれば不安になっていてもおかしくない」

時間が経ってるからさすがに集まっていた人たちは居なくなってるだろうけど、ここは王都の中心街。
付近で働いている人や偶然傍を歩いていた人は少なくとも神殿に何か起きていることに気付いているだろう。

裁きを止めることは出来ない。
神の怒りに触れるようなことをした人物が居るんだから。
ただ、怒りを買う何かをしてる教皇を止めることは出来る。

「英雄は全ての精霊族の守護者だ。曲がりなりにも両陛下より守護者の責務を賜った私が民の不安を知りながら我が身を優先して帰城するなど本末転倒。一刻も早く民を安心させることが英雄の私の務め。そこに異論は認めない」

俺の話を聞いた騎士たちは胸に手をあて深く頭を下げた。

    
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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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